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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


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132 必要な魔法

「――それでね、タクトとラキと一緒に冒険しようねって約束したんだよ!」

「ほう、もう仲のいいやつができたのか。部屋のヤツも問題ないか?」

「うん!一年生はラキだし、テンチョーさんはすごく頼りになる人で、アレックスさんは……優しいから!」

「ユータちゃんはのほほんとしてるから、いじめられたりするんじゃないかってとっても心配してたのよ!」

「うーん、ユータをいじめるのは難しいと思うけどねえ。」



あったかい紅茶を抱えながら、学校での出来事を次々とお話しする。話したいことがいっぱいあるんだ!

たっぷりと紅茶の香りを含んだ湯気が、オレの鼻腔を優しくくすぐった。

「あ、そうだ!魔法ってね、杖を使わないとだめなの?執事さんも使ってなかったから、使わなくてもいいと思ってたんだけど…。」

「普通は杖を使いますよ。一般で見かける魔法使いで、杖を使わない者はまずいないでしょうね。魔法使いから杖を取り上げれば何もできやしない、なんて信じられているぐらいですから。」

「そうなんだ!不便だね…じゃあどうして執事さんは使わないの?」

「ふふ、私はこれでも上位の魔法使いなので。杖がないと役立たずでは困りますからね、これもまた無詠唱と同じく、訓練でしょう。発動効率を高める訓練をすることで、杖が不要になりますよ。」


「そっか!執事さんすごい!杖って魔法を発動しやすくするものなの?」

「その通りです。杖の性能にもよりますが、総じて魔法の補助でしかないのですけど、それに頼りすぎると杖なしでは全く発動できなくなりますね。そもそも杖なしでは魔法を使えない程度の人も多いのですが。」


そうなのか…オレは最初から杖がないところでやっていたから、必要なくなったのかもしれないね。でも、それなら学校でももっと杖なしで発動の練習を教えたらいいのにって思ったけれど、そうすると魔法使いの数が激減してしまうそう。それにしたって杖がないと魔法使えないのは不便だと思ったんだけど、それは杖なしでも魔法を使えるからこそ考えることみたいだ。魔法使いの杖は剣士の剣と同じ感覚なんだって。それがなければって思い込みも強そうだし、ラキたちには杖なしでも大丈夫って教えてあげよう。


バタン!

「おいっ!あの野郎が見当たらな……。」


突然飛び込んできた細身の男性。カロルス様の膝に座るオレを見て崩れ落ちた。

「こ、この野郎……。」

恨めしげに見やる男性は、多分隠密さん。浅黒い肌にクリーム色の髪、紫色のちょっと変わったキツイ瞳…間近で見たのは初めてだ。

「あ、隠密さん、こんばんは!」

「こいつ……。」

「ま、まあまあ!ユータに悪気はないからよ!」

「隠密がへたっぴなんだから仕方ないじゃない!ねー!」

カロルス様が立ち上がった隙に、エリーシャ様がオレを膝に乗せて嬉しそうに言う。

「隠密さんへたっぴじゃないよ?上手だったよ?」

「ユータ……それをユータが言っちゃダメだよ…。」

怒る隠密さんは、どかっと椅子に腰掛けてオレを睨む。

「てめえ、どうやって学校抜け出して来やがった!」

「フェアリーサークルで戻ってきたよ!隠密さんは転移ができるんでしょう?オレにも教えて!」

「!!」

カロルス様が頷いたので、隠さなくていい人だと判断して素直に話す。そもそも戻ってきてるのバレてるしね。


「……なんで転移のことを知ってる。」

「なんでって……一瞬で別の場所に移動するから、転移だと思ったんだけど…。」

どうやら秘密の技術だったらしい。隠密さんの怖い目に、首をすくめて小さくなった。

「ちょっと!ユータちゃんに当たらないでちょうだい!」

エリーシャ様がぎゅっとオレを抱き込んで睨むと、隠密さんがサッと視線を逸らした。

「フン、もう報告はいらんな!じゃーな!もう俺は行かんからな!!」

「あっ、おい!後で戻って来いよ!」

一瞬で窓の側まで行った隠密さんが振り返って言い捨てると、またフッと姿を消した。あれが、転移……!隠密さんは短距離の転移しかできないようで、気配が飛び飛びに離れていく。教えてはもらえなかったけど、見ることはできた。難しそうだけどまた練習してみよう。




「――ユータ、そろそろ寝た方がいいんじゃない?目が半分になってるよ?」

温かくて柔らかいエリーシャ様の腕の中、うとうとするのを必死に堪えていたのがバレたらしい。明日授業で寝ちゃってもいけないもんね……。

「うん…おやすみ。またね…。」

一通りハグをもらって、夢の世界に片足を突っ込みながらお布団の中に戻ってくる。すっかり冷えたお布団に、少し体を縮めながら、オレはことんと眠りに落ちた。




「ユータ、今日は眠そうだね~。」

やっぱり夜更かしはいけない。ぽかぽか陽気にうとうとしかかるのを目ざとく見つけられる。特に2項目目のツィーツィー先生の授業がダメだった。ツィーツィー先生は貴族学や歴史など学問的なこと一般を担当しているちょっと偉そうで賢そうな先生だ。ある意味地球での授業に一番近い授業で…それも小中学生レベルで…確かに貴族学とか知らないことは多いんだけど……何が言いたいかって、オレは今とても眠い!


眠さを誤魔化すために何かないかと考えて、魔法の研究をしようと思いついた。今後冒険者になったら必要になることってなんだろう?真っ先においしい食事とふわふわお布団が浮かんだけど、そこはたぶん二の次だ。森を歩いていた時必要だったのは何だろう?お洗濯?いやいや、それも三の次もしくは五の次ぐらいだ。一番必要で手に入れる必要があったのは索敵。これは今後も磨いていくとして…。ぼんやりと聞くともなしに聞いていた先生の声が耳に入る。


「―このように、詳細な地図が流出すると国の危機となるからして、厳重な保護のもと―。」


地図!!それだ!ウトウトするオレを心配気にちらちら見ていたラキが、突然がばっと顔を上げたオレにビクッとする。そう、地図だ!校内ですら迷いそうなんだから、冒険に出たら迷子になる。ぜったい!森にいた時はただただ人の多い所を目指して歩けば良かったけど、冒険に出たらそうはいかない。

車のナビゲーションシステムとまではいかなくとも、せめて来た道ぐらい分かるようにならないかな?真っ先にナビが浮かんだのは、広範囲のレーダー魔法でイメージしているのがナビだから。渋滞情報の代わりに魔物情報をお知らせしてくれるナビ。ここに周囲のざっくりした地形とか合わせられたら便利なのにな。

(ねえラピス、周囲の地形とか目で見ないで知る魔法ってないの?)

―地形?魔法は分からないの。でも、地形は分かるの。ユータは分からないの?

(えっ?!普通分かるの?!)

―だって、目以外で分からなかったら目をつむった時とか、高速で移動するとき困るの。速く動く魔物とかもきっと分かってるの。

(そ、そうなんだ……結構当たり前にできることなんだ…。)

―ユータもきっとできるの。それにユータはいい目があるから、もっと詳しく分かると思うの。

いい目?もしかして魔力視ができることかな?でもそれも見えないと使えないんじゃ…。

―本当に目で見てるの?レーダーの魔法だって、見てないけど見えてるの。

言われて初めて気付いた。もしかして使っているのは視覚ではない?だって、魔力を『感じる』っていつも思っているから。


試しに瞳を閉じて肩のティアとラピスを感じる。はじめはうすぼんやりとした感覚が、しだいにはっきりと感じられる。でも、生き物の魔力はレーダーで慣れているから捉えられるけれど、地形なんて分からない。

―魔素を感じるといいの。空間には空間の魔素、石には石の魔素があるの。

魔素……魔素は感じるけど…それが何かって言われると分からない。


突然目の前の魔素を乱しながらかき分けて、別の魔素がオレの頭に向かってきた。思わず避けて目を開けると、コツッと後ろで音がした。

「いてっ!」

振り返ると、額をさする後ろの席のパーシー。

「なんでぼくが…ユータが避けるからだよ!」

ぷりぷりと怒っているその手には、チョークみたいなもの。

「ユータくん、眠っていないならどうして目を閉じているのかね?立って5ページの最初から読みなさい。」

しまった、授業中だった。慌てて立ち上がると指定のページを音読する。


「……よろしい。きちんと文学を嗜んでいるようだね、良いことだ。」

少し機嫌の良くなった先生が再び前を向いたので、ホッとして着席した。



「もう、ユータどうしてあの先生の時に寝ちゃうの!ヒヤヒヤしたんだから~!」

「でも寝てなかったんだろ?避けてたじゃん。それに、お前スゲー難しいの読めるんだな!何言ってるか全然わかんなかったぞ!」

ああ、確かに小難しい言い回しの多い文章だと思ったよ。そうか、それで叱責を免れたんだな、良かったよかった。



それに、良かったことがもう一つ。

「ラピス、オレ分かったかも。」

先生のおかげで、掴めたかもしれない。




完全なる被害者、パーシー。

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