1031 セデス兄さんの依頼
さて、今日は何をしようかとうつらうつらしながら考えていると、扉が開いた音がした。
「あれ~? 今日はお兄さんと一緒じゃないの~?」
「ラキ、タクトおはよう! そのはずだったんだけどね、なんか満足したらしいよ」
「もうおはようの時間じゃねえけどな」
「満足~?」
そう、満足。まあ、色々やったから。
2人には、数日はセデス兄さんに付き合う羽目になると言っていたもんね。
『やらかした、とも言うわね』
確かに。散々やらかしたせいで、ギルドは大騒ぎだ。
なんせ、『例の黒髪』じゃないのは明らかだし。
俺以外の人物がやらかすって、なんて楽しくて心穏やかなんだ。
『しっかりあなたも噂の中に入ってると思うわよ』
『主ぃ、どう考えても共犯なんだぜ!』
余計なことは耳に入れないようにしつつ、にっこり笑みを浮かべた。
「一応要件はすませたし、なんというか……すごく濃厚な時間を過ごしたからね!」
「ふうん~? さすがロクサレンだね~」
……なんでほんのり、やらかしたんでしょ? みたいな雰囲気が漂ってるのか、理解に苦しむ。オレ、本当になんにも言ってないと思うんだけど。
「あ、俺ギルドで聞いたわ。『草原の勇者』だろ? 『例の黒髪』もいたとかいないとか、情報が色々だったな。まあウチのギルド、割とそういうのには慣れてるけどさ」
「なんで?! オレは関係ないよね?!」
「さすがに無関係は無理があるよね~」
……万が一があってはいけないと思って、結構町から離れたのに。やっぱりハイカリクのギルド担当範囲だったんだ。
まあいい、オレは噂のオマケ程度。噂とは、段々細部が省略されて変わっていくもの。そのうちオレの情報は削ぎ落されてしまうだろう。
『さすが、よく知ってるわ。経験豊富だものね』
『主がいうと、説得力あるんだぜ!』
……全然嬉しくないところだけ、褒めるんだから。
ひとまず、しばらくギルドへ行くときは気を付けなくてはいけない。
「ロクサレンがユータに似たのか、ユータがロクサレンに似たのか、どっちなわけ~?」
「オレに地方を変える力があるわけないでしょう?!」
あのね、『ロクサレン』ってみんな軽々しく言うけど、それってあの辺り一帯だからね?! ロクサレン家だけならともかく。
「いやむしろ、なんでないと思った……?」
「あれだけ変革しておいてよく言う~」
そんなわけ、と口を開きかけて、きゅっと閉じた。
……まあ、そういう側面がないわけでもない。そこは、ささやかなりとも影響があると、言えなくはない。
生ぬるい視線を感じつつ、咳払いして話題を変える。
「それはそれとして……。あのね、セデス兄さんが研究に協力してほしいって言ってたよ」
「それ、絶対俺らへの依頼じゃねえよな?」
「ユータに協力してってことでしょ~?」
なんで分かったんだろうか。
「で、でも! パーティで協力すべきことだと思うから! オレを通じての協力依頼だよ!」
全然温度の変わらない視線に焦りつつ、ひとまず二人を巻き込むべく話を進める。
こんなめんどくさそうなこと、オレ一人で被害をこうむってられない!
「――という感じ。そう言えば報酬のこととか何も聞いてなかったけど、きっとちょうだいって言えば出るよ!」
一通り説明を終え、にっこり微笑んだ。オレにとっていい話ではないけど、きっと二人にとっては――
「マジで?! 想定外にめっちゃいい話じゃねえか?! やるやる!!」
「ユータがこんな、素敵な提案をもってくることがあるなんて~!」
……なんだろう、二人の喜びようは想定内のはずなのに、すごく納得いかない。
そもそもセデス兄さんの依頼っていうのは、あの件以外ないわけで。
つまり、作成した魔物寄せの効果を確認する……そういうやつだ。
「セデス兄さんが喜んでやると思ったんだけどね。あとカロルス様」
「そりゃそうだよな。俺らでいいのか?」
「ロクサレンなら、いくらでも人員がいそうだけど~?」
殲滅するための人員なら、いくらでもいるんだけどね。でも一応、セデス兄さんたちは貴族なわけで。驚くべきことにカロルス様だって貴族だから、方々で魔物を狩っているわけにもいかないということらしい。多分、それを知ったらカロルス様が地団太を踏んで悔しがりそうだけど。
あと、セデス兄さんが『満足』してしまったので。
元の『戦闘とか結構です』モードに入っている。『草原の勇者』は、残念ながら噂が残っている間に、再登場することはなさそう。
「それで?! その魔物寄せってどこにあるんだ? いつ行く?!」
「まだできてないってば。それに、うまくいくかは分からないよ」
「確かに~。効果って言っても、ビッグピッグを寄せたアレだもんね~」
あ、ラキの興味がちょっぴり薄れた。
それはそう。本物の魔物寄せは、魔晶石が元になっているから超強力。むしろ強すぎて使い勝手が悪いから、そこを一般向けにほどよく調整できないかっていう面もあるらしいし。
「ええ……じゃあ、ショボいのしか来ねえってことか?」
あー、タクトの興味も薄れてしまった。
「でも、いろんな場所で試してみる楽しみってものも、あるんじゃない? どんな魔物が来るか分からないんだし」
大物が来るわけじゃないなら、くじ引き感覚で楽しむのも、ありってものじゃないだろうか。
『普通、それは楽しみって言わないのよね』
『何が来るか分からないと、対策できないんだぜ……』
ドン引きのチュー助が、とてもマトモなことを言っている。アゲハがいるからって、そんな常識人ぶらなくてもいいのに。
「んー、何が来るかわかんねえってのも、面白いかもな!」
「どれも効果なかったら、ひたすら待ちぼうけするだけ~?」
「えっ……それは考えてなかった! 何も来なかったらすごくつまらないよね?!」
盲点……!! せめて釣りなら、こう……水面を眺めて心穏やかに過ごせるかもしれないけど!
森の中でじっとただ待つのって、すごくめんどくさくない?!
もしかして……それが嫌で押し付けられた可能性も?!
「ええ……どうしよう。毎回何も来なかったら、めんどくさいしかないよ?!」
「何か、別の目的を持っておくしかないね~」
「別のって何だよ?」
「さあ~? あちこちに出歩かないとできないことなら、いいんだけど~」
そんなのある? オレのいた世界なら、旅先での自撮りとかありそうだけど。
「絵が描けたら、旅先の風景を描くのも楽しそうなのにね」
「楽しいか、それ……」
楽しいでしょう、描けたらね?!
「うーん、各地を回ると言えば、他に何があるっけ?」
「武者修行の旅とか?」
そんな殺伐とした旅は嫌だ。そもそも、行く先々で魔物と戦闘するかもしれないのに。
「巡礼の旅くらいかな~? あ、天使教を広めるっていうのはどう~?」
「余計なことでしかなくない?!」
「どうして余計なのかな~? ロクサレンにとっていいことじゃない~?」
うっ……明らかに企んでいる微笑み!
「けど、いいんじゃね? どうせ人のあんまいねえとこに行くだろ? 天使像とちっこい休憩所とか作っておけば、後で役に立つんじゃね?」
オレとラキは、思わず顔を見合わせた。
……それ、結構いいのでは。
だって、地方では休憩所もあんまりないから、冒険者はかなり苦労する。
せめて街道沿いにちょっとした休憩所でもあれば。
天使像は、どうなんだろ。小さい魔石だと逆に魔物が寄って来る、なんてことにならなければ画期的アイディアかも。
祝!20巻!!
皆様のおかげでもふしらは20巻になりましたよ!!
各サイトでカバーイラスト公開(→あっ、カバーイラストはこの時点でまだでした!Twitterでは公開されてます!)予約開始されてます!
今回はキャラ投票結果がありますよ!!






https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/