281 時間はたっぷり
「…強いな」
目の前に突き出された、オレの顔ほどありそうな大きな拳。
「ありがとう!」
「へへっ!」
「頑張ったよ~!」
オレたち3人の拳を同時にコツンとできる、男の拳。カッコいいな…憧れを込めて見上げた大きな男は、オレを見下ろして微かに口角を上げた。
「リーダーー!!『強いな…フッ…』とかやってるレベルかっての!!見た?!エンガー瞬殺!!」
「ああ」
「だったら!もっとこう……あるじゃん?!」
「何が」
賑やかなセージさんとは裏腹に、ディルさんとオリーブさんは少しぽかんとしていたけど、ハッとした後は怒濤の質問が来た。特にディルさんは魔法の使い方について珍しく熱く語ってオリーブさんに引き離されている。
「本当に強いのね…あそこまでとは思わなかったわ…これ、商人たちはもの凄くラッキーね。タダ同然の金額で強力な冒険者を雇えるなんて…」
「でも、僕たち経験がないから…だから、社会勉強にはとてもいいと思ってるよ~」
「なんと…考え方も随分大人だ…これは将来大物間違いないね」
「あれ…お宅ら真ん中担当でしょ?何してんの?」
「…………」
「おねーさん、口開いてるッスよ」
なぜか立ち止まったままだった『ファイアーストーム』は、最後尾の『女神の剣』に追いつかれてしまったようだ。後ろから『いやいやいや』とか『おかしいから!』とか…我に返った『ファイアーストーム』の大声が響いて、随分賑やかだ。
「そりゃそうなるっての…ウチのリーダーが受け入れすぎって言うか…」
「ま、まあ将来Aランクになるような方々は、得てして常人とは違ってると言うからね…」
「確かに!あの時のカロルス様とか…凄すぎだったもの!絶対小さい頃から普通じゃないわ…そういうことね。そこまで上り詰めるような人ってこんな感じなのね…」
オリーブさんはカロルス様たちの活躍を目にしているもんね。Aランクになる人たちは、本当に格が違うらしい…そういう特種な人達がいるもんだから、オレも目立ちはするけどそこまで異端とは思われなくて助かっている。
「な、なあなあ!それってさ!俺もAランクになれるかもってこと?!」
「うふふっ!そうね、あなたなら十分可能性があるんじゃないかしら?だってまだまだ、大人になるまでにはたっぷりと時間があるんだから」
うおーっと走りだそうとしたタクトが、ウッドさんに襟首を捕まえられて怒られている。一応、護衛の最中だからね…。
時間はたっぷりとある、か…。そうだね、オレの人生ってまだまだ始まったばっかりだ。早くみんなを喚びたくて焦っていたけれど、もっとゆっくりこの大切な時間を過ごすのもいいな。
『うん、いっぱい時間あるからね、まだまだいっぱい遊べるよ!』
『あなたの人生よ、ゆっくり楽しめばいいのよ』
『大丈夫、みんな待てる』
温かいみんなの気持ちが、ふわっと胸に溢れるように感じた。
「ありがとう…うん、せっかく神様に助けてもらったんだもんね。オレの人生も大事にする…でも、やっぱり早く会いたいなって思うから」
少し涼しい風が吹く草原の空は、高く高く澄んでいて、なんだか心が軽くなるようだった。
* * * * *
時間短縮のためと、安全のために昼食は移動しながらとって、オレたちはもうすぐ休憩所っていう所までやってきた。エンガー以降も魔物は出たけれど、さほど厄介なものはいなかったので行程に支障は無い。
「いやいや!支障なさすぎだろ!お前ら強いんだよ!もういいから後ろ行ってろ!!」
「私たちお金もらってるから…あなたたちにばっかり任せてたら立場ないって言うか…」
オリーブさんたちは気を使ってくれるけれど、だってタクトが…。
「なんで!?俺も戦いたい!見たことない魔物多いし経験積んどきたい!」
ほらぁ…。ラキとオレはやれやれと顔を見合わせた。
結局タクトだけ『黄金の大地』と一緒に戦闘に参加、オレたちはシロに乗って見守り部隊に徹することにした。
「タクトは戦うのが好きだね~」
「Aランクになれるかもって言われたから、余計に張り切ってるんだね」
「攻撃力高いもんね~。僕もせめてもう少し強い魔法が使えたらなあ~」
ラキはもう魔力量も十分だし、強い魔法も使えると思うんだけど、どうも自分でストップをかけてしまうようだ。でも、ラキの精密なコントロールがあれば、強い魔法じゃなくても一撃必殺は可能だよね。
「ラキは強い魔法使えるけど使わないんだもん…。でも、小さな魔法でも倒すことはできると思うよ?ラキはとっても精密なコントロールできるんだから、急所を打ち抜いたらどう?」
「え~急所って首とか胸?小さな魔法を当てたってそんなにダメージ与えられないでしょ~?」
うーん、打ち抜くっていうイメージが伝わりづらい?
「えっとね…こうだよ!」
ちょうど戦闘を始めたタクトたちにこれ幸いと、狙いを定めて…ドン!
バシュッ!
当たった!ちょっと狙いは逸れたけど、数匹いた魔物の、奥にいた巨大バッタみたいな魔物が吹っ飛んだ。オレはラキほど精密コントロールじゃないので、狙ったのは胴体ど真ん中。もちろんイメージしたのは鉄砲。だけど、ラキに言っておいてなんだけどこれ…狙いつけるの難しいかも。
「ゆ、ユータ!?何したんだ?魔法か?」
タクトはちらっとオレを見ただけで気にもしていないけど、セージさんは驚いて駆け寄ってきた。戦闘、続いてるよ?
「うん。気にしないで!」
「いやいやめちゃくちゃ気になるっつうの!!」
まあまあとセージさんを押し返し、ラキを振り返った。
「あんな感じでね、小さな小さな魔法でも、速さを上げて貫くことを意識したらどうかな?ラキなら練習すれば目とか牙とかそんな所まで狙えるかも!」
「……小さく、速く………。…ユータ、これ…僕やりたい~!絶対できるようになる~!!」
うん、咄嗟の思いつきだったけど、これはラキにとても向いているかもしれないね。ラキもそう感じたようで、メラメラとやる気が燃え上がっている。
「それで、ユータこの魔法の詠唱は~?教えて~!」
「………えっ?」
忘れてたー!ラキはまだ詠唱が必要なんだった…。ま、待ってね…今考えるから……。メモとペンを構えてぎらぎらした目で待ち構えるラキを横目に、オレは必死にそれっぽい詠唱を考えるハメになるのだった…。
* * * * *
休憩所まで来る頃には街道の幅も広くなり、森付近では全くと言っていいほど見なかった、他の人の姿が増え始めた。この辺りまで来ると、魔物の数も大分減って襲撃を受けることもほぼなくなっている。どうやら森とその付近の草原はとりわけ魔物の多い場所だったようだ。
「はー疲れた!驚き疲れたぜ!」
「まったく…本当にその通り。私も驚き疲れたよ…もう年なのかね」
セージさんがどすっと座り込むと、ディルさんもよっこいしょと随分年寄り臭いオーラを漂わせて石に腰掛けた。
「ふふっ!おつかれさまでした!甘いのは疲れた時にいいよ、夕食までもう少し待ってね」
ディルさんの手のひらに、クルミのキャラメリゼを2つ。これはね、塩分も補給できるようにお塩も入ってるんだよ。
「ユータ、あーん」
セージさんにも渡そうとしたら、あーんとするのでお口に入れてあげる。カリカリと美味そうに食べて、もう一度あーんとやるのでくすくす笑いながら入れてあげた。
「はい、これだけだよ?あんまり食べたら夕食が美味しく食べられないからね?」
「おう!んー…なんかいいなこれ。いいかもしんないな」
「あんた何幼児に甘えてるのよ…」
呆れた顔のオリーブさんに、セージさんがちょっぴり顔を赤くして弁解している。
「や、ちょ、ちょっとさ、リーダーが嬉しそうだったし!俺もやってみたいなーなんて!お前もやってみろよ!なんかいいから!!」
「やらないわよ…なんで私まで…」
やってる方はすごく楽しいですよ?おやおやオリーブさんもやってみたい?やってみたいでしょう?!
「オリーブさん!はい、あーん!」
「えっ?あ、私はいいのよ?!ちょっと…もう~」
少し恥ずかしそうにしながら、オリーブさんもノッてくれる。片手で髪を押えて伏せた瞳がどこか色っぽい。かすかに触れた唇が柔らかくて、女の人は唇も柔らかいのかな、なんて思った。
「な?なんかいいだろ?」
「美味し!……ん、まあ…ほっこりはするわね。ちっちゃなかわいい指ごと食べちゃいたいわ」
「オレの指はおいしくないよ!」
サッと後ろへまわした手を、蘇芳がきゅっと掴んだ。
『指、おいしい』
あむあむと指についたカケラを舐めとろうとするのがくすぐったくて、オレは蘇芳を抱えてきゃあきゃあ笑った。
ウッド「…………」
ディル「………私があーんしてあげようか?」
いつも読んでいただきありがとうございます!
鉄砲って、実際撃つと全っ然どこ撃ってるか分かんないんですよね!ゲームみたいに照準が出るわけじゃなし、的に当たったからって何か合図があるわけでなし…撃った弾がどこ行ったかもわかんないっていう…これ弾入ってる?みたいな感じ(笑)私にガンマンの素質はゼロのようでした(笑)






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