スペシャルサンクス! 小話詰め合わせ
なんと…もふしらが…コミカライズ…されます。
KADOKAWA様「ComicWalker」の「異世界コミック」にて連載開始予定です。
皆様へ感謝を込めて、小話をいくつか。楽しんでいただけたら幸いです!
【ある森の中】
「…あの野郎、今日は来ないのか…。」
湖のほとりでごろごろしながら、漆黒の神獣は独りごちて、ハッとする。
「違う!来ると騒がしくなるからホッとしただけだ!!」
そんな言い訳も虚しく響く、誰も居ない森。ルーはどうにも落ち着かない気分で起き上がると、ユータが放置してある露天風呂を眺めた。
―ちゃんとお風呂入らないとダメだよ!
ふむ…風呂は中々気持ちが良い。ひとつ、自分で入ってやろう。
ざっと魔法で露天風呂内を洗浄すると、手早く湯を張った。
汚れた手足も構わず、ざぶざぶと湯に入ると、縁に顎を載せて目を閉じた。洗われるのは好きじゃねーけど、これは好きだ。
―ふふ、すっごくふわふわでさらさらになったよ!気持ちいい~!
ふふん、そうだろう…。今度あの野郎が来たら、またそう言うに違いない。
ふくふくした小さな手と、心地よい気配を思い浮かべて、ルーは再びうとうとし出した。
【ロクサレン家】
「え、エリーシャ様…その、ご無理はされねえ方が…セデス坊ちゃんの時にも、結局無理だったじゃねえですか!」
「いいえ!これしきのこと…!!私も成長しました、今度こそ、きっと出来るはずなのよ!」
「まずはっバターねっ!」
数人がかりで抱えるような巨大なフライパンに、どかんと豪快に放り込まれたバターの塊。
お、多すぎる…!!エリーシャが作ろうとしていたのはパンケーキのはずだ。決してドーナツではない。
熱々に熱せられ、みるみる音を立てて液体となったそれは、ぐらぐらと沸き立ち、厨房内に香ばしい香りを漂わせる。
「それでっ?!ミルクと小麦粉と砂糖と卵、それを混ぜるのねっ!」
エリーシャがミルクを手に取った。
「総員っ!!退避ー!!!」
ジフの悲鳴に、料理人たちが一斉に厨房から離脱を開始する…!
「りょ、料理長-!早くっ!!」
「構うなっ!行けっ!!」
料理長の矜恃をもって必死に火元を消し、全力で扉へ向かうジフ。
背後ではミルク瓶を手に取ったエリーシャが…
沸き立つ油の海に、ミルクを豪快に投入した……。
ドオオオオ!!
一気に逆巻いた炎が、ジフの背後から迫る!!
間一髪、扉へ飛び込む!すぐさま扉を閉じる料理人!!
ごうっ!!
炎は頑丈な扉に阻まれ、なんとか事なきを得た…。
「あれーおっかしいわね…。熱したバターに入れるんでしょう?」
服はぷすぷすと煙を上げているが、全くの無傷で首を捻るエリーシャ。
混ぜてから入れるんです…。料理人たちはぐったりと床へ這いつくばった。
【ある海の中】
ゆらり、ゆらり、長い髪が水中に溶け込むように広がって、まるで海の女神だと兵士は思った。
ぎゅっと引き締まった肢体から続く、美しい尾ひれ。槍を握る強い腕。
「行くぞ。」
「……っはい!!」
肩越しに振り向いた水色の瞳に視線を奪われ、兵士はやや間をおいて返答した。
海の魔物は大きなものが多い。特に、村を襲ってくるようなものは。その巨大な影が視界に入り、続く兵士たちの喉がごくりと鳴った。
「案ずるな、我が前に出る。」
「ナ、ナギ様?!」
しなやかな身体が、兵士たちを庇うようにスッと前へ出る。その涼やかな口元を、フッとかすめた笑みに、引き止めようとした兵士は、思わずどきりと胸を鳴らして動きを止めた。
「…案ずるな。」
もう一度言うと、ナギは巨大な魔物に相対する。
ぐ、と力を溜めたと思った瞬間、魚雷のように飛び出したナギは、一直線に魔物へ向かった。
「ナギ様っ?!」
ハッとした兵たちが慌てるも後の祭り。
その麗しい姿は、巨大な魔物の前に、あまりに小さく見えた。
―オオオオォォオン…
次の瞬間、兵士たちが見たものは、まばゆい光と共に、激しい水流で3等分された魔物の姿。
「す…すごい…。」
呆然と呟く兵士を尻目に、ナギはそっと槍を撫でた。
「ユータよ。感謝するぞ。」
お主のおかげで、我は村を守ることが出来る。ナギはそっと感謝の祈りを捧げた。
【ある喫茶店】
「あのかわいさは卑怯だね!とんでもないんだから!」
「はいはい…もうそればっかり聞いてるから…弟がかわいいのは分かったから。」
久々のハイカリクの街で、セデスはティータイムとしゃれ込んでいたが、その口から出るのはユータ、ユータ、ユータ!もういいっての!昼下がりのオープンテラスで、友人はうんざりとため息をついた。
「年の離れた弟がかわいいのは分かったから…。」
「いいや!君は分かってないね?!ユータはかわいいだけじゃないんだよ?!ちょっとトップシークレットなぐらい才能に溢れてるんだから!」
はいはい…突っ込めば突っ込むほど嬉々として解説しようとするセデスに、もう相槌を打つまいと黙って紅茶をすする。
「ユータは魔法が使えるんだよ?4歳なのに!しかも召喚の才能もあって、回復術の才能もあって、しかも剣術までできるんだから!」
ふーん。友人は聞き流す。よくあることだ…それぞれほんのわずかに才能のカケラが見られることはある。その中でどれを選んで伸ばしていくかが大事なのだ。火花を起こせるからと言って魔法使いにはなれないし、かすり傷を治せるからと言って回復術師にはなれないのだ。
「まーそれ全部の才能があるのは珍しいだろうけどさ…。」
「あ…やっぱりセデス兄さんだ!」
さらに言い募ろうとしたセデスが、ピタリと止まった。友人の背後から聞こえる幼い声…もしや、これがかわいいかわいい、弟?
「ユータ!!よく分かったね!」
「シロがセデス兄さんの匂いがするって言うから!どうしたの-?」
振り返った先には、見目麗しい幼児が首を傾げていた。う……確かにこれはかわいい。ただの兄バカではないと、友人は認識を改めるしかなかった。
「セデス兄さん、オレお仕事中だから行かなきゃ…また来てくれる?」
残念そうに潤んだ漆黒の瞳は、吸い寄せられるほど美しかった。麗しい弟を見せびらかせて、得意満面のセデスが、ちらりと友人を見る。
「そっか、うん!また来るよ。…あ、ユータこれに氷入れてくれない?」
「いいよ!」
何気なく差し出されたティーカップに、小さな手からカラコロと氷が落ちる。
「じゃあねー!」
手を振った幼児と、にやにや顔のセデス。
「言ったでしょ?」
無詠唱!?杖なし!?友人は金魚のようにパクパクと口を開閉させて、言葉を失った。
ユータのいない場所で、それぞれのおはなし。こんな小話も、たまにはどうでしょう?
書籍の方は7/10発売予定です!
刊行前ですが、KADOKAWA様「ComicWalker」の「異世界コミック」にてコミカライズされることになりました…!!
ネット小説大賞のサイトでは、最終発表まで、応援コメントを募集されているそうです!書籍の帯や応援ピックアップで取り上げられるそうなので、よろしければ~!
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSf3dbCxhKP6eg_d4KC6gSJdy5FngGUhe0dc4KsViElYHICWaQ/viewform






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/