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169 謎の幼児

迷う間にもじりじりと迫る二人。

う……もうすぐ長剣の間合いに入る……挟み撃ち状態で悠長にくるくる回って攻撃するのは難しい…。

なら、後ろしかない!


「く!行ったぞ!」

「分かってる!」

オレが選んだのは長剣の方!

「はあっ!」

空気を裂いて振り下ろされる長剣を、今度は避けずに突っ込んでいく…!本気で振るわれた剣は、木剣と言えどもなかなかに怖い!

フッと息を吐きつつ相手の剣にナイフを当てると、すいっと勢いを受け入れて、力の流れを変えてあげる。

どうだ…!カロルス様直伝!ぬるぬる剣!!これはやられると本当に腹が立つ!!

「あっ…?」

するりと勝手に力の向きを変えられて、隙だらけな身体。でも、今はダメだ!長剣さんがチラリとオレの背後を見る。

分かってる…よっ!


後ろの片手剣さんを感じつつ、そのまま体当たりする勢いでスライディング!長剣さんの股下を抜けざまに伸び上がると、くるっと宙返りの勢いを利用して相手の肩まで飛び上がる!

肩に手を着いて逆立ち状態で喉にナイフを当てれば…よしっ二人目っ!

「くっそ…。」

「ごめんね!ちょっと背中、貸してねっ!」

「うおっ…!?」

ぶん!と長剣さんの頭上に振るわれる片手剣…!パッと肩から手を離すと落下しながら長剣さんの背中を蹴って飛びすさる。

たたらを踏んだ長剣さんが片手剣さんの進路を塞いだ。

「邪魔だっ!」

乱暴に長剣さんを押しのける頃には、オレも戦闘態勢ばっちりだ。これで1対1、だね!

にこっとしたオレに、ぎりっと歯を食いしばる片手剣さん。


「ちくしょ……何なんだよ…おかしいじゃねえか!どうなってんだよ…!!」

「おかしくなんてないよ!オレだって頑張って訓練したんだから!」

「頑張っただけでなってたまるかよ!!オレだって訓練ぐらいしてるわ!」

「なるよ!!いっぱい死にそうになって頑張ったもん!片手剣さんは訓練してるだけでしょ!頑張りもしないでできるわけないよ!!」

ぐっと詰まる片手剣さん。どこまでできるかは人それぞれだけど、頑張りもしないでできないって言うのはあまりにカッコ悪いよ!それはできないんじゃなくてやってないって言うんだよ!!


相手はダッと間合いを詰めるオレを見て慌ててけん制する。

オレは振るわれる剣をすいすいと簡単に避けながら尋ねる。

「当たったら手足が吹っ飛ぶ攻撃を、避け続けたことは?体力が切れたら回復しながら、それでも動けなくなるほど頑張ったことは?」

「こ…このっ!?」

「一歩も動かない人に一太刀も浴びせられないままに受け流され続けたことは?それも、木の枝で!」

その荒い剣を、今度は全て受け流す。オレも、このくらいならできるようになったんだな…。

これで、終わりっ!

左手で剣を流したらくいっと前へ半身を入れ込んで、思い切り飛び上がる!相手の首にぶら下がるように両のナイフを当てると、飛んだ勢いに足の振り子を加えてぐるりと一周…!実戦ではやりたくないね、これは綺麗に首が落ちるやつだ…。木剣でも痛いだろうから峰の方でやった。

「ぐうっ……。」

首に赤い輪をつけて、片手剣さんの動きが止まる。

「それを、普通の訓練に加えてやったら、こうなったよ。」


項垂れた片手剣さんの手から、からりと木剣が落ちた。


「………。」

アレ?宣言は?首を傾げて審判さんを見つめると、ハッとした審判さんが近づいて、オレを高々と持ち上げた。


「最終戦…勝者……ユータ!!!」


ウオオオー!!!

どおおっと歓声がうねりを上げて、総立ちになる観客たち。

ところでさ、普通こういう時って片手をとって上げるものじゃないの?どうしてオレはライオン王の子どもをお披露目よろしく掲げられてるのだろう…。


「うおー!野郎ども見たか!!最終戦ーー!!まさかの連戦!まさかの3対1の条件で!!勝者は小さな猛者、ユータだああぁ!!!」


セデス兄さん、意外と声大きいな…この大歓声の中、よく通るものだ…。

下ろしてもらったオレは、顎を蹴り上げた人の所へ走る。座っている所を見るに、回復薬を飲んだのだろうけど、念のため。

少しビクリとした新人さんたちの輪を抜けて、座る彼の顎に手を当てる。

「痛かったよね、ごめんね?」

心配なのは顎じゃなくて脳の方。回復魔法はこっそり流したつもりだったけど、どこか心地よさそうだ。

「なんか…お前の手、柔くて気持ちいいな。」

「子どもの手だからね!」

「そうだな…。オレが…子どもに負けるとはな…。」

苦笑すると、オレの頭をぽんぽんとした。

「ちっこいくせに…お前の方がよっぽど生意気だ。」

う…確かにそうかも。回復魔法が功を奏したか、顔色の良くなった彼は、オレと顔を見合わせて笑った。


「お前、さっき言ってたの、本当か?」

気付けばオレは新人さんの輪の中。尋ねてきたのは最後に倒した片手剣さんだ。

「そうだよ。頑張ったからできるようになったんだよ。」

「いや…その、ここではそんな死にそうな訓練をやるのか…?」

「そんなわけないよ!普通の訓練以外にって言ったでしょう?自主練だよ!あ、でも小枝で剣を受け流すのはカロルス様だけど!」

すっごく腹が立つんだから!と息巻くオレに、戦慄する新人さんたち。

「領主は腕がたつとは聞いていたけど…てっきり過去の栄光かと…。」

「せいぜい田舎で威張れるくらいのもんだと思ってたのに…。」

「カロルス様はね、ものすごく強いよ!それに他の人も―。」

むぐっと背後からお口にフタをされる。

「ユータちゃん、あんまり家庭事情をバラしてはいけませんよ!」

エリーシャ様!そっか、他のみんなが強いのは一般には秘密なんだっけ?特にマリーさんあたり。

突然登場した領主夫人に慌てて頭を下げる新人さん。

「ユータ、また強くなったね!そろそろ僕も危ないなぁ。ほら、父上のせいで疲れたろ?戻ろうか。」

セデス兄さんも下りてきて頭を撫でてくれた。疲れたのはこんな一大イベントにしちゃったセデス兄さんの解説?のせいもあると思うけど。


「じゃあまたね!オレもまた訓練に行くよ!」

「あ…その、すまな…すみませんでした、おま…ぼっちゃんのことも、領主様のことも。侮っていました。」

「ううん!オレはこんな見た目だもの、当たり前だよ!それにね、オレは拾ってもらった子だから、そんな畏まらなくていいと思うよ!」

「ユータちゃんっ!何を言うの!?あなたはウチの子よ!ああ…愛情が足りなかったのね?!今日はずっと抱っこしていてあげるからね!」

「えっ……ちょっとそれは…。」

新人兵士を圧倒した小さな猛者は、ぎゅうぎゅうと抱きしめられたまま連れ去られていった。


「片手剣さん、か…せめて、名前を呼ばれるくらいにはなりたいもんだな。」


少し苦い思いを噛みしめながら新人達が兵舎へ戻ると、先輩兵たちが寄ってきては肩を叩いて慰めていく。どんなに馬鹿にされるかと身構えた彼らは、情けない顔で拍子抜けしていた。


「知ってたよ、勝てねえってな!悪かったな、お前らが仕えるロクサレン家ってのがどんなもんか、知って欲しかったんだよ!口で言っても分からなかったろう?」

「はは…分かるわけないッス。領主様はあの子が一太刀も当てられないんでしょ?そこまでバケモンだなんて知らなかった…。長男様だってあの子より強いらしいし。」

「あんなちっこい時からこれじゃ、将来はどんな剣士になるんだか…俺達、国イチの剣士を輩出する家に仕えることができるのかもしれねえ…ッスね。」

「うん?ユータ様は剣士じゃないぞ。」

「えっ?」

「すげー腕の立つ魔法使いだ!」

「ええっ?!」

「あれっ?ぼっちゃん従魔連れてませんでした?従魔術師目指してるんですよね?」

「えええっ?!」

「違うって!なりたいのは召喚士だって言ってたぞ!!」

「ええええっ?!?!」

新人たちの頭上にはハテナマークがいっぱいだ。


「ま、まあ子どもの頃にはなりたいものってころころ変わるもんッスよね!でも向いてるのは剣士なんでしょ?勿体ないなぁ。」

「いやいや、元々素質あるのは魔法系だぞ?」

「土魔法で山作ったり、庭にテーブル作ったりしてるの見たぜ!ありゃ並じゃねえよ。」

「連れてる従魔は一軍にも匹敵する力を持ってるって聞いたことあるぞ!ティガーグリズリーも一撃だとか!」

「それがこないだ召喚一発で成功させて、シールド張れる技能を持った召喚獣がいるらしいぞ!これ昨日メイドから聞いた最新情報な!」


「「「「「……へっ?!?!」」」」」


腕のたつ魔法使いで従魔術師で召喚士、それでもって一級の剣士。一体何が真実なのか…ますます深まる謎の幼児…新人たちは考えることを放棄した。

ひとまず分かったのは主君に選ぶには間違いの無い所に来たということだ。

果たしてロクサレン家が兵士を必要としているかどうかは別として。




ついでに回復師と解呪師も入れておいてね!

ユータは一人パーティ状態。

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[良い点] 拾ってもらった子の件大好きです なぜなんでしょ
[一言] 四人パーティじゃな六人パーティですねこれ
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