257 ダンジョンの魔物
カシャシャシャ、カシャッ…カシャシャ…
妙な足音が徐々に近付いてくる。なんだろう…曲がりくねった通路が見通しを阻んで姿は見えない。
レーダーが捉えたのは3体、分かりにくいけど…多分、虫っぽい?
「!!」
てっきり地面を歩いてくると思って通路の奥を見つめていたら、天井に近い位置にうごめくものを見つけてギョッとした。大型トラックのタイヤほどの大きさだ…。
「お、ユータもう見つけた?僕はまだ見えないなあ」
「あ…ライト、増やす?」
「ううん、大丈夫。普通の冒険者はこんな環境で戦闘するんだもんね」
相変わらずのほほんとしたセデス兄さんだけど、怯えのカケラも見られないその姿はとても心強い。
「なんかね、上の方を歩いてくる…でっかいクモみたいな虫!」
「んーロックスパイダーかな?硬いから気をつけるんだよ?」
「うん…」
『俺様の刃がロックスパイダーごときに怯むかよぉ!』
チュー助がやたらと勇ましい…やっぱり武器だから戦闘が好きなんだろうか?それとも味方がたくさんいて絶対安全だと思うからだろうか…。
「ムゥー!!」
「大丈夫!がんばるよ~!」
執事さんのポッケからのぞいたムゥちゃんが、少し心配そうに応援してくれる。クールで渋い執事さんが…まるでポッケにお野菜をつっこんだみたいで、色々と台無しだ…ごめんね…。
「あ!いたね、僕も見つけた!ロックスパイダー…で合ってるかな?まあ…切ってみれば分かるよねっ!」
敵を視界に入れるが早いか、セデス兄さんがスッと滑るように前へ出た。判断が…早い!オレも続いて飛び出すと、天井近くにいる1匹に照準を合わせる。タン、トン!軽いステップで壁を蹴って空中へ舞い上がれば、上昇と落下の一瞬の制止時間。間近に迫った大小たくさんの赤い目と、1対の黒い瞳が見つめ合った。
『主ぃ!関節なんてせこいこと言わずぅ……ぶった切れっ!!』
「わかったぁっ!」
狙うは胴体ど真ん中!頼むよっ…チュー助!
ふわ…と髪の毛が持ち上がって落下を伝える直前、クモとすれ違いざまにクロスした両腕を解放する。
ギチギチギチ…
関節を鳴らすような音をたてながら、クモが地面へ落ちていく。追いすがるように落下しながら、きちっと刃をクモにあてがって…着地と同時にごろりとクモの首が落ちた。
セデス兄さんを見やると、既に2体倒して手を振っている。
「ユータ、やるじゃない!あ、ごめ~んこれロックじゃなかったね、アイアンだったよ。あはは!」
「そうなの?何がちがうの?」
「硬さだね!ロックも硬いけどアイアンはもっと硬いからね~!剣で倒すのは大変なんだよ」
「そっか~。剣で倒せて良かったね!」
「お前ら呑気だなぁ…あのな、普通の冒険者だったらロックかアイアンかで生死を分けることだってあるんだぞ、もっと慎重になれ!」
「あ、あなたから慎重になんて言葉が…?!成長…したのね?!」
今夜はお赤飯よぉ!みたいな勢いで喜ばれるカロルス様…とっても不満そうだ。
「そうなの…?でも、どこで見分けるの?」
「それはまあ…あれだ。グレイみたいなのに聞けばいいんだ」
「カロルス様…」
執事さんがすごくガッカリした顔をしている…。
「えーっと、脚の色が違うんだっけ?確かに黒っぽいね!」
「さすがはセデス様です!その通りですよ!ただ、この暗い中でそれを見極めるのが困難なのです…まあどちらも簡単に潰れるので正直どっちでもいいのですけども」
にっこり笑うマリーさん。優しげな笑顔と言葉のギャップがひどい。
そつなく戦闘をこなすと、どうやら合格をもらえたらしい。二人で前を歩いてみろと、先頭を歩く栄誉を手に入れることができた。
「あ、また来た」
そこからいくらも歩かないうちに、今度は1匹、カシャカシャと足音を響かせながら近づいてくるクモ。
「えーと、これもアイアン!」
「すごいわユータちゃん!」
「さすがです!正解ですよ」
オレは明かりがなくても見えるので、見分けはさほど難しくない…ないけど、アイアンもロックも普通に切れたから、見分ける必要もあまりない。
「ユータ、あれは食わないのか?」
サッと短剣を構えたオレに、カロルス様から、からかい気味の声がかかった。
食う…?クモを?これ、食べられるの?思わず攻撃を止めてじっと見つめてしまった。どう見てもクモ…たくさん目があって脚がいっぱいあって…食べたいと思うものじゃない…。でも、でもだよ?カニだってエビだって似たようなものだと言われたら…もしかしたら……そう、美味しいのかも。
「…お、おい?ユータ?なんで止まってる…?冗談だからな??食うなよ?考えるなよ?!」
「…でも、意外とおいしいかも…」
「ぎゃー!ユータダメダメ!そんなこと考えないで!あれはダメ!食べちゃいけません!」
「でも…ちょっと茹でてお醤油をかけたら…もしかして…」
昔の人だってそうやってチャレンジしてきたんだから、と逡巡するオレ。食うべきか…食わざるべきか…。
ドゴシャア!
「あっ…」
「ここに食べ物はありませんでしたよ。魔物がいたのでつぶしておきました」
にこっと微笑んだマリーさん。壁にはスタンプのようになったクモの魔物…ああ、あんなにぺちゃんこにしちゃったら食べられ…
「食べ物は、ありませんでした…ね?」
にこぉ…
「はいぃっ!ありませぇん!」
どうやらクモを食べるのはお気に召さなかったらしい…。
「うわー…ねえユータ、僕魔法も見たいな!」
「うんっ!見てて!」
「加減してくださいねっ!滅多なことで崩れるような所ではありませんが、ここが地下であることを忘れずに!」
執事さんが慌てて注意してくれる。大丈夫、そんな派手な魔法を使ったりしないよ、習ってないし。
アイアンとロックスパイダーを数匹ずつ相手しながら進んでいると、ぬうっと現れた大きな影。のっそりぬめぬめしたそれは…ミミズ?オレの胴より太い胴を持つ、巨大ミミズだ…これは食べられ…?ちらっとマリーさんを見ると、微笑み顔のまま、きっぱりと首を振った。これもダメらしい。
―ユータ、気をつけて!
くい…と首を引いたミミズが、オレの方へぐんと身体を伸ばしたかと思うと、ぱかりと横に裂けた大きな口を広げた。オレには届かない…届かないけど…どうも感じる嫌な予感に従って、サッと横へ飛びすさった。
ビシュウウ!
「うわわっ!」
その瞬間、何やら異臭のする液体が勢いよく噴出し、オレのいた場所を直撃する。みるみる固体になっていく異臭液は、相手の自由を奪うモノらしい。
「あーやっぱり。ワームじゃなくてニアワームだったね。だから魔法がいいなって思ったんだ~」
そういうことは早く言ってほしい!ニアワームっていうのはこの硬化液をもっているから厄介なんだ…異臭はなかなか落ちないし、そもそも硬化液が付着した服は捨てるしかない。ミートソースみたいに厄介な、お洗濯の敵だね!
「食べられないなら…サンダー!!」
「まっぶし!目が…目が…!」
ドガアン!と走った稲妻は、暗闇の中で目を灼くほどに強烈だったみたい。カロルス様がぐおお~って目を押えて唸っている。
どうせ食べられないなら確実に…。強めの雷撃を受け、一瞬止まったミミズは、どさりと地に伏して痙攣すると、事切れた。
「きゃー!ユータちゃーん!素敵よお!」
今日はエリーシャ様は見学に徹するらしい……それはいいけど…オレの名前とセデス兄さんの名前が書かれた、うちわのようなものを振っているのはとても気になった。
羊毛ユータ、好評いただいて嬉しいです!
すみません、本業が多忙になると、更新が滞ります…3日空けたのは初めて…?予定外だったのでちょっぴりショックでした…
誤字報告、とてもありがたいのですが、誤字の訂正以外の文章が入ってしまうと、その文字まで反映されてしまうので、その報告は使えなくなってしまいます…。今は訂正箇所を探しに言って訂正するだけの余裕がないので…せっかくご指摘いただいてるのですが、時間的な余裕が出てくるまでそっとしておくしかない状態です…(>_<)
 






 https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/
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