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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


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159 時に強引に


「……こちらでよろしいですか?」

ナーラさんは涙を拭いて微笑んだ。辺りはすっかり暗くなってきて、粗末な村の家に灯りがついている。村の門まで送って貰ったら、あとは自分で帰るんだ。館に黒いもやで転移して攻撃でもされたら大変だからね。

「うん、ありがとう。エルベル様によろしくね、オレまたそっちに行きたいって伝えてね?じゃあ…ナーラさん、またね!」

「……ええ、ええ。ありがとう…ございました…!」

ナーラさんは哀しい顔でぎゅうっと俺を抱きしめた後、黒いもやになって消えてしまった。


* * * * *


暗くなる外を見やってため息をつく。執務室には重い空気が漂っていた。

手を取って励まし合うエリーシャとマリー。

窓際で外を見つめるスモーク。

目を閉じてソファーに体を預けるセデス。

片時も目を離すまいと指輪を見つめるグレイ。

俺は何度目かのため息をついた。見つめる先で、アリスは普段と変わらず寛いでいる。

「なあアリス、無事なのは分かってる…分かってるんだが……もうこんな時間だ、せめてもう一度連絡をとってくれないか…?」

アリスは仕方の無い人だなぁと言いたげな目でこちらを見ると、ぴくりと耳を動かしてあらぬ方を向いた。そしてそそくさと部屋の中央を向いてちょこんとお座りする。もさもさと落ち着きなく揺れるしっぽは、何を意味しているのだろうか。

「…アリス?」

その時、カッと目を見開いたグレイが叫ぶ。

「!!カロルス様!反応が強くなりました!これなら…!」

「どこだ!俺に言え!!反応があるうちに向かってやる!」

グレイの言葉にスモークが勢い込む。

「それが…。」

「早く言え!また反応が途切れたら困るだろうが!」

「グレイ、どうした?!」

「いえ、どうやら本当に心配はいらないようで。」


「ただいま~!」

部屋の中央に柔らかな光と共に、呑気な声が聞こえた。

「きゅー!」

「アリス、ただいま!チュー助の面倒ありがとうね。」


「………。」

きゃっきゃと戯れる二人(?)に、無言で近づいたスモークが、ゴツン!と容赦ないげんこつをお見舞いした。そしてすぐさまどこかへ消えてしまう。いやーあいつも人の心配するようになったんだな、成長だな。

「いったぁー……なんで…??」

「なんでじゃない!ユータ、そこになおれ!」

珍しく怒ったセデスがくどくどとお説教を始めた。エリーシャとマリーはと言うと……。

幸せそうな顔で床に伸びている。あの姿は刺激が強かったらしい。



「それで、ユータお前、その格好はなんだ?一体どこに行っていた??」

セデスのお説教が一段落した頃を見計らって声を掛ける。

ユータの衣装は見たことのない豪奢なものだ。まるでどこぞの王子様のようなその姿は、エリーシャ達を一発KOしてしまう破壊力がある。

「え?格好……あ!しまった、これ着て帰って来ちゃった!」

「お前、その衣装随分高価なものだろう?まさか、勝手に着て帰ったのか?」

「違うよ!どうしてもって着せられたんだよ。格好いいでしょう?なんでも持って帰れって言ってたし、これ着る人もいないから、多分持って帰って大丈夫だと思うけど。」

「どういうことだ……?お前、本当にどこに行っていた?何があった??」

「えーと、お城、かな?」

「「「「…は?」」」」

「えーとね、カロルス様、オレ王様の友達ができたんだよ!」


「「「「は?!」」」」


大いに混乱しつつ、ああ、そう言えばこいつといるとこんなことばっかりだったと、頭の片隅で思い出す。


いやいやそうじゃなくてな…。


…王……?はぁ?!

…お前は確か学校から家に帰るだけのはずだったな?!一体どこに王様なんか転がってたんだ…?!

疑問しかないオレ達の心中などつゆ知らず、ユータは嬉しそうににっこり笑った。




* * * * *



「ふー……。」

いつものように午前の執務兼勉強を終えて部屋に戻ると、豪華な上着を放り投げてどさりとベッドに腰掛ける。肩の力を抜いてリラックスすると、無意識に右手が口元へ上がった。

『そんなに触っているとまたぽろっと落ちてしまいますよ!』なんて言われるが、今でもやっぱり信じられない気持ちに負けて、ついつい触れるのが癖になってしまった。それにぽろっと落ちるぐらい…また生えてくるんだから。

グンジョーは俺の牙がまたなくなってしまうのではと、気が気でないようだ。奴は、あれ以来少し…表情の変化が大きくなった。もう鉄面皮とは言えないかな。


この奇跡は、やっぱりあいつだろうか?以前みたいに、奇跡の技で俺の牙を戻してくれたんだろうか?

薄暗い室内で、大きなベッドにごろりと横になると、どうしても考えてしまう。

もうこのまま寝てしまおうか。時刻は真昼のはずだけど、隠れ里はいつでも薄暗い。


ぼんやりと天井を眺めながら、また牙に手をやって苦笑する。牙に触れるたびに浮かべてしまう面影…結局、忘れられないのだろうか。


あいつは最後まで俺を助けていったのか…やっぱり、やっぱり女神様だったんじゃ…?いやいや、男なんだから…神様?

「ははっ…ミソシル作る神様か。ガラじゃないな。」

あの不思議な濁ったスープはミソシルって言うらしい。最初はしょっぱいスープだと思ったけど、じんわりと美味かったよ。今ではレシピを教わった料理人が張り切って作ってくれるんだ。あの時の美味さには及ばないが、素朴な味は俺を落ち着かせる。あの柔らかい魚や鳥も美味かったな……そういえば菓子も作ると言っていた、さぞかし美味い物を作るんだろう。


『美味しいお菓子持ってくるからね、一緒にお外で食べようね。』


ぐっと喉が詰まった。ダメだな、つい、思い出してしまって…一人でいるとガキに戻っちまう。

俺が王の務めを終えたら、会いに行ってもいいだろうか…。ふと浮かんだ考えに自嘲する。あいつはヒトの子、生きている時間はほんのわずかだ。だから指輪を渡したのに…血族にならないなんて、本当に思い通りにいかないヤツだ。

一時の夢は楽しかったぞ。綺麗な場所に美味い菓子、ここから俺を連れ出してくれるんだろう?最高だな、その言葉。わずかに彩りの戻った世界は、あいつのおかげ。お前はあと何年生きている?せめてその間は立派な王をやってみせようじゃないか。



ぐっと顔を引き締めたとき、天井にふわりと光が灯った。

「うん…?」

半身を起こして目をすがめる俺の真上、光の中から突如現われたのは……黒い髪、黒い瞳。


「あっ…エルベル様ー!」

「…はっ?!」


どさりと落ちてくる体をキャッチしてまじまじと見つめた。混乱する頭を必死に働かせて状況を確認しようとして、虚しく失敗する。

これは…何?一体何がどうなった??

「あ、え……??お前、なんで?どうやって……??」

「戻ってくるって言ったでしょ?一緒に色々遊ぼうねって言ったでしょ?」

「いや…だって…!?」

「エルベル様、オレの名前も聞かなかったもん。絶対呼びに来ないって思ったの。現に今まで来なかったし。」

「そ…れは…。」

思わず視線を逸らそうとした俺を許さず、温かい小さな手は、あの時みたいに両頬を支えて、ぴたりと視線を合わせた。優しいとばかり思っていた瞳。星を浮かべたその漆黒の瞳は、なんて強い光を宿すのだろう。


「…だから、オレがここに来るよ。ねえ、エルベル様はどこに行きたい?何がしたい?オレがここから連れ出してあげる!ねえ…一緒に、行くよね?」

「!!」

にっこりと微笑んで差し出される小さな手。


…その言葉はずるいじゃないか。俺がこんなに人前で泣くなんて。こんなにしゃくりあげて泣くことがあるなんて。


「……っく…なんだよ…なんだよそれ……プロポーズかよ……。お…俺はっ…姫かよ…。」


俺よりお前の方が強引じゃないか。俺よりカッコイイじゃないか。なんだよそれ。

一瞬きょとんとしたあいつが、まぶしいほどの笑顔になった。

「『―とらわれのエルベル様、オレがあなたの友となろう。生涯かけてあなたを守り、支えよう。そして、決して裏切りはしないとここに誓う。さあ、私の手を取って。』」


……話すこともできずに泣きじゃくる俺は、もうその手を取るしかなかった。



ふわりと柔らかな光が俺を包む。

一生懸命涙を拭うのに、後から後から溢れて…馬鹿みたいに泣く俺は、まるで本当にお話の中の姫だ…カッコ悪いな。知っているとも、それは昔に読んだ絵本の一節。『友』ではなく『騎士』だったと思うが。


俺が欲しかった言葉を全て載せて、思い切り突き刺してきたそいつは、光の中で少しいたずらっぽく微笑んだ。


「オレはユータって言うんだよ。これでもう忘れられないね?」





エルベル様編が長引いてしまって・・・

もう少しお付き合い下さい(^_^;)

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― 新着の感想 ―
はーーー 罪作りな子ですわよ 末恐ろしいね
[一言] モモさんよくステイしましたね
[一言] ミソシル作る神様て… こんなん神のみそしるって言ってくださいって言ってる様なものやん( '-' *) 本当はカニのみそしるって言う所を神のみそしるにしてやったんだ!感謝しろ!Σd(。・`ω…
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