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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


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183 そうじゃない…

第七回ネット小説大賞、受賞しました!

いつも見て下さる皆様、ありがとうございます!!まさかの書籍化…です!!


「なあ…お前の班の5組のヤツ…どうだよ…。」

光のない瞳で呆然とベンチに座る4人へ、疲れた顔の男子生徒が声をかけた。

「どうもこうも……意味がわからねえよ…あんな…あんなちっこいのに俺、負けてんのか…?魔物って食材…?」

「そっちもか…おかしいんだよ…。魔物に特攻していきやがるんだ…『ひゃっほう!俺の昼飯!』とか言いながら…。」

「あなたの所も?!うちの班も酷い目にあったのよ!『いいわねっ?一人一匹はホーンマウスを確保すること!』とか言うのよ?!バカじゃない!?」

次々と集まる5組以外の生徒達。その瞳は一様に光を失い、くたびれたサラリーマンのようになっている…6歳なのに。

「実地訓練ってさ…違うよね…野外の恐ろしさを感じて、恐怖と戦いながら過ごすものだよね…。」

「何あのぎらぎらした目…。あれまるっきり狩る側じゃん…僕たち、1年生だもん…狩られる側だよね…?」

「なんとか休憩所に辿り着いたらさ、もう緊張と疲れでぐったりでさ…怯えながら早く帰りたいって思うものでしょ?」


「「「「なのに……いきなり料理はじめるんだよな…。」」」」


これは自分たちがおかしいのか…?魔物に怯えながらひもじく保存食を囓っていたのは間違いだったのか…?!生徒達の心は常識と非常識の間で揺れ動いた。


「もうすぐできるよ~!先にこれどうぞ…ってあれ?たくさんいるね…はい、皆さんもどうぞ~。」

一際小さなかわいらしい幼児が、大きなお盆を器用に持ってちょこちょこと歩いてくる。

「お水…?あ、ありがと…。」

持参するか水魔法でしか確保できない実地訓練では、ただの水でも大切なもののはず…そしてこの容器は、そのでかいお盆は一体どこから出てきたのか。そんなことが頭を掠めつつも、切実に水分を欲していた生徒たちは、素直に水を受け取った。


「「「!!??」」」


口を付けた生徒達が目を見開く。

「つ、冷たっ!?」

「うま……なんだこれ?!」

彼らの瞳に光が戻ったのを確認して、幼児はにっこりと微笑んだ。

「リモンハーブとスイートラディス水だよ。スッキリして美味しいでしょ?疲れが取れるよ!」

ハーブってこんなに効果があるものなのか…みるみる活力が戻ってくる気さえして、生徒達は生気の戻った顔を見合わせた。なんでこんなにキンキンに冷えているのかは考えないことにして…。


「ユータちゃーん!これ、先生の分!」

ルンルンとご機嫌に走ってきた5組の先生が、幼児に声を掛けた。

「もう…メリーメリー先生はちゃんと自分で作らなきゃダメでしょう?」

「先生…先生ね…努力はしたの…でもね、せっかくのホーンマウスが…黒い塊になってしまうのにはもう耐えられないのっ!ちょっとだけ…ちょびっとぐらいなら分けてあげても…いいから!唐揚げね!唐揚げにしてね!!」

…先生?幼児に何言っちゃってるの??他クラスの生徒が目を点にしているのを気にも留めず、ユータと呼ばれた幼児にホーンマウスを押しつけた先生は、スキップしながら戻っていく。

「全くもう…。」

やれやれと肩をすくめたユータは、背丈に合ったおもちゃのような調理場で手早く解体すると、肉に何かを揉み込んでいる。

………調理場??ここにこんな設備あったろうか…??

大きな鍋では雑炊らしきものがくつくつと煮えて鼻腔をくすぐる優しい香りを漂わせ、隣の鍋のフタはかたかたと鳴って良い香りを吹き出している。極めつけは、何やら白いものをまぶされた肉…それを鍋に入れた途端、ジョワジョワと大きな音と共に漂う、がつんと食欲をそそる香り。

いやいや、絶っっ対こんな設備なかったから!!ここ野外だから!!心の中でツッコミを入れつつ、ごくりと生徒達の喉が鳴る。ふと気付けば方々から漂う魅惑の香り。

「お…俺班に戻ってくる!」

「私もっ!!」

食いっぱぐれてなるものかとダッシュで解散する面々。



「はい、できたよ~。」

テーブルなんてあったっけ?なんて考える余裕もなく、次々と並べられる料理に釘付けになるパーティメンバーの視線。

大きめの肉だんごがごろりと入った美味そうな雑炊、彩りの良い野草のサラダ、その上に美しい断面を見せて綺麗にスライスされているのは、香草に包まれたうさぎの蒸し肉。野草を敷いた皿にどっさりと盛られている塊は、先生の言っていた『唐揚げ』だろう。

皿こそ無骨な土器だったが、美しく盛り付けられたそれらは、まるで貴族の料理だ。

「今日のメニューは肉団子と香油のスープ雑炊、うさぎ肉の香草包み蒸し、ホーンマウスの唐揚げだよ!うさぎ肉にはこのソースをかけて、ちゃんとお野菜も食べてね!」

まるでシェフのようなことを言うユータは、とてとてと忙しく歩き回っては小さな手でお水を入れ、背伸びしてカトラリーを並べ、かいがいしく世話をやく。


「ユータちゃ~ん!先生の!……ハッ?!?!」

スキップで近づいてきた先生がピタリと固まった…その目は驚愕に見開かれている。

「はい、これ先生の分。……どうしたの?」

「そ…それっ!それ私食べたことない!!」

先生が示すのはスープ雑炊。わなわなと震えながら鍋を覗き込み……

「よ…よかったぁーちょっと残ってる!」

ふう、と額の汗を拭う。いや、ソレ俺達のだから!そんな視線をものともせずに、いそいそと自分の分を確保しようとする先生。


「ちょっ…!メリーメリー先生っ!!あなた生徒の食事に何してるんですかっ?!」

がしり!!ズルズル…

「あぁーー!私の雑炊ーーー!!」

引きずられていくメリーメリー先生の悲痛な叫びが遠ざかっていく。先生は、それでも唐揚げの皿だけは離さなかった…。


「え、えっと…うちの担任がすみません…。」

ユータが少し顔を赤くして謝罪する…保護者はどっちだ。

「と、とにかく…冷めないうちにどうぞ…。」

そう言うとちょこんと自らも腰掛けて、両手で椀を抱えると、ふうふうと冷ましにかかる。


「…く…食って…いいのか…?!」

「もちろんだよ?もし食欲なかったら先生に…」

「絶対渡さん!!」

くわっと目を見開くと、あの先生に奪われてたまるかと自分の分を確保しにかかる。


「うっ…ふぐっ…うめぇ…うめぇ…!!」

「食ったことない…こんなの…美味いよぅ…。」

「嘘でしょ…こんなに美味しいなんて?!」

「野外でこんな……そうか…このために獲物は必要だったんだ…。俺が…間違っていたんだ…。」

泣きださんばかりに喜んでむさぼる面々に、ユータはにっこり笑った。


「お外で食べるごはんって美味しいよね!」


絶対ソコじゃない!誰もがそう思ったが、飯をかっ込むのに忙しく、突っ込む余裕のある者は一人もいなかった。


* * * * *


5組と合同訓練をすると、生徒の実力が飛躍的に伸びる。それはもう、間違いなく。


合同訓練を終えて以来、他のクラスの成長はめざましかった。何かに突き動かされるように訓練に身を入れ、実地訓練では以前のびくびくと怯えながらの行軍が嘘のように、その目はぎらぎらと輝き、なぜか積極的に魔物との戦闘をこなすようになった。そう、なぜか…。


「くっ!そっち唐揚げ行ったぞ!」

「おう!任せろ!絶対確保する!!」


「あっ!あそこ!いたわ!肉団子よ!!早くっ!逃げちゃう!!」


「そこだ!肉っ!仕留めるっ!」

「待って!火魔法はだめ!お肉が固くなっちゃう!私が行くわ!」


「お願いっ!こっちの鍋も作って!どうしても歪んじゃうの!」

「くそ…もっとじっくり焼かねえと…火魔法のコントロール、もうちょい頑張るか…。」


違うんだなぁ…そうじゃないんだ……。

先生達は思った…思ったのと違う、と。




ユータのタガが外れる時…そのキーワードは「美味しいもの」。

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[一言] うちの周りの六歳をこの環境に置くとこうなる…?
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