1032 善意の塊
ちょっと、秘密基地で話を詰めよう――ということになって。
オレたちは今、額を寄せ合ってお菓子を食べている。
『前後が繋がっていないのよ』
モモの鋭いツッコミにもめげず、ころりと分厚いクッキーを頬張った。
うん、これも美味しい。
甘い物ばっかりだと飽きるから、スパイスとチーズ系の甘くないクッキーも用意してある。
なんだか、ワインが飲みたくなる美味しさだ……たぶん。
『主ぃ、さっきから食べてばっかりなんだぜ!』
それはそうだけど、ほっぺをパンパンにしたねずみに言われたくない。
甘い、しょっぱいの往復が止まらず、合間にこくりと喉を潤す薫り高いフルーツティーがこれまた格別。
オレはクッキーを食べたいので、タクトがこっちへ来ないよう、ミニパンケーキタワーでバリケードを築いておいた。
ミニパンケーキはとても簡単に量産できるけど、これだって間にクリームを挟んだりチーズを挟んだり、工夫次第でいろんな味が楽しめる。タクトの足止めにはもってこいだ。
どうしよう、このままでは夕食の余地がなくなってしまう。
そう焦りを感じ始めた頃、小さな声が聞こえた。
『あー!』『おかしパーティ?!』『いいなー!』
目の前のパンケーキが持ち上がって、タクトが『お?』と顔を上げた。
「妖精来てんの?」
「来てるよ!」
「そうなんだ~、ひさしぶり~!」
小さなパンケーキを3等分して、それぞれクリームをのせてあげると、3つの光が明滅しながらくるくる舞った。
『ひさしぶりー?』『たぶんひさしぶりー!』『あまあまー!』
妖精トリオは、小さなお口でたっぷりのクリームにかぶりつき、心底至福のお顔を晒している。
チル爺はいないのかな、と見回したら、ふわっと穏やかな光が下りて来た。
「チル爺、お久しぶり!」
『うむうむ、久しぶりじゃて。ヒトの子はちっと見ぬ間に大きくなるもんじゃが、ぬしはあまり変わり映えせんの』
何気に酷いことをいいながら、クッキーの欠片をつまんで齧った。
それ、絶対チル爺が好きなやつだよ。そして絶対――
『これは……! なんと酒に合うものを……!』
ほらやっぱり。
「お酒は飲まないからね? チル爺すぐ酔っ払うし」
『そんなことないわ! ワシは常に適量を心がけておるからして――』
はいはいと聞き流しながら妖精さんたち用の、ティーセットを出してテーブルの上に置いた。
適当に割ったクッキーを小皿に乗せて、ミニテーブルの上へ。
歓声をあげた妖精トリオが、一斉にテーブルについてクッキーを頬張り始める。
ミニチュアのティーカップに紅茶を注ぎながら、チル爺はひたすらスパイシークッキーの欠片を齧っていた。
『ところで、急に菓子パーティとは、何かあったかの?』
「お菓子パーティじゃないよ、作戦会議だよ! 重要な話し合いのために、秘密基地に集まったんだから!」
『……ほう』
理解に苦しむ、という顔をしながら、チル爺が一面のお菓子を見て紅茶をすすった。
お菓子は作戦に必須でしょう?
『して、話し合いは終わったということかの』
「ううん。まだこれから」
『…………ほう』
『ダメだぜチル爺さん! 深く考えたら負けなんだぜ!』
ヒゲまでクリームまみれのチュー助が、訳知り顔でそんなことを言う。
「そう言えば、話を詰めようってことだっけ~?」
「忘れてたな!」
忘れてたの?! オレは覚えてたよ! 今はただ、お菓子が頭の中を占めていただけで。
チル爺の生ぬるい視線を受けながら、ふと膝を打った。
「そうだ、ちょうどいいところに! ねえ、チル爺。生命の――」
あれ? これ、言っていいことだっけ。
ちらとラキを見ると、笑顔で首を振って、くいっと向こうを指した。
傍らでは、タクトが耳を塞ぎながらお菓子を貪るという器用なことをしている。
こくり、と頷いて席を立つと、こそこそ部屋の隅までチル爺を連れていく。
「ねえチル爺、ナイショの話だからこっそり教えて!」
『……この茶番、必要かのう……? して、なんじゃ?』
ええと、チル爺にどこまで話していたのかサッパリ覚えていない。
もう何でもいいか、チル爺だし! ということで、必要なこと全部話した。
「――というわけでね、休憩所を作ろうと思ったんだけど、多少の魔物避け効果がないと危険だし。それで、劣化版生命の魔石……これだけど。このくらいの魔石だと、かえって魔物を呼んだりする?」
チル爺が急にげっそりして反応しないので、クッキーと紅茶をお供えしてみる。
『なんでそう……なんでこう、余計なことばっかりワシに吹き込むんじゃ! ワシ、そんな秘密抱えて生きとうないわ! あと、生命の魔石の量産の話からいつ巨大ハンバーグの話になったんじゃ?! 情報の玉石混交がひどすぎるんじゃが?!』
うん、だって話していたら最近の出来事だって言いたくなるじゃない。
今回、休憩所に使ったらどうかと思っているのは、クラスメイトの指輪に使ったのと同じもの。消却魔法の応用というか失敗というか、結果的に生成可能になった劣化版生命の魔石。
あれなら、労力少なくたくさん作れるし、小さい魔石にすれば見つかったとて大騒ぎにはなるまい。
「それでどうなの? 以前あったじゃない、洞窟で邪の魔素が集まったこと。もし、生命の魔石にも惹かれて集まるとか、そんなことがあると困るんだけど」
『はあ……あんなレア中のレアケースを例に出されてもの。邪の魔素と魔物はそもそも違うじゃろ。魔物にとって聖域が忌避する場所のように、生命の魔石も好まんよ。小さな魔石でどの程度魔物避け効果があるかは、わからんがの』
そっか! ひとまず、悪い効果がないならそれでいい。
なら、ロクサレンとタイプを同じくしたサテライト版天使像は、制作方向で。
再びお菓子席に着いたオレは、クリームたっぷりパンケーキを頬張って、二人へ頷いてみせた。
「イケそうだよ! じゃあ、各地で暇つぶしに休憩所設立は決定ということで!」
「けどさあ、天使像とか地方にあったら、持って行かれねえ?」
確かに……。休憩場にありがたみを感じてくれたら、そんな悪いことはしないだろうと思ったけど。でも、世の中いい人ばかりではないし。
「そこは、持って行けないようにするよ~」
「どうやって? 罠とか作るのか?」
「そんな休憩所イヤなんだけど?! 全然気が休まらないよ?!」
「そんなことしないよ~面白そうではあるけど~。岩に彫り込む形なら、移動させようって気にならないでしょ~」
ああ、レリーフ型ってことか。岩壁や巨岩に掘り込まれていれば、確かに……。
「でも、そんな都合よく掘り込む壁とか岩がある?」
「作ればいいんじゃね?」
「都合のいいところに、都合のいい岩壁をお願い~」
「あ、そうか」
ぽん、と手を打つと、オレたちを見るチル爺の顔から表情がなくなってしまった。
いかにも無関係ですよ、と言わんばかりに他所を向いて紅茶を嗜んでいる。
いいアイディアだと思うんだけど。
だって、休憩所的にも、どこかに壁があった方が安全度が上がる。うん、素晴らしい作戦だ。
「柵を作るのはめんどくさいから、土壁が早いよね!」
「杭があれば、ぐるっと囲むのは簡単だぞ」
「同じじゃつまらないから、色々バリエーションがほしいよね~! 土壁も素材のままだと味気ないから、何か模様をつけるのも――」
止めるもののいない作戦会議は、様々なアイディアを盛り込んで大いに盛り上がった。
だって、そこに天使像があるということは、つまり。
「好きなようにできるっていいよね! だって責任はロクサレンに行くだろうし!」
後ろ盾があるって素敵だ。そしてオレたちがしようとしていることは、誰がどう見たって慈善事業。どう考えても善意の塊で、何も悪いところがない。
オレはにっこりと、爽やかな笑みを浮かべたのだった。
クロスオーバー対談④
リュウ:デジドラ
ルルア・ディアン:選書魔法
ユータ:おいしい? で、でもちょっとゆっくり食べよっか? 喉に詰めちゃうよ。
リュウ:りゅー、だいじょうぶ。
ユ:うん、あんまり大丈夫な気がしなくってね?
リ:ゆーた、回復れきる。安全が確保さえてる。だいじょうぶ。
ユ:そういう?!やめてね?!オレの心臓が止まっちゃうよ!
ルルア:早く来てってば!みんな待ってるよ! あ、ほら!
ユ:あ、ルルアが来たよ!あれ?引っ張って来てるのってもしかして……
ディアン:てめえ……俺をこんなファンシー空間に連れて来んじゃねえ!
ル:大丈夫だよ、ディアンも一緒にお菓子食べよう。みんな多分、ディアンを怖がらないよ。
ディ:あんなおキレーなヤツらが怖がらねえわけ……
ユ:やっぱり!彼がディアンだね。こんにちは!お席にどうぞ!
リ:お先に始めしゃせていたらいてましゅ。
ユ:リュウ、サラリーマンみたいだよ……。ルルア、ディアンって本当にルーみたいだよ!
ル:本当?ルーもこんな感じ?ガウガウしてる?
ユ:そうそう!すぐに……
ディ:うるせー!構うな、放せ!
ユ:そう!こう言うの!
ル:あはは!本当に似てるんだね!
ディ:何なんだ……てめえら……
リ:まあまあ、お菓子の場でしゅから。おひとちゅろうぞ。
◇【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~
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◇デジドラ→りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります! ――デジタル・ドラゴン花鳥風月――
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