131 実技授業
あれから3人に、懇々と諭されてしまった。主に男のプライドについて。
オレだって男なんだからそれぐらい分かる!でもそう言ったら『分かってない!!』と両頬を引っ張られた。ヒドイよ!
「ただ今回は相手がユータだったから良かっただけで、被害にあった生徒もいることを思えばお前を叱ることはできないけどな。あいつらのことはちゃんと先生に報告しておく。」
とんだトラブルのおかげで、せっかくの探検が終了してしまった。もう次の授業がはじまってしまうので、テンチョーさんの案内で教室に戻ってくる。そう言えば帰りの道順のことなんて考えてなかったからとても助かったよ。
「ちびっ子たち、昨日ぶりっス!」
午後の授業はまずマッシュ先生の体術指南からだった。マッシュ先生は体術と武具一般を使った授業を担当しているらしい。いわゆる体育の授業だろうか?マッシュ先生はそこまで筋肉質!という感じではなかったのでちょっと意外に思った。
「マッシュ先生は全部の武器を使えるの!?」
「いやーさすがに全部は無理ッス!本格的な訓練に入るようになったら、冒険者を雇ったりするから心配いらないッス!」
なるほど…そういうシステムになってるんだな!でも1年生は危ないから大したことはさせてもらえない。まずは体術の基本的な受け身などの練習から。オレ、マリーさんたちから習ってるから違う授業受けたいなぁ。
マッシュ先生には申し訳ないけど、ちょっぴり退屈な授業を終えたら、次はお楽しみの魔法実技!
「さあさあ!お待ちかねーっ!メリーメリー先生の魔法教室がはじまりますよ!」
待ってました!!青空教室としか言いようのない屋外の教室で、賑やかに魔法実技の授業がはじまった。
「じゃあさっそく朝授業でやったことを実戦してみよう!ここなら多少失敗しても壁も天井もないので大丈夫!お隣同士離れて座ってね!3ページ開いてー!」
ざわつく生徒に気付くことなく進行していく先生。天井や壁に被害が及んだりするの…?
離れて座らないといけないほど失敗するの…?
今日お試しするのは明かりの魔法。その呪文について先生が細かく説明している間、なんと全員に指揮棒みたいな簡素な杖が配られた!魔法の杖だ!!本物だよ!!ウキウキが止まらないオレは杖を構えたりさすったり眺めたりで大変忙しい。
「はいっみんなできそうかなー?じゃあまずはやってみようか!」
先生はなかなかスパルタだ。魔法ってそんなちょっと説明しただけでみんな使えるのかな?
3ページに描かれているライトの魔法は、妖精魔法でやっているのでできると思うけど…体内魔法だけを使うのは初めてだ。以前のマリーさんや先生が脅かすから、失敗したらどうしようと不安もある。
舐めて掛からず何事も真剣にしなくては。オレは杖を置くと、手のひらに集中する。妖精魔法の時も体内魔力は使って外の魔力を集めているわけで…体内魔力だけを使うなら1段階省略していいってことだ。そう思うと気が楽になった。
「ライト」
普段通りにイメージのスイッチを入れて、ぽうっと手のひらの上に光球を出現させる。全然問題ないね、むしろ発動が早くなるから便利だ。
「ユータ?」
隣で取り組んでいたラキに呼ばれてそちらに視線をやると、見事ラキも魔法を成功させていた!
「わあ!ラキも魔法使えるんだね!!やった!」
「うん、ありがとう~!でもね、ユータ…杖は?」
「ここにあるよ?」
ラキの微妙な視線に改めて周囲を見ると、みんな杖を持ってその先端に光球を発動させている。そりゃそうだ、何のための杖か。
「うわ~みんなちゃんとがんばって優秀!えらい!!そしてもう発動できた子たちがいるね!先生見に行っちゃおう。」
ヤバイ!咄嗟に杖を光球にぶっ刺してすました顔をする。
「……。」
ラキの視線が痛いけど、大丈夫、他の人にはバレてない。
「うんうんっ!ユータくんとラキくんは魔法使いの素質ありありだね!やったね!」
なんとか先生も誤魔化せたみたいだ。
「今発動できなくてもぜーんぜん問題ないからね!これはお試しだから!先生が教えてあげるからね!はい、ライトの魔法はこんな風に杖に明かりの魔法を出現させて、暗い場所の探索に使いますー!でも、もっと熟練度を上げていくと、こんな風に…」
先生の杖の明かりがふわっと離れて宙を漂う。おおっとどよめく生徒に先生は嬉しそうだ。
「杖から離してコントロールすることができるようになります!こうすると杖が空くので、魔力に余裕があれば他の魔法を使うことができます!」
スゲー!便利じゃん、なんて感心する声が聞こえる中で、杖って何のために使うの?と聞くことも出来ず、魔法を使う時は杖を忘れないようにすること、と心のメモにしっかりと書き記した。
「ねえ、ユータ…どういうこと?」
「な、なにが?」
教室でこそこそとラキに詰め寄られて冷や汗をかく。
「ユータまた何かしたのか?」
あの時タクトも隣にいたんだけど、少しでも魔法が使えないかと一生懸命だったので気付かなかったようだ。
「タクト聞いて~!ユータね、魔法使うとき呪文唱えてなかったんだよ!それに杖も持ってなかったのに魔法が発動してたんだ~!」
「はあ?どういうこと?」
……そういえば呪文なんて唱えてなかった。そんな所も気付かれていたなんて、ラキは侮れない。一応周囲にバレないように気を使ってくれているらしく、ひそひそと3人で円陣を組むようにして話している。
「ちょ、ちょっと忘れちゃったから……。」
「呪文忘れたら発動しないよ!杖がなくても発動しないよ!!」
そうなのか…ヒトの魔法には杖と呪文が必須なんだろうか?
「そうなの…?でもオレ、発動するよ?」
「どうして?」
「どうしてかな……??国が違うから、とか…?」
「ユータは異国の生まれだもんね~。よその国ではそうだったりするのかな~?」
むしろどうしてみんなが呪文を唱えるのか教えてほしいぐらいだ。杖なんて本当になんのためにあるのか分からない。格好いいから?
とりあえず異国の地ではそういうこともあるんだと誤魔化しておけばなんとかなりそうだ。何も嘘は言ってないからね!
* * * * *
―おーけー、おーるくりあ!なの。
(ラジャ!ラピス、GO!ウリス、現場の確保!)
(きゅ!)
みんなが寝静まったころ、オレは活動を開始する。これは極秘任務。失敗はゆるされない!
お布団の中が、一瞬光に包まれた。
「……よし!第一段階、完了!ウリス、現場はどう?」
―標的はまだゆめの中!って言ってるの!
よし、きっと色々と間違ってるけど伝わるからヨシ!とりあえず学校脱出成功だ。お布団の中から一瞬にして真っ暗な部屋に到達、フェアリーサークルは本当に便利だ。
ダダダダダダ!ガチャ!!
バンっと開かれた扉にビクッとする。
「ユーータ様ー!!」
光を背に浮かびあがるシルエット。なんで帰ってきたら分かるんだろう…。
一足飛びに目の前まで来た影は、オレの体をぎゅうっと柔らかく包み込んだ。
「マリーさん、ただいまー!」
「お、おかえりなさいませ……!!」
マリーさん……まだ数日しか離れてないのに…先が思いやられるよ……?
「ユータか?おう、おかえり!もうホームシックになったか?」
言いながら現われたカロルス様が、顔いっぱいで笑っていた。
「カロルス様、ただいまー!なってないよ!隠密さんが来てたから帰った方がいいのかなって。」
「……かわいそうなヤツ…。みんな心配してたからな、様子を見に行ってもらったが…それならアリスに言ってこっちにも顔を出せって伝えたら良かったな。」
「うん、アリスに言ってくれたらいいよ!人目があるから、すぐには戻って来られないと思うけど。」
「そうか、せっかく戻ったんだからゆっくりしていくか?だが明日も学校だろう?遅くなったらダメだな。」
言いながら促されるままに、応接室までついていく…マリーさんに抱っこされながら。
ちょっぴりの夜更かしぐらいいいかな?テンチョーさんが起こしてくれるだろうし!次々集まってくるセデス兄さんやエリーシャ様を見て、自然と頬が綻んだ。
「……いない?どこ行った?!あの野郎、どこに消えやがった!?」
標的を見失って狼狽える隠密さんのことなんてつゆ知らず、オレは久々のおうちを楽しんでいた。
スモークさんの受難……






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/