表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もふもふを知らなかったら人生の半分は無駄にしていた【Web版】  作者: ひつじのはね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1032/1037

1016 存在がフラグ

なんか、ちょっと森を出て付近の散策でも――そう思っただけのはずだったのに。

でっかでっかハンバーグを食べて、豪華な野営をやって……平和で幸せなひとときを堪能したかっただけだったのに。

「……なのに、どうして大規模山賊狩りなんかやってるんだろう」

『主! こういうのは考えたらダメなんだぜ! ハートで感じるんだぜ!』

『そうなんらぜ! ハートで考えるんらぜ!』

ハートで考えて山賊狩りになる人物は、結構危険だと思うけど。

オレは埋まっていた山賊を一気に掘り返しながら、ぼやいている。


どうやら、何かしらの祟りがあるんじゃないかって、お仲間には助けてもらえなかったらしい。

きっと彼らのトラウマになっているだろうから、シロはオレの中でお休みしていてもらう。

憔悴しきった山賊たちに、泣きながら感謝されて複雑だ。

「Cランク……じゃねえよな、お前ら」

じっとりした目を向けてくるディードさんに、にっこり笑って冒険者証を掲げてみせる。

間違いなくCランクです!!

「だから、言っただろ。とんでもないって」

ほら見たことか、とノールさんが得意げだ。


一晩あの地下空洞跡で過ごしたオレたちは、きっちり朝ごはんも食べてからここへ戻って来ていた。

そもそも、ノールさんたちのお仕事は山賊と魔物事故の解明、そして可能なら山賊の捕縛だからね。

さすがに、じゃあ頑張って~と見送るのもアレなので、こうして手伝っている次第だ。


「昨日殲滅したのに、もういいんじゃね? 二回目ってなんか作業みてえでつまんねえ」

「捕まってる人もいなかったしね~」

うん、まあそういうものでもないと思うんだけど。やる気の感じられない二人に苦笑する。

でも、間延びするのは否めない。

だって、まずボスがオレたちを見るなり悲鳴をあげて脱走を図ったし。

あの人がボスだったんだ。ごめんね、知らずに倒しちゃって。


「こんなに緊張感のない山賊狩りは初めてだなあ……」

ぼやくリーダーさんが、何となく疲れた顔で戻って来て、腰を下ろした。

総勢、何人いたんだろう。ラピス部隊がアジト内を見回っているから、取りこぼしはないはず。もしまだ残っていたら……ごめんね……諦めて。山賊の人。



「――今回、本当に助かった。命の恩人だ……何か、俺たちにできることはないだろうか」

キリッ、と引き締まった真剣な面持ちでそう言われ、オレたちは顔を見合わせるしかない。あと、ほっぺにクリームついてるよ。

昨夜、どうしてもデザートを楽しむには至れなかった彼らが血涙を流すので、こうしてお昼のおやつということになった。

つまり、朝からやってきたのに、お昼もここで食べる羽目になってしまった。

山賊狩りって結構時間がかかるんだな、なんて呑気なことを考えていたら、『君らのおかげで早々に終えることができた』なんて言われたので、きゅっと口を閉じておく。


ちなみに、昨日のデザート、もとい今日のおやつは、かぼちゃケーキのクリーム添え。お肉ばっかりで野菜がないから、せめてデザートで緑黄色野菜をとろうなんて、軽々しく考えたオレが馬鹿でした。

しっとり濃厚なかぼちゃケーキは、どっしり重量感をもって主張している。お昼を控えてさえ、なかなかの強敵だった。もちろん、クリームはほぼ甘さナシにしたのだけど……焼け石に水って感じだ。

かぼちゃの優しい甘みが、真綿でじりじり胃袋を絞めつけているよう。


すっかりデザートとの格闘に気を取られていたオレをよそに、ラキが難しい顔をする。

「そう言われても~。欲しいのって貴重な素材とか~?」

「お前が言うような貴重な素材なんて、フツーの人は持ってねえだろ」

それはそう。しかも持っていたとして、冒険者に必要ないから売っちゃう。

「オレも調味料とかだし……ここらで珍しい調味料とかないでしょう?」

何せ、オレは海人からヴァンパイア、妖精に魔族から森人まで制覇してしまった。おや、ロクサレンにますます食の全てが結集してしまいそう。


「も、もっと、普通なもので頼む……」

「あの、それなりにお金持ってるし……それじゃダメ?」

がっくりする彼らに申し訳なく思いつつ、お金ってなんとなくもらうのに抵抗あるよね……と視線を交わす。少しならともかく、きっと彼らは大金を渡すつもりだ。

でもオレたち、お金にもお肉にも困ってないんだもの。

「じゃあ、こういう時はアレじゃねえ? ツケにしておく!」

「なんでタクトがツケにするの~。でも、それでいいんじゃない~? 貸しひとつってことで~」

おお、なんて都合のいい! きっともう会うこともないだろうし素晴らしい逃げ口実だ。

『どうして貸した側が逃げるのよ』

ごもっともなモモツッコミを聞き流していると、リーダーさんが困った顔をする。


「しかし……君らは元々この辺りの子じゃないんだろう? いつ、返す機会があるんだ」

鋭い……。もうそんなの『いつか』ってことでいいのに。

「めんどくせえな、人助けって」

他人事のように呟いて考えることを放棄したタクトが、ごろりと草地に寝転がった。

おやつは、と見ればボウルに残っていたクリームまで平らげてある。

「じゃあロクサレンの応援でもしてってことで~」

同じくめんどくさくなったらしいラキが、そう言ってぱふっと寝転がった。

「どうしてロクサレン? 二人にメリットなくない?」


「あるよ~。きっと美味しいものとか、快適なものが増えると思うから~」

「確かに! ロクサレンにいいことありゃ、俺にも絶対いいことだ!」

カレーとか、温泉とか? 二人がそれでいいなら、オレは大歓迎だけど。

「じゃあ、それで。オレたち、っていうかオレはロクサレンの方出身だから。今ね、色々盛り上げようって頑張ってるところだから、ロクサレン関連の何かがあれば応援して!」

「な、何かってなんだ……?!」

「ロクサレンって、『食のロクサレン』か! なるほど、どうりでこんな美味い飯が……」

……こんな所まで『食のロクサレン』が広がっているとは。

ひとまず、納得したようなしていないような顔をする彼らには、笑顔で頷いておいた。

色んな諸々は、オレのせいじゃなくてロクサレンのせいだから。全てを押し付けられる相手がいるって素晴らしい。


日が暮れるまでに山を下りると言うので、麓まで一応見送って、手を振った。

せめて何か奢る、と言ってくれたのだけど……丁重にお断りしておいた。

「んー、だってお前の飯の方がいいしな……」

こっそり呟いたタクトのセリフに、全てが詰まっている。

「さて、僕たちはどうする~?」

オレンジ色の日が沈むのを見ながら、オレたちはのんびりシロ車に揺られていた。

「なんだか、森を出てまだ数日なんだよねえ」

プレリィさんを迎えに行くには、きっと早すぎる。

どうして、こう日々が濃くなってしまうんだろうか。


「じゃあ改めて、のんびり豪華野営を……」

「いやあ、やめた方がよくねえ? また何か起こるだろ」

「だね~。忙しくなる予感しかしないよ~」

そんな予感を口にするから、現実になるんじゃない?! やめてよ、そんないわゆる『フラグ』ってやつを立てまくるのは。

『もはやそれもフラグの気がしてくるわ……』

『主は存在がフラグなんだぜ!』

チュー助、フラグなんて知らなかったはずでしょう。余計な言葉ばっかり覚えて……。

「じゃあさ、明日はもう何もしないってことで、お昼寝日和にするのはどう?! 騒動続きだったんだから、そういう日も大事だよね!」


「またそういう……」

「あ~あ」

拳を握って力説すると、みんなからは特大の溜息が返って来たのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強かわいい表紙を携え、もふしら書籍版19巻、8月10日発売! かわいいイラスト付きの相性診断や、帯のQRコードでキャラ投票に参加できますよ! そして今回の書き下ろし120ページ以上!!ほぼ半分書き下ろしです!
今回も最高~のイラストですよ!!

ツギクルバナー
小説家になろうSNSシェアツール
小説家になろう 勝手にランキング
ランキングバナー https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/
― 新着の感想 ―
>かぼちゃの優しい甘みが、真綿でじりじり胃袋を絞めつけているよう 素晴らし描写! 読んだだけでお腹いっぱいになりましたわ(^_^)
>『主! こういうのは考えたらダメなんだぜ! ハートで感じるんだぜ!』 ハートというよりハードモードだからに違いない
次はなんやろ?スタンピードかな?新たなダンジョン発生かな?それとも・・・・珍しい魔物に攫われる?(目反らし
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ