1018 効果のほどは
「――よしっ! 採取系はあとひとつ! タクト、ティア、お願い!」
「まだあるのか……」
「ピッ!!」
怒涛の勢いでクリアしていく依頼に、じわじわ達成感が湧いてくる。
これはいい。普段は山ほどクッキーを焼いたり料理したりで、達成感があるにはあるけど……ちょっと違うから。
都会の方と違って、森人郷からもまだ近い辺境のここらは素材が豊富だ。
どうやら仕入れに来ているらしい商人さんたちからの依頼が、結構多い。
そのおかげで依頼は潤い、数少ない町はそれなりに発展しているように思った。
人里離れているわりに、宿や店も豊富に揃っていたもの。
「オレはこっちに取り掛かるから!」
素早くキッチン展開して、右手に包丁、左手にナイフ。さあ、やっちまいな!
……なんて。つい、おばちゃん厨房歌が口を突いて出て、少し赤面した。さすがに、あれだけ歌って踊れば沁みついてしまう。
もう諦めの境地で歌いながら、右手で素材を、左手で襲い来る魔物を切る。
……どうしてわざわざ調理されに来るんだろうか。もちろん、オレがすべきは食材のカットの方なんだけど。しかも、バッタ系魔物は食材にもならないのに。
束になった葉野菜をラピス部隊が洗浄、オレがカット。
ノリノリの歌と共に、段々早くなっていく右手。そして左手。
……左手?
食材の方に気を取られていたオレは、一体何がやたらと向かってくるのかと視線を向けた。
「ええ?! ちょっとぉお?!」
なんで?! 遥か向こうまで続く、バッタ魔物のひしめき合う姿。わっしわっしとやってきてはオレに飛び掛かってくる。全然脅威ではないけれど、でも嫌!
「今食材を切ってるの! 君らを料理してるわけじゃないんだから!」
あっち行ってと訴えてみても、相手はバッタ。
「もう……! マッツ・オ・バショ―!!」
ぶん、と腕を振って、猛烈な風でもって、そこら中のバッタを吹っ飛ばした。
「「「ひゃうーーーん」」」
『わあ……飛んでるねえ』
えっ……?
瞬いた視界の中、バッタに混じっている異物。
四肢を広げた犬たちがくるくる空を舞って、遠ざかっていく。
「えええ?! ごめん! そんな所で休憩してたの?!」
なんでまたバッタ大行進の最中に?!
『休憩っていうか、へばって動けなかったんだぜ!』
『バッタを気にする気力もなかったのね』
あらららと見送っているシロの前を、タクトが駆けていく。
「やべえ! シロ、落ちる前に受け止めろ!」
「お、お願いシロ~! タクト!」
『分かった!』
飛んで行った魔物犬は5匹、二人いればなんとかなりそうかな……。
ご、ごめんね、怖い思いさせちゃって。お詫びに回復魔法とお肉もサービスするから!
「ピピッ!」
「そうなの?! もしかして、この葉野菜?!」
神妙な顔で頷いたティアのおかげで、バッタ大発生の謎が判明した。何のことはない、この葉野菜がバッタ寄せ効果があるらしい。大好物なのかな……いや、オレを食べようとしていたよね?! 君ら肉食じゃない?!
ひとまずバッタはいなくなったので、その間に食材カットを仕上げ、姿の見えないラキはと首を巡らせた。
『救急要請、救急要請ー! ユータ、出動してちょうだい!』
『スオー、急いだほうがいいと思う』
割と遠くから聞こえて来た声に慌て、ひとまずそちらへ駆ける。
「ちょっとラキ?! 何してるの?!」
「見、て……わか、らな、い~?!」
いや、多分大体の人類は分からないんじゃないかな。多分、ヌヌゥさんあたりとなら通じ合えそう。
多分、食人植物だと思うんだけど、そのツタとラキが格闘している。
ドッヂボール大の実を取り合っている……のかな? 食人植物と。
「手が、離せなく、て~! 砲撃できない~!」
「手は離せると思うけど……」
ぎろりと睨まれたところを見るに、多分大事な素材なんだろうな。でもきっとそれ、食人植物の実でしょう? そりゃあ採ったら怒ると思う。
全面的にラキが悪いけど、ずるずる力負けして引きずられて行くのを見ているわけにもいかない。
「討伐するなら、なるべく花の真下で切って~」
了解、の言葉を置き去りに、襲い来るツタをくぐって、飛んで、下り立った巨大な花の眼前。
花から飛び出た無数の触手を躱し、もぐりこむように一閃。
軽い手応えだけを残して、ぼとりと花が落ちる。一見首を落とした完全討伐に見えるけれど――
一瞬止まったと見えたツタが、一斉にオレめがけて肉薄した。植物系は、これが厄介。
動物系と違って、息の根を止めるというのが難しい。
そもそも、息をしているんだろうか。
概ね触手を刈ってしまったところで、ほぼ動かなくなった食人植物へ駆け寄る、素材フェチ。
「ありがとう~! じっくり本体の方も採取できる~」
「危ないじゃない?! 丸かじりされるところだよ?!」
ラキがツタ込みの実を掴んでいるせいで、モモシールドがうまく機能しない。シールドは物体を切断するような機能はないから……。
「蘇芳がいるから大丈夫かなって~。『蘇芳の助け』的な~?」
ますますヌヌゥさんだけど、いいんだろうか。そして蘇芳のコレは蘇芳の意思と言うかなんというか……。
ふいに、何か聞こえた気がした。気がしたというか、し続けていると言うか。
でも、気のせいかもしれない。
『主ぃ、俺様なんか胸騒ぎがする……遠くから何かが……』
『そうね、ピーピー悲鳴が聞こえるわね』
……ですよねえ。段々大きくなってるし。
ふう、と溜息を吐いて視線をやった先、もうはっきり聞こえる鳴き声の主は……。
「あれ? 疲れ切っていたはずじゃないの?」
ガチムチな犬魔物の従魔たちが、涙と鼻水を垂らす勢いで駆けてくる。
子犬みたいな鳴き声をあげながら。
「ユータ! 見ろこれ! ロックロックってこれだろ!」
『面白いの見つけたよー!』
犬魔物たちの後ろから、ぴかぴか笑顔で駆けてくる二人。タクトが頭上に掲げているのは、丸い岩……?
「ロックロックって何……?」
「え? 討伐か採取対象じゃなかったっけ? 石みたいな見た目で丸くて、食えるもの! これ、めちゃくちゃ岩っぽいし丸いから、絶対これだろ!」
「違うよ?! モックロックだよ?!」
「モックロックなら、僕がさっき確保したよ~?」
ラキが取り出したのは、こぶし大の丸い石……みたいな甲殻類の一種。素材にも食材にもなる優れもの。
「じゃあこれ、何だ?」
『いい匂いがするのに、食べ物じゃないの?』
「「「ピ、ピイイイ!」」」
てっきりシロを怖がっているんだと思っていた犬たちが、ますますしっぽを巻き込んで、寄る瀬なくぶるぶる震えている。オレの所においで、怖くないよ。
『賢いわね、あなたに吹っ飛ばされたのを覚えてるのね』
うっ……そんな不可抗力な……と項垂れたところで、ふいっと周囲が陰った。
犬たちの悲鳴が響く。
「お、なんだあれ?」
『鳥さんかなあ?』
「あ~、そういう~」
え、でっか……?!
すごい食べ応えだね?! ……じゃなくて。
「何この鳥! ……鳥? トカゲ? ドラゴンには見えないけど……」
でも鳥というにはトカゲっぽい。
そんな生き物が、ぐるぐる頭上を飛んでいる。いかにも、オレたちに用事がありそうに。
おかげで、周囲20畳くらいが日陰だ。
「あんまり人に近づかない魔物だけどね~? つまり、それがレッサーロックの卵、ってわけ~?」
「卵? ……あ! それ?!」
タクトが頭上に掲げる、大きな岩。いい匂いがするらしい、岩。
どこから持ってきたの?! 返してきなさい!!
「ケェエーーッ!」
「よっしゃ来い!」
意を決したように急降下してきた巨鳥が、舌なめずりするタクトにかわされ、ばっちりカウンターの蹴りを決められた。
逃げ惑う犬たちが、羽ばたきで巻き起こる風に転がっていく。
「ちょっとタクト! それ討伐対象じゃないから! しかも襲って来たわけじゃないよ?!」
どっちかというと、タクトが襲いに行ったよね?!
「まあ、ついでに討伐して怒られることはないけど~?」
「で、でも子育て中だし……お肉に困ってないもの」
よろろ、と何とか空に舞い戻ったレッサーロックが、時々切ない声をあげる。
「か、返してきて! 心が痛む! 卵もまだいっぱいあるから!」
「それ、中身が育ってるんじゃない~? あんまり美味しそうには思わないな~」
「よし、返そう」
不服そうだったタクトが、速攻で回れ右した。
「でっかく育てよ~! 次会ったら食えるように!」
再び走って行きながら、とても不穏な別れの言葉を投げている。
やめてあげて?! 孵化しなくなっちゃうよ!
でも、それはそれとして、襲ってくるようになればもちろん狩るけども。
諸行無常、と思いつつ揃ってキッチンの方へ戻って来て、仰天した。
「――諦めるな! ここで耐えていれば、きっと誰か……!」
「拠点砦を築くような冒険者がいる。絶対、助かるから!」
誰……? どうしてキッチンでシリアス展開をしているの……?!
積み上がるバッタ魔物、キッチン台をバリケードに何かと戦っている人たち。
隅では一塊となった犬たちが震えている。
――ユータ、不法親友なの! 迎撃するの?
沸き立つラピス部隊が、必死に防衛戦をしている人たちをロックオンしている。
「結局、疲れただけじゃない~?」
「むしろ、増えてね?」
二人の生ぬるい視線は、しっかりとオレの背中に突き刺さっていたのだった。
◇もふもふあり、ふにゃふにゃ優しいけど、芯の強い子あり、の新作もよろしくお願いします!
【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~
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ユータ:というわけで、ちょっとルルアに来てもらったよ!
ルルア:こ、こんにち……こんばんは? 僕、ルルアだよ!
ユ:ルルアって、どこかシロっぽい雰囲気を感じちゃうんだよね……あ! ごめんね、おかしな意味じゃなくって、オレはシロが大好きだからね?!
ル:ふふっ、ありがとう! とっても嬉しい! あのね、僕こそ変なこと言っちゃうかもだけど、ユータはなんだか、すごく中身が大人っぽいね!
ユ:ぎくうっ?!
ル:こんなにちっちゃくてかわいいのに、不思議だなって。
ユ:そういうルルアも、結構ちっちゃいですけど?!
ル:そう、みたい。僕、そんなこと全然気にしてなかったのに、ディアンがすぐ小さいとかどん臭いって言うんだよ!
ユ:ディアンって、ちょっとおしゃべりなルーみたいだよね……。あ、ルーって大きい獣みたいな?
ル:わあ! ルーにも会ってみたいな!
ユ:ルルアなら、多分ルーは嫌がらない気がするなあ……ほんわりしてるし。半分こでブラッシングしたいね!
ル:ふふっ! じゃあ、僕はディアンのブラッシングをユータと半分こしよっか!
ユ:う、うん……それは、ちょっと……やめとこっか?!
ル:ええー?!
たまにはこういうやり取りもいいかなって……お嫌いな方すみません…






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