280 護衛道中3
「あいつら…ただもんじゃねえ。下手にケンカ売らねえ方がいい…」
「何言ってるのよ…最初からケンカ売ってるのはあなただけよ、あの子たちよりよっぽど子どもなんだから」
「そーそ。あんなちびっ子で強いなんてズルいわぁ~ウチのお子ちゃまアスと交換したいな!料理番の子と一緒に『ファイアーストーム』に入ってくれたらいいのにー」
アスさんと何やら話していた冒険者が、聞こえよがしに呟いて振り返り、ばちんとウインクした。森の中なのにいっぱい虫に刺されそうな格好をしていて、とても気になってしまう。
無事にお宝を見つけたオレたちは、現在野営地で出発の準備中だ。今日もここで泊まる予定だったけど、昼前にお宝が見つけられたので出発しようってことになったみたい。商人さんたちが慌ただしく荷物をまとめる間、大した荷物もない冒険者組はのんびりしている。
「ユータが料理番か~確かに料理番ではあるんだけど~」
「あんな料理番がいてたまるかよ!前衛ってホント前衛なのな。リーダー聞いてくれよ、ユータのやつ先陣切って飛び出してったんだぜ」
「オリーブから聞いた」
「君たちは下にいたから知らないだろうけど、こっちの二人も立派な冒険者だったよ。十分にやっていける腕だ…本当に、最近の学校は進んでいるんだな」
「いいやディルさん違うぜ!学校じゃなくてユータたちに教えてもらってるから腕が上がったんだぜ!」
「ユータ『たち』?」
「そ!ユータの召…むぐっ」
タクト!わざわざ知らない人にまで言わなくていいから!学校で教わってることの方がずっと多いんだから!
「どう?おいしいでしょ?」
「美味い!何これ?カリっとしてて甘くてすげー美味い!」
「何それ~?タクトだけずるい!僕も~!」
タクトの口に突っ込んだのはキャラメリゼしたクルミ。正確にはクルミじゃないけど…味はそのものだし、もうクルミでいいんじゃないかな?
「わあ~これ、前に食べた飴がかかってるの?おいし~」
簡単美味しいキャラメリゼは、オレの収納に入れてしまえばいつまでもカリっと美味しく食べられるお手軽おやつだ。
「…………」
木に背中を預けてリラックスしていたウッドさん。その視線はしっかりとオレの手元に注がれ、今にもクルミの袋に火がつきそうで笑ってしまう。オレは小さな指でキャラメリゼをつまむと、ちょっと背伸びして彼の口元へ差し出した。
「はい、あーん」
反射的に薄く開かれたお口に、遠慮なくぐいっとクルミをねじ込めば、ちょっと目を白黒させながらもぐもぐしている。
ふふっ!ウッドさんは甘い物も好きなんだね。いつもへの字に結ばれた唇が、ほんの少しほころんだ気がした。
「美味しいでしょう?ウッドさん大きいから、はい、もうひとつ」
「…………」
あーんと差し出せば、今度は素直にお口を開けるウッドさん。なんだか楽しい…大きな肉食獣に餌付けしている気分だ。
「……リーダーが…ウチのリーダーが……すっかり懐いてるぅ…!!」
「…うるさい。お前は食うな」
ハッとしたウッドさんがぷいっとそっぽを向いてしまった。
「これが…胃袋をつかむってやつ……?効果的…確かに効果的ね!!」
オリーブさんは何やら熱心にメモをとっていた。オレ、そんなことをメモするよりレシピをメモした方が役にたつんじゃないかなって思うんだ…。
「やれやれ、遊んでないで…そろそろ出発だよ」
ディルさんに促され、オレたちも装備を点検すると、馬車の方へと駆け寄った。
日が沈み始める頃には森を抜け、拓けた草原の街道へ合流することができた。この辺りは街道を除くと人間の腰より高い丈の草が生い茂っている所が多くあり、あまり安全な街道ではない。さっきも飛び出してきたゴブリンが……馬車に轢かれたところだ。ゴブリン…馬車は急には止まれないよ…。
「同じ平原でもハイカリクのあたりとは全然違うんだね~」
「ゴブリンは一緒だったけどな!見たことない魔物がいるんだろな~!」
そこそこの速さで進む馬車に、護衛の冒険者は早足で周囲を警戒しつつ進んでいる。オレたちの短い足では完全にランニングになってしまうので、3人そろってシロに乗せてもらうことにした。走ってもいいのだけど…オリーブさんたちがとても心配しておんぶしようとするから…。
『匂いも違うね!いろんな匂いがするよ~海ももうすぐだね!』
オレたちは『黄金の大地』と共に一番前を意気揚々と進む。どうやらシロの鼻には既に潮の香りが届いているようだ。
「今日この草原で一泊したら、明日には港町に到着できると思うわよ!すごく順調に進んでるし…」
「あ…」
そんなことを言っていたらまた魔物!今度は複数、ゴブリンより大きいね。街道脇の木立に隠れるように潜んでいるみたい。
「お…?なんかいるな」
「魔物~?」
どうしよう?とウッドさんを見上げると、彼も気配を察知して御者に速度をゆるめさせた。こちらを向いて頷くしぐさは、『行って良し』だろうか?
『行く?』
「「「行く!」」」
初手を譲ってもらえるほどに信頼を得られたことが嬉しかった。飛び出したオレたちは、任された喜びと責任に緊張を高めて集中する。
「はあっ!」
どうやら魔物は4体。木立を回り込んだところで、タクトがシロから飛び降りつつ水の剣を発動させた。
ギキィーーー!キィーー!
耳障りな悲鳴をあげて、3体の魔物が吹っ飛ばされ、魔物を目視した馬車の方も色めき立った。
「エンガーだ!加勢するぞ!」
エンガーは成人男性と同じくらいの体長の…端的に言えば立って歩く茶色いゴリラ、だろうか。あまり単体では行動せず、力が強くて速さもある。
「タクト、2,2に分けて!」
「了解!セージさん大丈夫だって!任せて…くれよっ!」
群れのど真ん中を割る水の剣に、左右に飛びすさったエンガーたちが、爛々と光る目をこちらへ向けた。
「きゃあ!料理番の子が!」
セージさんの声を聞いて集まった『ファイアーストーム』の人達がオレを見てざわめいた。オレ…戦闘員です…大丈夫です…。
これはちゃんと戦闘できる所を証明しなければ…ラキの采配で割り振られた2匹。普段なら3匹はこっちに振りそうなラキだけど、そろそろ2体相手する練習ってことだろうか。
『ゆうた、よそ見はいけないわ。どんな相手でも油断はダメよ』
「うん!そうだね…行くよ!」
一人で2体、馬車の方へもラキたちの方へも行かせてはいけない。早く勝負をつけなくちゃ!
「エア大砲っ」
バッ!と両手を前へ突き出すと、心の中でドッカン!と発射する。本来は『ウインドアロー』って魔法なんだけど、矢よりも大砲の方がいいんじゃない?と思ってできた魔法。
見えない砲弾に声もなく吹っ飛んだ1体が、もう一体に激突して鈍い音が鳴った。
ギキッ……?!
折り重なるように倒れ、下敷きになったエンガーが慌てて起き上がる頃には、もう勝負は決まっている。両手の短剣は、延髄側からエンガーの命を絶ち、倒れていたもう一体にもトドメを刺した。
「ふう…。エリーシャ様みたいに一撃でってわけにはいかないね」
エリーシャ様は、一蹴りで2体同時に倒していたもの。
「だああっ!」
「ファイア!ファイア!ロック!ファイア!」
二人も2体相手に確実な立ち回りができている。自分に決定打がないと思っているラキは、ひたすらにタクトをサポートし、1対1で戦えるよう牽制し、場をコントロールしているようだ。魔力を節約した小さなファイアが何度も1体の顔面に弾け、苛立ったエンガーが目を閉じてがむしゃらに駆け寄ろうとすれば石につまづいてひっくり返る。精密コントロールのラキならではの嫌がら……素晴らしい攻撃だ。その間にもう1体を仕留めたタクトが、危なげなく2体目も撃破。
「「「いえーぃ!」」」
満面の笑みでハイタッチしたオレたちを見つめる『ファイアーストーム』の目は、見事に点になっていた。
冒険者:…………料理、番……
冒険者:ぼくたちゴブリンやっつけちゃったーみたいなノリで……
更新遅れてすみません!!
クルミのキャラメリゼ、おいしいですよね!ねちゃっとしないカリっとしたやつが好きです!
ウッドさんもにっこり、ゆーた特製キャラメリゼが食べたい…






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