144 森のお散歩
「あれっ…これホーンマウス……どうして魔物が?持ってきたの?」
匂いに釣られてやってきた先生が驚いた。
「先生、オレたちホーンマウスに襲われたよ?」
ここぞとばかりに訴える。本当に危ないからね、ちゃんと伝えておかないと。
「なんですって!?冒険者がいたでしょう!?どうしてユータくんが仕留めてるの?!」
メリーメリー先生は飛び上がって驚くと、見たことない険しい顔をした。
「先生、あの人何もしてくれないし私たち置いていったのよ!」
「なんですって……!?」
先生は顔を真っ赤にすると走って行った。しばらくすると離れた場所でバリバリ!と電撃の走る音が聞こえた…冒険者さんの無事を祈る……。
今回1クラスについている冒険者はおおよそ5名。クラス担当の先生一人が先導するため、前後左右に分かれて全体を守っているはずだった。
「ごめんね…!ユータくんがいてくれて本当に良かった…後ろの冒険者の人は違う人にしてもらうからね!」
まだぷりぷり怒りながら、先生は謝ってくれた。
「はい、みんなー!休憩が終わったら、ここからテント設営地の森に入るからねー!ぎゅっと小さく固まって歩くのよ!森は危ないから慎重になること!何かあったら近くの冒険者さんに言うことー!」
先生の言葉に合わせて周囲の冒険者たちが手を振って存在をアピールする。先生の近くにいる一人が焦げているのは気のせいだと思う。
休憩後、先生から諸々の注意点を聞き、オレたちは森へ入ることになる。森と言っても以前俺が彷徨ったあの森と比べたら、お散歩コースみたいなものだ。
「悪かったね…冒険者がいたのに襲われるなんて…彼は処罰を免れないね。ギルドには報告しておくよ!それで君たちがホーンマウスをやっつけたんだって?なかなか見所あるじゃないか!大きくなったらウチのパーティに来るか?ははっ、君らが大きくなる頃には俺が引退かな?」
うん、代わりに来てくれた冒険者さんは良さそうな人だ。
「おじさんは何ランク?さっきの人と同じパーティじゃないの?あの人ったら、足が痛いって言ったのに置いていったのよ!」
「おじさん……。」
切ない顔をするのは、まだ25歳やそこらの若者。6歳からすれば大人はみんなおじさんだよね…そうだけど…そうだけど……。きょとんと小首を傾げるシャルロットには微塵も悪意はないのだけどね。
「あ、ああランクね。俺はDだよ、あのサボリ野郎は確かFとかEじゃないかな?安全な依頼しか受けないでちまちまランク上げるソロのヤツだ。全く、冒険が聞いて呆れるよ。」
「じゃあお兄さんは危険な冒険するの?」
「ちっこいボウズ、もちろんだぞ!でもな、危険なことをするのが冒険じゃないぞ、いいか、自分の実力を知り、身の丈にあったことをするのが―。」
いい人だけど話が長そうだ。ふんふんと適度に聞き流して、お昼ご飯のメニューなんか考えながら歩く。一通りの調味料や料理に使う物品はいつも収納魔法に入ってるのだけど、さすがにそれ出してきたらアヤシイかな?でも小麦粉ぐらいなら図鑑と一緒に収納袋に入れてたってことで…。うん、そうしよう。
「おなかいっぱい!美味しかったね!」
「うん、昼飯も楽しみだ。」
にこにこした女子二人は手を繋ぎながらスキップしている。ダンも元気になってくれたようで一安心だ。随分と食事を楽しみにしてくれているみたいだし、期待に応えなきゃね!そう言えばなんとなくオレが作る雰囲気になってる気がするけど、みんなは作らないのだろうか…。
「でな、俺が冒険者になって間もない頃にな―。」
「スゲー!おじさんカッコイイ!俺もやってみたい!」
いつの間にか意気投合している二人を横目に、オレ達は木漏れ日の中を進む。辺りは視界の開けた平原から、木々の生い茂る森へと変わっていた。
魔物避けをしていても、レーダーにちらほらと魔物や動物の存在が引っかかるようになる。さすがに全方位拓けた平原と違って森は魔物や動物が多いし、魔物避けも効きにくくなるみたいだ。空気はしっとりと水気を含んで、足下は心持ち柔らかい。
学校で使う場所なので道ができているし、俺にとっては本当に森林浴を楽しむお散歩コースに思えるけれど、他の子にとっては危険な森だ。徐々に会話が減り、息を潜めるようにして身を寄せている。漂う緊張感は、まさに小動物の群れのようで、人も生き物としての本能があるんだな…なんて、オレは人ごとみたいに感心していた。
「きゃっ!ちょっとこれなに?!ベタッとするわ!」
「あっおい!俺になすりつけるな!」
「ユータ、あの木の上にあるのなんだ?!取ってきてくれないか?!」
「…なあ、なんでお前らだけそんなに騒がしいんだ?普通森の中は警戒しつつ静かに進むもんだぞ…?」
なんででしょうねぇ……オレの班の人達には本能や危機察知能力が備わってないようで…。この子たち、冒険者希望じゃなくてホントに良かった。ちゃんと自分を分かってるじゃないか…。
「それでお前は自分だけは違うって顔しながら何やってんの?」
オレですか?オレは食材を集めているだけですが?ティアの協力を仰ぎながら、主にキノコ類をせっせと収穫して歩いている。アレックスさんの言ったとおりだな、食材が豊富な土地で、これなら野営しても食事に困ることはなさそうだ!
「っ!あ……。」
反射的に持っていたナイフを一閃してしまい、サッとソレを隠す。
キノコを採っていたら近くに居た蛇が飛びかかってきたんだ…。思わず仕留めたけど、誰にも見られてないよね?こっそりうかがって、3人が騒がしく歩いているのを確認してホッとする。
「……お前…。それ、マルシ……大物…。」
あ…見られてた…!
「はいこれ!」
「はい?」
冒険者さんに蛇を渡す。そこそこ大きいな、少なくともマムシサイズじゃないな。オレの腕ぐらいの太さで2M近くあるんじゃないだろうか。まあ、普段プリメラ見てるとミミズサイズに思えるけど。
「すごいねー!冒険者さんマルシ仕留めたんだ!大きいね~!」
「えっ…?お前何言って…」
「わあーホントだ!でっかい蛇とってる!」
「おお、マルシじゃないか!いいサイズだな!」
「スゲーやっぱりおじさんスゲー!」
「えっ?俺?えっ…??」
冒険者さんは蛇をぶら下げて混乱している。
「ユータくんっ!?また何かあったの!?」
今度は素早く駆けつけてくれた先生が、マルシと冒険者さんを見て、ホッと安堵の表情を浮かべる。
「良かったー今度の冒険者さんはちゃんと動いてくれるのね!その調子でお願いしますね?」
「へっ…はははいっ!」
冒険者さんがだらだらと滝のような汗を流しながらこくこくと頷く。
よかったね~電撃天誅もらわなくて。オレは冒険者さんと視線で密約を交わした。
日が天辺を過ぎて、こども達が緊張と疲れでへとへとになってきた頃。
「はいっ到着ー!!ここが今回の目的地です!ここで各班お昼ご飯を調達するんだよ!何もとれなかったらまた朝と同じ保存食1枚だからね!」
「朝と同じでもいいよな。」
「あれは美味かった。私も賛成!」
「むしろあれが食べたいわ!」
絶望の声が響く中、ウチの班は呑気なものだな。食材集めにしても、オレが調理している間にうろうろされては困る。だから鍋のシャルロット、解体のアイダ、えーと…野草を洗うダン。そんな役割をふっておいた。食材や獲物探しは後で一緒に行こうね。
「さーてどうしようかな!」
せっかくだからバーベキューしたいけど、ホーンマウスのお肉しかないから却下だ。
「「ユータ!」」
呼ばれて振り返ると、ラキとタクトが満面の笑みで巨大な鍋を抱えていた。
「何そのでっかいお鍋!どうしたの?」
「昼飯、保存食でまたアレやるんだろ?オレらのも渡すからさ、大鍋で作ってくれよ!」
「このサイズの鍋なら大丈夫でしょ~?」
それ作ったのラキだね……シンプルな線ながらも美しいアラベスクのような模様…無駄に美しい大鍋だ。
「いいよ!まとめて作っちゃおうか。」
…キラリ。方々で瞳が光った気がした。
「うちも!うちのも入れてくれ!」
「私のとこもおねがい!」
どっと押し寄せる子どもたち。分かった…分かったから!そもそもお昼は大人数用で作るつもりだったし、どーんと来いだ!
結局まるで魔女のお鍋みたいな大きな鍋に、全員分の保存食をぶちこんで雑穀雑炊を作る羽目になった。
「あ、あの……先生の分、入れてもいい…?」
もじもじしながら差し出される保存食。いいですとも!もう冒険者さんの分も全部持ってきなさい!
なぜか楽しそうに大鍋をぐるぐるするシャルロットを監視しつつ、素早くキノコを切って入れる。いいだしが出るといいな~!
『俺様キノコ切るのだって上手!さすが!!』
はいはい、切れ味よくて助かるよ。
アイダにどんどんホーンマウスを解体してもらって、骨とお肉の一部を雑炊に、残りは一口大のぶつ切りにして塩胡椒と小麦粉をまぶす。収納袋で持ってきたんですよーって言えるくらいの少量の油をフライパンに広げると、どんどんとお肉を揚げ焼きにしていった。味付けはシンプルだけど、鶏肉よりうま味があるからきっと十分おいしいよ!
森の中にはじゅうじゅうといい音が響き、香ばしい香りが立ちこめた。
PCが途中で青い画面になるという・・・こまめな保存は大切ですねー。






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