24 こどもたち
投稿の予約忘れてました!遅くなってすみません。
ゴトン、ゴトンと頭を打ち付けて目を覚ました。激しく揺れるこの感じ・・馬車だな。どうやらオレは袋のまま馬車へ放り込まれたらしい。幸い袋の口は開いていたので痛む体を起こして這い出すと、暗い中、隅の方に子どもが集まって泣いていた。ここは・・・?大型の馬車、の・・荷台かな?中には6歳ぐらいの小さな子から、10歳くらいの子まで5人いた。どの子も随分とかわいらしい・・ああ、それで狙われたのか・・・。ハッとして肩に手をやる。オレの宝物、小さなカバンはちゃんと掛けられたままだった。袋のまま攫われたのが功を奏したらしい。こどものカバンなんて気にも留めなかったのかもしれないけど。
「ま・・ままぁ~!まま!ままー!」
一番小さな子が耐えきれなくなって大声で泣き始める。つられて周りの子の泣き声が大きくなり出すと、
ガアン!!
「うるせえ!!騒ぐな!」
外から大きな音と共に怒号が飛んだ。子ども達は悲鳴を上げて声を堪える。ひどいことを・・。
「みんな 大丈夫?おはなしできるこは いる?」
優しく声をかけてみる。
「・・っく・・ひっく・・どうして・・あなたは平気なの。」
べそをかいた女の子が返事をしてくれた。2番目に年上だと思われる子だ。
「へーきじゃないけど 泣いたら 怒られるだけでしょう?みんなこっちへおいで なんでこうなったのか 聞かせてくれる?」
なるべく荷台の中央へ行き、カバンで囲って、ぽうっとろうそく程度の明かりをともした。暗い荷台をわずかな光が照らす。どうやら檻のようなものに入れられ、さらに外側を板張りの箱で覆ってカモフラージュしているようだ。板の隙間から見える外は、随分と暗い・・夜中だろうか。
「わあ・・・魔法?」
「まほうつかい・・?」
子ども達が泣き止んでこちらへ駆け寄ってくる。
「あなた・・・どうしてそんなことできるの?!」
一番大きな女の子が詰め寄ってくる。
「どうしてかは分からないけど・・このくらいならできるんだよ。」
オレはにこっとした。
「みんな、ケガしてない?悪いところはない?」
「・・蹴られて、お腹が痛いの。」
「あのこね、ほっぺた たたかえてたの。」
「おひざ いたいの。」
「・・そっか、みんな がんばったね。」
こみ上げる怒りを隠してにっこり笑うと、みんなまとめて『点滴』する。
「・・・あれ?いたいの、なくなったの。」
「・・どうして?」
不思議そうにするみんなに「さあ?」と首を傾げてごまかすと、少しずつ情報収集する。こども達の話、荷台の外からの物音にも耳を澄ませ、可能な限りヤツらの話しの断片を拾い集める。ここは人通りがある場所ではないらしい。男達はあまり気を使う様子もなく色々と話をしている。おかげで情報が集めやすいが、金が入ったらどうするか、みたいなどうでもいい話で盛り上がっているので、有用なものは少ない。
どのくらい経ったのか、男達は会話に飽きたのか静かになった。オレはカバンから小さなナイフを取り出し、攫われてきた時の袋を切り裂いた。ついで、ちょこっと指を刺し、文字を書き始める。見つかったらマズイので手早く書いて、ポケットに隠した。いつチャンスがあるか分からないので、今得た情報だけでも誰かに伝えられるようにしておかないと。追記できることがあれば、足していけばいいからね。
「あなた・・字が書けるの?」
「うん、べんきょうしたんだよ。みんなを みつけてもらえるように、いつでもお手紙を わたせるようにするからね。」
「そんなの、誰も見てくれないわよ」
そう言いながらも、わずかに表情に希望が灯る。
「オレが なんとかするから、がんばろうね。」
そう言って笑うと、年上の女の子は、泣き笑いの顔をした。
「何よ・・・あなた、一番小さいじゃない。あなた、おかしいわよ・・。」
何気に酷いことを言う・・。
オレはナイフで少し削るようにして板の隙間を広げ、のぞき穴をいくつか作っておいた。少しずつ外が青くなってきている。どうやら時刻は早朝のようだ。
それからしばらくゴトンゴトンと進んだ馬車は、静かな場所で止まった。周りを見回しても木があるばかり。数人が出て行ったが、すぐに入れ替わるように違う男達が乗り込んできて、出発するぞと声を掛けているのが聞こえる。のぞき穴から目を凝らしていると、木々の中にこそこそと動く影を見つけた。・・・男の子だ!後ろから少し大きな女の子も走ってきている。明らかに賊の仲間ではない・・周囲に人影はないし、これ以上チャンスがあるかも分からない。オレはこの子達に手紙を託すことに決めた。カバンの口を板の隙間に当てるようにして、中で強い光を点滅させる。正面にいるなら気付くだろう。案の定不思議そうにしている二人に、なるべく見えるように隙間から指を突き出して手紙を投げた。同時にそよ風を吹かせて女の子の胸元まで手紙を運ぶ。女の子は驚いて尻餅をついた・・ごめんね。
二人が何か話しているうちに、ゴトリと馬車が再び動き出した。誰か、良さそうな大人に手紙を渡してくれますように・・。そう願いながら、再びのチャンスに備えてもう一枚手紙を書いておく。
現在までの情報を統合すると、どうやらオレ達を森のアジトらしき『森のうさぎ』ってところで引き渡す算段らしい。『森のうさぎ』は、人の符号でもあるらしく、恐らくそいつが紋使いのようだ。
森か・・オレ達が乗っているのは大きな馬車だから、道なき道は走れないだろう。街道を通るなら誰か集団が通った時に声を上げれば気付かれないだろうか・・いや、荒くれの乗った馬車だ。声をかけた人に危害が及ぶかもしれない。
そんなことを考えていると、馬車の方で、『・・・縛っておけ』、という言葉が聞こえてハッとする。急いでカバンを服の中に隠して明かりを消す。オレが考えるようなことは当然男達も考えるだろう。子どもが騒いでバレないよう先手を打っておくつもりだろう・・。
「なに?なに?」
「どうしたの?!」
疲れてうとうとしていた子ども達がオレの挙動に驚いて不安がる。
「ゴメンね、人がくるから かくしておくよ。もうすぐ 朝に なって ひとがとおるから きっとオレ達は声を出せないようにされるけど がまんしてね。じっとしてたら 叩かれたりしないからね。」
「おてがみはちゃんと 人に わたしたからね。どうなるかは まだわからないけど がんばろうね。」
不安そうにしながら頷くこどもたちの瞳に、わずかに希望が灯った。
こども達を扉から離すと、オレが一番扉の近くになるよう陣取る。・・ガチャガチャと音をさせながら板戸を開け、痩せた男が顔を出した。
「・・よし、生きてるな。」
そのまま檻の扉も開けると、肩にかけた縄で手近にいたオレの手を縛り、猿ぐつわを噛ませた。オレはみんなの方を見てにっこり頷いた。オレの様子を見て、他のこども達も大人しくしている。堪えきれずにべそをかく子もいたが、異様に大人しいオレ達の様子に、男は気味悪そうにした。
「なんなんだよ・・気色悪ィ。アンデッドになったりしないだろうな・・。いいか、大人しくしてるんだぞ。」
言い捨てて早々に出て行く。よし、みんな大丈夫だったな。それにしても、こんな小さな子達なのに昨日から食事も出てこない。本当に死んでしまったらどうするつもりなのか。
・・食事の代わりにはならないだろうが、『点滴』でなんとか体調を整えてやる。
途中、一度だけ二人ずつ腰に縄をつけて外に出される。ここで用を足せということらしい。既に間に合っていない子もいるけど・・。オレはあぶれたのか一人で出された。
「さっさとしやがれ!」
「・・どうしてこんなことするの?」
なるべく哀れっぽく目に涙を浮かべながら聞いてみる。
「へへっ!お前さんはオレ達を大金持ちにしてくれるのさァ!いや~助かるぜ、ありがとよ!」
男は嗜虐的な顔でオレを煽る。
「・・すぐに助けてくれるもん。」
「ばーか、助けになんて来ねーよ。・・ああ、お前は後で返してやるぜ~紋付けてからな!」
とびきりの嫌なニヤニヤ顔で男が言った。
ん?どういうことだ?
「お前だろ?親が貴族ってヤツ。」
「・・・・・」
「けっ!紋付きにしちまえばこっちのもんだ。そんな見た目に生まれたことを恨むんだな!」
それ以上は情報をくれないようだ。荷台に戻ってオレは考える。貴族の子だから・・紋を付けて返す?どういうことだ?紋をつけられたら逆らうことができない・・
・・・オレに何をさせたい?
読んでいただきありがとうございます!
23日0時にも投稿致します。