245 ユータ診療所
「はい、次のひと~」
なんだか診療所の先生になった気分だ。今度このお仕事をする時は、長い白衣を用意しようかな…雰囲気出るよね!
「え……あれ…子ども?」
今のところプチ回復所を訪れるのは男性ばかり。そしてみんなそわそわ入って来ては、オレを見てガッカリする…。そんなに?そんなに美女の回復術師が定番なの!?保健室の先生的な?!
けれど、回復魔法自体はみんな満足するらしく、不服そうな様子は一変して帰ってくれるので、まあいいか…。格安とは言え、お金をいただいているのだから、満足してもらいたいもんね。
「…あの、本当にまだ大丈夫です?もう結構な人数になりますが…」
「あ…そっか。ちょっと疲れた気がする!休憩してもいいですか?」
元気に答えたオレに首を傾げつつ、職員さんも休憩のために退室する。そっか、職員さんの休憩も必要だもんね、ちゃんと頃合いをみるようにしよう。結構な人数とは言うものの、まだ5人程度だし…それも軽傷ばかりだもの、使う魔力より回復する魔力の方が多そうだ。
魔力は何の問題も無いけど、ちょっと緊張はするから、その分疲れはするよね。
オレは一人になってホッとすると、うーんと伸びをした。さて、どうしようかな…ここの人達は休憩って言うと結構な時間をとるので、きっと10分や20分じゃなく1時間単位で考えられているだろう…。魔力の回復を考えるとそのくらいは妥当かな。
「それにしても…オレくらいの歳だと、軽傷5人を回復した時点で魔力が尽きているかもしれないってことなんだね」
『そうねー、まあA判定ってことがバレてるんだから、少しは無茶もきくでしょうけど、あまりやり過ぎないように気をつけないといけないわね』
子どもの魔力量っていうのは本当に少ないんだな…それなら、学校の友達はみんな、すごく将来有望な面々になるんじゃないだろうか…たくさん魔法の練習して、攻撃だけじゃない便利な魔法も使えるようになっているから、日常的に使うことが多いんだよ。そして、そうすると魔力量の伸びもぐんと良くなるみたいで…。
そう言えばメリーメリー先生が、みんな魔力量の増加がすごくない?!って驚いてたもんね。
「ユータくんお疲れ様!頑張ってるらしいわね~!どのくらいで帰ってくる?」
「ありがとう!うーんと、1時間ぐらいだと思うよ!」
「ゆっくりしてくるのよ!」
受付のお姉さんに、はーいとお返事をして手を振ると、オレは一旦ギルドを出た。この時間を利用して何か配達でもしようかと思ったけど、さすがに止められそうな気がして…。
『ゆーた、お散歩?』
「そうだね~、久々にゆっくりお散歩するのもいいね!」
わーいと喜ぶシロと一緒に賑わう街を歩いていると、いつかの呪いグッズ店の近くを通りかかった。
「あれ?前はもっと人少なかったのにね」
『呪いの店が賑わってるってすごく変な感じね…』
以前はほとんど人がいなかったのに、今日はなかなか盛況な様子だ。店内をのぞいてみると、奥の鉄格子内にある「危ない呪いの品」の数も格段に増えて、ぎっちり詰まっている。おかげで嫌な気配がビシバシ伝わってくる…店主さんたち、全然平気そうなのは、呪いを感じられないタイプの人なんだろうな…呪いのグッズを売る人としてどうかと思うけど、それを感じないことが店主になる必須条件なのかもしれないね…。
「こんにちは!なんだかすごく品物が増えたんだね!」
「いらっしゃ…おお、あの時のお客さん!あんなことがあったのに、先日も来ていただいたようで。そうなんです、最近は羽振りが良くなりましたよ!いや、本来はこんな感じだったんですよ?」
「そうなの?前に来たときはどうして少なかったの?」
「はは…恥ずかしい話で、同業者の妨害でね。なかなか力のあるグループみたいで、片っ端から呪いの品を入手していっちまうもんで、こっちはすっかりがらんどうになってたんですよ」
呪いグッズのお店なんて、そんなにたくさんないと思っていたけど、案外需要はあるんだね。どこの世界もあくどい商売をする人達がいるんだなぁ。
ちなみに、そんな人達はしばらく前にこの街を撤退したらしく、これからはウチが盛り返しますよ!なんて店主さんは張り切っている。
ゆくゆくはウチの商品が街のそこかしこにあるってのが理想ですねーなんて目を輝かせて語っているけど、売ってるの電化製品とかじゃないからね…呪いグッズだからね…そこかしこにあるのは…遠慮していただきたいところだ。
「いけませんね、つい夢を語っちまいまして。それで、何かお求めですか?」
「あ…ううん、賑わってるなって思っただけなんだけど…そうだ、前みたいな魔寄せとか魔力保管庫みたいなものはないの?」
「あー、そういうイイやつは全部持ってかれてるんで、これから揃えていきますよ。こんなのどうです?座ったらぐるぐる回るクッションとか、跳ねる靴なんてお子様に人気ですよ」
「………いらないです」
相変わらず使いどころに悩む微妙なグッズが多いようだ。そもそも呪いグッズだもんね…。
召喚に使う魔力が案外多くて大変だから、次の召喚のために魔力保管庫の予備が欲しかったんだけどな。
『それなら素直に魔道具店なんかで買えばいいんじゃないの?』
あ…そっか!!その手があった!でも、貴重なものっぽいし、お高いんだろうなぁ…憧れのオーブンは諦めて、まずは魔力保管庫を探そうかな…。
結局呪いグッズのお店や露店をぶらぶらして、ピンク色の果物ジュースを飲みながらギルドへ戻ってきた。
「あっ…!帰ってきたわ!!」
「ユータちゃん!!魔力大丈夫?ごめん、怪我人がいるの!」
普段のんびりした昼間のギルドなのに、なんだか騒がしい…浮き足だった雰囲気に驚いていると、両側からがしっと捕獲されて、あれよあれよと先ほどの個室に連行されていった。
「なに?なにがあったの??怪我人??」
「そうなの…ユータちゃん、まだ小さいのにごめんなさい…!でも、回復薬が足りなくて!今使いをやってるのだけど、回復術師がいてくれると助かるの!」
ギルド奥の通路には数人が座り込んで手当を受けている。個室に近い人の方が重症度が増しているようだ。
「ユータ!来たか。悪い…少し助けてくれねえか?」
個室にはなんとギルドマスターがいて、数人の職員さんが一生懸命怪我人の手当にあたっていた。少しでも回復魔法を使える人が交代で魔法をかけ、溢れる出血を抑え、重傷な患者に少しずつ回復薬を振り分けて使用している。
「老朽化した宿の取り壊しで事故だ。死人はいねえが死にそうなやつがこの通りだ」
身もふたもない言い方だけど、それどころじゃない。狭い個室のベッドが取り除かれて、床に寝かされた5人。中でも命の灯が消えそうなのが二人。
「これ、使って!」
取り出した数本の回復薬をギルドマスターに押しつけ、スライディングする勢いで重傷二人に手をかざす。
「ここは俺が!外のやつらに使え!」
ギルドマスターが職員さんに回復薬を押しつけて追い出したのが視界の隅に映った。
両手をいっぱいに伸ばして二人に回復魔法を使う。大丈夫、ゴブリンの時の少年たちよりは余裕がある。
出血が止まり、顎を上下させた不規則な呼吸が、徐々に穏やかに、規則的になる。
「お…おお……」
ギルドマスターの感嘆の声と共に治療を終え、ほう…と息をついた。
「間に合ったよ。…もう大丈夫」
額の汗を拭ってにっこりすると、急いで残った3人の治療を行った。
回復魔法は他の魔法に比べて、とても疲れるし魔力も使う。召喚にしてもそうだけど、何て言うのか…生命魔法ってなんだか効率が悪いんだよ…。
5人の治療を終えて、間に合って良かったとホッと一息。
「……お前…」
ギルドマスターが、ぐいとオレの顔を覗き込んだ。
「お前、やっぱり……お前が『天使』なのか」
間近にある男臭い顔に問われ、オレは目を見開いた。
ギルドマスター、グッジョブ!!






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