223 野宿の練習
安くて、そこそこ広さのあるテントに目星をつけて、あとはキッチンツールなんかを物色。コップやお皿は、今度ラキが長期使用できるようきちんと作っておくらしい。ちなみにオレは次々選ばれる品物の計算係をしている。
もう買い残したものはないかなと、広いフロアをうろうろしながら歩いていると、たくさん瓶が並ぶエリアに来た。なんだろう?薬局みたいな雰囲気で…あ、もしかして回復薬系かな?
「今までたいした怪我もなく来たけど、お薬系統もいるよね~。高いから悩むけど…」
「回復薬はオレが作れるよ?でも魔力回復薬はまだ作れないなぁ」
「魔力回復薬は材料もこのあたりで採れないし、授業で習うのもまだ先じゃない~?そのあたりと…解毒薬とか買っておく?依頼に合わせてその都度の方がいいかな~?」
「でもいきなり毒もちに襲われることだってあるだろ?ユータの収納袋に入れられるなら、買っといてもいいんじゃねえ?」
「ねえ、おくすりにしても、道具にしても、オレだけが全部持ってたら大変じゃない?もし何かでばらばらに分かれちゃったりしたら…」
「それもそうだなー各自の収納袋があればいいんだけどな…せめて大きめのカバンでも買うか!」
結局テントと道具類、かばんとおくすりをいくつか買ったら、パーティ資金は結構寂しいものになってしまった。いっぱい貯まったと思ったけど、冒険者には必要な物も多いし、もう少し実入りの良い依頼も受けないと厳しくなりそうだ。
「うあー買い物って金がかかるな…」
「そうだね~…当たり前だけど…そうだよね~…」
「また頑張って貯めようね!」
資金は乏しくなっちゃったけど、その分買い込んだ品物を見るとわくわくしてくる。ちなみにソロで動いた分は各自の収入なので、白犬の配達屋さん、ことオレは結構貯まっている…。
「ちょ…ユータ!今出すなよ!せめて街の外だって!」
「ユータ、お店でも開く気~?なんで全部出そうとするの~!」
真新しいテントにピカピカの道具が嬉しくて、店を出てさっそく取り出そうとして怒られた。テントは往来で広げてはいけません…。
「じゃあ今から行こうよ!お外!」
「今からはなぁ…また次行った時にしようぜ」
「じゃあ今度、お休みの時にお外で野宿してみる?一応授業で習ったし…街のすぐ近くで野宿して、ちょっとずつ距離伸ばしてみようか?」
「「賛成-!」」
「それと…依頼も積極的に受けていかないとね!次の目標は…収納袋かな~」
「お、いいね!やっぱ収納袋ないと冒険者やってられないよな!」
街を拠点に活動している冒険者さんには、そう必須なものでもないんだけどね…。でも、遠征する冒険者さんや、ダンジョンに行く時なんかは収納袋が必須なんだよ!このあたりはそこまで大きな物が売ってないけど、いいお店なんかに行くと、大きな獲物が丸ごと入る収納袋もあるんだって!
……オレの収納?…どのくらい入るのか知らないけど、ひとまずベッドやタンスはまとめて入るよ。
「あと、そろそろ外での活動も広げていこうか~!薬草はもう十分集められるし、小さな獲物も大丈夫だから…」
「お?お??そろそろ?!やっと討伐か?」
「う~ん、そうだね…でもぼくたちのランクでできる討伐なんて知れてるよ?討伐練習なら、ソロの活動も考えていくといいかも~」
オレたちのランクでできる討伐なんて、討伐という名の害獣もしくは害虫駆除ぐらいだ。確かに、いきなり自分たちだけで討伐を受けるより、他パーティに混じって経験を積ませてもらうのがいいと思う…思うけど……
「でもさ、こんな小さい子ども、連れて行ってくれるパーティあるかなぁ…」
「普通はないよね~。ギルドでフリー枠登録しておくしかないけど、きっと僕たちが当てがわれたパーティには嫌な顔されるし、怒られることもあると思う~」
「見た目で判断する奴らには実力を示してやればいいんだよ!」
見た目で判断って、オレたち本当に子どもだもん…そりゃあ見た目で判断されるだろう。
「でも…ちゃんと冒険者やりたいなら、それも必要かもしれないね」
「そうだね~ギルドもその辺り分かってるはずだから、組んで危ないようなパーティには入れられないと思うし~」
なるほどね~。フリー枠登録は、ソロで動きたい人がランクと職業で登録して、人員の欲しいパーティが選択するシステムだ。年齢性別は不明で誰があてがわれるか分からないし、基本的に拒否できない。でも、ギルドもトラブルを避けるために、相性は考えてくれるから酷い目に合うことはないんじゃないかな?ランクだって一番低いんだから、子どもが来る可能性が大いにあることも承知のはずだ。
「他のパーティとか…なんか不安だね」
「そうだな!お前が他のパーティと組むのはオレもすげー不安だよ!」
「本当に…ユータ、大丈夫…?ギルドの人も分かってくれてるから…変な人とは組まないと思うけど…」
どうしてオレばっかり心配されるのかな!?みんなだって不安なのは一緒でしょう?!なんだかオレばっかり心配されて、ちょっと頬を膨らませた。
「お、薬草採り!今日も薬草の依頼を受けるのか?」
「おー今日は野宿の練習するんだ!ついでに薬草も採ってきてやるよ!」
ギルドで声をかけられて、少し得意げなタクト。最初は「薬草採りのパーティ」なんて嫌がってたんだけど、二つ名がつくのはいいことだって受付のお姉さんに褒められて、最近はすっかりその気になっている。タクトは一番薬草見つけるの下手だけどね…。
薬草採りの名人パーティとして、オレたちは知る人ぞ知るパーティになってきてるんだ。なんせ毎回きちっとかなりの量を納めているから、ギルドや薬師の人達にも顔を覚えてもらったし、感謝してもらっている。それに、どうしても子どもだけのパーティは無茶しがちだから、ひたすら薬草依頼ばっかり受けるオレたちは、幼いなりに堅実なパーティだと認めてもらいつつあるんだ。これはひとえに、堅実で現実的なラキのおかげだね。
「やっぱりこの時間だとまともな依頼はないね~これから討伐も含めて依頼を受けるなら、どんなものがあるか早起きして見に来ないといけないね~」
「え~早起きか…」
「オレも早起きはつらいなぁ。そうだ、夜寝なかったらいいんじゃない?そしたら早起きじゃなくて夜更かしになるんじゃない?!」
「「そっちの方が辛いわ」」
そ、そう?いいアイディアだと思ったけど。
『私とティアで起こしてあげるから、ちゃんと起きるのよ?』
『ぼくも、早起きより夜更かしの方がいいなぁ…あとでユータの中でゆっくり眠れるし』
頼もしいティア&モモ目覚ましがいるから、ひとまず起きることはできるかな…シロも結構ねぼすけだもんね~オレが起きても寝てることが多いもん。
「それでさ、ユータは普通の回復魔法、使えそうなのか?」
「うーん、試してみるけど…呪文は覚えられないかも」
「それぐらい覚えようよ~」
ギルドでざっと張り出された依頼に目を通したら、いつものように薬草採り。他愛も無いことを話しながら、オレはウキウキしている。なんせ、今日は初めての野宿!テントの日!!
「でも、呪文なくても回復できるし…呪文唱えてたら気が散るよ」
「せっかく本買ったのに勿体ないよ~」
オレは貯まったお金でいろんな本を買ったんだ。回復魔法の本もちゃんと買ったよ!でも、やっぱり呪文は面倒…それっぽい雰囲気をかもし出せたらそれでいいんだ。特殊な回復方法だってバレないようにするのが目的だからね。
「回復魔法って、初歩の方のはあんまり効果無いんだね…」
「魔法って初歩のものはどれもそうじゃない~?」
確かに…それでも日常の怪我が治せるのはかなりのメリットだもんね。マリーさんみたいに、子どものちょっとした怪我が治せたらすごく重宝されるだろう。
「タクト、どっかに怪我してない?」
「なんだよ、そんないつも怪我してるみたいに…。してるけどさ、今たまたまだから!」
生傷の絶えないタクトは、いい練習台だ。とても不満そうだけど、藪につっこんだ時にあちこちを引っ掛けたらしく、かすかに血の滲む腕を突き出してくる。
本に書いてあったみたいにそっと手をかざし、適当な百人一首をぼそぼそつぶやきながら回復する。
「お、あったけぇ」
初歩の回復を真似してみたら、発動が随分早い。魔力量を調整して、かなり絞れば発動が早くなるんだ…。そうか、初歩からこうやって練習していくことで、発動が早くなって大きな怪我も素早く治せるようになるのか…。これは数をこなして頑張るしかないね。
「さあ、薬草も集まったし、そろそろテントを準備しよっか?」
「「おー!!」」
初めてのお泊まり!実は目の前に門が見えていたりするけど、微笑ましそうに門番さんが眺めていたりするけど!……いいの!お外のテントでお泊まりすることが大事なの!!
オレたちはうきうきしながら設営に取りかかった。
テントって例え家の中で張っても楽しいですよね!






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