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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


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124 大切な時間

「ねえ、ルー。オレ学校に行くんだよ。」

「…そうか。」

「入学できますって通知が来たんだ。」

「…そうか。」

「ハイカリクの街で、寮で生活するの。」

「…そうか。」

「冒険者にもなれるんだって!」

「…そうか。」


大きなたっぷりもふもふを丁寧にブラッシングしながら話しかける。

右手でブラシを動かし、左手でそのサラサラとした指通りを楽しみながら、ウトウトするルーを眺める。さっきから半分夢の世界に足を突っ込んで、何を言っても「そうか」なんだもんな。

今だってフェアリーサークルで行き来しているんだから、オレが学校に行ったってルーにとって何も変わりがないのは分かるけれど。

でも、もうちょっと興味を示してくれたっていいと思うんだけど!


そろそろ9割ぐらい寝ているルーのブラッシングを終えて、オレもその極上毛皮の上に乗っかる。心地よい微睡みの中にいるルーは、「退け」と数回しっぽでぴしりぴしりとやったけれど、目を開けることもしない。


「もう…みんなはもっと心配してくれたよ?もうちょっと気にしてくれたっていいのにー。」

顔をこすりつけてふわふわを堪能してから、片側のほっぺと耳を毛皮に伏せてうつぶせになると、体を揺らす鼓動と呼吸に耳を澄ませる。オレはこうやってふかふかのルーに乗っかって鼓動のリズムに揺られ、ゆったりとした呼吸で上下するのが大好きだ。

大きな生き物のいのちの気配。ああ、落ち着く……。

うとうとしていたら、何やら脇腹をつつかれている気がする。


「…?うわ!ビックリした~!」

目を開けるとどアップで映し出される濡れたお鼻。思わず飛び起きると、オレはすっかり囲まれていた。

「みんな来たの?そんなにたくさんは無理だよ…。ちょっとだけだからね?」

たくさんの森の幻獣さんが期待を込めた瞳でこちらを見つめている……いや、正確にはオレの手に握られたブラシを見つめているのだろう。ちなみに先ほどオレの脇腹をつついていたのは緑色の鹿みたいな幻獣さんだ。みんないたくブラッシングを気に入ってしまって、森に来ると結構な頻度で求められるんだ。体力作りの一環になりそうなぐらい重労働なんだけど、オレも楽しくはある。


ただ……。


「………。」

やっぱり。ルーの様子をうかがうと、目は変わらず閉じていて眠っているように見えるけど、不機嫌そうに振られるしっぽ。こうして幻獣たちをブラッシングしていると、ルーのご機嫌が急降下するんだよ…。

「あとは君で、今日は終わりね!」

こう言うと、渋々と幻獣達は森へ帰ってくれる。とても素直でよろしい…ルーが怖いのもあるだろうけど。


「どうして怒るの?」

ルーのところに戻ったら、もう一度ブラッシングしながら声をかけたけど、ルーは眠ったふりして返事をしない…都合が悪いとすぐ寝たふりするんだから。再びぱたり…ぱたりと機嫌良さげに揺れ出したしっぽを確認して、オレもあたたかな毛皮のベッドにうつ伏せる。今度こそ、この穏やかな気配に包まれて一眠りしよう。

明日から学校が始まったら、きっと今より忙しくなる。こんな風にのんびりとお昼寝する機会も減るかもしれない。ルーと過ごす、オレのお気に入りの時間。

ふかふかの体にしがみつくように抱きしめると、そっと微笑んだ。




朝は兵士さんやメイドさん、ジフ達の所へ行って、昼間はルーと過ごした。そして夜はカロルス様たちとゆっくりと過ごしたんだ。しばらくオレが料理をすることもないだろうから、今日の夕食はオレが腕を振るって和洋折衷な地球料理のオンパレードにしたよ!残ったら収納に入れておこうと思ったのに、何も残らなかった……この人達の胃袋はどうなっているんだろうか。

和食についてはみんなが好きになってくれて嬉しい!カロルス様はだし巻き卵、エリーシャ様はお吸い物、セデス兄さんは茶碗蒸しがお気に入り。ただ、和食は美味しいけどカロルス様たちのお腹を満たすには少なすぎるみたい。お醤油があればもう少しガツンとくるメニューも出せるんだけどな。ホント和食って大体醤油が入ってるよね…日本の料理って全部醤油味!って言われるのも分かる気がするよ。そしてみんな大好きカニ料理!お魚料理とカニ料理は現在着々と勢力を拡大していっているそうな…オレが立役者だからお金を貯めておいてやるって言われて、断るのが大変だった…。


「なぜだ!?これはお前が稼いだ金だぞ?!」

「オレは何もしてないもん!カロルス様たちが動いたからこそのお金だよ!」

「いや、それでも元はお前が!」

「子どもがそんな大金持ってたら『あくえいきょう』があるんだよ!だからいらないの!オレは自分でちゃんと稼いで喜びたいの!」

「うぐ…しかし!!オレたちだってお前の金を使いたくないぞ!」

「じゃあ、オレはここが好きだからここのために使ってよ!」


しばし押し問答の末、渋々ロクサレン家のお金として懐に入れて貰うことに成功した。少しでもロクサレン家の助けになれば、何より嬉しいんだけどな。オレの方はなんだか自分が生活する分ぐらいなら素材を売るだけでもなんとかなりそうで…むしろそれなのに居候していて申し訳ない気分だ。


デザートのベリーのムースまでしっかりと平らげた面々は、遅めの時間までソファーでくつろいだ。セデス兄さんの学校時代のことを聞いたり、カロルス様の冒険譚を聞いたり、エリーシャ様の貴族裏話を聞いたり。それぞれのお膝に乗せてもらって聞くお話は、どれも物語のようでとても面白かった。


「……いつまでもお話ししていたいけれど、ユータちゃんはそろそろ寝ないとね?」

エリーシャ様はふわふわとオレの頭を撫でながら、名残惜しそうに言った。

「…そうだね。お寝坊したら大変だ。」

「明日はベッドまで持っていこうとするなよ?おやすみ。」

オレも後ろ髪を引かれるけれど、もう遅い…促されるままにお部屋に戻ってベッドに潜り込んだ。




「……どうした?眠れないか?」

暗闇の中、目が合ったオレに少し驚いたカロルス様。

今日はカロルス様が来ると思ったんだ。眠かったけど、待ってたんだよ。そっとオレの頭へ伸ばされた手を掴むと、ぐいぐいと引っ張る。大きな固い手は、随分と冷たかった。

「あのね、オレが寝るまででいいから、いっしょに寝よう?」

「……。それは誰のためだ?」

自嘲気味に苦笑したカロルス様が、オレに引かれるまま片肘をついて横になった。大きく沈み込んだベッドが、みしりと音を立てる。

「カロルス様、寮のベッドはどんなの?」

「まあ…安宿よりはいいぞ。寝具は自分で用意すればいいしな。」

「ベッドは持って行っちゃだめ?」

「当たり前だ。それに寮の部屋なんざベッドがなんとか入るぐらいのスペースしかないぞ。このベッドなら入らんかもな。」

「そんなに狭いの!」

ふっと微笑んだカロルス様は、オレの額に手を置いて目を塞いだ。

「早く寝ろ、明日早いぞ。」

もっとお話ししたかったけれど、温かい手に安堵してオレは眠りについた。





* * * * *


「面倒を起こすなよ!何かあったらアリスに言えよ?ベッドもタンスも持っていくなよ!?」

「ユータちゃん、忘れ物ない?!もう一度ぎゅっとする?!」

「気をつけるんだよ~!危ない目にあったら、周囲を吹っ飛ばしてもいいから自分の身を守るんだよ!」

「ユ…ユーダざまぁ……。」

「ユータ様、以前私が申したこと、覚えていて下さいね?」


「だ、大丈夫!分かったから!いってきます!!」

恥ずかしい!恥ずかしいから!!

学校の前まで行かなくて本当に良かった……。

セデス兄さんだけついてくるはずだったのに、今日だけは!とみんなハイカリクまでついてきてしまった。見送りは貴族宿の前まで!と決めたはいいけど、それでももの凄く目立つ!早々に手を振って走り出したオレに、マリーさんの今生の別れのようなむせび泣きが突き刺さった。

ご、ごめんね…でも数日もしないうちに会いに行くって言ったのに…。


頬を赤くして学校の門まで走ると、今日は一人で大きな門を見上げる。不安と高揚でドキドキと胸が高まるけれど、大丈夫、オレはもう学生になるんだ。冒険者にもなるんだから、一人が不安なんて言ってられないんだ。それでもちょっと振り返ってしまう自分を叱咤すると、ぐっと胸を張って門をくぐった。





入学まで・・行かなかった・・・この回で行くハズだったんですけどね・・・


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