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156 コウモリの想い

「―だから、あの時は1匹しか残ってなかったんだよ!もう無理だって諦めるくらいギリギリだったんだ。説明なんてできねえし、1匹分の意識だぞ?!随分曖昧だった。……こんな幼かったかな…?記憶だっておぼろげなんだ、あの時指輪を渡してなかったら二度と会えなかったろうさ!」

「………。……それで、あなたはまさか何の説明も同意もなく、血族の指輪を渡したと。我らの生涯唯一の指輪を……?」


男性は、エルベル様の説明を聞いて、少し顔色を悪くしている。あの指輪は、相当大切なものであったようだ。オレ…なくしちゃってどうしよう?!

「あの……ごめんなさい、指輪、なくしてしまって……。」

「……ああ、いいえ。あなたはなくしていませんよ。その身の内に確かに宿っております。今も夜目は利くでしょう?あの指輪は装着者に馴染んで、徐々に身の内に浸食するものですから…。」

「えっ……それって……大丈夫なもの??」

「それを望まないのならば大丈夫ではありませんね。しかし…徐々に我らと同じ血族へ変化するためのものなのですが…不思議なことにあなたは変化が止まっています。むしろあなたが指輪を吸収してしまったようで、エルベル様の気配も薄いですし…おかげで捜索が大変困難だったのです。」


なっ…なんですとー!?人を勝手に違う種族にしようとしてたの?!困るんですけど!!白髪赤目は綺麗だけど、見た目が急に変わったらビックリされちゃうよ。

「ピピッ!」

ティアが耳元でそっと鳴いた。ああそうか、ティアが…。

どうやらティアが変化を留めてくれている間に、オレが指輪を吸収しちゃったようだ。常にフェリティアの魔力を循環・吸収していたのも良かったみたいだね。

…なんかオレ、なんでもかんでも吸収してるよね…でも知らない間にやっちゃったんだから仕方ない。結果的に夜目が利く部分だけ取り入れさせてもらって、なんだか申し訳ない気分だ。


「それで…あなたはどうするのです?」

「言う…ちゃんと言うって。でもこんな幼いなんて。ダメだったら……。」

「『牙なし』になるしかありませんね。自業自得です。」

冷たい声に、エルベル様は黙って俯いてしまった。



「…あ、あの…それで……オレは帰っていいですか?」

室内の重い沈黙に耐えきれなくなって声をあげる。

「ダメだ!」

途端に顔を上げたエルベル様がオレの肩を掴んだ。

しばらく視線を彷徨わせてから、ピタリとオレと目を合わせる。繊細な白い睫毛に覆われた紅玉の瞳が、とても綺麗だと思った。

「……一方的に指輪を渡して…すまなかった。その、ごめん、あの時は朦朧としてて、こんなに幼い子だって分からなかったんだ。あの時、死ぬ寸前だった俺を助けてくれたろう?心から感謝する。それで……その、どうしても、君に血族になってほしかったんだ…。今はまだ君は幼いけど、俺たちは長い年月を生きるから、数年の差なんて関係なくなる。君の温かさと優しさがオレの支えになった…だから…君に、側に居て欲しいって思った。ずっと一緒にいてほしくて……その……これから、ずっと…俺のそばに、いてくれないだろうか……?」


不安に揺れる、潤んだ瞳。


『きゃーーーーー!!』

緊張をはらんだ空気を引き裂いて、突然飛び出した桃色スライムに、オレとエルベル様がビクリとする。

『きゃー!プロポーズよぉっ!?素敵ーーー!!』

激しく興奮したモモがオレの肩で高速伸び縮みしている。

「…スライム?なんでここに?」

「召喚獣…?なぜ今?」

ぽかんとしたエルベル様と男性。

ですよねーー!今出てきたらダメなやつですよねーー!!

冷や汗をかきながら激しく振動するモモを後ろに隠す。

…プロポーズって言ってくれなきゃ気付かなかったし、実は助かったけども…。ずっとは無理!って普通に言うところだったよ。

でもこれがプロポーズってならオレはまず言わないといけないことがあるよね?!


「えーと……もし、勘違いがあったらなんだけど……そ、そのーオレ侍従さんたちにも言ったはずだけど…男だよ?」


「「えっ……。」」


さらにぽかんとした二人。

気まずい沈黙……オレ…悪くないよね?被害者だよね??

「えっと…ごめんなさい…?」

沈黙に耐えきれずになんとなく謝罪するオレ。



「………。」

唇を引き結んだエルベル様、その美しい瞳に大粒の涙が盛り上がった。ぽろり、ぽろりと落ちるそれに、オレは大いに狼狽える。ごめん…!ごめんって…!!どうしよう?少年のほのかな初恋の思い出を…土足で踏みにじった気分だ。不可抗力だよ…でもオレのせい?オレのせいかなぁ!?

「ご、ごめんね…。」

おろおろしながらソファーに座らせると、よしよしと背中を撫でて魔力を流す。これは失恋じゃないですよー君の初恋はまだこれから、そう、今回のは数に入らないから。

必死に念じながら落ち着くよう魔力を流し続けると、やがて泣き止んだエルベル様は、豪華な衣装の袖でぐいっと顔を拭うと、儚げに微笑んだ。

「ふふ、お前は男か!悪かったな…変なことに付き合わせて。これだ、この魔力。思っていたより随分幼くて驚いたが、やっぱりあの時の人は君…いや、お前だな。お前の魔力は、やっぱり心地いい。」

「あの時のコウモリさんが、エルベル様だったの?」

「そうだ。俺達の種族特有の能力だな。見るか?」

「あなたは……よろしいのですか?!」

「いいさ、既に一度見ている。」

立ち上がったエルベル様に黒いもやが纏わり付いたかと思うと、突如その輪郭が崩れた。

「エルベル様?!」

「大丈夫。お前が見たのはこの姿だ。」

エコーがかかったような不思議な声。エルベル様がいた場所には、たくさんのコウモリがいた。1匹が音もなくやってくると、オレの手の上に乗った。

「わあ…本当にあの時のコウモリさんだ!エルベル様だったんだね、無事で良かったよ!」

にっこり笑うオレに、コウモリさんは少しまぶしそうな顔をした。


「でも、あの時は1匹だけだったね?」

「そうだ、死にかけていたと言ったろ?本当に寸前だったんだ。もう1匹しか残っていなかった。」

コウモリさんは再び集まって黒いもやになると、人の形に戻った。


「身内でな、諍いがあった。俺たちは不死者と呼ばれるほどの者だ…そうそう死ぬことはないんだが…お互いの弱点はよく知っているからな。まあ、あの時色々あって死にかけて、お前に救われて戻ってみたら俺がトップに担ぎ上げられてしまったってわけだ。1匹の状態から元の姿にまで復活するのは結構大変でな、指輪を渡したお前のことを伝えられるまでに大分かかったし、場所なんて記憶から飛んじまってたし。」

「不死者?」

「エルベル様……。」

男性が気遣わしげな顔をして割って入ろうとするのを、少年は少し悲しげな瞳で制す。

「いい、きちんと知って、二度と近寄らない方がいいだろう。……俺達はお前たちの言う、不死者だ。悪かったな、言わずに連れてきて。まず俺達を知って貰ってから、告げる習わしだ。最初に不死者と言うと間違いなくうまくいかないからな。」

「そうなんだ!不死者ってエルベル様たちみたいに白い髪に赤い目の人?」

「……?知らないか?お前達の言う不死者は…そうだな、生き物のなれの果ての魔物だな。」

「ゾンビとか幽霊みたいな魔物?」

「……そうだ。」

「どうしてエルベル様たちと魔物の不死者が同じになるの?」

「どうしてって……お前たちは俺達をそう呼ぶだろう?ヴァンパイアとも呼ばれるな。」


エルベル様たちも困惑気味だけどオレもなんだか混乱だ。不死者っていうのは普通に魔物として存在する。なぜそれとエルベル様たちが混同されるのか。レーダーでも魔物と人は明らかに違って見えるのに。


「魔物と人は全然違うと思うんだけど…。どうしてごちゃごちゃになるの?」

「…?俺たちがコウモリに変化したり、不死のごとく頑強な体をもっているからだろう?…ああ、あとこれも良くないようだ。人の血を啜るのだと。」

あ、と開けられたお口は、真っ白な肌に比例して鮮やかに赤く、その犬歯は長く鋭かった。ただ、両側にあるはずのその犬歯は、1本しかなかった。

…わざわざ血を啜ったりするはずがない。だってあんなに美味しい食事やおやつがあるんだもの、食事が充実するのはその必要があるからだ。

つまりは誤解されたままこんなところで引きこもっているんだろうか?

「そうなの…みんな間違えてるんだね。じゃあ、カロルス様におかしいってお話ししてみるよ!ヤクス村に来るといいよ!お外に出ても大丈夫なんでしょう?みんなもお外で遊びたいよね?」

「ふふっ、ものを知らんやつだな、やめておけ。お前は俺達のことを忘れて過ごすといい。俺達も二度とお前の前に現われたりしない。この場所は誰にも見つからん…お前も二度と来ることはない。……さて、悪かったな、お前を送り届けよう。」


エルベル様は最初の印象より随分と大人びて、なんだか無理して背伸びしているように見えた。




人だと知って回復していたらちゃんと復活できていたのにね…残念!

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