108 卒業試験?
誤字報告ありがとうございます!
こんなに間違ってたんですね~!
「半生命?」
耳慣れない言葉に首を傾げる。
「ワシらは半分精神体、半分生命体という位置づけじゃ。ヒトは完全な生命体じゃの。精霊は精神体じゃ。妖精の中でも精神体と生命体の割合は様々じゃからの、生命体の割合が多ければたまに人から見られてしまうやつもおる。じゃから外へ行く時はこのように『隠密』しておくのじゃが……最近サボっておったの。」
「そうなんだ……大丈夫なの?」
「問題ないわい。生命体の割合が高いと力が強く、丈夫になるのう。」
そっか……良かった。そうだ、これがあればチル爺もカロルス様たちとお話することができるんだね!いつかみんなでパーティーとかできたらいいね!
「あーあ、せっかく妖精見えたのに……。」
「また見えるとおもうよ!」
「みたい?」「みせてもいいよ!」「ここにくるときだけね!」
ガッカリするセデス兄さんに、サービス精神旺盛な妖精トリオはすぐさま姿を表した。妖精さん…それでいいの……?
「おおっ!ありがとう!今度おやつでも持ってこなきゃ!」
「おやつ!」「あまいの!」「おいしいの!」
喜んでくるくる回る妖精たち。にこにこしたセデス兄さんも嬉しそうだ。
その間に、セデス兄さんに見られないようにこそこそとチル爺と小瓶を押しつけ合う。いらぬいらぬと言うチル爺に一瓶押しつけることに成功した。いらなかったら収納に入れておけばいいじゃない!使うかもしれないでしょ?
ほどなくして帰って行った妖精を見送って、ふと気付いた。
「ところで、セデス兄さん何か用事じゃなかった?」
「えっ?ああ、そうだ!あさってのことなんだけどね、あれこれやってる間にユータの入学も近くなってきたし、まだまだ早いと思えるんだけど…入学の日は待ってくれないからね。ここらで一つ卒業試験をしようかと思ってね!」
「……卒業試験?」
入学前なのに卒業とはこれいかに?
「ふふ、そんな大それた事じゃないんだけどね。学校に行くようになれば、ユータ一人で行動することが増えるでしょう?今まで他の町に行ってもいつも誰かと一緒にいたから、一人で行動できるかどうか試してみようってわけ。」
「えっ!オレ一人?!」
わーい!好きな所に行っていいの!?自由に遊べるの?!
「……嬉しそうだねぇ…ちっとも不安そうにないのが不安だよ……。一人って言ってもね、完全な一人だと何かあったら困るから、今回は隠密をつけるよ?でも、命の危機がない限りは出てこないし、本当に危険な時に間に合うとも限らないからね?自分の身は自分で守るんだよ?大丈夫かい?」
隠密の人がいるのか……下手なことはできないなぁ。でも、自由に行動はできるってことだよね!それは嬉しい!
「うんっ!大丈夫!」
「あー不安な返事。でもいつまでも一緒にいると、いざって時に困るもんね……。これも必要なこと…。」
飛び跳ねたくなる体を抑えつつ、具体的に何をするのか尋ねると、どうやら他の町までお使いに行ってきなさいっていう指令のようだ。
一人で!他の町まで!!オレのうずうずはもう限界だ。
「じゃあ、詳しいお話は明日するからね。あ、そうそうもうごはんだから下りておいでね?」
パタン、と扉が閉まった瞬間、ぽーんと後方抱え込み宙返りをしつつベッドへ着地する。
「聞いて!聞いて!一人で!町に!行くんだって!!わーー!」
興奮したオレは、ぴょんぴょんベッドで跳ねながら誰に言うでもなく声に出す。
「ピピッ!」「きゅう!」
ラピスとティアも楽しみ!と空中でパタパタ、ぽんぽんする。
夕ご飯時、すでにウキウキそわそわするオレを見て呆れる3人。
「もうちょっと不安そうにしてもいいと思うのだけど…私が寂しいわ。」
「あさってだからね?やっぱり直前に言った方が良かったんじゃない?」
「しかし万が一にも不安が大きかったら困るだろう。不安のカケラもなさそうだがなぁ。」
不安なんてないよ!幼児レベルができることでしょ?町中で踊れとか言われたら恥ずかしいけど!言われたことをするぐらい簡単簡単!
翌日、朝ごはんをかき込むように食べて、どうしても落ち着きのないオレ。先が思いやられると、カロルス様が深いため息をついた。
今は朝ごはんを食べながら、お使いの詳細を聞いているところだ。
お使いに行くのは初めての町、ガッター。村より大きいけれどハイカリクほど大きくもない町。一人で馬車に乗ってギルドへ手紙を届け、向こうで1泊して帰ってくる。普通の3歳児にはかなり難しいことだけど、6歳児にはできる。むしろこれができないと一人で生活はできない。飛び級する3歳児は凄いんだぜ!っていう所を見せないとね!
オレは初めての一人旅(?)に思いをはせて、瞳を輝かせた。
「お前の顔を見てると不安しかないな。」
カロルス様のつぶやきは、もうオレの耳には入ってこなかった。
落ち着かない一日を過ごして、さて準備しようと意気込んだのだけど届けるのはお手紙だけだし、正直用意するものなんてお金ぐらいで、それもロクサレン家から出していただくので用意はいらない。こっちの人は毎日服を着替えるわけでもないし、タオルは有料だけど宿で貸してもらえる。
持っていく物がない…でもまぁ収納にはいくらでも入るんだから、何か必要だった時のためにいっぱい持っていこう。大丈夫、収納魔法はバレないように気をつける!ちゃんと覚えてるよ。
まだ夕ご飯を食べたところだけど、早く寝たら早く明日が来るよね?もう寝てしまおうか…なんて考えつつ、肩掛けかばんの中身を出したり入れたりしている。
「お前……夜逃げでもする気か?」
呆れた呟きに部屋を見回すと、なんと言うことでしょう!部屋にほとんど物が残っていない!
「家具まで持っていくやつがあるか……いつ使うつもりだ。」
むにっと両ほっぺを引っ張られたのでぺちぺちと抗議する。
「だって、持っていっても邪魔にならないし。……何かあったときのため?」
頬をさすりながら口をとがらせると、ぺちんと軽いデコピンを食らった。
「お前はなぁ……無駄に高性能な所は極力隠せって。とりあえず今はな。もっとデカくなって自信がついたら見せびらかしていいぞ。何があっても机と椅子がどうしても必要な時はないだろ!タンスもな!お前は一人にすると碌なコトがないからなぁ……さあ、もう寝ちまえ。明日朝早いだろう?」
とりあえず家具を戻してお布団に潜り込むと、カロルス様がそっと頭を撫でてくれた。
「……。」
「…?」
わざわざ寝かしつけに来てくれるなんて珍しい。立ち去りがたく枕元に立っている姿は、オレよりもずっと不安そうに見えた。
オレはお布団をはねのけて起き上がると、カロルス様の首に飛びついた。硬い無精ひげがザリザリするのも構わずぎゅうっとすると、よしよしと頭を撫でてあげる。
「大丈夫!アリスは残ってくれるし、ラピスやイリスたちとティアがいるからね!ひとりぼっちじゃないんだよ。それに……危なくなったら戻って来られる、でしょう?」
「……はー、バレバレだな…情けない。お前……ちゃんと、戻って来いよ?」
カロルス様は少し肩の力を抜いて苦笑すると、一度オレの体に顔を埋めてぎゅっとしてから、お布団に寝かしつけた。ちょっとちょっと、お布団でそんなに抑えたらオレぺちゃんこになるよ!
「じゃーな、ちゃんと寝てろよ?」
「はーい!おやすみなさい。」
わしわし、と頭を撫でる手が嬉しい。オレはにっこりして目を閉じた。
「本当に大丈夫?ああ、怖いことがあったらどうすれば…!」
出発の日、今にも泣きそうな顔でオレを抱きしめるエリーシャ様が大丈夫じゃなさそうだ。オレは苦笑して細い体をぎゅっとする。
「こわいことがあったら戻ってくるから大丈夫!アリスがいるから何かあったら連絡とれるよ?」
オレには管狐ネットワークがあるから、とっても便利な携帯電話代わりだね!
「そう…そうね。連絡とれるもの…大丈夫よね。」
「母上は心配しすぎだよ…僕はどっちかと言うと何かやらかしやしないかと不安で仕方ないけどね。」
結局みんなして乗り合い馬車の所まで着いてきてしまって、他のお客さんが萎縮しちゃってるよ。カロルス様、他の人を睨まないで!馬車に乗るところから一人でするはずだったのに…もしかしてこれはオレの卒業試験じゃなくて、ロクサレン家のオレからの卒業試験なんだろうか……。
「あ、あの…よろしいでしょうか……?」
なかなかオレを離してくれないロクサレン家に、勇気を振り絞って御者さんが声をかけた。






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