290 海人のお料理
「あ~水の中って疲れるね~ちょっと体が重い気がするよ~」
「水中だと浮いてるから、ずうっとお水の中にいると上がった時とっても重く感じるよね…」
宇宙飛行士さんなんてずっとずっと無重力にいるんだから、大変だろうなぁ…なんて全然関係ないことを考えていたら、どどんと大きな扉の前についた。
「さあ、どうぞ」
さっと中から扉が開かれると、促されるままに大きなテーブルへつく。
オレたちはまだ子供だから、お偉いさんが食事会するようなところは嫌だと言ったのだけど…ここでも十分豪華で緊張するよ…もうナギさんのお部屋でよかったのに。
「サア、余計な者はいらぬと言ってある。世話をやかれるのは嫌なのだロウ?好きに食べるとイイ」
給仕係の人はいるけど、最低限にしてくれたみたい。高い椅子…もしかしなくてもこれってこども椅子だよね…恥ずかしいけどテーブルに届かないんだから仕方ない。抱っこして座らせてくれようとするのを固辞してよじ登ったら、色とりどりのお料理が目の前に並んでいた。
「わあ~!きれいだね!おいしそう!」
「何かわかんねえけど美味そうだ!」
「味がわからないからちょっと不安だけどね~」
もう食べていいのかな?ナギさんとウナさんをちらっと見ると、微笑んで促してくれたので、さっそく…いただきまーす!
オレがこの国特有のものが見たいって言っていたから、並ぶ料理は海で採れたものばかり。オーソドックスなお魚料理もあるけど、明らかにお肉に見えるものや、サラダっぽいものなんかもある。
「うまい!これ魚じゃなくて肉だぞ!」
「この平たい丸いものはなに~?歯応えがあって美味しいね~」
タクトはさっそくステーキっぽいものを頬張り、ラキはオレンジ色で手のひら大の、つるんとしたものを食べている…それ、何?
オレもひと口ずつ味見してみると、サイコロステーキみたいにカットされたものは、まさしくお肉…それも柔らかな豚肉みたいな感じだ。味は豚肉で食感はサシの入った牛肉かな?舌の上でほどけていく、高級感溢れる柔らかさ。美味しくて、ついもうひとつ…
「あれっ?」
同じものだと思って食べたら、今度は腹ペコの時に食べたくなるような、しっかりした歯応えの肉らしい肉…顎が喜ぶガツガツと貪りたくなる食感がたまらない!味は同じだし、見た目も同じ肉に見えるのに…。
「ソレはアシジラだ。海の魔物の肉だナ」
「ふふ、気付かれました?アシジラは切り方で食感が変わるのだと、料理人の腕が見せられる食材だと言っておりましたよ」
切り方で?!こんなに変わるの?!すごい…これぞ職人技だね…プロにしかできないお料理だ。どうやらアシジラっていうのは海獣みたいな魔物らしくて、オレの頭の中では狂暴そうなアザラシが、「アシジラー!」って雄たけびをあげた。なるほど…海のたんぱく質は魚介類しかないと思ったけど、お肉もとれるんだね!
『ゆうたのネーミングじゃあるまいし…絶対そんな鳴き声じゃないわ…』
…そう?
一方ラキが食べている不思議物体はどうだろう…これは植物なのかほかの生き物系なのかさえわからない、ただ円柱を輪切りにしたような楕円形の物体。もしかしてかまぼこみたいに加工品なんだろうか?ナイフを入れるとスッと切れるけれど、箸で切れるようなものではない…うーん、固いこんにゃくみたいって言えばいいのかな。おそるおそる小さな一切れを口へ含むと、物体Xはひんやりしている以外特にこれといった味はしない。意を決して咀嚼してみると…ぶわっと広がるうま味と甘味。コリコリした食感はアワビのようで、広がる甘味はホタテや甘えびのよう。
「おいしい…これなんだろ?貝…?」
「ええっ?!これ貝なの~?おいしいと思ったのに~!」
だまされた!なんて顔をしているけど、おいしかったんだからいいんじゃないの?実はラキはあまり貝が好きじゃないんだ。そもそも食べることもめったにない貝だったけど、ごくたまに学校の食堂で出てくるんだ。確かに学校で食べる貝はおいしくはない…。
「さすがユータ様ですね、それはイイバシラですよ。大人の腕ほどの細長い貝で、海底にもぐっているため捕獲しにくいのですが、そのようにさっと湯がいて漬け込んだものは大変美味なんですよ」
うわーこの大きさで大人の腕ほどの長さ!あんまり見たくはない貝だな…おいしさが半減しそうだ。
さて次は…と視線を走らせたところで興味深いものが。もしかして、あれは魚のタタキみたいなものじゃないだろうか?魚をほとんど生の状態で食べるなんていつぶりか!…でも、その手前に盛られている何らかのすりおろし…甘そうな桃色をしているけど…あれって…。
「ねえタクト、そこのピンク色の何?どんな味ー?」
「ん?これか?まだ食ってない!どれ…」
あ…そんなたっぷりスプーンにとったら…。
「「あっ…」」
ナギさんとウナさんのしまったっていう顔。やっぱり…?
「へ……ふぐおおぉぉぉ?!」
椅子から転げ落ちたタクトが口を押えてのたうっている…。
「だ、大丈夫?!はい、はちみつレモン。回復回復~」
「ひぃ~~!!はぁ、ふぅ……ああーはちみつレモン美味い…助かったー!」
涙目のタクトに、どういたしましてとにっこりしてみせる。
「…ユータどうしてはちみつレモン出したの~?回復も~?」
「えっ…だって辛いの食べたときは甘いの飲んだらましになるかなって。舌もひりひりするでしょう?」
ふーーーんとじっとり目のラキに、オレは首をかしげる。
「お前……これが辛いって知ってて食わせたなーーー!!!」
あっ……!しまった!!
「ち、ちがうのー!知らない!ちょっとそうかなって思っただけー!」
「ちょっとでもそう思うなら食わせるなっつーの!!」
桃色わさびを盛ったスプーンを持って追いかけるタクト、逃げるオレ。
「お行儀悪い~!」
パシュパシュッ!
「てっ!」
「あ痛っ!」
小さな冷たいものが頭にパシュンとぶつかって、思わず足を止めた。こしこしと頭を撫でると、ちょっぴり濡れている。
「すげーじゃんラキ!もう使いこなしてる感じ?」
いち早く駆け寄ったタクトが、嬉しそうに詰め寄った。
「えへへ~、なかなかの精度でしょ?練習してるからね~!」
「発動も早くない?!もう無詠唱なの?」
オレたちを狙い撃ったのはラキ。そう、あの時教えた鉄砲みたいな魔法、今のところラキが使えるのは水、土だけなんだけど、精度は舌を巻くほどだ。歩きながらは難しいみたいだけど、馬車に乗っているときみたいに、移動に意識を割かなくていい時なんて、すごい集中力で…落ちてくる葉っぱに当てたりするんだよ…。
「全然無詠唱じゃないよ~!でも、かなり短縮できたよ」
オレの作った適当な詠唱なんて、絶対唱えなくて大丈夫だと思うよ。消費魔力がかなり少ないこの魔法、いくらでも練習できるのもラキに向いているみたい。
「ラキも、すごいのだナ…なんと正確な魔法よ」
みんなに褒められてラキが顔を赤くして食卓に向き直った。
「も、もう…僕のことはいいから!二人ともちゃんと行儀よく食べてよ~!」
「「はーい」」
再び席についたところで、ナギさんたちに料理を出していないことに気づいた。
「ねえナギさん、オレが作ってきた分ってここに出してもいいの?それともお夕食にする?」
「出してクレ!楽しみにしていた。ウナにも食わせてやるゾ!」
満面の笑みを浮かべたナギさんに、作ってきてよかったとオレもうれしく笑った。
「ではこちらを少し片づけますね……こちらへどうぞ。ああ、別の台が必要ですか?ではこちらへどうぞ」
ウナさんが持ってきてくれたテーブルへ持参の布を敷いてから、浜辺で作った品々を出していく。
「えっ…これをユータ様が…?おひとりで…??」
「美味そうダ!」
次々現れるお料理に喜色満面のナギさん、戸惑うウナさん。お口に合うといいんだけど…。
タクト:ふふ…よそ見なんてずいぶん余裕じゃねえか(小声)
サッ…ユータの皿に桃色わさびを突っ込む!
ユータ:ぱくっ!へうっ…?からーーい!!スーハースーハー!ひゃちみちゅーーー!!
ラキ:食べ物で遊ばない~!!
いつも読んでいただきありがとうございます!
うちの周りの田舎書店2店舗ではもふしら2巻が売り切れそうです!入荷が少ないから!!(笑)
棚になかったら、店員さんに聞いてみてね!ガラガラ~って下の引き出しから出してくれましたよ…それでなくなっちゃったけど…






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