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261 実力を考えて

「はあ…怖かった…」

大急ぎ、かつ静かに巨大な地底湖を渡りきり、オレは大きく息を吐き出して、シロの上に突っ伏した。

「ユータはシロに乗ってただけじゃないか…僕…Aランクじゃないんですけど…あのスピードについていくの…結構無理があるんですけど…」

セデス兄さんが対岸に辿り着くなり、ゴールしたマラソンランナーみたいに崩れ落ちた。

「セデス兄さんもAランクぐらいじゃないの?」

「そんなわけないよ!せいぜいBランクだよ…Aランクは人じゃないから…」


「お前も冒険者登録したらどうだ?実力をはかれるだろう?」

「いいえ!セデス様は麗しい貴族のままでいいのです!ランクなどたいした意味を持ちません!」

「ランクが上だと舐められずにすむと思うがなぁ…」

「逆よ、逆!貴族にしてみれば、冒険者登録なんて下民のすることと思っているもの。登録しているだけで野猿みたいに思う輩だっているんだから!」

「うーん、Aあたりになればまた違うけどねえ…でも僕はわざわざ登録する必要もないかなって」

そっか、やっぱり冒険者っていうのはお手軽な職業だけに、地位は低く見られがちなんだね。セデス兄さんは、さすがにカロルス様たちよりは劣るけれど、貴族学校での騎士の訓練に加え、ロクサレン家で鍛えていたもの…そんじょそこらにいる実力じゃない。せっかくだからBランクって名乗れるようにしたらいいと思っていたけど、貴族だと色々事情もあるんだね。


「セデス様、そろそろ動けそうですか?ここに長居は無用ですよ」

この畏怖を感じる地底湖は、あまりに静かで、なんだか怖い。それに、地底湖の周辺は光量的には他の階層よりあるのだけど、オレの目で見ると、むしろ他より暗い印象だ。そのせいだろうか、どこか視線を感じるような気がして落ち着かない。

「ん?シロどうしたの?」

興味深げに深淵を覗き込んでいたシロが、パッと顔を上げて耳をピンと立てた。

『誰か他の人が来たね……でも、もっと静かに渡らないといけないんじゃないかな』

「そうなの?さっきの冒険者の人達かな?静かだと思うけど…オレには何も聞こえないよ?」

『ぼくの耳にはしっかり聞こえるよ。多分、お水の中のお魚にも聞こえるんじゃないかな』

「……さあ、ユータ様、急ぎましょう。他の冒険者に追いつかれますよ」

「あ…うん」


執事さんに急かされて、オレたちは次の階層へ転移できる場所まで移動し始めた。

「すぐそこにあるのよ。ここを下りたらお食事にしましょうね」

「ああーやっと休憩できる…ダンジョンってやっぱり疲れる…気が休まらないもんね」

シロの上で、くてっとうつ伏せて、ほっぺに感じるサラサラ毛並みを堪能していたオレは、慌てて姿勢を正す。

「う、うん!緊張がつづくと疲れるよね!!」

「……ふーん…?てっきりユータは寝てるのかと思ったよ」

セデス兄さんのじとーっとした視線が突き刺さる。お、起きてたよ!!ちゃんと…気を張ってたよ!……シロとモモとラピスが…。

ピクッ!

シロが全身を緊張させたのが分かる。執事さんが素早くシロに視線を走らせ、カロルス様たちが目配せしたようだった。

「…?どうし…?!」

その時、オレの耳にもかすかに聞こえた気がした。

「悲鳴…?もしかして?!」

さっきの人達が襲われてる?!それも、悲鳴をあげるような状況ってこと?!慌ててかけ出そうとして、カロルス様たちに道を塞がれていることに気付いた。

「ユータ、行くな。ここは危険だ」

「でも!すぐそこで襲われてるよ?!」

「冒険者ですから、何があっても自己責任です。実力を見誤って来てしまった責任は、自分たちで取るのです」

それはそうかもしれないけど…でも、助けられる命なら、助けたっていいんじゃないの?!人の命って、そんなに軽くない。

「ユータ…気持ちは分かるけど、()()()()()()よく考えるんだよ?君が行けば、僕を含めてみんな行くことになる。この湖はね、強い者でも時々犠牲になることがあるんだ。…よく、考えて?」

…自己責任なんでしょう?オレだって冒険者なのに、自分の命だけを賭けたいよ…。オレが、子どもなばっかりに、この人達の命も賭けなきゃいけないのか…。この小さな子どもの身体がもどかしい。

セデス兄さんは、何か言いたげな瞳で、じっとオレを見つめた。よく、考える……オレの実力……。


「…ラピス、部隊を呼んで!ねえ、頼めるかな?シロ、モモ、お願いしてもいい?」

『もちろん!』

『そう、それでいいのよ』

「きゅっ!!」

「あ……おいっ?!」

ばっ!とオレから飛び出した光が、一斉に後方へ向かう。オレは、オレの命を賭けたいと思ったけど、みんなにとってそれはとても辛いこと。どうして自分たちに言ってくれないのか、何のためにいるのか。そんな怒りにも悲しみにも似た感情…そして、頼ってもらえたと、弾けんばかりの喜びが、オレに伝わった。

ごめんね、オレに勇気がなかったばっかりに。

オレはみんなを危険に晒したくない…でも、それはみんなのためじゃないよね、オレが辛くなるから嫌なんだよね。

今、オレが自分の命を使って助けたいと願うのと、同じなんだね。だったら、オレは一歩踏み出そう。みんなを危険に晒す、勇気を持とう。


―ユータ、大丈夫。間に合ったの…多分。さっきのお魚と、もうちょっと大きい…お魚?すぐに倒せるの。

すぐさま、彼らの元に到達したらしいラピスから念話が届いた。…若干不安は残るけど、ひとまずラピスたちは大丈夫そう…。


「…セデス兄さん、ありがとう」

「なんだい?僕は止めたハズだけど?」

オレはセデス兄さんと顔を見合わせて、にっこり笑った。

「お前ら……ったく。いつまでも守りたいっつーのは俺のワガママ…なのか?」

「それにしたって…ユータちゃんはまだ小さいのに…」

「いつまでもマリーが守って差し上げますのに…」


「…いつも、守ってくれてありがとう。わがままして、ごめんなさい…。でも、もしもオレがいなかったら、助けに行ったでしょう?」

オレがいるから助からなかったなんて嫌だ。そう、これは単なるオレのわがまま。そして、これがきっとオレの芯なんだろう……せめて、手の届く範囲は助けたいって気持ち。

「ユータを守りたいし、綺麗なものだけ見せていたいよ。でも、ユータにだって、意志があるもんねぇ」

「ふん、一丁前の顔しやがって…こんなちっこいくせによ」

「もう少し、幼い子どもでいてくれてもいいと思うのですが…」


「ありがとう」


オレはただ、にっこりと微笑んだ。

「ま、それがお前、でいいんだろうよ」

カロルス様は、ぽんぽんとオレの頭を叩いて苦笑した。本当に、大きな人だ…オレがどうあっても包み込んでくれる、そんな大きな人。

「そうね、ユータちゃんはユータちゃんだものね…そう、これがユータちゃんだものね…」

そっと抱きしめてくれる、柔らかな腕。オレがどんな形になっても、柔らかく形を変えて受け止めてくれる、優しくて強い人。


黒い瞳に、じわっと涙が浮かんだ。ごめんね……でも、オレ…幸せだ。

「……みんな、だいすき」

溢れる想いに、慌ててカロルス様のおなかに顔を押し付けると、そっと口の中で呟いた。


「…っとぉ!ユータ、何したの?」

途端にくにゃりとなったエリーシャ様を、セデス兄さんが抱きとめた。何もしてないよ?誰にも聞こえないように、呟いただけ…。向こうでは、マリーさんが崩れ落ちていた……執事さん…隣にいるのに支えてあげて?

きょとんと首を傾げた拍子に、なみなみと貯まった涙が、ぽろりと一筋落ちた。


何度も投稿しようとして途中で力尽きる…


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[一言] 前の時間にいる人を癒やす方法はないだろうか
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