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1019 災厄の日

オレは、すうっと息を吸い込んで、ゆっくり吐き出した。

――ひとまずは……。

「待ってラピス、不法侵入じゃないから! 避難……だと思うから!!」

魔力までたぎらせ始めた小さい面々にストップをかけ、振り返った人たちに引きつった笑みをむける。

「あの、こんにちは……?」

「「「……」」」

『無』の表情でオレを見つめる面々。横たわっていた人まで、頭を上げて呆然と凝視している。

これは、あれかな? 期待はずれの絶望ってやつ。よく見る表情だ。

冒険者さんたちは3人。横たわる一人は魔力切れの魔法使いかもしれない。

重苦しい沈黙に、何と言ったものかなと考えていたら、先に向こうが口を開いた。


「……逃げなさい。ここは、戦場になる」

「僕らが、食い止めるから……さあ」

胸の痛くなるようなぎこちない笑みを浮かべた人たちが、再び前を向く。

い、いい人たちだ……なぜだか、オレがいたたまれない。申し訳ない気分になってくる。

「戦場って?」

見回したタクトが首を傾げ、ラキが薄い笑みを浮かべる。

「虫のことじゃない~?」

「あの虫?」

「その虫~」

……おかしい。なぜこんなに集まってくるのか。

緑やら茶色やら、多分同種なんだろうけど草原と見事に一体化している魔物は、多分……でっかいカマキリ系?

カマキリが集まることなんてある?

1つ言えるのは、どうせ集まるなら、虫以外にしてほしいってことだ。虫ってあんまり逃げていかないから困るんだよね……食べられもしないのに、無闇に討伐しなきゃいけなくて。


『俺様ひらめいた! こういう時は、大体主が原因って決まってるんだぜ!』

『そうよねえ~そうとしか思えないのだけど』

何でもかんでも、オレのせいにしないでいただきたい!

さっきの草だって、バッタしか寄せないはずだ。

と、そのバッタの山近くに陣取っていた冒険者さんが、一体を取ってぶん投げた。

途端にザザッと集まってくるカマキリ。

「出るぞ!」

「援護する!」

飛び出した一人が、バッタに群がるカマキリを次々と切った。そしてもう一人がやや離れた場所にバッタを投げる。援護ってそういう……?


「カマキリ、バッタが好きなのかな~?」

「そうかもしれないけど! 普通狩るでしょ?! カマキリが動かない獲物なんか狙わないでしょ! その両手の武器は飾りなの?!」

「そんな理屈、魔物に通用するかよ……楽に食えるもんがありゃ食うだろ」

そんな……誇りはないのだろうか。神速の狩人としての誇りは。どうしたって、オレのせいだということにしたいのだろうか。

『スオー、そういうこと言ってる場合じゃないと思う』

『早く何とかしろ』

それは間違いなくごもっともな意見。


「でも、どうしてここで籠城してるの? バッタを狙ってるなら、バッタから離れればよくない?」

「狙われてるのが、バッタだけじゃないからでは~?」

「生きのいい獲物もついでに狙ってんじゃね?」

そうか……一応矜持は保っていたというわけか。

『そもそも、結構囲まれてるわよ』

なるほど? とはいえ、バッタの時ほど大量にいるわけでもない。でも確かに、比較的平穏な草原においては、カマキリは攻撃力が高くて脅威の部類。

『さっきの鳥をみちゃったら同意できないんだぜ……』

『おっきかったんらぜ!』

まあさっきの鳥は……多分、このカマキリなんかを食べてるだろうし。

あっ! そうか、じゃあお詫びも兼ねて――


「あの、このカマキリって、素材が必要? 獲物だったら申し訳ないと思って」

おずおず声をかけると、バッタ囮作戦を遂行中の彼らがギョッと振り返った。

「ま、まだいたのか?! 早く逃げろ!」

「チッ……ダメだ、逃げる隙がない」

……返事はなかったけど、多分いらないのだろうと解釈する。

「タクト、さっきのレッサーロックの巣はどのあたり?」

「巣って卵があった場所か? あの岩山」

「あんな所から取ってきたの?!」

どうしてこの草原の中であからさまに異質な岩山で、謎の岩を持ってこようとおもったのか。あれ、岩山そのものが巣じゃない?! ここらの頂点捕食者もそりゃあビックリだよ。


ひとまず、目印的に問題がないので、前へ進み出た。

「ちょっと下がって~危ないので~」

「お前らは寄って来るなよ」

ラキが冒険者さんたちをキッチン内に押し返し、タクトが一気に距離を詰めて来たカマキリを蹴り飛ばした。

「えっ……?」

「今……」

誰かに同意を求めるように視線を彷徨わせた彼らが、進み出るオレを見て慌てた。

「大丈夫! 見ていて、オレたちCランクだから!」

絶対止められる流れだと分かるから、苦笑して両手の平でストップの仕草をする。

困惑で動きを止めた隙に、ちょっと考えて魔法を発動した。


「いくよっ? サイクロンソージキー!!」

後ろで、悲鳴が聞こえた気がする。あと、ひゃーんと鼻を鳴らす音。

あっ……犬たちがいたんだった。でも、シールド内だから大丈夫だよ?!

『トラウマに……なっちゃったのねえ。あなたが』

『かわいそうなんだぜ……』

勝手にトラウマ認定された、オレの方がかわいそうだと思う!

頬を膨らませながら、ぐるりとキッチンまわりに掃除機をかける。みるみる吸い込まれていくバッタとカマキリと草で、竜巻が緑色だ。


さて、ここからが難しいところだ。

タイミングと角度が、命。

「方向……よし! 角度……よし! さあ、スイッチ――オフ! マッツ・オ・バショー!!」

掃除機を切った瞬間。

ホームラン打者のつもりでエアバットならぬエア芭蕉扇のフルスイング!!

空中に投げ出されたカマキリたちが、見事岩山の方へ……! ついでに草も。

オレは振りぬいた姿勢をゆっくりと戻して、鼻をこすった。

「ちょっと早いけど、誕生祝いだよ」

にっこり微笑んだオレの耳に、余計な台詞が入ってくる。

「呪いになりそう~」

「もう出て来なくなるんじゃね?」

タクトに言われたくないですけど!! きっと、タクトのせいで体を痛めた親鳥の、助けになるはずだ。


くるりと振り返ると、人と犬一同がビクっと飛び上がった。

「えっと……オレたち色々依頼をこなしていただけで。何も悪いことしてないんだ」

うんうんうん! となぜかすごく頷いてくれるのに気をよくし、犬たちもまとめて回復魔法をかけた。

「これは、サービスしておくね!」

呆然とする彼らに、にっこり微笑んだ。

「だから、あんまり色々したことはナイショにしておいて? 後々面倒があってもいけないでしょう……?」

ね? と困った笑みを浮かべたオレに、やっぱりものすごい勢いで頷いてくれる人たち。どうしよう、すごく素直な人たちだ。

「素直だね……あ、いい意味だよ? とってもいいことだと思う」

ふふ、と笑うと、笑みが返ってくるどころか、涙さえ浮かびそうな顔だ。


やっぱり、怖い思いをしたんだろう。

大した戦闘の準備もなかったのかもしれない。

こういう時は、一緒にごはんを食べた方がいいだろうか。

思案するオレを、なぜだかじっと見つめる面々。もしやごはんへの期待だろうか。それにしては表情が乏しいけれど。

ふいに、ぽんと肩に手が乗せられた。

「もう、逃がしてやれよ」

「行っていいよ~? 言われたこと、守れるね~? ……なら、いいよ~」

頷きながら後ずさりした人たちが、ラキの頷きを受けて、一気に駆けて行った。


「ええ……そんな脅しみたいなこと言わなくても……怖がらせちゃったじゃない」

「うん、まあ、うん」

「ユータも中々素質があるんじゃない~?」

何の?!

腑に落ちない気分を抱えながら、オレたちは残った依頼を片付けたのだった。


さて、そろそろ従魔の犬たちを帰さなくては、と町へ戻ったところ、どうもギルドが慌ただしい。

「レッサーロックが草原の方へ来たという情報が!」

「そんなはずないだろ! あいつは北の方にしか――」

「大口紫の実がなくなっていると報告があった! 要人に気を付けろ、猛毒調合の可能性が――」

「嘘だろ?! あんな位置にあるモンを、どうやって採るってんだよ?!」

「魔物の大群が空から襲来した件はどうなった?!」

「空?! 違うぞ、聞いた話では一定方向に向かって進軍していたと――」

「瞬きの間に岩山が緑に覆われたと、目撃情報が来ている!」

「天変地異なのか?! 突如発生した竜巻を見たという者も――」

「なぜだ?! 一体、この1日で何が起こったんだ……!! 邪神でも復活するってのかよ!」


「「「……」」」

オレたちは黙ってぱたん、と扉を閉じたのだった。


あとがき会話好評で嬉しいです!

あんまり連投しても邪魔かなと思うので時々やりますね!


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― 新着の感想 ―
これにはフラグさんもにっこり
ヤラカシ満点!ヨクデキマシタ
犬型魔物達は大丈夫だったのだろうか(^_^;)
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