139 ひみつ特訓
「さーてっ!もうすぐお楽しみ、実地訓練です!それに向けて、今日は習った基礎魔法、できる人がいるかなーってやってみまーす!できたらすごいけど、できなくても大丈夫!今後の実地訓練に必要だから、これからの授業はどのくらいできるかきちんと見て行きますよ~!サボっちゃダメですからね~っ!」
実地訓練まであと少し!いくつか実地訓練をこなして認められれば、冒険者の仮登録ができる!
それに向けて授業も段々と実用性を考慮した内容になってきている。『魔法使い向き』の子たちは攻撃魔法まで進み、『ある程度は使える』子たちは野外生活に役立つ魔法を中心に、今後『魔法使い向き』グループへ昇格目指して頑張っていく。
ちなみに、『魔法使い向き』とされたのは、5組では今のところオレとラキを含む男子3名女子2名だ。タクトはあの訓練のおかげで『ある程度は使える』グループに入っている。
「さて!君たちはうちのクラスの期待の星になるわけです!今後の実地訓練では君たちが要になるので頑張っていこうね!では、みんなこっちに並んでー!」
オレたちは先生の先導で訓練場の奥まで来ると、頑丈な的が並ぶ一画で横一列に並んだ。
「これから、みんながどのくらいできるかなーって見てみたいと思います!じゃあこんな風に……ファイア!ウォータ!ウインド!ロック!サンダー!」
次々的に放たれる魔法。先生、さすが!きれいに全部命中させると、心持ち得意そうに振り返った。
「ふう、こんな風に順番に撃っていってね!先生は横で見てるから、みんな一斉にやっていいよ!できるまで頑張ろうね!」
よーし、頑張るぞ!
的に命中させつつ壊さないぐらいの力加減っていうのは案外難しいので、基礎魔法と言えどきちんと集中する。
「せーのっ!ファイア!ウォータ!ウインド!ロック!サンダー!」
よおし!完璧っ!!
どう?やり過ぎず控えめすぎず、文句なしにばっちり先生のお手本通りだと思う!
ふう、と横でため息が聞こえた。
「……ユータ、詠唱は?それとね~そんな速射って普通できないからね?あと、サンダーはまだ習ってないよ~。」
えっ…?………だって…先生がこんな風にって…。
そうっと周囲を伺うと、ラキのやれやれと呆れた視線。そして、ぽかんとオレを見つめて手を止めているクラスメイト。
そこへ驚愕の表情で固まっていたメリーメリー先生が、我に返って詰め寄ってきた。
「ゆ、ユータくんっ?!君、普段の授業サボってたでしょ?!実力隠してたなー!?なんで詠唱省略までできるのっ?!」
一気に色々とバレてしまった。
「え…えーと、ごめんなさい、オレ魔法習ったことあるの。オレの国では呪文はあんまり使わないし杖も使わないんだ!でも最初からちゃんと習いたかったから…。」
この際めんどくさかった杖のこともバラしてしまえ!だってちょくちょく使うの忘れるからいずれバレそうなんだもん。
「なんですと!!小さな島国って聞いてたけど、魔法の進んだ国だったのねー!すごーいっ!しかもできるのに学び直そうなんて…なんと殊勝な心がけ!!素晴らしいっ!かしこいっ!!」
興奮したメリーメリー先生がオレの頭を高速なでなでする。凄まじい勢いでオレの頭は鳥の巣になった。なんか思いの外スムーズに納得してもらえて拍子抜けだ。こんなことなら最初から言っておけば良かったかな。
「いいな…ユータ君って小さいのに一番魔法できるんだ…。」
小さいのにって言葉は必要だったのかな?若干傷つきながら振り返ると、魔法使い組の女の子2人が少し悔しそうな顔をしていた。
「オレは早くから習ったからだよ。みんなもオレと同じ頃に習ってたら一緒だよ!」
「ホント?私も上手になるかなぁ…。」
「なるよ!まだ練習始めたばっかりだもの!」
「じゃあ、あたしも?」
「もちろん!」
だって君たちはまだ6歳だよ?努力すればするほどできるようになるよ!自信を持って宣言すると、にこっと笑う。女の子たちもはにかんだように微笑むと、再び的に向かった。
結局、全ての魔法を習得しているのはオレとラキだけのようだ。ラキもスムーズに使えるようになってるし、てっきり習ったら使えるものだと思っていたよ…ラキが優秀だったんだね。
「くっそ…ユータ!僕もガンガン魔法使えるようになりたいからさ、なんかコツとか教えてくれよ!」
授業の後、むくれた顔で詰め寄るのは魔法使い組男子のマイケル。
「うーん、オレの国で教わったことなら、伝えることはできるけど…それがいいかどうかは分からないよ?」
「うんっ!とにかく何でもいいから役にたちそうなことは教えてくれよ!」
「あ、ずるい~!僕も!」
「あのーじゃあ、私も。」
「ちょっと!みんなして抜け駆けはよくないわ!あたしも!!」
みんな、聞き耳をたてていたんだろうか?魔法使い組のメンバーが次々名乗りを上げて集合する。みんなやる気満々だね!何をどこまで伝えるべきなのか悩むけど、わいわい自主練とか楽しそうだ。
「じゃあ、みんなで練習頑張ろうね!」
「魔法使いのひみつ特訓ね!素敵じゃない!いいこと?他のクラスに差を付けるのよ-!」
「「「「おー!」」」」
「じゃあこれから毎日、5時に訓練場集合ね!どう?」
「毎日…私毎日は無理かも…。」
「うーん僕もどうかな~?」
「僕はどうせ暇ですがー!」
「別に用事があれば来なくていいのよ!あくまで自主練なんだから!一人でも努力するのが自主練なの!分かった?」
チェルシーはなかなか熱血漢のようだ……女の子だけど。もう一人のやや控えめな子はデージーだ。いつの間にやらチェルシーが中心になって、魔法使い組のひみつ特訓が行われることが決定した。
* * * * *
「第一回、魔法使いひみつ特訓を始めるわ!さしあたって緊急のテーマは、実地訓練であっと言わせる魔法の習得!ね!」
あっと言わせる…?あっと言わせる必要がどこにあるのだろうかと首を傾げたけど、マイケルは激しく頷いているし、そういうものなのかもしれない。まあ、さしあたって必要なのは習った魔法を習得することだと思うけどね!
約束通り、今日は全員が訓練場に集まってひそひそと話している。
「ねえ、それにはまず基礎の魔法を完璧にしないといけないよ~?」
ラキ先生!いいこと言う!チェルシーとマイケルはげんなりした顔をしているけど、まず基礎がなってないと次に進めないよ?
「あのね、私ファイアとウォータはできるんだけど、ウインドとロックが苦手なの。それって練習したらうまくなるかな?」
デージーが言うと、残りの二人もあれができないこれが苦手だと騒ぎ出した。うーん、どんな風にやってどうしてできないのか分析しないことには…。
「ねえ、じゃあみんなでどうしたらできるか考えてみようよ!」
オレとラキを除いた3人の魔法可否一覧がこれだ。全員がばらばらだから、教え合いもしやすいかもしれない。
デージー 火○ 水○ 風× 土×
チェルシー 火○ 水× 風× 土○
マイケル 火× 水△ 風○ 土×
「もう!下手くそっ!なんでそうなるのよ!」
「あのね、呪文をもう少し早く唱えてみたらどうかな?」
まずは試しにファイアができる二人にマイケルを任せてみたら…。女子二人に挟まれて散々な言われよう(主にチェルシー)。大丈夫かと心配していたんだけど、マイケルは割と嬉しそうな顔なので助けなくていいのかもしれない。
「オレの国の魔法はね、あんまり呪文を唱えないって言ったよね?呪文を唱えることでどうなるのかハッキリとイメージしていると、呪文がなくても魔法が使えるんだ。だから、魔法を失敗するのはイメージがハッキリしてないからじゃないかな?」
「呪文の唱え方じゃないの?」
「イメージか…僕はイメージなんか全然してなかったぞ!」
「そんなの言われたことないわよ!」
やっぱり呪文の方が重視されてるんだね。それで失敗しているなら、イメージ強化で簡単に解決していけるかもしれないね。
魔法使いひみつ特訓は、まだ始まったばかりだ。
ひみつの特訓ってなぜかわくわくしますよね!
そして登場人物増えて名前が覚えられない作者。






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