1054 実況中継
「シロ、今どんな状況?!」
『今、頂上に到着する手前くらいでね、冒険者さんが蜂さんを切っちゃった。それで――えっと、今、先に行っていた人に向かって走って……あ、また蜂さんを切ったよ』
なんとか……なりそうかな?
多分、悲鳴を上げた人は純粋に連れて行かれたんだろうな。落ちたみたいだし。
残りの人も、それを真似て蜂トカゲに運ばせて追ったってところかな? 死んだふりでもしたんだろうか……一か八かだね。
「一人が蜂から逃げられたなら、大丈夫かな?」
さすがにBランクなら、なんとかできるだろう。
「もういいのか?」
ホッとしてスピードの緩んだオレの上を、タクトが軽々飛び越えていった。
「ううん、見守りは必要だけど、近接戦闘員が一人解放されてるみたいだから」
「そうかー」
不謹慎と分かっているのだろう。それ以上何も言わないけれど、少々残念そうな顔が隠せていない。
ラキを背負ってぐんぐん駆け上がっていくタクトのせいで、いっそう道が削れていく気がする。
ちなみに落石もガンガン落ちて来ている。ここだけ見たら天変地異もかくやという惨状だ。そのうち、全体が崩れたりしないだろうか。
頂上まであと少し、というところで振り返って苦笑した。
この道、もう帰りは使えないんじゃないかな。
ちなみに、頂上からは火口部分に向け、採掘のためにすり鉢状に深く掘り下げているはず。
「ねえ~、見守り任務ってどの段階で手助けする~?」
先に到着したタクトたちが、一応身を潜めて冒険者さんたちを眺めている。
ラキの不吉なセリフに、えっと声を上げてスピードを上げた。
「あ……思ったよりも大丈夫じゃない感じ……」
覗き込んだすり鉢の下、蜂トカゲの死骸があちこちに転がる中、剣士さんが蜂トカゲに囲まれつつ一人奮闘している。
足元には、座り込んだもう一人と、倒れている一人。
慌てたけれど、気配を探っても、大怪我や危機的な状況ではなさそう。
そもそもシロが見ているのだから、そんなことがあれば助けに入るはず。
「なーんか動きが鈍いんだよな。多分、なんか変だぞ」
「変ではないんじゃない~? リザーヴェスは麻痺毒だから~」
「えっ、毒を受けちゃってるってこと?!」
「そりゃそうでしょ~。獲物として運ぶんだから~」
ど、どうしよう?! 解毒しようと思ったら、出て行かなきゃ……。
一か八かどころか、割と分の悪い賭けだったのでは?!
「麻痺しちゃったらどうにもならないじゃない……どうするつもりなんだろ」
「仲間助けるには、それしか選べなかったんじゃね? 多分、アレ身体強化系だし」
「なるほど~? 毒に勝てると思ったんだね~実際、かろうじてなんとかなってそう~」
ぽん、と手を打った。そうか、カロルス様なんて大体の毒は無効だし!
でも、残りの二人は? と注目していると、座り込んでいる人が、不自由そうな体で必死に荷物を探っているよう。
が、がんばれ……!! 多分、荷物に解毒薬類があるんだろう。そりゃそうだ、リザーヴェスと戦闘になるのが分かっていたんだから。
手に汗握るとはこのこと。
「じ、じれったい~~! あ! 何か瓶を取り出した!」
「飲めるか……? 誰が飲む?」
その間にも、剣士さんは一人でリザーヴェスを相手取っている。あの人が今、手を止めて飲むのは無理だろう。ふらりと傾いだ身体にヒヤッとして、振り上げた剣にホッとする。
剣士を見上げて迷う素振りをした人が、くいっと瓶を呷る。
「あ、自分で飲んだね~!」
「よしっ! よくもった! イケるぜ……!!」
交代、とでも言ったのだろうか。ぐしゃりと崩れ落ちた剣士さんと入れ替わりに、座っていた人が立ち上がる。その手には、杖。
「魔法使い――お、結構すげえ!」
「さすがはBランクだね~」
ひゅうっと3人を取り囲むように風が舞ったかと思えば、周囲のリザーヴェスが凍り付いて地面へ落ちた。多数相手は、やはり魔法使いが強い。
渡された瓶を呷った剣士が、倒れた人を抱えて走る。
そして、詠唱を完成させた魔法使いが杖を振った。
「おお! ユータのソージキー激弱版みてえ!」
「多分、結構すごいんだけどね~。ユータがいるとね~魔法使いへの風評被害がすごいよね~」
……それ、二人も自覚した方がいいと思うんだけど?! 身体強化ってフツーああじゃないし、加工師ってフツーこうじゃないよね?!
なんて言ってる間に、すり鉢の中で渦を巻いた風が収まってきた。
「あれっ?」
舞い上がった土煙が消えたそこに、いたはずの3人が見当たらず首を傾げる。
「人数は少ないけど、中々いいパーティみたいだね~。なんとかなったじゃない~」
「やるな! ちゃんと救出成功したじゃねえか!」
よくよく見れば、すり鉢の一角に不自然な出っ張り。
壁面のくぼみを利用する形で、かなりざっくりとした土壁を使った隠れ家……かな。隠れ身の術、なんて言葉が頭をよぎる。
そこに身を潜めた3人が、順調に回復しているのが分かる。
大切なんだな、回復薬や魔法薬。オレたちも持ってはいるけれど、オレがいるので使ったことがない。
ただ、この時点でこんなに使ってしまって大丈夫だろうか。普通のパーティはどのくらい持っているもの?
倒れていた一人も無事に起き上がって、何やら労いあっているのが分かる。
「仕切り直しできそうだな!」
「もう大丈夫かな? でもこれって、突入の後、オレたちうまくついていけるかな?」
なぜなら、パーティの目的は……このリザーヴェスの巣の中。全員が回復できた今なら、きっと問題ないだろう。
だというのに、3人は何やら真剣な顔で話し合っているよう。
「うーん、聞こえない。シロ、聞こえる? 内容をオレたちに伝えられる?」
『ちょっと待ってね……うん、聞こえるよ! どうしよっか、って言ってるみたい』
何か、問題発生だろうか。耳を澄ませるオレたちに、シロからの通信が入って来る。
『えっと、何とかのお薬がなくなっちゃったねえ、心配だねえ。』
うん、一気にほのぼのした。
シロのトーンで聞くと、全くもって問題には聞こえない。
『どうしよっか、やめちゃう? ……ううん、帰るために行くしかないよ~って言ってるよ! 行くしかないから、頑張ろっか! って』
そっか~。ほっこりするなあ。
……絶対違うよね、その雰囲気。多分、あれだよね。魔法薬が残り少なく……でもここまで来た以上進退窮まってる感じ? どうやら、突入方向で話が進みそうだけれど。
殺気立ったリザーヴェスの飛び回る中、無事に下山は相当困難。なら、どっちにしろ巣を叩くしかない――かな。
『みんなでぎゅっとしてね、頑張ろうね、エイエイオー! みたいな感じだよ』
いやあ、多分、無言の抱擁を交わしてるんじゃないだろうか。生きて帰れないかもしれない……みたいな。
すごく温度差のあるシロ実況を翻訳しつつ、オレたちは顔を見合わせる。
「巣の中で見守るって、結構難易度高くねえ?」
「相手がリザーヴェスで、Bランク冒険者なら一撃必殺でやられちゃうことはないだろうけど~」
「すっごく警戒するだろうし、後をつけるのも難しいよねえ」
ここは、ラピスにお願いするしかないか……。いや、どっちがリスクが高いのか。
「あ、じゃあ僕たちが先に入っちゃうのは~? ある程度の危険を排除しながら先に進んでいる方が、きっと気付かれにくいよ~」
「確かに! 近づいてくる気配ってすげえ分かりやすいけど、遠ざかっていくのは気にならねえ!」
「なるほど?!」
『じゃあ、僕はちょっと離れて、後ろからそうっとついていくね!』
完璧だ! オレたちは頷き合うと、冒険者パーティが覚悟を決めるより早く立ち上がったのだった。
最近どうにも腰が重くて遅刻しがち……
がんばります!!






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/