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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


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262 探索の終わりに

俺は死んだ、のか…?男は、半ば諦めて思考を巡らせた。地底湖は、まだ早いと思ったんだ…でも、あんな小さな子を連れて行くもんだから…心配になっちまって…。それに、あんな連中が行けるなら俺たちだって…なんて気持ちが芽生えちまった。

湖は、不気味なほどに静かだった。きっと、先に行ったあの連中も…

そこまで考えた所で、ぐう、と腹の虫が鳴った。

「…え?あ、あれ……?」

ぱかりと瞳を開けば、ほんのりと明るい岩壁、そして漂う堪らない香り。

狐につままれたような顔で男が半身を起こすと、隣でうめき声が聞こえた。

「あっ…?!おい、おいって!」

「うっ…うう」

横たわるパーティメンバーの姿に、慌てて揺さぶると、顔をしかめてうっすらと目を開けた。ホッと安堵してよく見れば、同じように横たえられたメンバーの姿が、1,2,3,4…。震える指で数えて、全員揃っていることを確認すると、徐々に驚愕と喜びがわき上がった。

「おいっ、おい!みんな起きろって!生きてるんだろ?生きてんだよな?!」

「いって…あれ…?どうなってんだ…」

「もうちょっと優しく起こしてくれない…?」

乱暴に揺すって叩かれて、口々に不平を言いつつ身体を起こしたメンバーは、今ひとつ掴めない現状に顔を見合わせた。

「俺たち…地底湖にいたよな?」

「あの不気味な湖…思い出しただけで震えがくるわ…」

「……襲われたよな?俺、俺さ…上からガブッとやられて…なんとか頭は避けたけど、ここに……」

真っ青な顔で示されたのは、男の右肩から腹に掛けて、大きく欠けた防具。

「あたしも、あ、足から引きずり込まれて…」

「も、もうやめようぜ。俺ら、生きてるのか?それともこれって死んじまったのか?」

再び青ざめた顔を見合わせた冒険者たち。

ぐうぅう…

…シリアスな雰囲気をぶち壊して、5人の腹が鳴った。

「あ、あはは…えっと…生きてはいるってことよね」

「なあ…気になってんだけど、すげーいい匂いしねえ?気のせい?」

「ホント…こんなところでどうして…?」


* * * * *


「へえ、あのクマ、結構美味しいんだ。もっとクセが強いかと思ってたよ!あ、ネズミはちょっと…あのざわわわー見ちゃうとさ…食欲失せちゃうから」

「クマは普通に焼くとクセがあるみたいだよ!香草と煮て油を捨ててから調理するといいみたい」

「へえ~そんな面倒なことをしてるから美味しいのね!ユータちゃんってすごいわ~!」

「ユータ様がいれば、いつでもどこでも美味しいお料理がいただけますね!素晴らしい才能です!」

あまり面倒なことをしたつもりはないのに手放しに褒められて、えへへと照れ笑い。

『ユータ、あの人達が起きたよ』

大活躍したみんなにもたくさんお料理を出していたら、シロが耳だけぴくぴくさせて知らせてくれた。

「カロルス様、あの冒険者さんたち起きたみたいだよ」

「そうか、腹が減ったらこっちに来るだろ」

カロルス様は目の前の料理を殲滅するのに忙しいらしい。


オレたちは3階層を抜けて、現在4階層から5階層へ転移する場所まで辿り着いたところだ。4階層も魔物が色々出てきたけれど、3階層のことを思えば呆気ないくらいスムーズに進んだ。魔物が多少強くなったところで、あの湖に比べればどうということはない。

「ダンジョンって、下に行くほど難しいと思ってた…」

「うん、普通はそうなんだよ。だからここは特殊だし、そのせいで人も少ないでしょ?そもそも難易度高いダンジョンだからねえ…」

「そうだったの?!」

初耳だ!オレ初ダンジョンなのに高難易度の所に来てたの?


ちなみに5階層は目の前だけど、助けた冒険者さんたちを放置するわけにもいかないし、3階層でダメだった人達を5階層に連れて行くのもマズイというわけで、残念ながら今回の探索はここで終了。せっかくだから盛大にお料理をしてダンジョンを満喫してから帰ろうってことになったんだ。…盛大にお料理したかったのはオレだけなんだけどね。

持参したお弁当と、ダンジョン内の魔物で作ったお料理を所狭しと並べたら、まるでちょっとしたパーティみたいだ。テーブルクロス、持ってきて良かった!

「ユータ…手当たり次第に何でも冒険に持っていくの、やめようね…」

「ダメなの…?」

「ダメってわけじゃないけど……えーっとほら、冒険してますって感じが薄れちゃうでしょ?」

なんと!そうか…確かにそうだ。冒険っていうのは普段と違うからいいんだよね…いつもみたいにテーブルに座ってカトラリーでお食事するより、地面に座って手づかみで食べる方がそれっぽい。

「そっか…今度は冒険らしいお食事の日も入れてみるね!」

「んーー違う…そういうイベント的なことじゃなくて…」


「あ…あの……」

セデス兄さんが何やらガックリした時、奥から冒険者さんたちがそろそろと出てきた。行き止まりの通路を利用して、入口側にオレたちが陣取り、奥に冒険者さんたちを寝かせていたんだ。もちろん、ほどほどに治療はしている。あまり綺麗さっぱり治したらダメって言われたので、オレにとっては不満の残る仕上がりだ。

「おう、もういいのか?食うか?…うぶっ!!」

頬を膨らませたまま声をかけたカロルス様の後頭部に、エリーシャ様のお叱りがヒットした。

「たくさんあるから、体調が良いなら食べていきなよ」

いかにも貴族なセデス兄さんに促され、冒険者さんたちがおずおずと椅子に座った。

「あ、あの…質問しても?」

「おういいぞ!」

「その…俺達を助けてくれた…んですか?記憶が曖昧で」

「そうだな!こいつがどうしても助けるってんでな…お前ら死ぬ寸前、危機一髪ってとこだったぞ!」

わはは!と豪快に笑うカロルス様に、当初を思い出したらしい冒険者さんたちが青くなった。

「私たちの怪我も、もしかして…?」

「おう、なんつーか…治しとかねーと死んじまう傷だったからよ、仕方ねえってな」

「あ、お金のことなら気にしないでちょうだい、試作品を試させてもらったから」

オレ作の回復薬の性能を確かめるために、いろんな濃度のものをお試し代わりに使ってみたので、事実には違いない。間に合わない人には回復魔法を使ったけども。

「えっ…でも、瀕死の傷を治すような回復薬を…?!」

「そうなの、この子天才なのよ!すごいでしょう?」

「お前らを助けたのもコイツの召喚獣だぞ」

オレは驚いて、嬉々として会話する二人を見上げた。それってナイショにしなきゃいけないんじゃなかったの?


「ユータ様、冒険者として活動するなら、いつまでも秘密にはできません。今回、ユータ様の実力の一端を知ることができました。ある程度身を守ることができるであろう実力、それと共に、我々の危惧するところもあるのです。」

「そう…あのね、実力を隠すってことは、咄嗟の判断が鈍るってことなんだ。ユータの実力なら、結構な難易度の場所でも行けるし、強敵とも戦える。でも、だからこそ一瞬の判断の遅れで、ユータ自身や周囲の人に…悲しいことが起こるかも知れない」

強敵と出会ったとき…そうか、咄嗟の場面でほんの一瞬でも躊躇してしまえば、それが未来を分けかねない。

「ですから、バレてもいい、くらいのお気持ちでいらっしゃるといいのですよ」

「ユータは力があるけれど、もの凄く不安定でアンバランスなんだ。何が起こるか分からないから、隠せるなら隠していればいいし、バレたらもうその時だよ!」

くすっと笑ったセデス兄さんに、オレは嬉しくなった。まだまだ不安定だけど…少し認められたんだろうか。

「ふふっ!うん、そうする!バレてもいいや!」

「ん、んー。ユータがそう言うとすごく不安。や、やっぱり基本はバレないようにしてね?」

眉尻を下げたセデス兄さんに、オレは満面の笑みを向けた。

ほんの少し離してもらった手に、少しの寂しさと、大きな誇らしさを感じて。


冒険者A「(なあ、それでコレ食って良いと思う…?)」

冒険者B「(しいっ!ダメに決まってんだろ?貴族様の食事だぜ?)」

冒険者C「(もう一回…もう一回勧めてくれたら…)」

冒険者D・E「(うう…美味そう…)」



いつも読んでいただきありがとうございます!

現在書籍2巻の書き下ろしを頑張っているところですー!

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