272 顔合わせ
門の前はよく集合場所に使われるので、これから依頼に出るのであろう冒険者たちが、早朝からぞくぞくと集まってくる。魔法使い然とした細身の冒険者、装備を最低限に抑えた動きやすそうな冒険者。そしてジロリ、と見下ろすのはオレの3倍はゆうにあるいかつい冒険者。
うわあ…みんなかっこいい…歴戦の勇者!って感じがする…。
なんでだろう…ギルドでもいつも冒険者に囲まれているけど、もっと…チンピラっぽい気がするのに。
「やっぱり違うね~僕たちもこういう貫禄が出てくるといいよね~!」
「なんだかいつもよりカッコイイ気がするね!どうしてかな?」
「当たり前じゃん!みんなランクが高いんだろ。普段俺らと一緒にいるのは毛の生えた素人だぜ!」
なるほど!複数依頼、特に護衛なんかは大抵Dランクより上の設定だからか。それとタクト、『素人に毛の生えた程度』かな。
「依頼者さんが来るまでもう少しかかるかな~?みんな、ちゃんと挨拶しようね~!タクトは挨拶以外しないでね~」
「おう!手はず通りだな!」
「うん!…タクトはそれでいいんだ…。あ、今のうちにおにぎり食べてよっか」
ちょっとした合間に口に出来るよう、一口サイズに作ったおにぎりを3つ取り出して配ると、道の脇に座り込んでちびちび大事に食べる。タクトはパクッと一口で食べてしまったけど、ゆっくり噛んで食べたほうがお腹がふくれるよ?
「ぼうず、こんなとこで何……?あ、あれ…?」
ヒョイと気さくに顔を覗き込んできた、まだ若い冒険者さん。
「ちょっとセージ、怖がっちゃうから子どもに近づいちゃだめって…あーーっ?!」
ボブカットの髪を揺らして駆け寄ってきた、もう一人の冒険者さんがオレを指して大声をあげた。あれ…?この人達、見たことあるような…?
「あの時の!黒髪の子じゃん!お前本当にこっちに来てたんだな~朝っぱらからこんな所で何してんだ?」
「きゃ-!ちょっと大きくなってる?!私、オリーブよ。覚えてるかな~?君のお父さんやお兄さんたちに助けてもらった、オリーブだよ!こっちはセージ!あの時は本当にありがとうね、会えて嬉しいわ!」
ああっ?!もしかしてゴブリンイーターの時の!!
「わあ!オレも会えて嬉しい!オレね、学校行って冒険者になったんだよ!今日も依頼に参加するの」
「ほえ~!もう仮登録したのか?すっげーな!さすがにカロルス様の子だよな-!」
「ううん、もうFランク登録したよ!えっと…オレ、カロルス様の血を引いてはいないよ?」
オリーブさんに後ろから小突かれて、セージさんがばつの悪そうな顔をした。
「そっか…悪いこと聞いたな、でも、うん!やっぱすげーよ!」
何か勘違いされているような気もするけど、まあいいか。おしりをぽんぽんして立ち上がると、サッと両脇に手が差し込まれた。
「わっ?!」
「リーダーに見せに行こうぜ!」
「ちょっと!乱暴!!」
ぽーいと空中へ跳ね上げられてバシッとキャッチ、珍しい虫を捕まえた小学生みたいなノリで連れ去られるオレ…。
「……ユータの知り合いってちょっと変わってる人多いよね~」
「なんかあいつ、いろんなとこに知り合いいるよな…」
「……すまんな」
「う、ううん!オレも嬉しかったから!」
ひゃっほう!とパーティに戻ったセージさんは、リーダーのウッドさんから特大のげんこつをもらって悶えている。だ、大丈夫だよ…乱暴な扱いはカロルス様で慣れてるから!
「それで、もうFランクに?それはすごいな…私達も精進したんだけどねえ、君の前じゃかすんでしまうな」
穏やかに微笑んだのはディルさん。彼らパーティ『黄金の大地』は、元々リーダーのウッドさんがCランクで、あとはDランクだったけど、どうやらみんなCランクになったそう。
「私、あのあと頑張ったの。だってやっぱりちっちゃな子に守られて震えているのは悔しかったから…今度は私が誰かを守れるようになるって思ったのよ」
にっこりしたオリーブさんに、あの時の笑顔が重なる。芯をもった素敵な笑顔だ、努力したんだろうな。
「…招集だ。またな」
遠くで呼びかける声が聞こえ、ウッドさんがごつい手でオレの頭をポン、として歩き出した。オレもそろそろ戻らなきゃ!
「「「おはようございます、どうぞよろしくお願いいたします」」」
「ほう…幼い子どもと聞いてはいましたが、本当に幼い…まあ、礼儀がなっているなら私は構いません。ただし、疲れたとか、帰るなんて言い出しても配慮しませんよ」
「はい。少しでもお役にたてるようにします」
依頼者の商人さんは、少し厳しい目でオレたちを見やったけど、一応の合格はもらえたようだ。ラキ、いつものゆったり口調が出ないよう、練習したかいがあったね!
「「あ……あれ?」」
招集先で再び『黄金の大地』と顔を合わせ、お互いにきょとんとしてしまう。
…もしかして同じ依頼だったのかな。困惑顔の『黄金の大地』に説明する間もなく、依頼者さんが今回の依頼について話し出した。
集まっているのはおそらくオレたちを除けば3パーティ。やはり『黄金の大地』のメンバーも同じ依頼のようだ。
「――では皆さん、よろしくお願いしますよ。今回参加は3パーティと…もう一組学生パーティが参加してますので、よろしく頼みます」
「学生ぃ?どういうこった?」
「ギルドの新たな試みらしくてね。まあ社会勉強のようなものでしょう。我らも見習いを連れてますからなぁ、事情は汲むつもりですよ。ああ、文句ならギルドへ言ってくださいよ?」
不満そうな男は、ギロリとオレたちを睨み付けて押し黙った。
「君たち、本当にこの依頼に同行するのか?危険がないとは言えないよ?相当な距離を歩くし拘束時間も長い…学校もギルドも何を考えているんだ…」
困惑顔のディルさんに、他のメンバーも一様に困り顔だ。こうなるであろうことは予想ずみなので、オレたちも迷惑をかけないようにすると説明するほかない。実際にどうかは終わってみないと分からないことだもの。
「お前ら知り合いかよ!じゃあお前らが面倒みろよ!俺たちに迷惑かけないでくれ!」
さっきの冒険者がオレたちを睨みながら言うと、セージさん達がスッとオレたちの前に立った。
「迷惑かけるのはどっちかしらね?この子、もの凄い度胸あるのよ。迷惑になるとは思わないわ」
「おうおう、任せろよ。頼まれても関わらせないぜ!俺たちのとこにずっといろよ!」
セージさんは子ども好きだそう。でも乱暴だし嫌がられるまでちょっかいを出すから子どもには好かれないそうな…哀れな。
「ちょっと…アス、Cランクの人たちよ…もういいでしょ、面倒みてくれるって言ってるんだから。…ごめんなさいね、血の気が多くって。よろしくお願いするわ、私たちはDランクパーティの『ファイアーストーム』よ。それにしてもこんな小さな子たち…危ないよりも道中に耐えられるかしら」
「だよな、ま…面倒みてくれんならいいさ。僕たちとしちゃキレーなお姉さんたちと一緒だから嬉しいぜ!僕らは『女神の剣』だ。Dランクパーティさ。ところで君ら食糧なんかも自分で用意してんの?まさかそういう面倒までみろって感じ?夜中に泣いたりしないよな?」
「ふふっ!…あ、ごめんなさい。大丈夫です、オレたちだけで野営もしてるので…一応、Fランクは持ってます」
そんなに赤ちゃんじゃないよ!思わず笑ってしまったけど、二組のパーティはFランクと聞いて少し驚いたようだった。
この人たちのパーティは、
感じの悪い男性一人と女性二人のパーティ『ファイアーストーム』
どことなく軟派な印象の男性がいる、男性4人パーティ『女神の剣』
だね。なかなかの大所帯な気がするけど、馬車も3台あるから、これでも結構ギリギリの人数のようだ。
当たり前だけど、学生が参加することを歓迎している人はいない。
「依頼主の決めたことだ。俺達がとやかく言うことではない。…配置の相談をする」
結局、ウッドさんの言葉に誰もが口をつぐむしかなかった。
「俺ら迷惑なんてかけねーっての」
「タクト、ちゃんとガマンできて偉い~!」
ガラガラと進み出した馬車について歩き出した一行。タクトはさすがに不満そうではあるけど、無理もないことだと理解はしているので、怒り出したりしない。なんだか、あの男性よりもよっぽど大人だなって思った。
「心配すんなよ、今度は俺たちが守るからさ!ほら、おぶって行こうか?」
「ふふっセージさん、オレたちも冒険者なんだよ?大丈夫だし、戦闘もできるよ?」
「どの程度助けがいる?何を学びたい?命の恩があるんだ、できることなら何でもしよう」
真摯な瞳のウッドさんに、にっこり笑う。
「護衛の依頼も、複数パーティの依頼も受けたことがないから、ここに参加できるだけで十分な経験になります。助けは…必要だったら、ウッドさんたちに声をかけてもいい?」
「承知した」
「ウッド…大丈夫かい?戦闘も参加させるってこと?」
「Fランクなんだ、ある程度の経験はあるはずだ。出来うる限りの経験をさせてやりたい」
ウッドさん…ありがとう。オレもウッドさんみたいに立派な冒険者になるからね!
「戦闘するなら知っておかないと…みんな武器は何?ちなみに私は細剣と弓、セージは槍、ディルは魔法、リーダーは戦斧よ」
「えーと…」
どこまで言ったらいい?ちらっとラキに目をやると、ラキが代わりに口を開いた。
「僕が加工師の魔法使いで、タクトが長剣と魔法剣です~。ユータが…魔法と短剣と回復と召喚です~」
…言った途端に周囲の時の流れが止まった。
言っちゃって良かった?でもギルド登録だってそうだもんね。
女神の剣:「お前、どの子が好み?」「ボブの子かわいかったなー」「いやいやセクシーなお姉さんだろ!」「あの黒髪のちっちゃい子いくつかな…」
「「「えっ?!」」」
「ち、違うっ!違うぞ?!将来、将来の話だから!!」
いつも読んでいただきありがとうございます!
また中々進まない病が出てきましたが、書いているのは楽しいです。本当はもっと描写入れて長くしたいけど…さすがに出発までに3話使ったら怒られる(^_^;)
オリーブたち、覚えていた人はいたのでしょうか(笑)






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/