254 雷鳴の大太鼓
「ムッムゥ~ムッムゥ~♪」
ご機嫌なムゥちゃんが、窓の外を眺めつつ葉っぱを左右にふりふり、小さな声で鼻歌(?)を歌っている。
その様子を、鼻先がくっつかんばかりの至近距離で見つめている女性陣二人…ゆらゆらする葉っぱに合わせて二人の体も揺れている…楽しそうだね。
「んッん~んッん~♪」
オレにも鼻歌がうつってしまった。よく分からないリズムをきざみながら、足をぷらぷら。
オレは今、でっかい手のひらを両手でつかんで、ハンドエステのエステティシャンになりきっている。
ちょっと伸びた爪を削って、あったかいお湯で包み込み、マッサージしながら武骨な手をキレイにしていく。お湯加減どうですか~?なんてね!
「……楽しそうだな」
背中に重低音の声が響いた。
「うん!どう?キレイになってるでしょう?」
ことんと頭を後ろに倒して見上げたら、カロルス様の顔が以前より近くなった気がする。
「まあ…そうだな。俺の手をキレイにしても仕方ないだろうに…お前は楽しそうだが、されてる俺は結構怖いぞ…」
怖い?風魔法や水魔法で爪を削るのを試してみたからかな?大丈夫、何かあっても回復できるから!仕上げに水滴を飛ばして温風で乾かすと、ピカピカになった大きな手に満足して頷いた。
「セデス兄さんもやってあげる!」
「えっ?!いえいえ!!お構い無く!!」
ぴょん、とカロルス様のお膝から飛び降りて、セデス兄さんににっこりすると、ぶんぶん!と大きく首が振られる。
「まだ時間かかるんでしょう?退屈になるし、遠慮しないで!」
「うっ……えーとえーと、ほら!僕今ブラッシングしてるんだ!気持ち良さそうでしょ?!」
セデス兄さんはオレが置きっぱなしにしていた小さなブラシを取ると、膝にのせていたモモにあてがった。
『しょうがないわねぇ…。ほら、ゆうた、行く先のことでも聞いておいたら?』
「あっ、そうだね!」
みんなでお出掛けの楽しさに、すっかり忘れていた。カロルス様を振り返った視界の端で、モモにグッジョブ!と親指をたてて頬ずりするセデス兄さん。いつの間に仲良しになったのか…。
「カロルス様、馬車に乗ったよ!どこに行くか教えて!」
行く先は馬車に乗ってから話そうって言われてたんだ。近場って言ってたけど、この人たちの言う「近場」ってどの程度なのか怪しい所だ。
「ゼローニャの町だ。最近暑いからな、涼しげな所がいいだろうってな。」
「ゼローニャの滝という、とても大きな滝が有名な場所ですよ。雷鳴の大太鼓という別名があって、そのとどろきは、遥か3つ向こうの村まで響くと謳われています。豊富な水のおかげで、色々な果物も有名ですよ」
「大きな滝?!それを見に行くの?楽しみ!!」
滝と言うからには山があるんだろうか?ロクサレン地方は平原ばっかりで山がないので、がらりと景色が変わるんだろうなとワクワクしてくる。
「それと…もうひとつあるんだがな。」
「もうひとつ?」
「お前が喜びそうなところだ。ま、後の楽しみにとっておけ」
カロルス様の言葉は気になるけれど…滝の町!それだけでもオレの期待は上昇の一途をたどっている。
『ふふん、俺様ゼローニャは行ったことあるぜ。あそこはうるさかった!』
「チュー助は滝を見たことあるんだ!どんなだった?」
得意げだったチュー助が、途端にしおっと縮んだ。
『…見たことは、ない…』
「え?見なかったの?」
『だって…俺様見せてもらってないもん』
ああーそっか!チュー助はその時まだ短剣そのものだったもんね…そりゃそうだ、ほーらこれが滝だよーなんてわざわざ短剣に見せる人はいない。
「じゃあオレたちと一緒に初めて見られるね!」
『…うん!俺様も主たちも初めてだな!一緒に見る!』
嬉しそうな顔をしたチュー助が、ムゥちゃんの横に並んで、ぴたっと窓に貼り付いた。
「ムィ?」
『俺様も外見る!一番に滝を見つけるぞー!』
「ムムゥ!」
おーっ!と言いたいのか、ムゥちゃんは小さな片手(?)をピッと挙げると、再びお外に熱中する。
「ムッムゥ~ムッムゥ~♪」
『ふっふ~ん、ふんふ~ん♪』
ムゥちゃんの葉っぱがゆさゆさ、チュー助のしっぽが右へ左へ、ついでにお尻もふりふり揺れて、なんだかノリノリだ。
『ゆーた、滝の町楽しみだね!あのね、もう凄い音がしてるんだよ!』
元気に外を走るシロは、馬車の中の会話もちゃんと聞いていたようで、その大きな三角のお耳には、もうばっちりと雷鳴の大太鼓が聞こえているそうだ。
「楽しみだね!じゃあもう近いのかな?」
いくら耳をすませても、ガラガラとかなりのスピードで走る馬車の音しか聞こえない。乗合馬車じゃないので、結構なスピードだ。馬車って意外とスピード出るんだね、この調子だと案外早い内に着くんだろうか?もうシロに乗って先に行ってしまいたい気持ちをおさえて、オレは再びカロルス様のお膝に飛び乗った。
「ユータ、お前起こさなかったら怒るだろう…ほら、起きろ」
ゆさゆさと身体が浮き沈みして目が覚めた。
「お前、よくこれで寝てられるな」
呆れた口調は、オレを抱っこしたカロルス様。
―ユータ、ユータ!!すごいの!これ、これが滝なの!?
「わ、わ、これ滝の音?!すごい…!」
会話の声を張り上げないと聞こえないくらい、周囲はドドドドッと激しい水音が響いていた。いつの間にか寝ちゃってたみたい…これは到着まで起こされなかったら怒るところだよ!
「うわあ~~!!」
馬車の窓に貼り付いたムゥちゃんにチュー助にモモ、そしてティアまでいつの間にか窓枠にとまって外を眺めている。みんなの後ろからオレもほっぺをくっつける勢いで窓に貼り付いた。
そこは、山じゃなかった。どちらかと言えば、崖。地面が突然途切れたような渓谷に、全く対岸が見えない巨大な川が流れ込んでいる。まるで海のような圧倒的な水量…それがそのまま、全部真下へ滑り落ちていく。それは、古人が考えた平らな地球の果ての姿のようだった。
想像を超えたスケールに、言葉もなく見つめるオレたち。カロルス様たちは何も言わず、微笑んでオレたちを見つめていた。
「カロルス様…すごい!滝…こんなに大きい…」
ややあって我に返ったオレは、興奮してカロルス様を引っ張った。
「すげーだろ?分かってる分かってる!ほら、もう着くから座ってろ」
ぐいぐい引っ張るオレをものともせずに、ひょいと持ち上げると抱えなおされる。窓の方に行きたくてじたばたしてみるけど、危ないからと鋼の腕が装着されてしまった。
「うふふ、大丈夫、もう下りるから好きなだけ眺められるわよ!」
「近場の旅行だしね、宿はいいとこ取ったんだよ!お部屋から滝が見られるからね!」
「ホント!?」
どうやらセデス兄さんもわくわくしているみたい。落ち着いた風を装いつつ、そわそわしているのが目に見える。
「「わーーい!!」」
「こら、走るな!待て、セデス!!」
「まあまあ、セデス様ったら、まだまだセデス坊ちゃんですねえ」
「二人ともはしゃいじゃって…もう~かわいいったら!」
馬車がとまったと同時に飛び出すオレ…とセデス兄さん。えへへ、セデス兄さんも一緒なら怖くないね!隣を走るセデス兄さんの手をとって、走りながら手を繋ぐ。なんだか二人三脚みたいだ。
「よーし、ユータ宿まで走るよ~!」
「うん!」
顔を見合わせてにっこり笑うと、オレたちは本当に二人三脚みたいに足並み合わせて走り出した。
結局、宿まで結構な距離を走って到着!…したんだけど…
…当然ながら後から来た大人組にこってり怒られてしまった。
カロルス:お前は~!なんでいつまでたっても子どもが抜けねえ…
エリーシャ:あら、その台詞そっくりそのままあなたに返そうかしら…
カロルス:……。俺ぐらいになると若々しいのはいいことだからな!わはは!
グレイ:お二人とも、もう少し自覚を持っていただきませんと(氷点下の視線)
カロルス・セデス:ごめんなさい…
いつもありがとうございます!
手元に重版の見本誌が届いたんですよ!てことはそろそろ書店にも…?!
明日また見に行ってみようかなーなんて。






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