187 冒険者仮登録
「ユータから手紙…?」
「はい、旅の母娘が預かってきたようで。こちらです。」
「ふむ…ワケあり、だな。……前半は。なんだこの後半は……。」
「こんにちは!ヤクス村へようこそ、私は領主の長男、セデスと言います。うちの者が世話になったようで…さあ、中へどうぞ。」
緊張した様子で玄関脇に立っていた母親に声を掛けると、飛び上がってぶんぶんと首を振った。
「えっ!?いえ、その!お初にお目にかかります…!!お世話になったのは私の方でっ!すみません、あの子が領主様のご子息様とは知らず…!!お手紙をお渡しするだけで…!!」
じりじりと後ろへ下がっていくママさんと、きょとんとした様子のフード姿の子ども。ふむ、こちらから攻めようか。
「こんにちは!僕はセデスって言うんだよ。ユータのお兄さんなんだ。美味しいものがあるから、一緒に食べていかない?」
「ユータのおにいちゃん?うん!アンヌ、たべる!!」
瞳をきらきらさせて見上げるアンヌちゃん……うん…?
「い、いえっ!本当に!まさか領主様だとは…すみませんっ!すぐにおいとまします!」
さっとアンヌちゃんを抱えると、くるっと向きを変えて脱出をはかるママさん。
「まあまあ、かわいらしい…こちらへいらっしゃい?ユータ様の好きなお菓子をお持ちしましょうね。そんじょそこらで食べられない、ほっぺのとろけちゃうおいしさですよ!」
「行く!ママ!はなして!」
音もなく背後に立っていたマリーさんに、腰を抜かさんばかりに驚いたママさん。ゆるんだ腕から抜け出したアンヌちゃんが、マリーさんに飛びついた。
「うふふっ!お可愛らしい…旦那様もお待ちです、さあどうぞ?」
にっこり。
メイドから漂う謎の圧力!さらにアンヌちゃんを人質に取られたママさんは、すごすごと連行されていった。
* * * * *
「早く早く!」
「そんなに急がなくっても大丈夫だよ~!」
「どーせ仮登録の証もらうのは、みんな同じ日だぜー。」
今日は3人で仮登録の申請書を提出するんだ。申請したパーティから審査されて、合格なら後に仮登録の証をもらって、それで晴れて冒険者仮登録ができるようになるんだ!
「お、君たちも申請に来たの?」
「はい!先生~僕たち『希望の光』パーティで申請します~!」
「君たち3人のパーティね、はいはい!おっけーよ!」
軽い返事と共に受け取られて拍子抜けだ。もっとさ、厳しいことを言われつつ受け取られるものかと思ったけど、まあメリーメリー先生にそれは無理だよね。
オレたちは、冒険者になったら何するかって話で盛り上がりつつ、秘密基地へ向かった。
「ユータ、昨日ここで何したの~?」
「めっちゃいい匂いするんですけど!!」
おや、秘密基地内に漂うハンバーグ臭が消えていなかったようだ。オレが何かしたこと前提で聞かれるのは腑に落ちないけど。
「ハンバーグ作ったんだよ!ちょっと待ってね、換気するよ。」
ゆるく風を起こして空気の入れ換えをする。
『ああー!!ハンバーグが……!!まってー勿体ないー!』
どうやら香りを楽しんでいたらしいシロが、風を追いかけて出て行ってしまった…。
「…はんばーぐ?そんな美味いものなのか??」
「ふーん…シロにはあげたんだ~?」
…どうやらオレは今日もハンバーグを作らなくてはいけないようだ。お肉買ってこなきゃ…。野菜よりもお肉の安い世界だけど、それでも軽くなったお財布に大打撃…しばらくは学校の食堂かな。
「で、今日は何するー?シロと訓練したかったのに、行っちゃったし。」
「もう仮登録だよね~。パーティとして動けるようになったら何する~?最初の依頼とか、考えてる~?僕、掃除はいやだな~。」
「どうして?お掃除も魔法使ったら簡単にできそうだし、安全に魔法を試せて楽しいかもしれないよ!」
「いやーせっかく街の外へ行けるんだぜ?!外行こうぜ!討伐したいなー!」
「仮登録だと討伐なんて無理じゃない?外に出る依頼だったら薬草採りとかそっち系かな~?」
「いいね!お外でバーベキューしようよ!」
「「ばーべきゅー?」」
バーベキューについて説明したら、お外でそんないい香りを漂わせてお肉を焼くことはまずないそうだ。でも、誰もやっていなくてもオレたちがやればいいじゃない!そりゃあ森の奥でやったら危ないかも知れないけどさ!
「採取依頼だとさ、オレたちのパーティはユータの収納袋があるからめちゃくちゃ有利だな!かさばらないし、薬草だって鮮度を保てるもんな。」
「うん、でも収納だけじゃなくて色々とユータに頼りすぎてる所があるから…僕たちはちょっとそれに気をつけないといけないと思うよ~。ランクを上げられたら、時々他パーティと一緒に行動して、常識を忘れないようにしなきゃいけないって思ってるんだ~。」
「あー…そうだな。いつまでもユータに頼ってたら成長しないもんな!」
なんだか褒められてるのかけなされてるのか…。でもランクを上げたらソロで他のパーティと組むっていうのもとても魅力的だ。仮登録はパーティじゃないと登録できないけど、Fランクに上がれたら、もう普通の冒険者だ。普通はパーティを固定したままだけど、ソロで活動する人も、ソロで臨時パーティを組んで行く人もいる。
「ユータがソロになったら…Fランクの常識が覆されそう~。」
「気ぃつけろよ…便利なやつだって狙われるぞ…。お前には色々ボディガードがいるから大丈夫かもしれねーけど。」
すっかりと冒険者になったつもりで、今後の「希望の光」の活動について話し合うオレたち。わくわくするね~!二人はもうすっかり通ったつもりでいるけど、オレはドキドキだ。1年生で行う仮登録なんだから、1年生でやるべきことをクリアしていたら大丈夫って認識みたいだけど…やっぱり4歳はダメとか言われたらどうしよう…。
* * * * *
「えっ?結果?なんの??」
ちらほらと、仮登録を申し込んだ生徒の話題が聞かれるようになってきた。ウチのクラスは、申し込んだパーティ全員クリアしているようだ。オレたちも早くから申請を出したのに…まだ審査が終わってないんだろうか?さすがにおかしいと、少し顔色を悪くした3人は、メリーメリー先生に詰め寄った。先生…オレたちの申請書、忘れてないよね??もしかして……ダメ…だったの…??
「先生、僕たち結構前に仮登録の申請書出したでしょ~?その、まだ審査の結果教えてもらってないけど…。」
「えっ?言ったよ?先生ちゃんと言ったよ??」
「いつ!聞いてないぞ!」
「言ったってばぁ~!ほら、申請書もらった時に。」
申請書を渡したとき???
―君たち3人のパーティね、はいはい!おっけーよ!
……
………
…………先生?もしかして、あれ…合格通知…?『おっけー』って…そういう意味だったの?!渡した時点で合格だったの??
「だってあなた達が不合格だったら他に誰が合格するのよ-!そんなの最初から決まってるって!」
がくーっと崩れ落ちる3人…よ…よかった…良かったけど……。
「な…なんかやったーって気分じゃねえよな…。」
「う、うん…よかったけど…。」
「また、今度お祝いしよっか~。」
オレたちはなんだか妙に疲れて部屋に戻ったのだった。
* * * * *
「ユータが世話になったそうだな。こちらへの移住も希望しているとか。歓迎するぞ!何か困ったことがあれば、俺に言うといい。これは異国から伝わった珍しい菓子だ、ユータが好きでなあ…ほら、嬢ちゃんも食うといい。ああ、そんなかしこまらんでくれ…俺は元冒険者だ、もうちっと楽にしてくれる方が助かる。」
「こんな人なのでね、楽にしてちょうだい?マナーをとやかく言ったり、言葉遣いを咎めたりすることはないから。」
緊張でガチガチのママさんは、少し表情を和らげた。アンヌちゃんはすっかり目の前のお菓子に釘づけだ。
「たべて、いいの?」
「おう、いいぞ!しっかり食え!」
「あっ!」
慌てるママさんを気にも留めず、アンヌちゃんは大喜びでフードをはね除けると、クッキーに手を伸ばした。
「あ、アンヌ!」
「さあ、こちらはユータ様も好きな銘柄にございます。香りがよろしいでしょう?こちらのお菓子ともよく合いますよ。」
マリーさんが、さっとママさんの視線を遮るように入り込む。紅茶を淹れる手には寸分のブレもない。
「うふふっ!女の子もいいわね~ああ~癒されるわぁ。」
エリーシャ様はにこにこと、藤色の瞳を輝かせるアンヌちゃんを見つめている。
「……どうして?」
アンヌちゃんがフードを取った瞬間、ママさんが脱出を計ったのは誰の目にも明らかだった。先ほどまでとはまた違う、緊張の面持ち。けれど、打って変わって、真っ直ぐとカロルス様を見つめるその瞳は、強い光を帯びていた。何を置いても子を守ると決めた、強い母の瞳。
カロルス様は、ブルーの瞳を細めると、ニヤッと口の端を上げた。
「心配いらん。俺のところへ来たんだろう?守ってやる。領主だからな!」
ママさんの表情はストンと抜け落ち、声もなくカロルス様を見つめた。
ついにユータが野に放たれる時が…!?






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