1027 鍋底亭ランチ
……燃え尽きている。
二人が、真っ白な灰となって。
「え、えっと……オレは洗い物片付けちゃうね! セデス兄さん、シロのカゴにお皿を入れる係やって!」
品切れにより閉店となった店内は、まだ客がいなくなった時そのまま。
あの二人のエネルギーが再充填されるまでは、きっともう少しかかるだろう。その間に他をすませておけば、あんまり怒られなくてすむに違いない。
「ふふふ、結構楽しかったね。僕、たまに手伝ってもいいかな?」
邪気のない顔でにこにこしているセデス兄さんに、ぬるい笑みを向ける。やめておいたら? 気の毒だから。
逆に言えば、ヤクス村でそういうイベントでもすればいいんじゃないだろうか。人気が出ていいんじゃない?
セデス兄さんやカロルス様が配膳……いや、カロルス様は無理だな。途中で料理が消えそう。
「セデス兄さん、なんであんならしくないウインクとか、王子様っぽいフリができるの?」
「どうしてか、言葉の端々に引っ掛かるものがある気がするけど。まあ、あれは学校で叩き込まれたものって感じかな」
「学校って貴族学校? そんなこと習うの?!」
もっと、堅苦しくて眠くなるような授業ばっかりだと思っていたのに……。
「そんなわけないでしょ、友達とか女の子たちがさあ、やれって言うから」
ああ……そう言えば以前も言ってたっけ。セデス兄さんがせがまれるプレゼントのお返し。王子様顔でくるっと回って投げキス。
多分、相当特訓を受けたんだろうな。だって、セデス兄さんだったらもっと野暮ったいものになっているはずだし。
「どうしてかな、限りなく僕への評価が低い眼差しを受けている気がするのは」
「そんなことないよ。見た目だけでも整えられるのはいいことだよね!」
オレもちょっと練習しようかな、なんて密かに思いつつにっこり笑う。
「――あの……ありがとうございました」
そうこうしている間に、再起動したらしい二人がおずおずやってきた。
「どういたしまして。随分繁盛しているんだね」
「え、あの、ええと、はい……」
「いえ、その、おかげさまで……」
顔を見合わせている二人に、申し訳ない気分だ。後で、言い聞かせておくので……。
「あのね、これがセデス兄さんだよ。ちょっと変わってるから、ごめんね?」
と言いつつ、なんだかとっくにこれがセデス兄さんだとバレている雰囲気。さすが、ロクサレンだからだろうか。
「ユータ? 君にだけは、変わり者だとか言われたくないんだけど」
何を言う。変わり者度なら、絶対オレの方が格下のはずだ。
『いやあ……主ぃ……』
『その自信は一体どこからくるのかしら……』
まるで否定するかのようなモモたちにムッとしつつ、分かったような顔をしている二人を見上げた。
「それで、セデス兄さんの研究のことなんだけど。プレリィさんが前に何かでビッグピッグを寄せてたでしょう? あれって教わってもいいもの?」
促されてテーブルに着きながら尋ねると、プレリィさんが頷いた。
「先だって書面でお返事した通り、特に秘匿するものでもないので、お話しできます」
「ああ、ユータと同じように話していただいて結構だよ。できれば、同じ立場で研究に加わってもらいたいと思ってるんだ」
ちょっと戸惑ってるプレリィさんだけど、多分すぐ打ち解けるだろう。だってプレリィさんも十分変わり者だし。
ひとまずお腹が空いたということで、遅いランチを食べながら相談することになった。
食べながらというか、むしろ作りながらというか。
カウンターに座ったセデス兄さんと、料理をするプレリィさんが熱心に話し合っている。なんだか、ちょっと雰囲気の似ている二人だ。王子様系だよね。
「どうぞ。お口に合えば良いのですが」
物凄くよそ行きの顔をしたキルフェさんが、そっと皿を差し出した。
「わあ、美味しそう!」
「季節のキノコのクリームスープ、ナッツとナタの花和え、ハハモのキノコソースです」
恭しく説明してくれるけど、全然分からない。ただ、絶対美味しいことだけは分かる。
さっそくスープをかき混ぜれば、ふんわり香る複雑な香り。なんて薫り高い……キノコってすごく品のある香りがするよね。
ちょっと、以前味わった至高のスープを思い出してしまったけど。あれは、別格。
木のカウンター、木の器に、木製の丸いスプーン。
とろり、というよりも、ざらりと粒感を感じるスープだ。かきまぜると、スプーンがかこん、と柔らかな音をたてた。
「うわ、濃厚~!!」
「これは凄いね、香りが押し寄せてくる」
鼻どころか全身から香りを感じている気がする。小さく角切りになったキノコが、独特の小気味よい歯ざわりで心地いい。
勢いづいてナッツの和え物を頬張り、見事なカリッと感と野菜の柔らかさのコントラストに唸る。ナタの花というのが、野菜かな? ちょっとブロッコリーかカリフラワーのよう。
これは……敢えて野菜を柔らかめにすることで、ナッツを活かしているという……さすがだ。
「ユータは、どうしてそんな難しい顔で食べてるの?」
「美味しいからだよ?! 考え込むほどの美味しさっていうか……」
「うん、分からないね」
ぬるい視線を寄越される意味が分からない。
さあ、いよいよメイン。これは……鳥系のステーキだろうか?
ナイフを入れた途端、パリッと心地良い音がする。覗いた美しい桃色の断面から、きらきらと肉汁が溢れてソースと混じり合っていく。
デミグラス系だろうか、このキノコソースは。ごろごろ入ったキノコがもはやソースではなく、これだけで一品と言えるんじゃないだろうか。
たっぷりキノコをすくって、桃色のお肉と共に――
ひとくち、噛みしめて思わず動きを止めた。
うわあ……。
突き抜ける香り。これ、お肉にも何か香りがつけられているんだろうか。
香草でマリネしている……?
チキンのような、鴨のような、不思議な食感。そこへ加わる種々のキノコによる多様な歯ざわり。
ジューシーなお肉、だけじゃない。このキノコたち……お肉を超えるジューシーさ?!
肉汁ならぬキノコ汁が、ひとくち目のソースを上書きしていく。やや濃厚だと思ったそれが、まさに今、口の中でまろやかに――
「ねえユータ、それはどういう顔なの」
だから、美味しい顔だってば!!
せっかく人が全神経を味覚に集中しているのに、外から余計なことを……。
オレたちは、ひとくちひとくちに感動を覚えつつ、魅惑の食事を楽しんだ。
そして――
「もう、すっごく美味しかった!! またお手伝いするからね?!」
「僕も、またお願いするよ」
「あ……えと、はい……?」
そうして、爽やかな笑顔で扉を閉めたのだった。






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