249 行楽日和
「う…美味そう…」
「すっごい…豪華…」
「ごくり…」
きれいに巻いた卵焼き、レタスとハムをくるくる巻いて飾り切りしたもの、照り焼きチキリ、かぼちゃの煮付け、お魚フライ、角煮風…みんなで食べられるように、行楽風に大きなお弁当にたくさん詰めて持ってきたんだ。お弁当って彩りも大切だもんね、カロルス様みたいにお肉ばっかり入れたら茶色いお弁当になっちゃう!赤、黄、緑、ちゃんと3色入るようにお野菜もたくさんあるよ。好みがあるだろうし、和洋折衷いろいろ用意したんだ。
そして、行楽と言えばいろんな具材の入ったおにぎり!オレの手で握ると、ちっこいおにぎりになっちゃうんだけど…これはこれでかわいくていいよね!こうやって広げると、なんだかそれだけですごくわくわくしてくる。
ソワソワしている『草原の牙』3人を先に席に案内すると、じいーっとお弁当を凝視しはじめた。
「これなんだ…?キレイだな…」
「このテーブルとか一体…なんて思ったりしないっ!今それどころじゃないの。」
「あの三角…味に種類があると見た…」
オレたちの先生をしてくれているんだもの、先に召し上がって貰おうと、スープを注いで配りながら説明する。
「あれは卵焼き。味付けしてくるくる巻いてるんだよ!オレ、とっても好きなの。三角はおにぎりって言うんだよ。中の具は3種類入っているのと、ごはんに味がついてるのもあるよ。はい、お先にどうぞ、召し上がれ~」
よだれを垂らさんばかりにしていた3人が、どうぞと聞くなり見事なスタートダッシュを見せた。さすがパーティメンバー…実力は見事に拮抗している…!しかし、お互いの牽制と読み合いが功を奏し、それぞれまずは狙った獲物の確保に成功。
「うまっ!!泣けてくるぜ」
「んーなにこれ?お野菜?甘くておいしい~!」
「はぐはぐはぐっ」
3人はどうやらまずは和食からいったようだ。卵焼きにかぼちゃの煮付け、おにぎりをそれぞれ頬ばって、今度はどれだけ早く咀嚼し嚥下できるかの勝負に入った…!
「おまっ!待て!両手に取るな!」
「きたないっ!ちゃんとごっくんしてから話しなさいよっ!」
「人間の手が二本あるのはこの時のため…!!」
口数の少ないリリアナが有利…!そして遠慮無く両手で獲物を確保にかかり…3人は攻守入り乱れた抗争に突入する…!!
「えーっアニキたち食い過ぎじゃねえ?!俺たちの分なくなっちゃうって!」
「…ねえ、僕たちの分もあるよね~?」
「大丈夫!えっと…なんか大変そうだからこっちの方で食べようか…」
オレたちは落ち着いて食べようね…反面教師を目の前にして、いつもがっつく二人は妙におしとやかに食べ出した。
「おにぎり、いっぱいあるね~!どれにしようかな~?」
「こっちの具がおかかで、こっちがミンチ、これは佃煮、これが混ぜご飯で―」
「いいよユータ、聞いても全然わかんねえよ!とりあえず美味いぞ!!最高~!」
美味けりゃ何でもイイのタクトにくすくす笑って、オレも佃煮をひとつ。小さなおにぎりは、小さなお手々とお口にピッタリフィットして、ちょうど2,3個食べられるいい量だ。梅干しと海苔もあったらいいなあ…。
「はぁーー満足!!最高だったぜ!」
「あなた達いつもこんな美味しいもの食べてるの?!私、掃除も洗濯も料理もできないけど楽しいよ?癒されるわよ?!お家が華やかになる逸品、おひとついかが?!」
「詐欺はよくない」
「なんでリリアナが答えるのよ!分かんないわよ!?60歳くらいになったら10や20の歳の差なんて気にならないって!」
「それまでは気になってると…」
「ふむ…10年上のお姉さん…憂いを秘めた未亡人なんてのも……アリだな」
お腹いっぱい食べて寛ぎだしたニースたち。カロルス様たちといると、もっと落ち着いた雰囲気の食後のティータイムなんだけど、このメンバーだと随分と賑やかだね。
「シーロちゃーん!こっちおいで!おねーさんの横に座りなよ!」
「ウォウッ!」
「丸い…やわらかい…」
「でさー、俺はサッと前へ出て剣を振ったわけよ!」
「スゲー!アニキィー!!漢だぜ!!」
「あれ?ユータ茶葉変えた?これ好き~何入れたの~?」
…ちょっと騒がしすぎるかもしれない。あとくつろぎすぎな気がしなくもない…。
けれど、特に魔物の気配もないし、まあいいか…『草原の牙』3人はちょっと苦しくて動けなさそうだし。オレたちは思いの外ゆっくりと食後のティータイムを楽しむのだった。
「はー最高の日だったな!さー腹も落ち着いたし…そろそろ帰るか!」
「「「おー!……ぉお??」」」
元気よく拳を振り上げたオレたち3人は、はて?と首を傾げる。オレたち、ピクニックに来たんだっけ…?
「ちっがーーう!!これから!冒険はこれからじゃん!!」
「「「チッ…」」」
「だまされないよ?!僕たちそんな子どもじゃないから~!」
いい笑顔で帰り支度をはじめた先輩3人は、渋々と森の方へ向き直る。
「もう十分楽しかったしいいじゃねーの…いい気分で終わろうぜー。ゴブリンとか見たくねえなー」
「討伐に来たんだぞ!アニキ、さっさと行く!」
「へいへい…」
今度から朝出発にして討伐終わったらごはんにしよう…うん、そうしよう。すっかりやる気のなくなった3人を見て、オレたちは固く誓った。
「さて、ゴブリンですがーどうやって見つけるかというと…なんつうか、こうやって歩き回ってると大体出くわすんだよな」
「そんなに多いの?」
「そうだな。多いのもあるし、向こうが獲物を探してるっつうのもある」
「なるほど~僕たちが獲物なんだね。お互いに狙い合ってるって不思議な感じだね~」
「あなた達ならめちゃくちゃ狙われるでしょうね!逆にAランクの人が森に入ってもゴブリンにはほとんど出くわさないって言うわよ?」
「出くわしたら向こうが逃げる」
そうなんだ…ゴブリンも相手を選んでるんだな…Aランク未満ならイケるって思うところが残念な感じだけど…。
森に入ると、『草原の牙』3人がちらちらオレを見てくる。索敵しないの?ってことだろう。
「みんなで獲物を探す練習をしてるんだよ。だから、見つけてもすぐに言わないでね?」
「あ…おう。」
察したらしいニースがぽりぽりと頭をかいた。
「しっかりしてる…」
「ホントねー、普通楽な方に傾いちゃうものなのに」
なんとなく褒められたようなので、色んな感謝を込めて、にこっと笑った。
「…ん。いるんじゃねえ?そんな気がする」
「え…マジ…?俺分かんね」
「ニース、カッコ悪いんですけど」
ふと立ち止まって、真剣な顔で前方を見据えるタクト。タクトは理路整然と魔法を使ったりするのは苦手だけど、こういった感覚的なものは非常に優れている。逆に、ラキは説明を理解して実践する、という方面が得意だけど、どちらかというと感覚的なものは苦手だ。そんなタクトの、感覚による気配察知はなかなかの精度を誇っている。
確かにオレのレーダーにも少し前方にゴブリンらしき気配が2体。近づいては来ているが、こちらに気付いてはいないようで、オレたちから少し逸れたコースを辿りそうだ。
そっとそっと…気配に集中するタクトの先導で、オレたちは静かにゴブリンたちに近づいていく。
「いる、あそこ」
目の良いリリアナが、少し離れた場所にいるゴブリンを見つけた。
「うん、普通のゴブリンね。どうする?あなたたちが行く?」
「もちろんだぜ!俺が行っていい?」
「僕は後方支援だもの、どうぞ~」
「うん、いってらっしゃい!」
緊張と共にわくわくした気配をかもし出したタクト。先輩3人が心配しているけど、タクトは結構強いよ、オレみたいに尻込みしない強みもある。
ガササッ
タクトはこっそり近づくかと思いきや、堂々と草をかき分けてゴブリンたちの前に姿を現わした。せっかく気付かれずに近づいたのに…
「よう、お相手願うぜ!」
真正面から2体と戦おうとするタクトに、慌ててかけ出そうとした先輩3人が、スッと前にまわったシロにストップをかけられる。
「お、おい!大丈夫…なのか?ゴブリンは甘く見ると危ないぞ」
「うん…怖いところも見たことある。でも、タクトは大丈夫。それにオレたちが後方支援についてるから」
ラキはしっかりとタクトを見据えて、魔法の発動準備を整えている。絶対大丈夫と思っても油断しない、ラキはこういう所がとても大人びていて頼もしい。
突然現れたタクトに最初こそ驚いたものの、小さな獲物と侮ったゴブリンたちが、よだれを垂らさんばかりの表情で襲いかかってきた。…食糧、そう思われているのがひしひしと伝わってくる。
ギャギャウー!
歯をむき出した恐ろしい小鬼に怯えることなく、タクトは落ち着いた様子で剣を抜いた。
あちこちのサイトさんで、本ご購入のレビューをいただき、嬉しい限りです。
ライトノベルのオリコンランキングでも9位を獲得したようですよ!!ありがとうございます!!
また羊毛作品作ったので後で活動報告等に載せますね~






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/