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114 バゲットサンド


「おいしー!これ美味しいよー!」

カレアちゃんが小さなお口を目一杯あけて大きなバゲットサンドにかぶりつく。ボロボロとかけらをこぼしつつ、ザクッと噛み切られたバゲット、シャキシャキとした小気味良い音をたてるお野菜、滴る肉汁にお店から漂うお肉のいい香り。

ほっぺを赤くしてもりもり食べている姿は、なんとも美味しそうだ。小動物の食べている仕草が妙に美味しそうに見えるのに似ているかもしれない。


結局作り方からバランスよく食べる必要性まで指導することになってしまい…そうこうしているうちに外で試作品をひたすら食べていたカレアちゃんを見て、あれをくれと言う人が集まって…。


「はいはい!栄養満点!体にいいよ~並んで下さいね~順番におねがいしますよ!」


「俺が先に並んだんだぞ!」

「てめえ!俺が先だ!俺はDランクだぞ!」


押すな押すなの大騒ぎになってしまった。屋台は冒険者が多く利用するので荒っぽい人も多くて…。

「てめえのどこがDランクだ!」

「なんだとこの野郎!」


簡単な挑発で簡単にケンカしてしまう荒くれ達…とても大人とは思えない人達だ。もしかして栄養が偏っているからこんなイラつきやすいんじゃないだろうか、なんて思いつつ割って入る。

殴りかかった拳を受け流されて、たたらを踏んだ冒険者がオレを見て目をぱちくりさせる。

「えっ……?」

拳は触っても切れないから素手で受け流せて楽だ。これって剣の訓練と体術の訓練、ラピスの訓練の合わせ技だね!


「ぼーけんしゃさん、おなかしゅいて おこってるの?はやくならばないと、かえなくなっちゃうよ?はい、あーん。」

ちょっと恥ずかしい思いをしつつ、わざと幼い口調で戦意を削いで、二人の口に一口大にカットしたバゲットサンドを放り込む。

「!!」

「うめえ!」

二人は一瞬顔を見合わせると、サッと列に並んだ。

「パンに野菜と肉を挟んだだけで、なんでこんなうまいんだ…あの卵がまた味をまろやかに包み込んで…」

「なんだと?卵?そんなもん入ってなかったぞ?チーズだ、チーズの塩気が味を引き締めて…」

「チーズだと?!そんなもん入って…」

「「……まさか、中身が違うだと?!」」

おや、二人は意気投合したようだ。うん、バゲットサンドは1種類じゃないよ。お店で出すならある程度種類がないとね?とはいえ元々お肉がメインなんだし、今日すぐにメニューを増やすのは無理だから、お肉と野菜にプラスαの部分で多少変えているだけだ。


なぜか仲良くなったらしい二人が、違うメニューを頼んで半分こしようなんて相談しているのを微笑ましく眺めていると、遠くから声がする。

「うん?黒髪のちびっこ…あれユータじゃねえ?」

「あっ!そうだよ!おーーい!ユータ!」

今日はよく呼ばれる日だ。振り返ると手を振りながら走ってくる二人。遅れてついてくる小柄な一人。なんだかいつか見た光景だ。

「わあ!ニース!ルッコ!リリアナー!」

懐かしい3人の姿に駆け寄って飛びついた。

「よう!久しぶりだなあ!なんでここにいるんだ?」

「ニースたちこそ!ハイカリクにいるんじゃなかったの?」

確か一旦ガッターに寄るけどハイカリクに帰るって話だったはずだ。頬ずりするルッコにされるがままになりながら話を聞くと、ハイカリクには戻ったけど依頼の都合でまたこちらに来たらしい。なんでも、Dランクでそこそこ満足していたけれど、カロルス様の話を聞いて感化されたようで、積極的に依頼を受けてランクアップを目指しているらしい。


「そうなんだ!いっぱいお仕事して強くなった?」

「まあな!でもよ、この間ハイカリクのとこですげー戦闘があったらしいんだよ!戦ってる姿を見たやつがいてよ!上級の冒険者だって話だ。その痕跡だけでもスゲーもんでよ…俺達はまだまだだって思ったぜ。」

「えー!オレも見たかった!どんな冒険者なの?!」

「それが噂がバラバラでよ、貴族風のとびっきりの美人だとか、クールな執事風の男だとか、王子様みたいな美青年だとか、はたまた逞しくてワイルドな冒険者だったとか…。」

「……。」

オレ、それにピッタリ当てはまる人たち知ってる。

「そんだけ証言がばらつくからよ、そんな冒険者そもそもいなかったんじゃないかって言われてもいるんだけどな、俺はちゃんと戦闘の痕跡を見たからな!あとギルドに収められた素材があるからな。」

「…ねえ、戦ったのってもしかしてゴブリンイーター?」

「おう!お前も知ってたか。すげーだろ?一人で倒したんだってよ!」

「……うん、一人一体倒してた。」

「一人一体?複数いたのか?なんで知ってんだ?」

「逞しくてワイルドな冒険者…。」

「ああ、そう言ってるヤツも結構いて……うん?逞しくてワイルドな冒険者と、美人な貴族の女、美青年、クールな執事。……Aランク冒険者。」

「……うん。」

「うおおお!!マジ?あれカロルス様なのかっ!?すげー!本物だ!本物のAランクだ!!」

ニースが大興奮して暴れて、ルッコに取り押さえられている。

「本物のAランクとあたし達会ってたのね…感動だわ。……あら?ところでリリアナは?」

「あ!あんなところに。」

ちゃっかりバゲットサンドの列に並んで、もうすぐ買おうとしているリリアナを見つける。

「お前!いつの間に!?」

「ユータがいて、店が繁盛している。導き出される答えは…うまいもの。」

悟ったような顔で語るリリアナに、悔しがる二人が慌てて最後尾に並ぶ。すごい人気になっちゃったから1人1個までに個数制限しているんだ。


「ところでよ、そのカロルス様は?一緒に来てるんだろ?」

美味しそうにでっかいバゲットサンドを頬ばるリリアナを横目に、ジリジリしながら列に並んでいる二人。

「ううん!オレはひとりでおつかいに来てるんだよ!一人で生活する練習なの。」

「えっ?一人で?!大丈夫なの?随分厳しいのね…どうしてそんな練習がいるの?」

驚く二人に、学校のことを話すと、これも随分驚かれて、喜ばれた。ハイカリクでまた会えるなってニカッと笑うニースに、オレも嬉しくなってにっこりした。

「それとね、一人だけど一人じゃないの。隠密さんがいるんだよ。」

「……隠密。」

「うん!今もあっちで見守ってくれてるの。」

「……隠密の場所、分かるの?」

「えっ?うん、そりゃあ分かるよ!」

「かわいそうな隠密……。」

「苦労が偲ばれるぜ……。」

やれやれとため息をついて首を振る二人に、ちょっとむくれる。オレ、苦労かけてないと思うけど?順調におつかいをすませて、あとは無事に馬車に乗って帰るだけで……

馬車に乗って……


「ああっ?!馬車!」

急に慌てだしたオレにビックリする二人。まずい!もう昼過ぎじゃない?!馬車出ちゃうよ!

「みんな!馬車に遅れちゃう!またね!!」

「おっ?おぅ…?!」

大急ぎでお別れすると、まだまだ忙しそうなテント内に声をかける。

「カレアお姉ちゃん!ママさんとパパさん!オレ馬車に遅れそうなの!またね!!ごはん、ありがとう!」

「えっ?!」

「ちょっと!ユータちゃんっ?!」


急げ-!

大慌てで町の中を駆け抜ける!ハイカリクほどではないけど、ガッターはそこそこ人の多い町だ。人混みが邪魔になるので手近な屋根に駆け上がって、屋根の上を走って行く。これいいな!近道近道!


「セーフーー!」

馬車の停留所に駆け込むと、御者のおじさんはまだのんびりとお弁当を食べていた。そうか……ここは日本じゃないもんね、そうそうピッタリの時間に出発とかしないよ。むしろ大抵遅れている。

焦って損しちゃった。オレはホッと息をついて近くの段差に腰を掛けた。


「そろそろ行きますよーお乗り忘れはないですかー!バスコ方面ーバスコ方面ー!」

きっちりお弁当を食べ終えた御者さんが、ゆっくりお水を飲んでから出発の声をかける。護衛の冒険者さんは…うん、30代くらいの強そうな人達なので大丈夫だろう。


バゲットサンドってなんだかパーティっぽくて楽しくないですか!?

ディズニーに出てきそうな何枚重ねてるの?!ってサンドウィッチも食べてみたいですね!


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