閑話 父の日
「カロルス様、朝ですよ~!」
シャッとカーテンを開けて、部屋いっぱいに朝の光を取り込むと、ベッドにもたっぷりと日の光が降り注いで、カロルス様の乱れた金髪がきらきらと輝いた。
「んん…?ユータ?」
うーっと唸りながら眩しげに片目を開けると、オレがいることに少し驚いた顔。
「おはようございます!オレ、今日はここにいることにしたの。」
「おはよう…朝からいるのは珍しいな。」
そう言いながらもそもそと布団をひっかぶろうとする大きな体。
「ちょっと!カロルス様!起きてってば!」
慌てて駆け寄ってぐいぐい布団を引っ張ってみるけど、びくともしない。むうっと腕組みをして作戦を練ろうとした所で…
「わあっ?!」
まるで人食い植物のようにガバッと布団が開いたかと思ったら、鉄の腕がオレに巻き付き、布団の中に引きずり込まれた!
「わははは!さて、もう一眠りするか!お前も寝ろ!」
ぎゅうっと抱き込まれて、カロルス様の体温でしっかり温まった、ふかふかお布団に包まれてしまったら、まんまとオレのまぶたも重くなってきて……。肌で感じる吐息がくすぐったいと思いつつ、うつらうつらし始めてしまった。
「イチャイチャしないでいただけますっ!!?」
がばあっ!!と一気に布団を引きはがしたのは、嫉妬の炎を燃やすマリーさん。
「こんな…こんな羨ましいシチュエーション…例え神が許そうとも私が許しませんっ!!!」
バッとカロルス様の腕からオレを奪い取ると、片手でカロルス様を放り投げる!
「くっそ…ユータを取り込んだのが間違いだった…。」
見事にくるっと体勢を整えて着地したカロルス様は、恨めしそうに畳まれていく布団を見つめてぶつぶつ言っている。
「もうっ!美味しい朝ご飯作ったから、ちゃんと起きて!」
「お、お前の飯か!今日はなんだ?」
「今日はフレンチトーストのサンドウィッチだよ!」
ささっと金の髪を整えて、とりあえずガウンを羽織らせたら、ひょいと抱え上げられた。
「お前がここにいるなら、昼もお前の飯が食えるのか?」
「そうだよ!何がいいの?」
きゅっと首筋に抱きついたら、いつもより長い無精ひげがザリザリした。
「昼は肉だな!肉ならなんでもいい。」
カロルス様から肉以外のリクエストってあまり聞かない気がするよ。肉でさえあれば喜んでくれるけど、いささか作りがいがないよね。
午前中は、執務をこなすカロルス様のお部屋でお手伝い。邪魔してないよ?主に会計方面で計算機代わりとなって本当に手伝ってるからね?
「あーお前いい。ずっとここにいろ!」
ずっとここにいたら、そのうちカロルス様の代わりに、その椅子に座って執務をこなす羽目になりそうだ…。
さて、リクエストにお応えしてお昼はお肉!ローストビーフ丼、温玉のせ!
ローストビーフは薄いけど、これでもか!ってくらい重ねたので、そこそこ満足するだろう…と思ったのに、カロルス様は巨大なドンブリ鉢に3杯も平らげた。
これでおやつも食べるって言うんだから…どんな体の構造になっているのか。おやつの時間は、野菜を取らないカロルス様のために、せめてと野菜のムースにしておいた。
「今日はどうした?やけにサービスがいいな。」
「ふふ、なんでもないよ。今日はそういう日なの。」
もうもうと湯気のたつ風呂場で、オレはカロルス様の金の髪を洗う。髪って人に洗ってもらうと、とっても気持ちいいよね!丁寧に髪を洗ったら、次は大きな大きな背中だ。
「ちったあ大きくなったか?」
くるりと振り返ったカロルス様が、今度はオレの背中を洗ってくれた。
「小せえなあ~!!潰れちまいそうだ。お前、もっと飯を食え!ぽきっと折れるんじゃねえか…」
結構本気で心配されて、心外だと口をとがらせた。
濡れた金髪を後ろへかきあげて、だらしなく湯船に伸びた大きな体。
「あーいいな。今日は良い日だ。」
生命魔法入りのお湯で、魔法でバブルバスにすると、カロルス様はいたく気に入ってくれたみたい。
ちゃんとお風呂上がりも万全のサービスだ。ドライヤー魔法で髪を乾かしたら、これもとても心地よかったらしい。毎回これをしたいと駄々をこねていた。
「ホントにどうしたんだ?なんで俺はこんなに甘やかされてるんだ?」
多少の自覚はあったんだ、とくすくす笑うオレ。今は布団に寝かしつけたカロルス様をぽんぽんしているところだ。
「いや…俺ガキじゃねえからな…そうされてるとむしろ眠れねえわ。」
そうなの?お布団ぽんぽんされてると、オレはすぐに寝ちゃうけどな。現に自分でぽんぽんしながらうつらうつらしそうになっている。
「ほら、お前も来い。」
促されるままにお布団に潜り込むと、固い腕を抱え込んだ。
「今日はありがとな、おかげさまで良い日だったぜ。」
わしわし、と頭を撫でられ、オレの胸は幸福感でいっぱいになった。
おやすみ…ちょっとは、お礼になったかな…オレのほうが、幸せだったかもしれないけど…
つい長く書いてしまって気付けばギリ!!






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