107 回復薬のできあがり?
よし、お鍋に水と薬草を入れて、火にかける……と。
今回は薄かったら困るので2倍ぐらいの薬草を入れてみた。お鍋からこんもり薬草が生えている様子は、なかなか面白い。
大きなお鍋にたくさん突っ込んだので、中々沸騰しない。あんまり業火で熱してもダメだろうと思って調理場の火ぐらいの火力にしてあるし。
……チル爺はどこに行ったのか……蝶々を呼べば戻ってくるかな?
………じーっと鍋を見つめていてもそうそう変化はないし、退屈だ……。
作業台に肘をついてぼんやりと鍋を眺めていたら、ガクンと頭が落ちた。どうやらうとうとしていたらしく、慌てて立ち上がった。お鍋を火に掛けたまま寝ちゃうなんて危ない!…まあオレが寝たら火は消えるんだけど。
「んー眠くなっちゃう!何かこの間にできることはないかなぁ?」
―訓練する?
「お鍋のそばでやったら危ないよ。」
―じゃあおやつなの!
「おやつかぁ……ちょっと遅いけどいいか!」
収納からクッキーを取り出すと、ティアとラピスもテーブルに乗って待っている。小さなお皿を出してあげて、クッキーを1枚のせる。体と同じぐらい大きいと思えるクッキーにかじりつく様子は、いつ見てもすごいなと思う。食べたモノ、どこに入るのかな……?
いつものようにお水を並べて、ふと考えた。
「お水にちょっと生命魔法まぜたら美味しくなるけど、いっぱいいっぱい混ぜたらどうなるのかな?苦いのも美味しくなる?」
―回復薬なんだから悪くはならないの!やってみるの!
そっか!回復効果が増える分には問題ないもんね!よし、と意気込むと、鍋の中にどんどん生命魔法を注ぎ込む。限界まで注いだらどんな風になるのかな?ちょっと楽しみだ。
「おわーー!なんじゃこれは!!!ユータ!!お主何をした?!」
「これ、失敗?緑色にならなかったの……。」
燦然と輝く液体を前に、しょんぼりした様子のユータ。
「失敗とか成功のレベルではないわ!なんじゃこれはー!!」
「えっと……回復薬?」
「断じて違うわ!!!」
「どうして……?ちゃんと薬草とお水で煎じたよ??」
あああ……目を離した隙にとんでもないもんを作りおって!全く、何がどうなってこうなったのか説明してもらおうか!
「――って感じで作ったよ!間違ってないでしょう?」
「お主……最初から最後まで違うではないか……なぜそこでそんな納得できない顔をしているのか分からんわ!」
もはやこれは薬草がどうとか言うレベルではない……薬草が入っていようがいまいが、こんなに生命魔法を詰め込んでおれば、死者も驚いて起き上がるわ……。
「よいか、ワシはこれを見なかったことにするからの!お主はこれをどんな相手にも見せるでないぞ!」
「はーい。でもこれ、どうしたらいい?捨てちゃう?」
「なっ!ばっ!!ばっかもん!!そんな勿体ないことができるか!!」
ひしっと鍋にすがりつくチル爺。熱くない?
「そんなこと言ったって…使えないならいらないけど……。」
「使える!使えるから!ただ、効果が強すぎるのじゃ!!不用意に使えばとんでもないことになるじゃろ。そうじゃの……小瓶に分けてしまっておけ。回復薬に1滴垂らすくらいなら構わんじゃろう。よいな?回復薬を煎じるときは、生命魔法を使うでない!!よいな?!」
「はーい。これ、回復薬じゃないの?」
「これは……そうじゃの、お主が言っておったじゃろ、飽和生命魔法水、じゃの。それ以上でも以下でもないわい。回復系の薬品の効果を劇的に高めるじゃろうな。」
……そうさの、疑似生命を作るのにこれほど適したものもあるまい。お主ならば、悪い方には使うまいが…知らぬ方が良かろう。いたずらに悪しき者に狙われることもないじゃろて。
「小瓶に分けてもいっぱいあるよ……そんな1滴ずつ使ってたらなくならないよ-!チル爺にもあげるね!」
「いらぬと言うに…!」
「あまーい!」「おいしい!!」「おいしいよー!」
「「あっ……?!」」
しまった!!こやつらを忘れておった!
「ちょっと!?それ飲んじゃダメ!!危ないものだって!」
「いや危なくはないがの……。」
「ふわーいいきもち!」「おさけのんだチル爺みたいなきぶんー!」「あったかくてきもちよくてふわふわ!」
こっそり味見をした3人が、金色の光を纏う…ああ、勿体ない……。
「ねえ、ねえ!大丈夫?ごめんね、ごめんね!オレがこんなところに置いてたから…!」
「ユータ、どうしたの?」「いいきもちだよ?」「とってもおいしかったよ?」
泣きそうになるユータの周りをふわふわと飛ぶ3人。まあ、怪我もしておらんからどれほど絶大な効果があってもわからんの。
「みんな、大丈夫……?」
「なにがー?」「おいしかったよ!もっとちょうだい!」「このおくすりならのめるー!」
「最高級回復薬でもあるからのぅ。飲んでよくないことはないじゃろ。勿体ないがの。」
「そ、そっか……びっくりしたー。光、消えたね…よかったよ……。」
全く……こやつはまともなことができんのじゃろうか…記憶持ちはもっと落ち着いているもんじゃと思っておったがのう。
ちまちま、ちまちまと輝く液体を小瓶に注ぎ続け……当然ながらそんなにたくさんの瓶がなかったので、残りは土魔法の大きな容器に入れて収納に放り込んでおいた。これ1滴ずつ使うなら一生分ぐらいできちゃったじゃない……。チル爺が怖い物みたいに言うから、妖精たちが飲んじゃった時は本当に焦ったけど、よく考えたらオレいつも薄い生命魔法水飲んでたよ。ちょびっとで美味しいお水になるんだから、飽和するぐらい入れたらそりゃあ甘くて美味しいのかな。今度オレも飲んでみよう!光ったらマズイから人目につかないところで。やっぱりあんなに魔力を注いだら疲れるのかな?なんだか訓練した後よりぐったりだ。
コンコン!
作業台や使ったものを片付けていると、ノックの音がする。
慌てて土と水を処理したけど、入ってこないからマリーさんじゃないね。
「ユータ?入るよ~?」
セデス兄さんだ。もう夕食かな?
「ユータ、あさってのことなんだけど……?!」
部屋に入ったセデス兄さんが目を丸くして腰を低くした。おお、カッコイイ!咄嗟の戦闘態勢だ……右手が腰の剣を探してるけど、家の中だもん、帯剣してないよ?何かあったかと振り返ってみたけど、何もない。
「なあに?どうしたの?」
「ぁ…ユータ……ごめん、びっくりして。そちらが妖精さん?」
戦闘モードを解いたセデス兄さんが、オレの肩あたりを見る。
「あれ?」「あれれー?」「みえる?みえるのかな?」
ふわふわと飛ぶ妖精トリオの軌跡を追って、セデス兄さんの視線も動く。
「わあ!セデス兄さん、妖精見えるの!?」
「うん、うっすらだけど見えるよ!こんな姿だったんだね。かわいいな。」
「なぜじゃ…?おい、そこのお主!ワシも見えるか?!」
セデス兄さんはチル爺の方は全く見ないし反応しない。
「チル爺がお話ししてるよ?」
「えっ?どこ?3人しかいないよ??」
「ふむ……声も聞こえんか。ならば、あの飽和水のせいじゃろうな。」
「えっ!それ大丈夫?見えちゃったら人に狙われたりするんじゃない?」
「そうじゃの。お主ら、『隠密』じゃ!できるのう?」
「かんたん!」「できるー!」「みてて!」
3人の姿が少し薄くなっていく。でも、姿はちょっと淡くなったけど光が残ってるから居場所はばっちり分かる。
「あれっ?消えちゃった……。」
「?光ってるの見えないの?」
「光?妖精は見えたけど光なんて最初から見えないよ?」
「そこな青年は妖精が見えるようになったわけではないからの。生命魔法で妖精の生命としての側面が強化されて見えるようになったのじゃろう。ワシらは半生命じゃからの。」






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