1044 久々の工房
朝の光に目をしょぼつかせながら、すっかり身支度を終えている二人を見上げた。
「二人は今日も工房に行くの?」
ついでのように起こされて、何となくオレを待っている雰囲気なので仕方なく着替え始める。
「そうだね~! 僕はもちろん。ユータも今日は行くんでしょ~?」
「俺も、一旦は行くかな。なんかほしい素材がどうとか言ってたからな」
もそもそ着替え終わった途端に、ぽいと放り投げるように背中に乗せられた。ぬくぬくの背中は、きっと鍛錬もすませた後なんだろう。
なんとなく、また広くなった気がする背中に悔しくなりながら、うつら、と意識を溶けさせる。
オレの睡眠欲は、いったいいつまで強いままなんだろうか。そろそろ、オレ離れしてほしいのだけど。
「――きゃああ! 久々のユータくん~~!!」
耳を貫く声と共に体が浮いて、びくっと目を開けた。
いつの間にか周囲は色んな音と特有の匂いに包まれ、ついでにオレはサヤ姉さんに包まれている。
「かわいいっ、かわいいわ! このサイズ感! このもちすべほっぺが堪らないっ!!」
「お、おはよう……サヤ姉さん」
「うふふふ、ユータくんおはよ!!」
……元気だなあ。エリーシャ様やマリーさんとはまた微妙に違ったエネルギーというかなんというか。
みるみるオレの生命力が吸い取られていくような気がしてくる。
確かに、オレってまだ幼児だけど……この扱いってちゃんと改善されるんだよね? ラキたちは8歳くらいから、もうこんな風じゃなかったと思うんだけど。
やっと解放され、もみくちゃになった服を整えつつ息を吐く。
サヤ姉さんたちは、朝ごはん用のケークサレの方へ群がっている。やはり、多めに作っておくことが正義だ。バーゲンセールワゴン状態の中に、小さなカン爺も混ざっているのを確認して、元気だなあと思う。
オレの方がよっぽど、萎びているような気がしてくる。
「ラキは1日ここにいるの?」
「どうかな~? 忙しい時間帯もあるだろうし~」
ちゃっかり自分の分のケークサレを手元に確保しているラキとタクトは、多分朝ごはん食べてるんじゃないかと思うんだけど。
「俺は出るぜ! なあ、素材がわかったら討伐に行くだろ?」
討伐とは限らないんじゃない? と思いつつ頷いた。
「素材を獲りに行くなら、僕も行く~」
だろうね、と思いつつ、やっと覚醒してきた身体をうんと伸ばして、傍らに積み上がった剣を眺めた。
「なんだか、注文が多いのかな? いつもより武器が多い気がする」
「そうなんだよね~。やっぱりどこも魔物が増え気味で、武具の需要が高いんだって~」
それってやっぱり魔素が不安定だとか、邪の魔素が増えているとか、そういうところから?
飄々とした高潔な神獣を思い出して、少し視線を下げた。
ラ・エンは、いつかいなくなるよね。それが、たとえ500年後でも。
そうすると、魔物が溢れかえる世界になる?
もしかして、それはこの世界『本来の姿』なんだろうか。元々は、どうなっていたんだろう。ラ・エンがあんな風になる前は。
「じゃあさ! いっぱい討伐しようぜ! 溢れたら大変なんだからさ!」
生き生きとしたタクトに、くすっと笑う。
結局のところ、オレたちにできるのはそのくらいかな?
――任せるの! 魔物殲滅なら、ラピスが協力してあげてもいいの!
同じく生き生きした声が響いて、ギクリと肩を震わせる。
う、うん。いざという時はとてもありがたい言葉で、頼もしすぎるんだけどね。だけどね、今はちょっとまだ……だって多分、そこらにいる人もみんな一緒に殲滅されちゃうよね?!
王都壊滅なんてことなってしまったら、オレが魔王認定されてしまう。
「じゃあ素材……じゃなかった、魔物が増えてるところに行こうよ~!」
ふふ、と底光りする目で笑うラキに、オレとタクトがちょっと身を引く。
既に素材としてしか見られていない魔物が、ちょっぴり可哀そうな気もする。
『あなたも食材として見てるじゃない……』
ふよん、と揺れたモモのささやかなツッコミは聞かなかったことにして、地図を取り出した。
「前に魔物が増えていたのはココだから、今は大丈夫だよね? あ、ここもきっと大丈夫。じゃあどこに行く?」
以前、魔物コンサートを実施した場所と、カロルス様&ラピスが森の暴走を止めた場所は、他よりも安全だろう。
王都周囲は拓けているけど、少し離れると森や魔物の生息域はむしろ多様で多い。だって、そこが諸々の供給源にもなるから。
「カン爺、素材リスト!」
「そこらにあるわい! 勝手に見りゃいいじゃろ」
ケークサレが1切れしかあたらなかったカン爺が、ぷりぷりしながら窯に向かっている。カン爺のサイズ感なら、1切れで十分だと思うけど。
素材がごちゃつく汚いテーブルの上に、必要素材リストを見つけ、3人で覗き込む。
横線で消してあるもの以外は、取り急ぎ必要なんだろう。
「……見ても分かんねえ」
「大体は分かるけど~、鍛冶用のはあんまり詳しくないな~」
オレは何も言ってないけど、誰もオレの意見を待ってはいないようだ。うん、オレがわかるわけないね。
「ま、とりあえず適当に狩ろうぜ!」
「それはさすがに非効率~」
一旦ギルドへ持って行こうか、とした時、サヤ姉が覗き込んできた。
「タクトは討伐討伐って言うけど、ホントに大丈夫なわけ? 危なくない?」
「俺らCランクだからな! 危なくないぜ!」
「危ないけど~、他の冒険者よりはマシじゃないかな~?」
うん、ラキが正しいね。危なくないワケがないでしょう、とタクトにじとりとした視線を向けた。
「無理に素材を獲って来なくていいんだから。これは、あたし達や依頼者が調達するもんだからね」
「あ、そっか~。じゃあギルドも今、素材収集依頼が多いってことだよね~」
「じゃあ一旦ギルドだね! みんな困ってるなら、他の素材もいっぺんに色々獲れた方がいいし!」
よし、方針が決まったと笑みを交わして立ち上がる。
「あの、あたしそういうことを言ってるんじゃ……」
サヤ姉さんは、額に手を当てて溜息を吐いていた。
「――うーん、このメモだけで見ると、北西の森が良さそうなんだけど~」
「けど、魔物が少なかったらめんどくせえだけだしな」
「結局、どこが多いのか聞かないとね!」
特に急ぐでもなく、とてとて歩いていると、タクトの視線がふいっと何かに引き寄せられた。
次いで、オレの鼻にも届くいい香り。
道行く人の視線を攫っているのは、どうやらその人が手に持っている……
「「「あ!!」」」
3人揃ってぽんと手を打って、顔を見合わせた。
――路地の一角で、その店は異彩を放っていた。
「いらっしゃーい!」
「からあげ、4つですね!」
ふわん、と充満する脂の香り。まだ昼には早いというのに、もう人だかりができている。
「相変わらず、すごい人気だね」
「そりゃそうだろ、唐揚げだぞ?」
多分買う気満々のタクトが、いそいそカウンターへ向かった。
「あ! ユータだ! タクトとラキもいる!」
「お手伝いしてくれる?!」
立派に働いているガウロ様幼少部隊の面々が、目ざとくオレたちをみつけてわっと声を上げた。
「ごめんね、討伐に行こうと思って」
「じゃあ、鳥さん獲ってきて! 在庫がなくなっちゃう! お金、払えるよ!」
ちっちゃい子たちに縋りつかれて――と言いたいところだけど、目線が全然変わらないどころかオレが見上げている気もする不思議。
そっか、唐揚げを狩ってくるのも、ガウロ様邸の子どもだもの。危険度の高い森は行けないね。
『主ぃ、唐揚げって言っちゃってるんだぜ』
『素材よりもむしろ気の毒だわ』
些細なツッコミを聞き流し、ついでだから、と頷いておく。
用事が増えてしまったけれど、肝心の人は――。
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