196 マンドラゴラ
いつも誤字報告ありがとうございます!
「あー美味かった…人生で最高の肉だった…。」
「同感。」
「これはもはや肉じゃない!別物よ-。」
だらっと地面に足を投げ出して座る3人、限界突破して屍のように横たわる二人。これはしばらく動けないな…。
「それで、オレたちこっそりバーベキューしてたのに、どうしてこっちに来たの?」
「バーベキューってこの肉を焼くやつか?なんで外でやってんだよ…相変わらずお前のやることはおかしいな!」
「門番がねーこどもたちだけのパーティーが目の届かない所に行っちゃったから、一応様子見といてやってくれって。」
「一際小さい子がいたからって…ユータのことだったんだな。なら全然大丈夫じゃねえか-。でも、お前なんでこんなとこにいるんだ?」
「学校に行くって言ったでしょ?もう学校に通ってるんだよ!それでね、この間冒険者の仮登録したの。」
ずざっと3人が後ずさる。
「は…早すぎる…!!」
「え、えーとユータ3歳で…今4歳じゃなかったっけ…??」
「マズイ…抜かされる…。」
「そう、4歳だけど飛び級入学したんだよ!」
今度はのけ反った3人…息ぴったりだね…。タクトとラキが動けるようになるまで、オレは学校での出来事や、召喚士になったこと、チュー助のこと…色々お話しした。
「お前…どんどんヤバい性能になっていくな…召喚した犬ってもしかして、そこに寝てるでっかい……?」
「うん、このシロっていう犬とモモっていうスライムだよ!」
「耳からの情報と目からの情報の相違…。」
「犬とスライムって…いやー確かにそうなんだろうけど…それじゃ伝わらない!伝わらないよ!!さっき言ってたシールド張るスライムってそれでしょ?!あとなんかやばそうなデカイ犬…。」
「ウォウッ!」
シロが、自分のことを話していると気付いて、嬉しそうにやってきた。
「お…おおおお……?」
ジリジリと下がる3人、にこにこ、しっぽぶんぶんのシロ。
「大丈夫だよ?シロは絶対噛んだりしないよ。」
「そ、そうか…いや、そうだよな!だって召喚獣だし!」
「召喚獣なら言うこと聞いているはず…行け、ルッコ!」
「なんで私!?で、でも…ちょーっと失礼して……。」
『シロが怖い?こわくないよ?ほら、じーっとしてるね?さわっていいよ?』
シロは街の人への対応も随分慣れて、自分が大きくて怖がられる見た目だということを理解したらしい。決して飛びついたりはしないし、相手が警戒を解くまでゆっくり行動することを覚えたようだ。
手だけ伸ばしたへっぴり腰で、ちょんっとシロに触ったルッコ。シロがそっと身体を寄せると、その手がまふっと豊かな被毛に埋もれた。
「うひゃあ!?って……ひゃあ~すっごい!極上じゃん!何コレ!最高!」
たちまち虜になったルッコが、両手でさわさわとシロを撫でまわすと、シロが嬉しそうにごろりと身体を横たえた。
「お、大人しいんだな…。おおお!すげー!サラふわ!気持ちいい!」
「私、そっちが触りたい…。」
『ふふ、いいわよ?お目が高いわね。』
3人とも、結構動物(?)好きなんだな。モモとシロをもふもふしながらとろける冒険者たち…うん、警戒はオレがしておくよ…。
「あー苦しかった!でも人生最高の肉だった!」
「タクト、それじゃ人生もう終わってしまいそうだよ~。」
復活した2人と、草原の牙3人と共に街へ帰る。彼らはハイカリクの街に戻ってきているそうで、今後オレがランクアップしたら一緒に行こうなって言ってくれた。
冒険者になってからの楽しみが、どんどん増えていく。みんなで同じ依頼を受けて頑張ったり宝物を見つけたりできたら楽しいね!できたらあんまり危なくない依頼がいいな。
「あ、そうそう、あのちっこいのは、優秀ぽんこつだから気にしなくて大丈夫!」
「優秀ぽんこつ…?」
「そう、壊れ性能。」
「私たちよりよっぽど安心だと思うわよ-!」
街に入るところで、3人は門番さんに何か声をかけてくれていた。多分、オレたちのことは気にかけなくて大丈夫だって言ってくれたんだろう。
「はあー?!お前らずっと肉食ってたじゃねーかー!!」
「何、その量…。」
「うっそぉー私らってダメ先輩?獲物ひとつ持って帰ってないんですけど!?肉は食べたけど!!」
ギルドで出した薬草の束を見て、3人が仰天する。しーっ!しーっだからね!!一日かかって集めたことにしておいて!!お外で肉食べてたのもナイショ!!
「うおーせめてランクだけでも…ランクだけでも上に行っておきたい…。」
「マイナス方向にやる気出た。」
「それじゃやる気なくなってるから!!ちょっとマジで頑張ろう!?」
相変わらず仲の良い3人、きっとすぐにランクも上がるんじゃないかな?ニース、ランク上がったらモテるかもしれないし、頑張って!
「もうすぐCランクの冒険者かー!いいな、俺らも早くランク上げようぜ!」
「それなんだけど…。」
「タクトが一番の難関だと思うよ~?僕とユータはもうソロでポイント貯めてるからね~。」
「げっ!俺マズイじゃん!一人だけランク下とかカッコ悪い!頑張るわ…。」
「目標は2年生になるまでに、Fランクになって本登録、だね~!」
「うん!アレックスさんやテンチョーさんもそのぐらいだったし、オレたちも頑張ろうね!」
「学年で1番目指そうぜ-!」
タクトもやる気になってくれたようだし、ランクアップもそう遠くない未来かな!
なんだかんだとあっという間に過ぎていく学校生活、まだまだ入学したてだと思っていたのに、もう2年生への階段が見え隠れしていた。
「見て!ラキ、これもう立派に成長してるんじゃない?」
窓辺に並んだ小さな鉢は、大きく伸びた葉っぱでひっくり返りそうだ。二十日大根もビックリの速度で急成長しているマンドラゴラたち…さすが魔法植物…。
「そうだね~次の授業で引っこ抜く練習に使うって言ってたし、これでもう十分なんじゃない~?」
これだけすくすく成長してくれると楽しいね!にこにこながめていると、テンチョーさんとアレックスさんが揃って帰ってきた。
「げっ…何それマンドラゴラじゃん!あー、そっか1年はそんな時期か~!ユータは変わってるな~そんなの見て嬉しそうにするって…。」
「アレックスは、引っこ抜くの失敗したんだろう。」
テンチョーさんに図星をさされたらしく、うぐっと詰まるアレックスさん。
「こいつみたいになるからな、ちゃんと注意して扱うんだぞ。」
「そうなの?!やっぱり怖いものなんだ?!で、でも…これは安全な方って言ってたよ?」
「ああ、気絶するほどでもないからな…気分悪くなって吐くぐらいだ。」
「カンベンしてよ!あれマジで気持ち悪いから!ベルントードの毒くらった時ぐらい!あれもマジ気持ち悪かった!」
そ、そうなんだ…こんなにかわいいのに。毎日大切に育てていたら愛着湧かない?
「え~…でもマンドラゴラだよ~?」
うーん確かにマンドラゴラ自体はおばけニンジンみたいでちっともかわいくないけど…。
「でも、君はかわいいよ!」
オレはこっそりマンドラゴラを慰めておいた。
「さて皆さん、準備は出来ましたか?毎年これで悶絶する生徒が出てきます。ちゃんと説明を聞きましたね?タクトくん、聞きましたね??」
「えっ?俺?うん!聞いたって!問題ナシ!」
どことなく心配そうな目でタクトを見やって、先生はもう一度手法を説明すると、それぞれ各自のタイミングでマンドラゴラを引っこ抜くようにとのお達しだ。マンドラゴラの悲鳴は一種の魔法で、自分を引っこ抜こうとする者に対してだけ有効なんだって。でも…悲鳴自体は聞こえるわけで……。
ギャアアアー!
グギャアアー!
あちこちで響き渡る断末魔。学校が一気にホラーテイストに…こ、これはイヤだな…夢に出てきそうだ。
「あーっ!先生やっぱりタクトが……。」
「あああ…言わんこっちゃない…!」
なぜか、ばっちりタクトの側に用意されていた桶を抱えて、崩れ落ちているタクト。
うっ…そんな姿見せられたら余計に怖くなるじゃないか…。
オレは自分の鉢を見つめて、そっと葉を撫でた。
「ねえ、お外に出てくる?」
まるで答えるように葉っぱがさわさわと揺れる。そっか、出てきたいなら手伝ってあげる。手順を守って、痛くないように、そっと茎の根元をつかむと…思い切って引っこ抜いた。
…
……
………
あれ?悲鳴、あげてなくない?
閉じていた目をそっと開けると、手の中の小さなマンドラゴラは、オレを見て…
…にこっと笑った。
にこっとマンドラ!
今回マンドラゴラぐらいなら挿絵で登場させてもいいかなと入れてみました!
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