21 急転直下
昨日23時に投稿した分をミスってました・・すみません。
気恥ずかしいような、温かい気持ちでカロルス様と馬車までの道を歩く。頼っていいと、心から思えたから・・カロルス様と手を繋ぐのも、気にならなくなってきた。
この世界で頑張らないといけないと、知らない間に気を張っていたのかな。肩の力が抜けたのはいいけど、ちょっと幼児化が進行したかも知れない・・・何やら顔が緩むのを止められない。
こうして歩いていると、まるっきり親子みたいだな。そういえばカロルス様は、息子になんて呼ばれていたんだろう?パパ?お父様?・・・ガラじゃないって気がする。やっぱりオヤジ!とかが似合いそうだ。貴族だけど。
ほどなく乗り合い馬車の停留所まで戻ってくると、残念だけど・・もうすぐこの街ともお別れだ。
最後にもう一度街を見回して、馬車に乗り込む。
「そんな遠くないからな、また何度でも来るさ。」
オレの名残惜しげな様子を見て、わしわしとされる。そ、そうか・・馬車で半日以上かかるけど、遠くないって感覚なんだな・・・。
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「さて、ではこれをお前にやろう。」
馬車で腰を落ち着けたら、カロルス様はおもむろにそう言うと、護衛の人が持っていた荷物の一つをオレの前に置いた。ずっしりとした袋は、とてもオレでは持ち上がらない。
「それは、お前用だ。」
首を傾げていると、カロルス様はそう言って袋を開けて見せた。中には、雑多なものがたくさん詰め込まれていた。こんなに、いつ買ったんだろう?護衛さんがたまに一人どこかへ行っていたから、護衛さんが買ってきていたのかな?
お前用ってどういうことだろうかと思いながら袋の中身を取り出してみると・・
本が3冊、『魔石の実際と効能』『冒険者の心得』『ホステリオ王国観光』
小さめの肩掛けカバンがひとつ
キレイな瓶がひとつ
キレイな石がみっつ
鞘に入った小さなナイフがひとつ
・・・これって。
出した物を呆然と見つめていると、カロルス様はちょっと照れくさそうに言った。
「・・まぁ、お前に何もやってないからな・・、その、ウチへ来た記念の・・・歓迎の品みたいなもんだ。・・嫌な目にあってここへ来たわけだが、これからは楽しい生活を送れるように・・ってな。」
これ、オレが欲しかった本・・。カバンも、あればいいなってずっと思ってた。ナイフなんて見ているだけでワクワクする。いっぱしの冒険者になったみたいだ。
このキレイな瓶は・・?
「それは回復薬だ。回復の効果が詰まった魔法薬だから、ケガした時に遠慮なく使え。割ったら危ないし重くなるだろうから、いつも一つだけ持っておけ。・・お前はすぐケガしそうだからな。」
「そっちの石は魔石だ。低級の魔石だから砕いたりしても構わないぞ。そっちの本を読んだら、実物を触りたいだろう?」
「・・カロルス様・・・・これ、オレに・・?」
「おう!大した物はないが、お前、装飾品よりこっちかと思ってな。色気はねえがどれも実用品、だろ?」
そう言って笑うカロルス様。
「か・・かろるすさま・・」
オレは感極まってカロルス様に飛び込んだ。うわーんと声をあげて、大粒の涙がどんどん溢れてきて、これじゃオレはまるっきり幼児だ。
「あ・・あり、ありがとう、ございます。」
なんとかお礼を伝えると、オレはしばらくわんわんと泣き続けるのを止められなくなるのだった。
カロルス様は焦った様子でオレの背中をバンバン叩き、がしがしと頭を撫で、ごしごしとオレの顔を拭いた。全部痛いです・・・。
それでも止まらない涙に、カロルス様は困った顔をすると、突然オレの両脇に手を差し入れ・・・馬車の天井ぎりぎりの『高い高い』をした。
あまりに唐突の出来事にビックリして泣き止むオレ。ゴツイ手で不器用に幼児をあやそうとする様子に、思わず笑った。カロルス様、泣いてる幼児にいきなり高い高いはないよ・・多分、普通はもっと泣くよ。
クスクスするオレに、カロルス様はホッとした表情でオレを下ろした。
「お前、そんなとこだけ幼児なんだな・・お前が泣いたら焦るぜ・・・。」
額の汗をぬぐう様子に、オレはますます笑った。
落ち着いたオレは、うきうきしながらカバンをかけ、ナイフと瓶、魔石を収納した。これだけでもう冒険者になった気分だ。にこにこしながら貰ったモノを出したり入れたりしていたら、なくすからしまっておけと呆れられた。じゃあ、とさっそく本を読もうと思ったのに、家に帰ってから読みなさいと取り上げられてしまった。くぅ・・オレは幼児か!・・・・幼児だとも。
そういえば行きは寝ちゃってたので門のあたりも見ていなかったことを思い出し、今度こそ何も見逃すまいと、小さな窓に貼り付いた。
賑やかな景色がどんどん後ろに流れていく。
門までもう少し、というところに差し掛かった時、
バキッ!!ガタン!!ガラガラガラ!!
近くですごい音がして、馬車が急停車する。吹っ飛ぶオレの体は、カロルス様が回収している。どうやらオレ達より前の方を走っていた大きな荷車が横転したらしい。積んであった樽やら何やらが大通りに散乱して大変なことになっている。荷車を引いていた人と、家族らしい乗っていた人たちが倒れていて、大勢の人が右往左往している。道は完全に塞がれてしまい、あちこちで怒号も聞こえる。オレが飛びだそうとすると、首根っこを捕まえて引き戻された。
「お前はここにいろ!絶対に馬車から出るなよ!いいか、絶対に出るなよ!!」
ニラミをきかせて、ここにいろ!と頭をぐりぐりと押さえた後、カロルス様は護衛を一人連れて出て行った。もう一人の護衛は馬車を守るみたいだ。
混乱する民衆に、テキパキと的確に指示を出して場を収めていくカロルス様。すごいな・・ちゃんと人の上に立つ者の器なんだな。オレは人の上に立つのは無理そうだ・・あのよく通る声で出す指示を聞きながら、オレは尊敬の眼差しで見つめていた。
オレの生命魔法、必要かな?でも、こんな大勢の中で使えないし・・。
あ、カロルス様が負傷者を集めてる。んー重傷の人はいないようだ。みんな座っている。ならすぐに魔法をかけたりしなくて大丈夫そうだ。あ、そういえば、この魔法薬を使ったりするんじゃないかな?オレはカバンから小さな魔法薬の瓶を取り出した。これはオレ用って言ってたから、きっとカロルス様も持っているのだろうけど・・。渡しに行きたいけど、出たらもの凄く怒られそうだ。・・うん、諦めよう。
改めて手のひらの瓶を眺める。きれいな黄色い瓶に、同じくうっすら黄色い液体が入っている。フタを開けてニオイをかいでみたけど、あんまりニオイはしないようだった。すこーしいい匂いの魔力が入っている・・気がする。
・・これにも魔力って流せるのかな?ふと疑問に思うと、試したくて仕方なくなってきた。生きている者には回路を繋げられるけど、魔力がそこにあっても無生物ならどうなんだろう?しばらくそわそわしていたけど・・・ええい!これはオレのって言ってくれたし・・・!
そっとそっと回路を繋いで魔力を流してみる。回復の効果が薄れたら困るので、生命魔法を使う時の感覚で魔力を流す。すると、ふわっと明かりが灯ったように魔法薬が輝いて、慌てて回路を止めた。だ、大丈夫かな・・?キラキラした光はすぐにおさまったが・・えーと・・なんかさっきと液体の色が違うような・・?ちょっと焦るオレ。これ、どうしよう??カロルス様には聞けない・・・えっと・・魔法に詳しそうな・・・・そうだ!チル爺だ!!!うん、チル爺に聞けば大丈夫、マズイものだったらきっと直してくれる・・・よね?ふう、とオレは安心して腰を落ち着けた。
その時、外から妙な物音がした。
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ったく、やっと帰れるってときにツイてない。
誰かが指示しなきゃ、いつまでたっても烏合の衆だなこりゃ。離れたらトラブルを起こしそうなコイツを置いていくのは・・もの凄く気が引けるが・・仕方ない。護衛を一人つけとけば、まず脱走もできんだろう。
そう判断した俺は、絶対に出ないよう言い聞かせて現場に飛び込む。まずは負傷者を確認しながら、ウロウロしているヤツをつかまえて、負傷者を通りの端に運ばせる。医者か回復術師を呼ぶヤツ、見回り当番の詰め所に応援を呼びに行かせるヤツ、それぞれ二人ひと組にして指示を出す。
そうこうしているうちに、ようやっと当番兵たちが駆けつけてきたので、身分を明かし、場を譲る。
あーなんとかなりそうだな。やれやれと馬車の方を振り返って、眉をひそめた。
・・おかしい。馬車の傍らで護衛していた者が、いない。・・馬だけがぽつんと立っている。
早鐘を打ち出した心臓をなだめながら駆け寄ると、力任せに扉を開ける。ガガンッ!と扉が派手な音をたてたが、構わず中を覗き込んだ。
・・そこには、血の海に横たわった護衛がいた。
驚いてこちらを見つめるはずだった、黒い瞳・・その持ち主はどこにもいなかった。






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