104 調合と訓練
「チル爺、はかりもつかうよ!」「そそぐとき、おたまも!」「えーとえーと、あじみのスプーンも!」
「回復薬まで味見するのはお主ぐらいじゃ!」
もしかして妖精トリオも調合できるんだ!
「できるよ、できるよ!」「かんたん!」「あんまりおいしくはないの!」
「まあ、こやつらができるのは初歩の初歩じゃからの。」
そっか、妖精は調合もみんなが習うんだね。薬草はいっぱいあるんだし、後で教えて貰おう。道具は・・大体調理場にあるし土魔法で作ってもいいね。
「まずはどうするの?」
「うむ、まずは手と容器、薬草をよく洗うことじゃ。コツは薬草の洗い方じゃな。成分が抜けないよう優しく水に浸して洗うのじゃ。水も綺麗な水がよいぞ。魔法で出した水がよく使われるの。」
そうだね、まずは容器の滅菌と手洗いの徹底大事だね!薬草は優しくか・・お野菜洗うときは結構乱暴に洗ってるから気をつけないといけないね。メモをとりつつ真剣に話を聞く。
「あとは煎じればよいぞ。量は適当じゃ!目安は水1:薬草1じゃ。これより薄いと効果も薄くなるの。じゃが濃く作ったからといって効果が上がるわけではないのでの、使いすぎると勿体ない上に苦い。ただそれだけじゃ。初心者のうちは濃く作るのが常套手段じゃて。」
「そうなんだ!いっぱいあるから濃く作ってみるよ。ところで、煎じるってどうやるの?」
「なんじゃ、煎じ方も知らんのか!」
「あのねー、おなべにおみずいれてー」「やくそういれて、ひにかけてー」「ぐつぐつするの!みどりいろになるまで!」
「まあ、概ねそんな所じゃ。薬草を水から煮出して、濾したらよい。ワシらの量じゃとすぐじゃからのう・・・ヒトの量だと時間がかかるだろうの。緑色が濃く出て、葉の色が茶色になればよい。」
「それで濾したらどうするの?」
「なにも?瓶に入れて終わりじゃ!」
「えっ?!それで出来上がり?簡単だねぇ!」
「かんたんだよー!」「しっぱいしないの!」「でもめんどくさいのー!」
ああ、確かに。簡単だけど毎回こうやって回復薬作ってる作業時間って勿体ないし面倒になるよね……値段によるけど、時間を買えるなら安いものかもしれないね。
ただ、出先で回復薬がないときとか……あ、オレ普通に魔法で回復できるなぁ。周囲に魔素があれば魔力が枯渇するってこともないだろうし。あれ……回復薬作りってもしかしてオレにとってムダ知識?いや、ほら、知識はあって損はないし……だって、ねえ?やってみたいでしょ?回復薬作りなんて憧れるよねぇ?!
「チル爺ありがとう!後で一緒に作ってみようよ!」
「ふむ、まあよいが……そう教えることもないじゃろうて。」
―コンコン、ガチャ!
「ユータ様……あら?もう起きてらしたのですね、おはようございます。」
「おはようマリーさん!妖精さんが来てたんだよ!」
「まあ!今もいらっしゃるのですか?……いつもお世話になっております、どうぞユータ様をお守りください……。」
マリーさんに教えてあげると、マリーさんは神様を拝むように手を組んで祈りを捧げた。チル爺はちょっと照れくさそうにうむうむと頷き、トリオたちがもじもじとした。
朝ご飯をすませたら、今日はセデス兄さんとお稽古だ。
数回打ち合って指導を受ける様子を、妖精たちが興味津々で離れて見ているのが可笑しかった。何も面白いことはしないと思うよ?
「ユータは騎士になりたいとは思わないのかい?男の子の憧れだよ?」
「騎士様はカッコイイけど……召喚できる騎士ってなんだかおかしいでしょう?色々なことが決められてるところは、オレ生活しにくいと思って。」
「うわ、すっごく納得できるね。確かにユータには合わなさそうだね、規律が多いしあっという間に色々破りそうだ。それで才能もあるとなったら、疎んじられることもありそうだもんね。その点冒険者はあくまで個人だからねぇ。自分の命の責任も自分にかかってはくるけれど。ただ、疎んじられるのは冒険者も同じだし、規律がゆるい分何をされるかわからないのも冒険者だよ?本当に実力をつけておかないといけないね。」
そうか、いろいろできるとヤキモチをやく人もいそうだもんね。執事さんが言ってた実力を示せ!っていうのが必要になってくるのかな。それって隠さなくても良くなるってことだからある意味楽になるかも知れないね。
「ユータも一通りできるようになってきたし、実践的な内容を入れていってもいいかもしれないね。」
「ホント?!やったー!」
小躍りするオレを見て呆れた顔のセデス兄さん。
「そんな嬉しいことかな?実戦形式だと痛い思いもたくさんするよ?キツイこともたくさんあるけど頑張れるかな?」
「大丈夫!多分ラピスの方がきびしいよ!」
「きゅうっ!」
心外な!とほっぺをぺしぺしする小さな手。心外じゃないよ!めちゃくちゃ厳しいから!回復しつつ動けなくなるまで訓練するって相当だから!!おかげでこんなに身軽になったワケですが。
「そ、それでこの身のこなしなんだね……うん、ユータは避けるのが格段にうまいから、そこを伸ばしていこうね。騎士じゃなければ剣にこだわる必要はないから、攻撃は魔法を使ったり召喚獣を使えばいいからね。もっと体が大きくなったら剣にももっと力がのるよ。」
「うん!大きくなったらセデス兄さんみたいに戦えるようになる!」
「……あっという間に追い越されそうで怖いよ……もうちょっとゆっくり成長していいんだよ。」
セデス兄さんに連れられて、訓練場の方へ移動すると、兵士さん達も訓練しているところだった。
「セデス様、今日はどうしました?」
「うん、ユータも訓練に入れて貰おうかと思ってね。」
「えっ?ユータ様を……??」
「そう。甘く見ないでね?僕と父上、母上、マリーさんとグレイがみっちり教えているからね?普通の環境に置いてあげることも必要かなと思って。それに最近多数相手の戦闘訓練に力を入れてるでしょ?それを教えたくてね。」
3歳児が兵士の訓練に入ることは決して普通の環境ではありませんが……。賢明にも喉まで出かかった言葉を飲み込んで、リーダー兵は承諾の意を伝えた。
兵士さんと一緒に訓練できるの!?うわあ本格的な訓練だ!にこにこそわそわするオレをちらちら遠巻きに見る兵士さんたち。
「あの、訓練に入れるとは、どのように……?見学をなされますか?」
「ううん!普通に大人の兵士と同じだと思って接してくれて構わないよ!社会に出た時の訓練にもなるから、応募してきた一般兵だと思って。」
「し、しかし……ユータ様はまだ3歳ですぞ?訓練なぞできんでしょう……?怪我をされますぞ。」
「ユータは避けるのがバカみたいに上手いからそうそう怪我はしないよ。体力もあるし理解力もあるから、問題ないよ。何かあっても責任は僕がとるから大丈夫。」
「いや、しかしですな……このような幼子を……。」
リーダーさん、いい人だな。確かにオレに向かって打ち込むのはイヤだろうなぁ。
「あのね!オレ、冒険者になるの。もうすぐ学校も行くんだよ!だから、何かあってもじぶんで身を守れなきゃいけないんだ。いたくてもつらくても大丈夫だから、教えてください!」
「なんと……!噂には聞き及んでいましたがこれほどしっかりされているとは……。ユータ様は訓練をされたいのですね?」
「うん!オレがおねがいして訓練してもらってるんだよ。」
「そうですか……分かりました。ユータ様の望みであれば、できる限りの協力を致しましょう。」
「ありがとう!!」
にこっとしたオレにリーダーさんは苦笑した。
「……僕、ユータをいじめてる人に見えたの……?」
ちょっと離れていじけるセデス兄さんを慰めておかないとね。






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