195 バーベキュー
今日の門番さんは心配症の人ではなかったので、門をぐるっとまわって目の届かないところまで移動する。あまり離れると危ないからね、あくまで街の近くで人目につきにくい場所を探した。
「このへんでいいんじゃない~?」
「そうだね!ちょうど良さそう。」
「で、バーベキューってどうやるんだ?」
オレが作業台を作って食材を切り分けて、ラキが食器や鉄板代わりの焼き台を作って、タクトが薬草を探しつつ薪を集める。残念ながら炭はないので直火焼きになっちゃうけど、そこは火力担当ラピス部隊がなんとかしてくれるだろう。
『ぼくは何したらいい?お肉とってくる?』
いや、シロ!それはもういいから!!
「えーーーっと…じゃあ、周辺のパトロールをお願い。魔物が来たら危ないからね。」
『わかった!!お肉を狙う魔物はゆるさない!』
やる気をみなぎらせて走り去ったフェンリル。狙われるのは細切れのお肉よりも、美味しそうなオレたちじゃないかな?
お肉を切るのはいつもラピスなんだけど、今日はいないから…
―ユータ、ラピスを呼んだの?
と思ったら、ぽんっと現われたラピス。エリーシャ様たちは大丈夫なのかな?
―大丈夫なの!王都についてるの!でも王様に会うのは時間がかかるんだって。
そっか、そりゃあ王様だもんね、謁見の予約とかすごいことになるんだろうな。
―それで、どうかしたの?
「ううん、なんでもないんだよ。今日はお肉を切るラピスがいないなーって思っただけだよ。」
―ラピスが切ってあげるの!
張り切るラピスにお願いして、バーベキューにいいサイズに切ってもらう。どの肉がどの部位かはさっぱり分からないけど、とりあえずこれだけあれば十分だろう。
―じゃあおしごとに戻るの!
「あ…ラピス、ありがとう!じゃあ食べるときにまた呼ぶね!」
寂しそうに立ち去ろうとした、ラピスの耳としっぽがしゃきん!と立った。嬉しげにステップを踏みながら消えた姿を見送り、野菜のカットに取りかかる。これはいろんな切り方があるし、自分でした方がいいね。
「薪は集まったけど薬草が集まらねえ~!」
タクトがぼやきながら戻ってきて、ドサリと大きな薪の束を下ろした。おお…タクト、君ってヤツはなかなか……。オレには持てそうにない量の薪を見てびっくりする。心なしか、少年らしかった薄っぺらな身体が分厚くなっている気がする…。
「タクト…特訓頑張ってるんだね…。」
「おおよ、逞しくなったろ?」
ニィっと口の端を上げ、ぐいっと汗を拭った姿は、いっぱしの男に見えて羨ましかった。きっと将来はカロルス様みたいになるんだろうな。
この世界の子どもは成長が早い…ふとオレは自分の華奢な腕を見てため息をつく。それに気付いたタクトが、ずいっとオレの腕に自分の腕を並べた。
「ん、どうだ?……細っせー腕!!しかも白っ!」
ちょ、ちょっと!余計なことしなくて結構です!
全体のバランスを見れば、タクトもまだまだ幼くほっそりしていると思って、油断した…。隣に並べば一目瞭然、オレの腕の倍はある、日に焼けた男の腕。対するオレの腕は……うん、そう…白魚のような手だということで……思わずサッと腕を背中へ隠す。
「そんな細っせー腕なのに、オレより強いんだもんな…腹立つなー!ぐっと握ったら折れそうなのにな。」
タクトはタクトでブツブツ言いながら、背中へ隠したオレの腕を掴み上げる。ちらっとオレの顔を見て……やめてよ?回復はできるけど…やめてよ?!
「何やってるの~薬草集まった?」
「ぜーんぜん!」
ぽいっとオレの腕を放り投げて両手を広げるタクト。
「えぇ~。タクト、採取に向いてないよね~。」
結局みんなで薬草を集めてから、念願のバーベキューだ!
あらかじめささやかな風の壁を作って、香りは上空へ流せるようにしておく。シロが戻ってこないけど、フェンリルの鼻なら、肉を焼けばすぐに気付くだろう。
鉄板ならぬ土魔法製の平らな石でお肉を焼く。加工師ラキがこだわったので、石の表面は波状に凹凸のついた優れものになった。
「よーし、焼くよー!」
「よっしゃ来ーい!」
「準備おっけ~!」
新鮮なお肉だもん、表面をさっと炙れば十分だ。シンプルに塩か、ジフ特製のたれか、お好みでどうぞ!
ジュワ-!ジュワー!
お肉を並べるたびに、良い音が響き、美味しい香りが立ちこめる。二人がごくっと喉を鳴らした。
『ぼくのお肉ー!!』
案の定、一陣の風になって戻ってきたシロ。とりあえずつなぎに、大きな骨を渡しておく。シロはお肉も生でいいと思うんだけど、オレたちと同じものを食べたいらしい。犬じゃないから大丈夫なんだって…。ラピスもそろそろ呼んであげなきゃね。
『はーいい匂い。はあーーいい匂い。』
『チュー助、そこに落ちたらせっかくのお肉がダメになっちゃう!焼き台から離れてちょうだい。』
モモはシールドを張って、チュー助が焼きねずみにならないようにガードしてくれている。…でもチュー助の心配もしてあげて…。
「きゅ~っ!」
ラピスはシロと並んで巨大なお肉にかじりついている。シロの隣は危なくない…?お肉ごとぱくっといかれない…??
「ほら、こんな感じに両面が焼けたらOKだから、みんなどんどん取っていってね!」
一度お手本を見せたら、生でも食うんじゃないかと思うほどの勢いで、二人はお肉をむさぼり始めた。
まずは塩でお肉本来の味を楽しむ。甘みさえ感じる上質の霜降りは、ほどけるようにとろけ、肉の柔らかさの概念を変えてくる。逆にしっかりと締まった赤身は、ガツンと肉らしいうま味を伝え、心地よく噛みしめられるワイルドな歯ごたえがたまらない。
塩を楽しんだら、ジフ特製のたれも堪能させてもらう。んー!甘辛くて美味しい!あーごはん、ごはんが欲しい!ご飯を入手できるまであと少し…あると知ってしまったら、待ちきれない気分だ。
「…ん?」
一応レーダーは気をつけていたんだけど、何やらこっちを目指して歩いてくる人達がいる。間に丘があるからこっちは見えていないはずなんだけど。うーん、匂いが漏れてたかな?
「ねえ、人が来るよ。どうする?」
「どうったって……しゃーねえじゃん!おいっ!それオレが焼いた肉!」
「片せるものだけ片しておいたら~?あっタクト!こっちは僕の陣地なの~!」
うん、二人は肉に夢中で焼き台を片付けるという選択肢はないようだ。仕方ないので作業台などを片付けて、焼き台だけを残しておく。やってくるのは3人、多分冒険者だろう。
「あ……あれーぇ?」
やがてその3人が丘を越えて、こちらを視界に入れると、草原に素っ頓狂な声が響いた。
「なにごと。」
「んんっ?もしかして…。」
男女二人が丘を駆け下りてくる。小柄な一人はてくてくとマイペースに歩いてくるようだ。
「「おおーい!」」
なんだか毎度お馴染みな光景に顔をほころばせる。
「おーーい!おひさしぶりー!!」
ぶんぶんと手を振ったら、『草原の牙』3人も大きく手を振ってくれた。
「わ~どうしたの?みんなハイカリクに戻ってきてたんだ!」
「どうしたはこっちの台詞だぜー!おまえこそこんな外でどうしたんだ?そんでこの状況は一体なんだよ…。」
ニースが困惑した視線を向けるが、タクトとラキは3人が来てもお構いなしにがっついている。まだあるからさ…そんな必死にならなくても…。
「あ、ちょっと!勝手に食べようとするんじゃないっ!」
「無念…これはおそらく最高級ランク、シルバーバックの肉…ひとくち…せめて冥土の土産にひとくち…!!」
「あんたは毎回~!どんだけ冥土に土産を持っていくつもりだ!!」
「ルッコとリリアナも久しぶり!お肉、まだあるからさ、食べていく?」
「ありがたき幸せ!!!」
「ああ?!もう……ユータ、いいの?あいつ、結構食べるよ?」
「うん、いっぱいあるから大丈夫。シルバーバックのお肉だよ~すごく美味しいよ!」
「え、マジで?そんな高級肉…食っちゃっていいの?マジに??」
一応遠慮の形を見せつつ、焼き台に吸い寄せられていく二人。リリアナは既に先の二人とバトルを繰り広げていた。
最高級肉をバーベキューに使っちゃう…。
草原の牙、最高のタイミングで遭遇(笑)
※2019/6/3ラピスをすーっかり忘れていたので追記しました!優しいご指摘ありがとうございます!
お遊びで、「もふしらキャラが応援してくれるボタン」作ったんですよ~!それぞれのキャラ
なりの言葉が楽しくて。ぜひ皆さんにも見て貰いたいなと思ったのでリンク貼っておきます!Twitterされていない方も、台詞はみることができますので!
https://btnmaker.me/b/e2afc920-8523-11e9-bbed-a9f77aebb427






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/