270 昆虫採集?
「シロ、出てきて大丈夫だよ」
『うん!わーい』
「シロちゃぁ~ん!もっふもふだねぇ!会いたかったよぉ~~!!」
召喚を装って飛び出してきたシロに、シーリアさんが途端にデレッとした。そんなにすりすりしていたら、ホラ…ルルがヤキモチ妬いてるよ?
「シーリアさんは何探してるの~?一人で危なくない~?」
「お、加工師のラキくんだな!えっとそっちの元気くんはなんて言ったっけ…?私は一人じゃないよ、従魔術師だからね…おーい!」
タクトがガックリするのを気にも留めず、シーリアさんが声をあげると、近くに居た魔物の気配が近づいてくる。あれシーリアさんの従魔だったんだ!結構なスピードで駆けつけた魔物は、二本のツノを持った茶色い馬っぽい生き物。
「あ…最初にお店に行った時、見かけた子だ!えっと…バイコーン!」
「おや、見たことあったかい?大きい魔物だし普段は裏にいるんだけどね。うん、バイコーンのライラだよ」
ヒヒィン!
ライラはがさがさと足を踏みならしていなないた。さすが魔物と言うべきか、二本のツノは中々に攻撃的なフォルムで猛々しい。
「すごい~シーリアさんって強いんだね~!バイコーンの従魔ってはじめて見た~!」
「はは、曲がりなりにもBランクってやつだからな」
ちょっと胸を張ったシーリアさんは、ほんの少し寂しそうに見えた。
「Bランク!!すげえ-!姉ちゃんBランクなのか!他には?他には従魔いねえの?」
「他には見たことあるだろ?このルルと…あと何匹か店にいるけど、この森ならライラとルルがいれば大丈夫さ!」
肩に乗ったルルが、ピシッと得意げに手を挙げた。
「そうなの?バイコーンは強そうだけど、ルルは何をしてるの?」
「ルルは見張りさ!弱い生き物だからこそ、いち早く逃げるために危険察知能力が高いんだ。なかなか優秀な見張りさんだよ」
「クイクィ~!」
ルルは嬉しそうに鳴くと、右に左にシーリアさんの肩を駆け回った。
『それでね、ぼくは何を探したらいい?』
「あ、シーリアさん、シロに何を探してもらうの?」
「本当に探してくれるのかい?君らも目的があって来たんだろう?」
オレたちは少し気まずく視線を交わした。言えない…ピクニックに来たなんて。
「え、えーと…そう、もう用事は済んだから探検してただけなんだ!大丈夫!」
「なんとも逞しい探検だねえ!本当に冒険じゃないか!元気でいいことだけど、森は危険も多いんだ、気をつけて…な?」
シーリアさんはラピスのことを知っているし、薄々シロの正体にも気付いているのかもしれない。ちらっとオレに視線をやって、大きな瞳でぱちんっとウインクしてみせた。
「それじゃ、一緒に探してくれるかい?シロがいると頼もしい、こいつなんだ…」
シーリアさんが袋から取り出したのは、きれいな色をした…虫?コガネムシみたいな姿だ。
「あ!オドーラだ~このあたりにいるの~?!」
「そうさ、ラキくんも探すかい?」
「うんっ!一緒に探してもいい~?」
「そりゃいいともさ!むしろ私が一緒に探してもらうんだから!」
どうやらこのオドーラって虫は装飾品に使えるらしい。俄然張り切りだしたラキは、うきうきと周囲を探しはじめた。
「これ、シロ見つけられるかな?普通の虫だよね…?」
『ゆーた、普通じゃないよ!すっごく変な…甘い香り?するよ!すぐ分かるから大丈夫!』
「甘い香り?そう…かな?そう言われて見ればそうかも…?」
「お、やっぱりシロには分かったのかい?オドーラはさ、成熟すると独特の匂いがするんだ。だから鼻のいい子は探しやすいんだよ。ライラとルルに警戒してもらうから、私たちで探そうか!」
『任せて!ついてきて!』
ウォウッ!と吠えたシロがさっそく鼻先を石の下に突っ込んだ。
「あ、ホントだ!シロすごいね」
石の下には、はたしてオドーラがじっと隠れていた。オドーラは魔物じゃないし大人しいので、見つけさえすれば簡単に捕獲できる。
『こっちこっち!ほら、ここも、ここも!』
「待って待って~」
「いえーい!俺3匹目!」
「シロすごいぞ!君ってやつはなんて素敵なんだ!」
あちこち飛び回っては知らせてくれるシロに、オレたちが追いつかない。この狭い範囲にこんなにいたのかと思うほど、出るわ出るわ…瞬く間にオドーラ祭りになってしまった。
「よしよし、シロありがとう、十分だよ。頼りになるなあ~!」
「これだけあれば…使い放題~」
ホクホク顔の二人に、ぶんぶん尻尾を振ったシロも嬉しそうににっこりした。
「よし、じゃあ帰るか。君たち、シーリアさんが送ってあげよう!置いていくのはちょっと心配だ」
Bランク冒険者に付き添ってもらえるなんて贅沢な話だ。本当はもう少し探索していきたかったけど、大人しく帰ることにした。ラキが素材を使いたくて仕方なさそうっていうのも大いにあるけれど。
獲物もしっかり捕れたし、今日はお外は諦めて秘密基地でごはんにしようかな。
『おいしい、ごはん…』
蘇芳がわくわくしているのが伝わる。そうだ、蘇芳のこと、この機会に相談しておこうかな。
「シーリアさん、あのね…またちょっと珍しい召喚獣がいるんだけど…目印の相談してもいい?」
「おや?また増えたのかい?ユータくんは本当に優秀だなあ…ぜひともこの目で見たいなあ…」
そわそわと落ち着かなくなったシーリアさんにくすっと笑うと、召喚風に蘇芳を呼びだしてみる。
『スオー、よろしく』
「ひゃ……か、カーバンクル……かわっ…かわっ……」
頬を染めて乙女の顔になったシーリアさんは、あわわわわ…と口元に握り拳をあてがって、まるで大好きな先輩に突然出くわした女子高生だ。
「蘇芳って言うの。かわいいでしょう?」
激しく頷くシーリアさんの後頭部で、ポニーテールが乱舞している。真っ赤な顔ですっかり無言になってしまったので、スッと蘇芳を差しだしてみた。抱っこしていればそのうち慣れて落ち着くだろう…。
「ほわわわわ…かわわわ……」
……かなり時間はかかりそうだけど。
『スオー、お飾りほしい』
「ひぇっ?!しゃべっ…?!」
しびれを切らしたらしい蘇芳が、シーリアさんを見上げて言うと、シーリアさんがビックリするほど飛び上がった。あれ…?蘇芳、念話できるの?
『スオー、できる』
どうやら、できるけど普段は必要ないからしない、だそうで…オレ以外とも仲良くなっていけば、もっといろんな人とお話してくれるかな?
「そ、そそそんな大事なものを私に相談?!な、なにがいいかなっ?!ええと、えっと…ツノにつけるアクセとか結構流行ってて…」
「シーリアさん…蘇芳ツノないよ…」
結局カーバンクルとお話できることに舞い上がったシーリアさんは、はわはわするばっかりで使い物にならなくなってしまった…今度落ち着いたころにお店に行こう…。
『ごはん……』
はいはい、美味しいごはんは食べようね!タクトのお腹とラキの好奇心もそろそろ限界だから、秘密基地へ急ごうか。
* * * * *
―オーケー、標的は夢の中なの!おーるくりあ!
ふふふ…オレはほくそ笑みながらとある部屋に侵入する。部屋の住人は一人をのぞいて皆出払っていることを確認済みだ…邪魔者はいない。
よし、標的…目視で確認!これより作戦にうつる!
―らじゃ!成功を祈るの!
そろり…そろり…
忍び足で近づいて……一気に飛び上がる!とりゃあ!
「!!おわっ?!」
作戦、成功…と思った瞬間、ガシッと強い腕がオレの身体を支えた。
「…って…ユータじゃん。何してんだよ」
タクトの上に着地寸前、見事なまでにキャッチされてしまった…。
無念…作戦、失敗……。
「……どうして分かったの…」
「どうしてってお前…なんとなくだよ!…なんでそんな怒ってんだよ。はは、そのほっぺた何が入ってんだ?」
タクトはオレを空中で支えたまま、ひょいと起き上がってニヤッと笑った。なんだか少し、カロルス様みたいなワイルドな顔…オレが出来ないあの顔だ…。
「へへっ、まだまだガキだな。オレにイタズラするなんて10年早いぜ!」
くしゃくしゃ!とオレの頭をかき混ぜて笑うタクトに、オレはますますむくれたのだった。
ラキ:「……ねえ、聞いてもいいかな~?それ、何してるの?」
ユータ:「カッコイイ笑顔の練習」
ラキ:「ユータ…努力って…実らないこともあるんだ……」
いつも読んでいただきありがとうございます!
2巻も形になってきましたよ~!今回は結構加筆修正して、外伝はWebで読んでいる方には気付いてもらえるかな?って内容を入れてみました。
「このライトノベルがすごい!2020」っていうものがあるそうで、投票締め切りが9/23までだそうです!もふしらも対象に入ってるんですよ~!応援したい作品がある方はぜひ~!






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/