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246 ギルドマスターの言い訳

な、なななんで?!

いや、落ち着いて!いきなり『天使』疑惑が持ち上がって戸惑ったけど、そんなマズイことはしていないハズ…ただ回復しただけだもの。

「ど、どどうして?天使って??」

焦る心を抑えて一生懸命平常心を取り繕う。

「ここまでの回復量…それに、天使は幼い子どもだったって噂もある。」

「えっ…それだけ?」

思わず拍子抜けた。それって…ほぼギルドマスターの当てずっぽうじゃないか。

なーんだ…思わず安堵したオレを、至近距離の瞳がじいっと見つめる。

「それだけ…か、確かにな。でもなぁ…どうにもお前だって気がしてならねえ。そもそもその歳でこんなに回復できるヤツなんてはじめて見たぞ?魔力量にしてもだ。…天使遺跡もロクサレンの方だろう?まさかお前、遺跡から出てきた古代人、なんてことは…」

「ぷはっ!あはは、そんなわけないよ~!」

話が突拍子もない方へ転がって、思わず吹き出した。古代の天使だなんて、ギルドマスターって結構ロマンチスト!

「ちっ…ハズレか。でもよ、その歳でこの回復をこなすヤツなんていねえからな。ま、A判定を見たのも初めてだがな。…はっ、天使じゃねえってんなら遠慮はいらねえな?……こき使わせてもらうぜ?」

むにっ!と大きな手でほっぺたごと顎を掴まれると、額を突き合わせそうな状態で(すご)まれる…ぐっと下がった重低音の声に射貫くような瞳、口元だけニヤッと笑ったあくどい顔……。ギルドマスター、完全に悪役になってます…。

「う…ふぁい…」

天使疑惑は逸れたみたいだけど、貴重で便利な回復術師認定を受けてしまった気がする…。


「マスター!届いたわよ…って何やってんのよぉっ!!」

「ぐおっ!?」

部屋に駆け込むが早いか、(ねじ)り込むようなアッパーがオレとギルドマスターの間を割った。

「ユータちゃんに乱暴するなんて!!信じられないっ!サイッテ-!!地獄に落ちてゴブリンのエサにでもなって反省しろっ!!」

「てめっ!やめっ、ろっ、つうの!!乱暴っ…なんて!して、ねえっ!!」

ギルドマスターとサブギルドマスターのドカバキと激しい肉弾戦に、慌ててシロと二人で患者さんたちを避難させる。こんな狭い所でケンカしないでよ…。



…ねえ、オレ、帰ってもいいかな…。

「大体!いっつもいつもギリギリまで書類放置してんじゃないわよ!」

ドカァ!

「うるせえ!俺だって忙しいんだよ!てめえだって目の保養なんつって受付にちょいちょい下りてんじゃねえか!仕事が滞ってんだよ!」

バキィ!

「なんですって!!滞ってんのはあんたの仕事でしょうが!私の仕事は全部済んでんのよ!」

唸る拳、飛び散る汗と椅子のカケラ。二人の争いはもはや全然関係ない方面へ向かっている。二人とも、ストレス溜まってたんだね…たまには拳で語り合うのもいいかもしれないよね……と、思うの半分、実力者二人のバトルに関わりたくないの半分で見守ってはいたんだけれど…。


「…それで、ジョージさん、どうしたの?ご用事は?」

被害が拡大しそうなので、仕方なく声を掛ける。廊下でそしらぬふりしていた職員さんたちが、にっこりとサムズアップしてきた。グッジョブ!じゃないよ…ちゃんと自分たちで上司を止めてよ!

「ユータちゃ~ん!大丈夫?ほっぺ潰れてない?いやね、乱暴な人って…!」

シュピッとオレの側にしゃがみ込んだジョージさんが、乱れた髪で憤然と語る。…乱暴な人……。思わず部屋の惨状に目をやって、そっと目をそらした。

「…大丈夫!それで…用事じゃなかったの?」

「そうそう、回復薬を届けに来たんだけど、なんかもう必要ない感じ?ユータちゃん回復薬たくさん持ってるのね!とっても助かったわ」

「おう、廊下のヤツらは回復薬だが、この部屋のは回復魔法だ。こいつ、スゲー使えるぜ!ウチのギルドの専属にしようぜ」

「えっ…ユータちゃん、確かにAって聞いたけど…そこまでなの?魔法も召喚も使えるでしょう?何それ!極上かわいい上にお供かわいいで、さらに追加特典が?!ウチの専属ね!はい決まり!!」

ガシっと手を握り合っていい笑顔を向けるギルドマスターとサブギルドマスター。

えーっ?!決まらないでよ!オレの意思は~??

結局、まあまあ、なあなあって、二人の妙に優しげな笑顔で何となくうやむやにされてしまった気がする…。



* * * * *


「ありがとうございます!本当に…!!一生かかってもお返しします!」

「あいつらが助かったなんて…信じられない!たまたま腕利きの回復術師がいたんだとよ!なんて運のいいやつらだ。」

ギルドは治療を終えた患者でごった返していた。

信じられない、か。そうだな、俺だってそう思うぞ。

ここが事故現場から近く、依頼を受けていたのが冒険者だったがために、遠方の治療院よりこちらへ運ばれてきたわけだが…ギルドだって平常時にそう多くの上級回復薬をストックしているわけでもないし、常に回復術師がいるわけでもない。

正直、俺もあの時は重傷者数名は無理だろうと思っていた。例え治療院で施術してくれると言われたところで、その道中で息絶えるだろうと。

それでもわずかな可能性に賭けて、俺はありったけの回復薬をぶっかけ続けていた。


「……くそ…」

俺はこいつを知っている…年齢もそこそこ、子どももいるからと、街中の依頼だけを受けるようになったんだ。ギルド内で得意げに語られる冒険譚に、少し羨ましそうにしながら、それでも俺は毎日家に帰りたいからって、そう言ったんじゃねえのかよ…!!

ギルド内の冒険者なんて、大体俺の顔見知りだ。訃報は珍しくもない…ないが、こんな事故でなんて、あんまりじゃねえか…。

「…マスター…この回復薬では…」

「…分かってる。他へまわせ」

死にゆく男に、まだ無駄に薬を使うのか。躊躇(ためら)いがちに問われ、俺は立ち上がって全ての回復薬を職員に渡した。


「なに?なにがあったの??怪我人??」

その時、両脇を抱えられるようにして部屋に引っ張り込まれたのは、A判定の回復術師。

「ユータ!来たか。悪い…少し助けてくれねえか?」

なるべくあの男を見ないように、声をかける。ジョージが上級薬を集めているはずだ…それが来るまでもたせられたら、残り数名なら、助けられるかもしれん。

怪我人を見たユータの目の色が変わった。のほほんと、いつもゆるゆるしていた表情が一変する。そこからはあっという間だった。

これが、A判定の実力…?本当に?治療院での回復術師は、こうまで神々しかったろうか?勘に従い、職員を部屋から出した自分の判断は正しかったと、俺はその光景を息を呑んで見つめていた。


* * * * *


…あれが、天使だ。

それはもはや確信だった。なのに…

「なんで、隠しやがる…」

ギルドマスターは不機嫌さを隠さず、すっかり暗く人気のなくなったギルドで、どかりと机の上に足を乗せた。もしや古代人の生き残りかと思ったが、どうやらそれは違うようで。

素晴らしい功績を、素晴らしい才能を、ひた隠しにする姿勢が気に入らない。なぜだ…もっともてはやされるべきだろうが…なんで普通の子どものフリをする。数多の命を預かるギルドマスターとして、幼くとも実力者はそれなりの扱いを受けるべきだとも思う。

「……」

仏頂面で、面白くなさそうに右手を眺める。気に入らない、気に入らないが…。

その手で掴んだ頬は、あまりに脆く柔らかく、儚い幸せのようだった。

その瞬間、何となく…本当にかすかにだが、感じてしまった。その、ひた隠しにしたい気持ちと、それを守りたい自分の気持ちを。

「…気に入らん」

認めたくなくて、拳でドン、と机を叩いた。

「……まあいい。言いたくないなら無理にとは言わん。協力してやろうじゃねえか。その代わり……存分に役に立って貰おうか」

ニヤっと悪辣な顔をしたギルドマスターは、それすらも言い訳じみていることに気付かなかった。


職員:今回は椅子と内装が少々…お二人の給金からまた引いておきますので。

二人:…はい……。


いつも誤字報告や感想ありがとうございます!とても楽しく読ませていただいています!感想をいただくと、ああ、本当に読んでくださっているんだなと思えて嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 冒険者の味方なギルドマスターが悪者になって、領主一家に討伐される未来♪
[気になる点] ユータのバックに貴族いるのによく勝手に専属とか本人の意思関係無くできるよね、それに実力があっても見た目は完全に子供なのに使い倒す気満々なのは人としてクズに感じた。 後、周りの従魔達もこ…
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