1025 掃きだめに鶴
「――というわけで、セデス兄さんが来るんだけどね、お勧めの場所とかあったっけ?」
寮でゴロゴロしながら、大した期待感もなく聞いてみる。
ハイカリクって都会だけど、別に何が面白いってこともないような。海があってブルがいて、銭湯やら何やらがあるヤクス村の方が面白いくらい。
「地方から出てくるなら、やっぱ買い物じゃねえの? 武器屋とか」
「買い物は同意だけど~、武器屋ではないと思う~」
それはそう。セデス兄さん、武器に全然興味なさそう。一応剣は持ってるし、相当な腕なんだけども。
「でも、セデス兄さんの買い物って、変なのばっかり買おうとするし。買い物ばっかりはちょっと……」
エリーシャ様たちみたいに、やたらと着せ替えられたり、なんてことがないだけいいかもしれないけれど。
「そう言えば、セデス兄さんと歩くなら、オレもよそ行きの恰好した方がいいのかな?」
「そりゃあその方が無難だけど~。でも、制服なら大丈夫だと思うよ~」
なるほど! それならそうしよう。明日の服に悩まなくて良くなって、一安心だ。
「美味しいお店……って言っても、鍋底亭に行くだろうし。なんだか、いつもと変わり映えしない街歩きになるね」
「そりゃそうだろ、いつもと同じ町なんだからさ」
そうなんだけど。せめて、面白い屋台でも出ていないかな。
相手はセデス兄さんだけど、オレだって多少はこう……おもてなしというか。楽しませたいという思いがあるわけで。
「でも、結局のところセデス兄さんだし!」
そう結論づいて安心したオレは、健やかに眠りについたのだった。
「そわついてんな~。昨日も会ってたんだろ?」
今日はちゃんと朝から学校に来ていたのだけど、午前の授業が終わる頃、とうとうタクトにツッコまれてしまった。
「僕らまで落ち着かないよ~」
ラキがちらっと外に視線をやって、苦笑した。
「あと、校門ですごく目立つ人がいるな~と思うんだけどね~」
「え?!」
窓から身を乗り出すと、本当だ、何やら遠巻きにざわついている気がする。
「もう来たの?! なんで学校に?!」
チャト、と呼ぶと同時に窓から飛び出し、ぽすっと柔らかなオレンジ色に着地した。
すうっと滑るように滑空して、瞬く間に校門前までやってくる。
そのまま舞い上がって行くチャトから飛び降り、誰かを待っている噂の王子様に飛びついた。
「セデス兄さん! 早いね?! こんなところにいたら目立ってしょうがないよ!」
「うーん、僕は今のユータの方がずっと目立ってると思うけどね?」
「オレは大丈夫! いつものことだから」
ほら、『ああ、黒髪の……』なんてワードが聞こえてくる。
『既に主=トンデモ=常識って図式が成り立ってるんだぜ!』
『常識の方が寄り添ってくれちゃってるのよね……慣れって怖いわ』
何も問題はない。みんなが、オレという個性を受け入れてくれただけの話だ。
「うん……そっか。ここでも大分ロクサレンの名前がトンデモ寄りに……」
「それはそうかも。『ロクサレンしてる』って言われることもあるし!」
「やめてくれる?! ロクサレンを悪口にしないで?! 『ユータしてる』でよくない?!」
「オレのせいじゃないよ! 悪口じゃ……ないと……思うし?」
そんなどうでもいいことを言い合いながら、そそくさと校門を離れて町中へと繰り出した。
「学校はもう良かったの?」
「うん、起きられないと困るから、二人と一緒に学校に行ってただけだし」
「僕が行くの、昼頃だって言ったよね? 普段いつまで寝てるの……?」
まあ、それはいいとして。
セデス兄さんを改めて見上げて、やっぱり王子様っぽいなと思う。
その身なりだと、行く店も限られるんじゃないだろうか。
「お昼は鍋底亭に行くとして、他はどうする? お買い物の予定だった?」
「まあ、絶対にほしいものもないし、適当に歩こうかなと思ってたよ」
そういうのが、一番困る。どこへ向かって歩こうかと考えていると、セデス兄さんがオレの手を引いて先導していく。
「何となく、こっちに行きたい気がするよ」
手を引かれながら、貴族にあるまじき裏通りの方までやってくると、最初から決まっていたようにそこにあった店に吸い込まれた。
「ここ、何の店? 知らない店だけど……けど、普通入らないよね?! 暗っ!」
思わず入り口で躊躇する暗さ。何なの、モグラがやってる店なの?!
ウキウキ店に入ったセデス兄さんが、暗い店内を眺めまわして満足そうな顔をしている。
「ユータ、見てみなよ。素晴らしいね、発光体と嫌光性材料の店だって。こういう店があるのが、都会のいいところだよ」
「おやあ、お目が高いね。まさか、お貴族様がこんな所にいらっしゃるとは」
思わず飛び上がって目をやると、奥からひっそり小さなお婆さんが現れた。
歯の少ない口で笑って、手元のケースを手に取る。
「これなんか、オウネス洞窟の奥から採取したラムシの翅でね? 光に溶けるってんで、運ぶのにどれほど苦労したか」
「ほほう、それはいいものですね」
……何が? セデス兄さんは、その虫の翅を入手して一体何をするっていうのか。そもそも、珍しい以外の何かしらの価値があるんだろうか。
「セデス兄さん、そういう店はオレがいない時に行ってくれる?!」
「ええ~せっかくの巡り合わせなのに」
ブツブツ言うセデス兄さんを引っ張って店を出ると、またもや別のアヤシイ店に突撃する。
なんで?! そんな店、いつからあったの?!
ダメだ、こういう路地とか裏通りにいるからダメなんだ。
「ちょっと、もう少し日の当たる所に行こう?! そもそも、セデス兄さんみたいな人が来ちゃダメな場所じゃない?!」
「え~僕は好きなのに」
「ダメ! 色々と、こう……他に迷惑がかかるから! もっと貴族っぽい所に行かなきゃ!」
いつの間に買ったのか、おどろおどろしいものを抱えたセデス兄さんをぐいぐい引っ張っていると、覚えのない声がした。
「そうつれないこと言うなよ、チビッ子。なあ、あんたもここが好きなら、長居してくれていいんだぜ?」
よりにもよって、進路を塞ぐように現れた数人の男たち。
「ほらあ! もう迷惑かかってるじゃない!」
「そうかなあ? この場合、迷惑がかかってるのって僕じゃない?」
ね? と爽やかに微笑まれ、男たちが一瞬怯んだ。
「……なんだ、馬鹿なのか? 状況、分かってねえらしい」
チッ、と舌打ちして気を取り直すと、男が口笛を吹いた。
「どうして、僕とユータにこの人数集めたんだと思う?」
「さあ……? 悪党ってそういうものじゃない? 大体みんな、集まってくる性質があるよ」
ダラダラ集まってくる、いかにもな男たちが、にやついた顔を少し強張らせた。
「ふざけてんじゃねえよ、怪我したくなかったら金目のモン置いてけ」
「あれ? てっきり僕とユータもほしいのかと思ったのに」
「案外良心的だったね」
一応、こそこそ話しているつもりなんだよ? さすがに聞こえたら気を悪くすると思って。
でも、こういう人たちって結構耳ざといというか。
なんでそんなオレたちの会話に興味津々なの。
目を血走らせた数人が、棒きれやなんかを振り上げた。
「っの野郎! いい加減にしやがれ!」
なんだかもう、穏便にはいかない雰囲気。ちら、とセデス兄さんを見上げると、ふふっと笑って髪を結んだ。
「僕、さっきまで半日馬車だったんだよね」
上着を脱いで収納に入れ、袖をまくり上げた。
突然の奇行に、今にも飛び掛からんとしていた男たちが勢いを削がれてたたらを踏んでいる。
「……だから、ちょっとね。ちょうどいいかな、なんて」
うんと伸びをして、男たちに向き合った。
サラリ、と揺れた前髪で、エメラルドの瞳が見え隠れする。暗い路地裏に、涼やかな風が吹いたよう。
「――来ないの?」
にや、と笑ったその顔は、やっぱり遺伝だなあなんて。
「……ほら、迷惑かけてるじゃない」
参戦するまでもないかな、と下がったオレは、響く悲鳴に同情を禁じ得ないのだった。
クロスオーバー対談③ 保護者(?)組
◇新作→【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~
https://ncode.syosetu.com/n0977kx/
◇デジドラ→りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります! ――デジタル・ドラゴン花鳥風月――
https://ncode.syosetu.com/n9707ik/
リト:デジドラ
ディアン:選書魔法
カロルス:よう、お前も苦労してんだってな? トラブル製造機ってヤツに。
リト:まあな……そっちとはまた違うと思うが。
カ:よし飲むか! あ、悪い、ちびっこいのがいた。
ディアン:誰が! てめえらがデカすぎんだろ?!
カ:おー活きがいいな。
リ:……反抗期ってやつか。リュウもいずれ……?!
ディ:うぜえ、触るんじゃねえ! なんで俺がこんな化け物クラスの中に……。
カ:おう、お前実力差が分かんのか。ちったあ見込みあるじゃねえか! 鍛えてやろうか?
リ:へえ? 何を感じた? 場合によっちゃあ……。
ディ:(くそ……圧が。何なんだコイツら。やべえ、マジで怖ぇえ……)
ここに入れられたディアン、かわいそうすぎる(笑)






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