96 ゴブリンイーター
んんー助けるって・・?
・・えっ・・・助ける?!
思わずがばりと起き上がったら、ころりとラピスが転がり落ちる。
「きゅきゅっ?」
「ら、ラピス!その人達助けないと危ない感じなの?!」
―え?うん、ラピスあんまり分からないけど、たぶん?ゴブリンイーターの方が強そうに見えたの。
そ、それはマズイ!のんきにごはん食べて寝てる場合じゃないよ!
「か、カロルス様!森の方で冒険者がおそわれてるみたい!ゴブリンイーターって知ってる?それが2匹!ラピスは冒険者よりゴブリンイーターの方が強そうって。・・・ん?ゴブリンイーターってヒトも食べるの?」
「んむっ?!ゴブリンイーターか、まぁ下っ端冒険者にはキツイ相手だな。もちろんヒトも獣も食うぞ。よくゴブリン食ってるからそう呼ばれるだけだろ。よっし、腹ごなししてからのんびりだ!」
「魔物!よーし今回は僕が行くよっ!」
「私だっていいとこ見せたいんだからー!」
「母上はこないだ見せたでしょ!僕ぜんぜんなんだから!」
もぐもぐと口に詰め込みながら森の方へかけ出す面々。誰が倒すかもめているらしい・・頼もしいことだ。
「イリス、ウリス、先に行って冒険者を見守ってて!本当に危ない時は助けてあげて。」
「「きゅ!」」
ぽぽんと現われた管狐がシュピッと先行する。
「ではお茶でも入れてお待ちしてますので。ユータ様も行く必要ありませんよ?」
執事さんはここで荷物番?をしてくれるらしい。あ、そうか・・確かにオレも行く必要はないな。でも行くよ!ゴブリンイーター見たいし!
みんな走るの速い速い!懸命に走るけどとてもじゃないけど追いつけない。気付いたカロルス様がサッと戻ると、オレを引っつかんで小脇に抱えてくれたので、なんとか置いて行かれずにすんだ・・でも「おっとカバン忘れるとこだったぜ」のノリで掴んで行くのはやめてほしいな・・振り回された視界がぐわんぐわんする。
オレたちが森に着くのと、森から冒険者がまろび出てくるのが同時ぐらいだった。
「う、うわああ!」
「いやぁ!たす、助けて!!」
バキバキと猛烈な音をたてて、森の奥から迫っているであろうゴブリンイーター。
「おう、助けてやるからそっち行ってな!」
カロルス様が森の方へかけ出すと、ぽーいとオレを後方へ放り投げて叫ぶ。今回は3回転2回ひねりがきれいに入ったので10.0をマークした。
「こっち!こっちにきたら安全だよ!」
ほとんど錯乱状態の冒険者に大きく手を振って飛び跳ねてみせる。
必死の形相でよたよたとオレのところまで来た二人は、安堵したのか崩れ落ちた。20代くらいの男女だけど・・確か4人いたはず。あちこちに傷があるが、命に関わるものではなさそうだ。
「だいじょうぶ?ほかの人は?」
「くそ・・あいつら、残りやがった!」
「わた、わたし達を逃がそうとして・・お願いよ、まだ二人いるのよ!!」
顔をぐしゃぐしゃにして泣く女性に、とりあえず布きれを渡して背中をぽんぽんしてあげる。
「だいじょうぶだよ!すごくつよい人たちが行ったからね、絶対助かるから!」
「本当・・?でも、でも怪我して・・・。」
「お薬も持ってるから怪我も治せるよ。心配しないで。」
そう言いながら二人に向かって瓶に入った液体を振りかける。
「・・・あ・・。」
「これ・・上級薬じゃないのか?俺達じゃなくて、あいつらに・・!!」
癒えた全身の傷に目を丸くする二人。ちなみに瓶の中身はただの水だったりする。執事さんから教えて貰った作戦なんだ、回復魔法を誤魔化すためにいつも瓶を持ち歩けって。これなら回復薬に見えるから疑われることはないもんね!さすが、頭いい!!
「いっぱいもってるから平気。からだは大丈夫?」
「え、ええ・・でも・・。」
「あ・・その、ありがとう。」
「ユータちゃーん!私はこないだ戦ったからダメって言われたのよ!ヒドイじゃない?!」
エリーシャ様が大の大人2人小脇に抱えて走ってくる・・扱いが雑だ・・引きずられた足で砂埃が舞っている。
「えっ・・・?!貴族様?えっ??」
「え・・?なんで?」
あ、2人が自分の目を信じられなくなってる・・大丈夫、見えてるものが真実だよ!そんなにこすっちゃダメだってば。
オレの前まで来るとどさりと2人を置いたエリーシャ様。若い男女の視線がエリーシャ様と置かれた2人の間をせわしなく行ったり来たりしている。分かるよ、頭の中がハテナになってるよね・・でもとりあえず気にしないで!
「森の中じゃユータちゃんから見えないから、表まで引っ張ってくると思うわよ?とりあえず回復したら、あっち行っときましょ。」
「ゴブリンイーターって大きいんでしょう?森の外に出てきたら大騒ぎにならない?」
手早く瓶のお水を振りかけて回復しつつ尋ねる。ガタイのいい男性2人の冒険者は、そこそこ深い傷を負っていたけど命に別状はない。気を失ってるのはエリーシャ様が小脇に抱えてきたからじゃないよね?
「あら、ゴブリンイーターよ?たいしたことないと思うんだけど・・でも、そうね?図体は大きいから街道が騒ぎになるかもしれないわね。ちゃちゃっと片付けるように言っとかなきゃ。」
「・・・・。」
そのたいしたことないヤツに食べられそうになってた人達が、エリーシャ様を見つめてぽかんとしている。
「さ、グレイの所まで戻りましょう。大きいから離れてても見えるわよ。」
買い物かごでも持つような気軽さでゴツイ男たちを抱えたエリーシャ様は、スタスタと歩き始めた。
「いくよ?そこにいたらゴブリンイーターでてくるよ?」
呆然としていた若い2人は、ビクリと体を震わせると慌てて着いてきた。
「え、あの、どうなってるの??あなたたちは、貴族様・・よね?」
「あのきれいな女性って一体何者なんだ??俺だってあんな風に抱えて歩けないぞ・・。」
「え、えーと。気になるなら本人にきいてみて!」
「な・・なんか聞かない方がいい気がするんだよ・・。」
おや、危機察知能力が高いね!うんうん、そっとしておく方が無難だと思うよ。
バキバキィ!ドドォ・・
グググゥー!
一際大きな音が響いて森の方に振り返ったら、大きな黒っぽい・・オオサンショウウオみたいなヤツが森の外へ吹っ飛ばされてきた所だった。うわあ・・大きいな!大型トラックほどあるよ!!こんな大きなのどこで生活してるんだろう・・。ゴブリンだったら結構いるらしいから食べ物には困らないのかな。
「きゃあっ!!」
「う、うわあ!!」
若い2人がゴブリンイーターの姿を見て恐慌状態に陥りそうだ。
「大丈夫!ここでみていく?」
オレだってあんなでっかいのが近くにいたら怖いけど、カロルス様が戦ってるなら大丈夫だ。2人の服を掴んで、にっこり笑うと努めて落ち着いて振る舞ってみせる。
「なに?何を・・?に、に、逃げないと・・!」
ガタガタと震える2人は逃げようにも足が笑ってしまっている。ぽんぽん、と優しくあやすように叩いて、少しだけティアの魔力を流す。
「ドラゴンをたおせる人が戦ってるんだよ、しんぱいしないで。ここ、とくとうせきなの!いっしょに見よっか?」
「ドラゴンを・・倒した、人?」
「ちょっとーー!2人ともぉー!街道から見えるから、ちゃちゃっと片付けてちょうだーい!」
執事さんの所まで先に行っていたエリーシャ様が、男性2人を置いてこちらに戻ってきた。戦う2人に忠告してくれたので手早く片付けてくれるはずだ。
ズズーーン!
鈍い音と共にもう一匹が森から転がり出てきた。巨大なゴブリンイーターが2匹もいるとなかなか壮観!縮尺が狂いそうだ。
特に気負った様子もなく、スタスタと森から出てきた2人は何やら相談中?
ちょっと!先に吹っ飛ばしたヤツが怒って何かしようとしてるよ?!
美味しくなさそうなゴブリンを食べる貴重な生き物・・・?






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