間話 ジフとクッキー
-----------------
アルファポリス様の方でHOTランキング3位、お気に入り数1000突破のお礼に掲載した文です。
ちなみに本編は昨日間違って18時頃投稿しちゃいました・・
-----------------
-お菓子が食べたい。
シンプルにそう思った。オレは結構甘いものが好きだから、簡単な菓子類なら作ってたんだ。だって作った方がたっぷり食べられるでしょ?こっちでもさすが貴族というべきか、お菓子を出してくれる時があるんだけど・・・確かに甘いんだけど・・・固いパンに砂糖をまぶして小さく切ったものとか、ドライフルーツとか、そういうもんだ。きっと贅沢品なんだろうと思うから、居候のオレに出してくれること自体、とんでもないことなんだろう。
こっちにも材料はあるんだから、作るのに問題はないハズなんだけど・・ただ、オーブンって・・あるのかな?パンを焼く釜みたいなヤツならあったけど・・オレそんなのでお菓子作れないよ・・
以前カルボナーラを作った時に、厨房を自由に使っていい権利を手に入れたので、とりあえず料理長のジフに相談してみることに。
ジフは元傭兵だったんだけど、足をケガしちゃったらしくて、左足をわずかに引きずるように歩く。元々料理が得意だったから、カロルス様に引き取られて、料理見習いから立派な料理長になった苦労人だ。カロルス様に匹敵するような長身で、大鍋なんて運んでる時は縄のような筋肉がもりあがっている。さらに無精ひげで三白眼、ときたらもう山賊みたいにしか見えない。でも、結構優しいんだ。オレの食事は他の人より柔らかくしてくれてるし、具材の大きさや温度にまで気を配る、きめ細やかなところが、さすが料理長!って感じだ。見た目が大雑把で性格も大雑把などこかの領主さまとは違う。
「・・・菓子だぁ?」
「うん、すっごくおいしいんだけどね、オレ、オーブンしかつかったことないの。」
「おーぶん・・・温度が一定になる釜たぁ、すげー魔道具だな。で、オレと一緒に作りたいと?」
「うん、やきかげんは、やってみないとわからないけど・・」
とりあえず、今回作るのは簡単クッキーだ。分量は適当で、長年のカンがものを言う!・・なんて大したものではないけど、材料を混ぜ終わった感触がいつもとそう変わらないから大丈夫だろう。
「これをてっぱんに ならべて・・とりあえず、パンをやくとき みたいにしてみて!」
とりあえず5分ほどで取り出してみると・・
「これはダメ~!」
既に黒っぽくなっていた。端の方のいい色のトコを指さして、このぐらいにしたいと話す。
ふんふんと聞いていたジフは、黒くなったクッキーを割ってみたりしながら次の温度を決めたようだ。次は料理長のカンに従い、火を落として15分ほど焼く。ドキドキしながら釜を開けると・・
ふわ~っと甘い香りが漂った。さすが料理長!クッキーは概ね見事な焼き色になっていた。試作品2号は、とりあえず見た目は合格だ。せーのでジフと一緒にぱくりと食べてみる。あつあつのクッキーが口の中でほろほろした。バターのいい香りがいっぱいに広がって、思わずにっこりする。これだよ、これ!
ジフの方はと見ると、呆然と手の中に残ったクッキーを見つめていた。
「・・・ジフ?」
声をかけると、がばっと両肩を掴まれた。クッキーはしっかり口の中に入れている。
「お前・・こりゃ革命だぞ?!分かってんのか?・・はぁ。カロルス様の頭痛の種が増えるな・・。」
ええ?何も分かってませんけど?!
「あーちくしょう。」
ジフはそんなことを言いながら、でかくてゴツイ右の手でガッ!とオレのアゴを掴むと、ほっぺたをむにむにむにむに・・・痛いわ!
タコの口にされて話せないのでバシバシと両腕を叩いて抗議する。
オレから離れたジフは、何やらぶつぶつ言いながら、すごい勢いでサクサクと試作品2号を頬ばっている・・あっ!ちょっと!一人で食べないでよー!!
・・ジフが焼けたクッキーをほとんど食べてしまったので、すぐに次の生地を焼いて、カロルス様や、メイドさん、執事さんの分も焼く。会えるか分からないけど妖精さんの分も焼いておいた。
その日、領主館からはまた絶叫が響いてきたのだった。