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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


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138 それぞれの覚悟


あの時、無事にモモを召喚することができた喜びもそのままに、授業が終わったらそっと二人と離れて校庭の隅へ行った。オレたちだけで話したいこともあるからね。

誰に聞かれたって変なやつだと思われるだけだろうけど…念のためラピスに見張りを頼んでおく。


「モモってこんな風にお話ししてたんだね。小さいしオレが守らなきゃって思ってたのに、なんだかモモの方がお姉さんみたいだね!」

―あなたは元々、私の言いたいことが分かってたじゃない。でもこの世界はハッキリ会話できていいわね。

ふふ、あなたはもっと大きかったものねぇ。でも私だってあなたを守ろうと思っていたわよ!ちゃんとついて歩いていたでしょ?


ああ、あれはオレを守ろうとしてくれていたんだ…。

みんなそうやっていつもオレを守ろうとしてくれていたから、あの時巻き込まれちゃったのかな。

オレはそんなに頼りなかった、かな?

…でも…何かが起こるなんてカケラも思っていなかったんだから、何も言えない。

こうやって戻ってきてくれたんだ。今度こそ、今度こそオレが守れるようにならないと…。


モモはどうしたの?と言いたげに、体育座りをした膝の上で揺れている。

なんでもない、とにっこりしてモモをつつくと、柔らかな体はふよふよと揺れた。


「―ねえモモ、オレの中にモモの魂の欠片があるんでしょう?これを返せば実体化出来るんじゃない?今まで側にいてくれてありがとう。守ってくれてありがとう。欠片、返すね?」


―いいえ!むしろ……。


モモは、ひょいっとオレの胸元に飛び付いた。慌てて受けとめようと手をやったが…

「あれっ?!モモ?モモ?!」

モモがいない?!もしやこんなタイミングで送還されちゃったの?!


「ん……?」

その時、焦るオレの胸の奥に、ほわりと灯火が灯ったような感覚が芽生えた。そして徐々に熱を帯びていく…これは、なに?…温かくて、優しくて、切ないような。


思わず胸を押さえてうずくまっていると、不思議な感覚は唐突に消えた。


―そう、むしろ全部あげるわ!これで安心。


モモが、なんとオレの体からスッと飛び出してきた!

「えっ?!どうなってるの?!」


―うふふ、ごめんねゆうた!私の魂はあなたの中に置いていくわ!これで遥か彼方に送還されることも、離ればなれになることもないわ。

「そんな!イヤだよ!ちゃんと生身の姿で一緒に生きていこうよ!実体化すれば送還されないじゃないか!」


―あら、この方が一緒に生きていけるのよ?自分の身の振り方は自分で決めるわ!ゆうたには悪いけどね!

モモは体の一部をにゅっと変形すると、慰めるように、オレの手をポムポムとした。



(―ごめんね、あなたが味わったことが、私には耐えられそうもないの。あなたがいなくなる時には…一緒に、連れて行ってちょうだい。)




* * * * *


モモは送還されない。いや、正しくはオレの内に還ることになる。

だから…そう、このことを二人にどうやって説明したものか…。

言い淀むオレを不思議そうに見る二人。


オレは魔力が多いから、スライム程度で足りなくなってしまうことはないため、モモの意思で自由に出入りしている。ちなみに召喚の時に莫大な魔力が必要だったのは、地球という異なる世界から喚んだからだ。それも、モモは生まれたてじゃないからなぁ。元々野生の亀だから何歳なのかは知らないけど。スライムという召喚しやすい種族に転生したこと、モモ自身が強い積極性を持って召喚されたことで何とかなった形だ。


モモが自由に行動できるのはいいのだけど、オレの体から出たり入ったりする姿は若干ホラーだ。オレの方には出入りの感覚はないのだけど…。

『主って人外だよなぁ!俺様鼻が高いよ!!』

チュー助、人外は誉め言葉じゃないぞ。


うーんこの状況で誤魔化すのも難しい。必殺異国文化もちょっとこれは…使えるだろうか。

―大切な友達なんでしょう?そのまま言えばいいわ。召喚獣が自分に魂を預けたと。それを信じるかどうかは別だけど。


そうか、これを知ったところで二人に害があるわけじゃない。オレが変な目で見られるかもしれないけど、黙っていてもいずれバレることだ。




「へえー!そんなことできるんだ!めちゃくちゃ便利だな!!」

「召喚獣を体内で飼ってるみたいなものかなぁ?ユータの魔力量ってホントに多いんだね~!」


二人はあっけないほど簡単に信じてくれた。これも子どもの柔軟さのなせる技だろうか…。


「こんな話、オレ聞いたことなかったから…信じてもらえないかと思った…。」

「そう~?それよりもっと信じがたい光景を見てきたからじゃない?説明つかないようなこともあったでしょ~?ちゃんと説明できることなら普通に納得できるよ?」

「おう、そりゃまあユータだしな!お前は普通じゃないから何だってアリなんだろ!」


……なんだろう。こう…「君のこと、信じてるからっ!」とかじゃないんだ……。

どこか納得できない気分になったのはオレの方だったかもしれない。




* * * * *


「久しぶりー!」

オレは輝く漆黒の毛皮にダイブした。乱暴に飛びついたオレを柔らかく受け止める極上の毛並み、しなやかな肉体。

「てめえ…いきなり飛び込んで来るやつがあるか!!」

そして乱暴な言葉。なんだか懐かしい気がする…顔を埋めると確かに感じる獣臭に、それだけの日数が経過したことを感じる。

そうだ、今日はお風呂にしよう!



石けんでルーを洗う時間が勿体なかったので、ルーだけ先にマイクロバブルの魔法で洗っておく。

以前作った露天風呂も高圧水流とマイクロバブルでお掃除したら、熱いお湯を入れて、温泉の元(生命魔法飽和水)をコップ1杯ほど入れる。こちらの温泉は疲れや肩こりに劇的に効果がありますよ~なんてね。


さっそく縁に顎を乗せて巨体を沈めると、リラックスモードのルー。

遠慮なくその背中に乗っかると、足からゆっくりとお湯に入っていく。

「あーー気持ちいい。」

オレは頭をルーの背中にもたせかけて、広々とお湯の中に体を広げた。

ゆらゆらするルーの毛並みが少しくすぐったいけど、この上下する柔らかベッドは捨てがたい。


「ルー、今日は学校お休みだったから遊びに来たんだよ!」

「そうか。」

「学校は楽しいよ!友達もできたんだ。タクトとラキっていう仲良しができてね、同じお部屋の人もいい人なんだ!」

ぱしゃ……ぱしゃり…。オレの話を聞いているんだかいないんだか、心地よさげに時折水面を叩くしっぽが、水面に光の輪を描く。


「聞いてる?………ねえルー、オレ違う世界から来たんだけどね、離ればなれになってた仲間を召喚できたんだよ!」

「そう………はあ?!」

「…ぶはっ!もうー!」

ざばっと起き上がったルーに落とされて頭がお湯に沈んだ。げほごほしながら起き上がって抗議の声を上げると、金の瞳がずいっと近づいてオレを睨み付けた。

「どういうことだ…。」

一応聞いていたんだね。違う世界から来たことって言ったことなかっただろうか?大体なんでも話している気がしたんだけど。



「てめえ……どうりで。色々とおかしいわけだ。」

オレのこれまでを語る長い説明に、はあっとため息をついた大きな獣は、目を閉じて横たわった。さすが神獣、神様だとか不思議なことにもあまり驚かないのかな?特に疑問も持たずに納得した様子に、ちょっと拍子抜けだ。

「それで、これがモモ。」

―カッコイイ獣さん、こんにちは!よろしくね。

ひょいとオレから飛び出したモモが、ぽしゃんとお湯に飛び込んだ。

「…魂をひとつの器に二つなど…てめーはめちゃくちゃだ。」

ルーはぶつくさ言いながらも寝る体勢に入っている。なんだろう、どこか、落ち込んでいるような…気落ちしているような?気のせいだろうか?

「ルー?」

「……。」

だめだ、『都合の悪いことは聞こえません』体勢に入っちゃった。もう答えてくれないだろう。

ホント寝てばっかりなんだから…と思ったけれど、ルーがこうあるのは、長い長い年月を生きるためのコツなのかもしれない。


―お風呂って気持ちいいのね!入ってみたかったのよ。

弾んだ声に振り返る。おお、スライムって浮くんだ…ぷかぷかと浮いて喜ぶモモを見て、オレはくすくすと笑った。




「またねー!オレがいない時もお風呂入ってよ!」

静かでゆっくりとした時間を過ごしたオレたちは、フェアリーサークルで再び賑やかな街へ。街の喧騒は心躍るけれど…元々田舎育ちのオレは、やっぱり静かな場所の方が好きかもしれない。みんなが揃ったら、また山で暮らすのもいいかもしれないね。





* * * * *



漆黒の獣は静かな暗闇の中、金の瞳を開いた。


「…どうりで。……それにしても、規格外だろ。」


闇の中に煌めくその色は、ふいと曇る。

「……あのように、なってくれるなよ。」

目を伏せ、糸のように細くなった金色が、闇の中で揺らめいた。




「………見守っていてやる。」

再び開いた瞳は、神獣にふさわしい、強い光を宿していた。



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