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190 フェンリルとジジイ

「遊びに来てくれたの?」

「そう!」「そうだけどちがーう!」「ようじがあるの!」

「用事?どうしたの?」

「用と言うほどでもないんじゃがの、前に言っておった調味料のことじゃ。」

そっか!チル爺にもお醤油のこと聞いていたんだった…もう見つかったんだけどね…。

「あ…それね、同じようなのがヴァンパイアの里であったの…。」

「おや、そうかの……ってなんでお主ヴァンパイア族の里に行っておるんじゃ…?!あやつらは交流を拒んで引きこもったのじゃろう。」

さすがチル爺、よく知ってるね!妖精さん達は特別ヴァンパイアに忌避的ではないそうで、『人』の中の1種類と考えているようだ。オレはかいつまんでヴァンパイアたちの事情を説明する。妖精さんたちは興味津々だ…彼らは長寿なだけでなく、他種族や世間に広く興味を持つから物知りになるのかな?


「ゆーた、いいな!」「だんじょん!」「ぼうけんいいな!」

「とんでもないのぅ…よくそう次々トラブルを巻き起こすものじゃ。」

ついでに最近の出来事や魔族のこともお話しすると、妖精トリオは大喜び、チル爺にはため息をつかれた。でもさ、オレって巻き起こしてるんじゃなくて巻き込まれてるんじゃないの?

「あ、それでね、この子が召喚したシロっていうんだけど…。」

「ウォウッ!」

ぴょんとオレの中から飛び出してきたシロに、妖精さんたちが仰天して天井の隅まで逃げてしまった。シロのぶんぶんと振られていたしっぽがすうっと下がり、ピン!としていたお耳から力が抜ける。

『…妖精さん、シロ…きらいなの?』

「だ、大丈夫!ビックリしただけだよ!シロ、念話していいよ!」

大丈夫大丈夫!と慌ててなでなですると、垂れたしっぽがささやかに揺れる。

『あの…こんにちは!妖精さんって小さいね!きれいだねー!ぼく、シロっていうの。仲良くしたいなって思ったんだよ。』

シロはめげずに顔を上げると、にこっとする。

「しろー!」「ごめんね!びっくりしたの!」「しろはおおきいねー!」

ぼぼふっ!とシロのふわふわ被毛に突撃してきたのは妖精トリオ。

「ちょっ!待てっ!フェ…フェンリルじゃぞっ!!」

「あ、チル爺はやっぱり分かるんだ~!シロは元々犬だからね、フェンリルの形をしてるだけだよ!中身は犬!」

「フェンリルの形をしてたらそれはフェンリルじゃ!!!」

『チル爺さん!ぼく、フェンリルだけど悪い子じゃないよ!いいこだよ!』

「う…うむ……。」

なんだか脱力したチル爺も、ふよふよと戻ってきた。

「なんでお主は普通の召喚獣を喚ばんのじゃ…。おお、フェンリルとはこんなに良い毛並みか!ほっほう!ワシはフェンリルを撫でたジジイじゃぞ!そーれそれ!」

『うふふ!チル爺さんのお手々、ちっちゃくてくすぐったい!』

「ふぇんりるをなでたようせいだぞー!」「だぞー!」「すごいんだぞー!」

4人の妖精と仲良くなれて、シロも嬉しそうだ。シロなりに小さな妖精たちに気を配ってじゃれているようで、一安心。


「あ、そうじゃ。それで、調味料はもう見つかったのじゃな?もう良いか?ばーさんがの、黒いのは知らんが、珍しい調味料ならこれがあると言っておった。黒くも茶色くもないからのう、違うと言ったんじゃが…もらった『だし』と相性がいいから役に立つじゃろと。」

チル爺たちは散々シロと戯れて、さて帰ろうとした時、用事のことを思い出したらしい。そう言って収納から取り出したのは、白くてもさもさした調味料?

「ワシはこれから作る酒が好きなんじゃがの、あれは良いぞ!お主ももう少し大きくなったらのう…。」

お酒…?こ、これってもしかして?!

「ち、チル爺!!これ、これの元の姿ってどんなの?植物だよね?!」

これ…これ…麹だよ!!!それも……多分、米麹だ!!お米…お米があったー!!

「お、おぅ?!そうじゃ、麦みたいな穀物じゃよ??麦から作る酒もまた――。」

「やったぁーー!!」

久々の!全身イルミネーショーン!!

やったよ!お米が見つかった!チル爺ナイス!おばあさんにお礼しなくちゃ!

「チル爺~!オレ、この穀物すっごく探してたの!どこに行けば手に入るの?なんていう物?」

「う、うむ…これはコムじゃよ?森人の作物じゃからこの辺りには少ないかの?森人が作る美味い酒の材料で―。」

「ありがと!!コムって言うんだね!よーし探してみる!」

「う…うむ……。」

ばいばい!と手を振ったら執務室に突撃だ!

「転移!」

ふわわーっと消えたユータ、残されたのはぱかっと口を開けたチル爺。

「ゆーた、てんいしたー!」「すごーい!」「はやーい!」

「……て、転移まで…。」


カロルス様には、酒になる前の姿なんぞ知らん!と言われてしまったので、厨房のジフに聞く。

「コムか、森人の作物にあるな…それが美味いのか?」

「うーん、それだけで美味しいって言うより、パンみたいなものだよ!オレの国で毎日食べていたものなの。おだしとかお醤油とすごく相性がいいんだ。」

「…そうか。お前の国の基本の食事か。なら食いてえわな。ま、そんな珍しいもんじゃねえから手に入るだろ。」

「ありがとう!またお料理教えるからね!」

お米のごはんを食べられる日も近い…!お酒用のお米だから…お味の方はどうかなぁ?せめて麦よりおいしく食べられたらいいな!


* * * * *


「あれ?ユータなんで寝てるの~?さっきからそこにいた?」

転移でお布団の中に戻ってきたら、部屋に戻っていたラキに不思議そうな顔をされた。転移のことはまだ言ってないもんね。

オレは召喚の授業が終わって、特殊項目の授業がなくなったので暇な時間帯ができたんだけど、ラキは元々加工師の授業をとっていて、タクトは魔剣士の授業を新たにとったらしい。みんな頑張ってるなぁ。

「ユータはまだ授業決めてないの~?いいのなかった?」

「んーあるんだけど…どうしようかなと思って…。」

実は、回復魔法の授業がもうすぐ特殊項目授業で開講するんだ。受けたいけど…オレ召喚士ってことになってるから…これ以上専門的な項目を増やしていいのかどうか分からない。

「いっぱいありすぎるの~?」

「うーん……あのね…オレ、回復魔法の授業を受けたいと思ったんだけど…。」

「……ユータ、回復魔法も使いたいの?」

「使いたいというか…その、使えるというか。」

「……僕たちにとったら朗報だけど…ユータ一人で何もかもやりすぎだよ~。それで、どの程度使えるの?ちょっとした傷を治せるくらいなら、他職業でも時々いるから大丈夫だよ。」

「う、うーーーん……。」

「……ちょっとした傷以上を治せるなら、わざわざ1年生の授業を受ける必要はないと思うけど~?冒険者になってお金貯めたら、本買ってもいいんじゃない?」

あ、そうか…。他の人の魔法がどんなのか知りたいなって思ったんだけど、それなら本を買うだけでもいいかもしれない。

「そっか…!ありがとう!じゃあどうしようかなぁ。貴族学も商人の基礎もいらないし…魔剣士は…やめておこうかな。」

「賢明な判断だと思うよ~。ユータは一人である程度できるんだから、仮登録したら依頼受ける時間にして、本買うお金を貯めたらいいんじゃない?」

「え?どうやって?依頼はパーティで受けるでしょ?」

「そうだけど、街の外に出ない依頼は仮登録のソロでも受けられるよ~?むしろ街中のお届け物とか、パーティで受ける意味ないし~。」

そうなのか!じゃあオレいっぱい雑用こなしてお金ためよう!シロに乗ったらお届け物だって素早く届けられるよ!


「でもさ、それよりユータはどれで冒険者登録するのか考えといた方がいいんじゃない~?」

「どういうこと??」

どうやらギルドの登録の際に魔法使いや剣士、って職業登録がいるそうな…依頼を持ちかけたり、パーティとのマッチングをするために必要だそうで、一応プライバシーは守られるそうだけど…ギルドがバラさなくても召喚士が回復魔法使ったりしたら、すぐバレるよね。

じゃあ召喚士、とだけ登録するのがいいのかなぁ…でもソロ活動ができるようになった時、特殊な職業は他パーティと組ませてもらえる割合が減っちゃうんだ。回復術士は需要が高いらしいから登録したいけどなぁ…。

「僕は魔法使いと加工師で登録するよ~。タクトは剣士と魔剣士で登録するために頑張ってるみたいだね~!召喚士も登録したいって言ってたけど…それは止めといたよ。」

タクト…欲張りすぎだよ!ラキ、グッジョブだ。


フェンリルと触れ合ってはしゃぐジジイ…。

安定のお口ぱっかり。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『チル爺さん!ぼく、フェンリルだけど悪い子じゃないよ!いいこだよ!』 >ドラクエ・・・じゃなくてリムルw
[良い点] フェンリルのシロとたわむれるチル爺が面白かったですね。
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