147 魔寄せの使い道
「―っていうワケでね!!大変だったんだから!!」
「……へぇー…そッスか。」
チラッと唐揚げと雑炊を見ながら、胡乱げな眼差しを送るマッシュ先生。
「これは……その、いっぱい魔力使ってお腹すいちゃって……いい匂いで…もう!ちょっと食べてみて!」
「んむっ…!?」
あっ……!?
マッシュ先生が、光速で口に突っ込まれた唐揚げに目を白黒させる。メリーメリー先生…自分の唐揚げ使ってよ!どうしてオレの皿から取ったの!
「う・・・っまぁー!?」
「でしょでしょー!ほら、こっちもすんごい美味しいんだから!まあまあどうぞどうぞ!」
「え?いいんスか?いやいやー参ったなー。」
そう言いつつ、こちらも光速で差し出されるマッシュ先生の手に雑炊の椀が渡される。あー!それもオレの!だから自分のを渡してってば!!
「うまー!うまいッス!なんでこんな美味いもん食ってんスか!?実地訓練ってくそマズイ保存食に耐える訓練だと思ってたッスー!!」
「なんとこれも保存食をベースに作ってあるのだよ?すごくないかね?ね?」
「凄いッス!たまんねーッス!」
「……あのー…俺らどうしたら…?」
「「あっ……。」」
のぞき込む冒険者らしき数名の人達。そっか、マッシュ先生が冒険者も連れてきてくれてたんだね。
…もぐもぐもぐ…ごっくん。
「「えーと、その、これには事情があって……。」」
かくかくしかじか、どうにかこうにか事情を説明して、証拠の魔物の屍を集めて、なんとか信用してもらえたようだ。魔物、全部唐揚げにしないで良かったね~証拠隠滅しちゃうところだったよ。
「なんかこう……色々と納得しがたいところは山ほどあるんスけど、とりあえずみんな無事で良かったッス。ウチのクラスもこっちに向かって来てるんで帰りは3組と5組が合流して帰るッス。」
「う、うん!ありがとうね!とりあえず今は学校に帰って肩の荷を下ろしたいよ…。」
帰りは2クラス合同で随分大所帯になるみたいだ。
わいわいがやがや、大人数での移動に平原の魔物達がどんどん遠ざかっていく。小物の魔物達はこうやって人を避けていくのが本来の姿だ。
「ふうん、これが魔物寄せの呪いがかかってたネックレス…。ユータくんってなんでも持ってきてるのね…すごく助かっちゃったけど、解呪薬なんて珍しいものどうして持ってたの?勿体ないとは言えないけど、そんな高級薬を使っちゃったのね…。あー弁償って言われたら…私の給料では…買えないよね…。」
「弁償なんて言われないよ!余ってたやつだもん!」
「でも俺、それ魔物除けだって言われたぞ?なんで魔物寄せになってるんだ?」
「うーんどうしてかなぁ…とにかく一度親御さんと話をしなくっちゃね。」
一応呪いの(?)ネックレスのことも先生に話しておいた。ダンにも言わないわけにもいかなくて、ちらっと話してある。ちなみに浄化については解呪薬があったので…と苦し紛れの言い訳をしたら、意外と信じてくれたみたいだった。野外に油や調味料一式を持ち歩く人よりは解呪薬を持っている人の方がまだ理解できるらしい…。
オレの初めての実地訓練は、こうしてなんとか無事に?終えることができた…。なんだかすごく大変だった気がするよ…主に魔物が出てくるより前のあたりが。
今回の実地訓練で外の世界、魔物の恐ろしさを知った生徒たち……のはずなんだけど……。
「実地訓練って案外大丈夫なもんだな!今回は呪いのせいで色々あったけど。」
「そうね、今回限りのつもりだったけど、これなら参加してもいいかもしれないわ。」
「フィールドワークに美味い飯付き!最高じゃないか!」
一部に不安な発言をしている生徒が…。
君たちは冒険者にならないんだよね!?どんな雰囲気か分かったしもう参加しなくてもいいんじゃないかな!?少なくとも次はオレ一緒じゃないからね!?
次こそラキたちと組んで楽しい実地訓練をするんだ!次の実地訓練が楽しみだ。
* * * * *
「…なんですと?ウチの子が魔物寄せを…?!よくぞ無事で…!!よかった…。厳しい世界も経験させないといけないと言われて参加させたんですが、もうこれきりです。いやはや、先生たちに任せて正解でしたな!私どもが連れて行ったんでは共倒れになっていたかもしれません。で、その魔物寄せになっていたものとは…?」
「はい、こちらのネックレスみたいです。たまたま貴族の子が解呪薬をもっていたので助かりました。その子がいなければどうなっていたか…。」
「そうですか…。何かお礼をせねばなりませんね。こちらのネックレスは見覚えがありませんな。こちらでも調べさせていただきます。この度はとんだご迷惑を―。」
「ダン、このネックレスはどうしたんだ?私は見覚えがないぞ?」
「これはおじさんが魔物除けだって言ってくれたんだ。あのおじさんは?魔物除けだなんて…俺ユータいなかったら死んでたかも…。」
「…そうだな。普通解呪薬なんてあるもんじゃない…お前は運が良かった。運がいいってのは商人にとって大きな素質だぞ!」
「そう?!俺立派な商人になれるかな!」
「なれるとも!」
父親は、喜んで駈けていったダンを見送ると、緩んだ頬を引き締めた。
「聞いていたか?」
「は、あの男はすでに行方をくらませています。呪いの品はあの店で購入したようですが。」
「店員もグルか?」
「いいえ、店員は『魔寄せのネックレス』として販売しております。」
「チ、私の目が曇っていたな…。素性の知れない男を懐に入れすぎた。」
「心中お察しします。」
「いい、お前達は引き続きあの男を捜してくれ。」
「は。」
どうしてダンがあのネックレスを持っていたのか気になって、少し罪悪感を感じつつ、パパさんの会話を聞かせて貰った。良かった、パパさんはダンのことを大切に思っているみたい。やっぱりその謎の『おじさん』がアヤシイ人だね。ダンを狙ったのだったら今後も彼が危険だし、学校の生徒を無差別に狙ったのなら学校が危険だ。でも今のところは情報なし…。何事もなかったらそれでいいんだけどね!
「こんにちはー!」
「いらっしゃ…あの時の!!」
サッと顔色を変えた店員さんが、オレに駆け寄って上から下まで眺めた。
「だ…大丈夫……なんだね?!良かった…あれから見かけないから、もしかしてと思って気が気じゃなかったよ…。」
呪いグッズ販売店の店員さんは、ちゃんとオレのことを覚えてくれていたみたいだ。
そう、今日はあのネックレスが気になったので、呪いのお店に来ているんだ。
「何も問題なかったよ!元気だから!」
「そっか…無事で何よりだよ。それで、今日はどうしたの?何かご入り用かい?」
「ううん、あのね、この間『魔寄せのネックレス』って見たんだけど、あれって普通に売ってるの?」
「ああ、この間売れたところなんだよ。あれは珍しい品だから滅多になくてね、貴重なものだから普通には売ってないよ。欲しかったのかい?」
店員さんは全く悪びれることなく話している。その様子を見るに、人を襲わせる以外の正しい使いかたがあるんだろう…。
「魔寄せってどういう時に使うの?」
「そりゃ訓練か稼ぎたい時じゃないのか?立ってるだけで魔物が寄ってくるんだから、大もうけだろう?」
ああ、なるほど!ちゃんと魔物を倒せる実力があれば、便利グッズになるわけか。
「でも、魔寄せの呪い自体は作れないからね。だから貴重な物なのさ。使いどころを間違えば大惨事だしな!知ってるだろ?ある村が魔寄せのせいで一夜にして滅んだっていう…!」
何その都市伝説みたいなお話。すごく興味あるけど今はぐっと堪える。
「作れないの?作れないのにどうして売ってたの?」
「そりゃダンジョンとかで出土するからだよ。呪晶石ってのがたまーに見つかることがあってな、それを元に作るんだよ。坊やも一攫千金狙いで探してみるか?ただし見つけても素手で触るなよ~呪われて死んじゃうからな!まあ、あんまり触ろうとは思わない雰囲気らしいけどね!」
ダンジョン!なんてわくわくする響き!いつかオレも行かなくてはいけない…そう、行かねばならない…!!
『ユータ、今はそっちじゃないわ。』
そうだった…。それで、そんな貴重な魔寄せのネックレスをわざわざ購入して…なんでダンに?魔寄せのネックレスのことは分かったけど、肝心なことは分からないまま。
「色々教えてくれてありがとう!オレも魔寄せのネックレス欲しくなっちゃった!この間買ったのはどんな人なの?」
「ははっ!坊やにはまだまだ早いな!実力がなければただ魔物のエサになりにいくだけだぞ。この間買った冒険者なんてAランクだったからな!さすが、格が違うって雰囲気だったよ!君のお兄さんもハンサムだったけど、もっとこう…クールな美形だったな。」
確かにセデス兄さんはクールと真逆にいる人だ。へえ、おじさんって言うからもっと年配の人かと思ったけど、案外若い人なんだな…。
ダンや学校が狙われていたら困るので、しばらくはダンの周囲と学校を巡回する管狐部隊を編成しておいてもらおう。
―ユータ、アリスから連絡なの。あの男の子の親がユータのおうちに行ってるみたいなの。
あっ……まずい!お礼に行ったってところかな?!何も事情説明してないよ!
情報ゼロで対応できるほどカロルス様は器用じゃない!どうする!?カロルス様!?(笑)






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