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もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


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1053 見守り開始

「よっ――なんか、思ってたのと違うんじゃね?」

軽く跳んだタクトが、オレたちの上に影を落とすそれを払いのけた。

ドガッ、ととんでもない音をたてて軌道を変えた岩が、遥か下へ落ちていく。

人間の身体構造の神秘……まあ、マリーさんたちに比べたら、まだタクトの方が理解はできるかもしれない。

「危険は危険だけどね~」

「すごく、嫌な方面で危険だね……」

ひそひそささやき合って、足元を見て、上を見た。


すごく、危険……ではある。

でも、違うよね?! オレたちが望んでいた方面とさ!

人一人がやっとというか、ギリアウトと言うべきか、そんな細い棚状の足場が、かろうじて崩壊を免れて頂上まで続く岩壁。

そして、些細な衝撃でひっきりなしに落ちてくる落石。いや、衝撃があろうがなかろうが、きまぐれに落ちては来る。

オレたちはタクトがいるし、シールドも張れるし、シロもいるけれど。でも、一般の冒険者はどうやって進むの? Bランク以上推奨の場所だから、パーティに1人、タクトみたいな重機がいるのかな。それとも、以前見たAランクパーティみたいに、盾で防げるんだろうか。


「僕、普通に石で死んじゃうな~」

「ラキは、大丈夫じゃない? ちゃんと上を見て、落ちてくるのを全部撃てば?」

「あ、そっか~。でも、砕けた破片でも当たったら痛いし、足を滑らせたら大変~! タクトなら落ちても大丈夫だしね~」

「俺だって、落ちたら多分痛えけど……」

痛いですむ時点で、問題なさそうだ。

ちなみに、タクトは拾いに行かないけど、ラキが落ちた場合はシロもしくはモモが活躍するから大丈夫だよ。

念のためにラキの頭にはモモ、肩には蘇芳を装備している。完璧な布陣だ。


オレたちはシュランさんに聞いたその足で、お守り……じゃなくて見守り任務に就いている。

既に数日前王都を発っていたパーティだったけれど、シロの脚なら何の問題もない。

オレたち以外ならどうしたんだと思ったけれど、ここへ来て察した。見守りを依頼するような実力あるパーティなら、ここで追いつける。

現に、見守り対象パーティは中々亀のような歩みで、岩壁の途中で日が暮れるだろうなと心配しているところだ。


「これで大丈夫なのか? 何日ここにいるんだよ……途中で休憩してんの?」

「シュランさん情報によると~、途中いくつか休憩ポイントがあるみたいだね~」

それはそうか。だってそもそも、ここは元採石場だもの。普通の人が行き来できなければ困る。

元々は、もっと通路も広くて岩壁もこんなに脆くはなかったみたいだけれど。

「ちょっとでも、『保水石』残ってないかな~?」

「やっぱり珍しいの?」

「そりゃあね~! 輸入品はあるにはあるけど、高いから~」

たっぷり水分を含むという、不思議な性質を持つ保水石。ここは、それが採れる場所だったみたい。

つまり、今はもう採れない。そして、分かりそうなものだけれど……保水効果の高い石を散々採ったせいで、周囲の岩壁は非常に脆くなったらしい。

目をぎらつかせながら岩壁を眺めているラキに苦笑した。多分、こういう人が大挙して押し寄せたから、こうなったんだろうな……。


「保水石って、見て分かんの?」

「僕も見たことはないけど~、暑い地方の高級建材として使ってたらしいよ~。ちょっとの刺激で水が滴るくらいだって~! 面白いよね~!」

「面白いけど……それって、オレが見てもきっと分かんないよ」

見守りパーティも、あわよくば保水石の確保を狙っているけれど、まあ難しいだろうというのが現状らしい。

「で、本命はどうなんだ?」

「それは、多分行き着きさえすれば、簡単じゃないかな~? 生息しているのは間違いないみたいだし~」

「じゃあ、なんで俺ら呼ばれたんだよ」

行き着けないから、じゃないかな。

タクトにとっては、小石が落ちて来て鬱陶しい道かもしれないけど。一般人だと命の予備はいくつあっても足りない。


「道のりもあるし~、あと……『辿り着ければ簡単』だけど~この場では違うんだよね~」

フッと一瞬日陰になって、影が通りすぎた。見上げたラキが、にっこり笑う。

「たとえ相手が何であっても、脅威だよね~。こんな足場で、あんな落石だとね~」

ああ、確かに……。だからこそ、ここに住んでいるんだろう。

ビビビビ、と響く羽音が遠ざかっていく。ちらりと見えた姿は、オレと同じくらいのサイズの……なんだろうな、蜂とトカゲが混ざったような生き物。

禍々しいというほどでもなく、トゲやらツノやらがあるわけでもなく、さほど固そうでもない。

魔物の中では、飛んでいるというアドバンテージ以外に大した能力もない部類。平地での戦闘なら、Bランクが苦戦する相手じゃないだろう。

 

――ユータ、標的に別の標的が接近中なの! どっちを攻撃するの? 

「ストップストップストップ!! ノー攻撃! ダメ絶対!!」

思わず片言で叫んで、ドカンドカン落石を呼んでしまった。でも、それどころじゃない。

「攻撃ダメ! 岩壁が崩れるからね?! そして冒険者パーティは標的じゃ……いや、監視任務としては確かに標的なんだけども!」

「ひとまず、そんな悠長なこと言ってる間に~」

ラキのゆったりした発言を裂くように、悲鳴が響いた。

「ああ、そんな声を上げたら――なんて言ってる場合じゃないよね?!」

「けどさあ、どこまで手伝うんだ? あんま手ぇ出したらダメだろ?」

それはそう! 実力がつかめなくなっちゃうしね?! あと、普通に依頼の横取りみたいになっても困る。

「とは言え、落ちちゃったらそれどころじゃない! シロ!!」

『うん! 僕、落っこちたら拾うね! 下にいればいいかな?』

さすがシロだ。頼りになる。

その白銀の背中を見送り、やれやれと安堵したところで、ラピスの中継が入った。

 

――標的が、標的を攻撃中なの。いっぱい来たの。石と虫でわちゃわちゃしてるの。あ、標的の一部が落ちそう……落ちたの。

「えええ? もう?!」

欠片も助けようという気概の見られないラピスに、シロを派遣しておいてよかったと胸をなでおろした。いや、ラピスが助けようとすると、辺り一帯が助からない可能性が高いから、これでいいのだけど。

「シロ、大丈夫?!」

『うーん? 僕、どうしたらいいかな? 蜂さんが、上まで運んでくれるみたいだよ』

困惑したシロの声に、オレも首を傾げる。

「上まで乗せていってくれてるの?」

『えっと、抱っこして上に行ってくれたよ。他の人も、それを見て真似してる』

うん……? どういう状況?


「エサ認定されて、巣に運ばれてるんじゃない~? あんまり賢い魔物じゃないし~」

「なるほど……? じゃあ、一気にショートカット狙って? 凄いね!」

「だったら悲鳴上げないんじゃね?」

……それはそう。不幸中の幸いってやつかな? なら、オレたちも急がないと。

「オレたちも頂上まで行こう! 走るよ!」

「僕無理~。シロはいないし、タクトに乗るよ~」

「俺は乗り物じゃねえ!」

「シロだって乗り物じゃないでしょ~?」

うん、そこで『確かに?』なんて納得しているから、タクトはタクトなんだよ。

 

向こうのパーティはシロがいるから、大丈夫のはずで……ラピスがいるから、大丈夫じゃないはず。

とにかく、早く行って事態を収拾しなくては!

『それは、あなたによる危機よね』

『五分五分なんだぜ!』

オレたちは必死に駆けて、なんとか岩壁が無事なうちに頂上を目指したのだった。


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