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1015 絶望に濡れた悲鳴

「――潜入捜査、みたいなもの?」

「そうなんだ。中々、しっぽがつかめなかったからさ」

「ってことになると、戦闘能力が低くねえと戦闘員として扱われんだろ? で、ノールがいいだろってなったんだけどな」

すっかり暗くなった山の中。

ノールさんのお仲間に詳細を聞きながら、空へたなびく煙を眺めた。

彼ら、ノールさん以外はCランクだそうで、中々粒揃いの強者パーティだ。

とは言え、生き埋めになってしまえばどうしようもない。

『普通は、って添えておく必要があるわ』

『主たちは、どうしようもあるんだぜ!』


それは、だって経験豊富だから……?

彼らの唖然とした顔を思い出し、くすくす笑った。

「ほらね、どんなことだって、経験が豊富であるのはいいことなんだよ」

「そんなわけねえだろ」

「普通は、生き埋め経験があるなんてトラウマでしかないから~」

そ、そうかな。物は言いよう……じゃなくて、物事は考えようだよ、きっと!

だってほら、今回の生き埋めだって。

彼らの記憶に刻まれるのは、最終的に何になるだろうか。

ねえ、オレ、きっと恐怖じゃないと思うんだ。



「――それは、どういう……? 生き埋め経験豊富??」

リーダーさんが、困惑に眉根を寄せている。

「いやいや、今はそこどうでもいいよ! とにかく、脱出! まずはそれでしょ?!」

大人組が、気を取り直したように頷いた。

「いや、まずは飯だと思う!」

「でも、密閉空間だと火を使えないよ~?」

今にも倒れそうな顔をしたタクトの主張に、至極冷静なラキのセリフ。

「えー! なら早く出ようぜ!」

うん、だから今その話をね。

「じゃあ、誰が穴開ける~?」

「俺パス。腹減って無理」


珍しくタクトが離脱した。これは、相当重症だ。

オレとラキが顔を見合わせ、ラキがにっこり微笑んで『どうぞ~』と優雅にオレをエスコートする。

いいけど……ラキだって一撃じゃない。

オレたちの会話に何を思ったか、大人組は大人組で何やら相談しているよう。

「待ってくれ、本当にあいつらは普通じゃない。きっと、何か策があるんだ!」

「ノール、お前記憶失うような怪我してたんだろ? 無理すんな。聞いたろ? やっぱガキじゃねえか、全然状況分かってねえ」

「うんうん、ちょっと判断力がまだ……。あたしらが何とかするから」

「とはいえ……彼らが『普通じゃない』のは感じるよ」


……オレたち、確かにお仲間に見せたのは回復とシールドだけだ。実力が分かるわけなかったね。

必死にそうじゃないと言うノールさんのためにも、ここはいいところを見せておくべきかも。

オレは、難しい顔で対策を練ろうとしている彼らに歩み寄った。

「ねえ、何かいい案があった?」

「あー……いや、君らは心配しなくていい。俺たちが何とかしよう」

「何度も崩れてんだ、天井が脆くなってるだろ。攻撃で何とかなるんじゃねえか?」

「けど、それで広範囲に落盤したら、今度こそ……」

うん、あんまり進展はないよう。


「じゃあ、今回オレが天井を開けてもいい? オレたち、経験豊富だから!」

「う、うーん……」

困った顔をするリーダーさんを押しのけるように、ノールさんが身を乗り出した。

「頼む……! このままじゃ、あっと言う間に皆さっきの二の舞だ」

そうだよね、さっきより空間自体は大分狭くなっている上、人数が増えたもの。

にこっと笑って頷くと、随分近くなった天井付近へ登って手を当てた。

何をするのかと訝し気な大人組をちらっと見て、行くよ? と一応声をかける。

「何を……うわっ?!」

「きゃあっ! またなの?!」

「崩れるかっ?!」

ズズズ、と振動が伝わり、彼らが顔色を変えた。

「あっ、違うよ! ごめんね、オレの魔法だから……見ていて!」


うん、地表までの距離は短い。タクトの蹴り一発でも、なんとかなりそうだったじゃない。

だけど、確かに天井に穴だけ開けても、出入りしにくい。

『スオー、入りはしないと思う』

些細な言葉の綾にツッコまれるのを聞き流し、誤魔化すように思い切り土魔法を発動した。

「なっ?!」

「うおおお?!」

まるで大きな手で掻き分けるように、振動と共に土が移動していく。

すうっと、冷たい空気が頬を撫でた。

「すっかり暗くなっちゃったね~。タクト、生きてる~?」

「いや……」

あっ……タクトが危ない。なんて燃費の悪い身体なんだろう。


オレたちの空間分、すっかり天井を取り去って、あとは壁面に階段を刻むだけ。

丸く広がった夜空は、ちょうどプラネタリウムのように見える。

「はい、開いたよ! でもちょうどいいし、今日はここで野営にする?」

それだったら、もう少し屋根を残しておいた方がよかったかな、と思いつつ振り返った。

「空……」

「穴が……」

そこには、オレの声など耳に入った様子もなく、呆然と空を見上げる大人組がいたのだった。



――出られる、となったら気分は変わるようで。

ある意味安全な野営地となった地下空洞跡を見て、大人組もここでの野営を決めたよう。ちょうど、彼らのテントもあるしね!

「さすがに、そんなに食べないんじゃない~? もうよくない~?」

「そうか? でも、あっても困らねえし」

「普通は困るんだよね~」

一体、何枚焼くつもりなのか。

オレはとっくにギブアップして、こうして夜空を見上げている。


今日はステーキ、と決めていたから、作り始めからいただきますまであっと言う間だ。他の料理は既に作っていたしね。

シロとタクト厳選の『おいしい牛さん』は、中々の逸品。少なくとも、オレが前世に味わっていたステーキよりは上等だと思う。

ぷりんでも食べているかのようにぺろりと平らげ、やっと普段通りになったタクトが、それこそトラウマを克服するかのようにひたすらお肉を焼いている。

「うっぷ……さすがにもうムリぃ」

「まだいける……はず! あの美味いソースで、せめてもう一枚……!!」

「焼け焼けぇ! 腹が割けるまで食うぞ!」

「美味い……なんで焼いただけの肉がこんなに美味いんだ?! このソースは何なんだ?! 朝食ったあの飯ももう一度食いたい……」


あの、そんなに頑張って食べなくていいから……。オレが思うに、ステーキってお代わりするものじゃない。

元はと言えばノールさんの記憶用にシンプル料理だったけれど、どうやら様々なソースはお気に召していただけたよう。何種類も食べられて羨ましい限りだ。

満たされた彼らから、事の顛末を聞きながらちびちびスープを飲む。

「戦闘員じゃない方がいい理由って……あ、そっか誰かを襲うことになったら困るもんね」

「そうだな。だから、トガリ連れで分かりやすい俺が適任だった」

「山賊のアジトがこの辺りにある、っていうのは分かってたのよ。でも、まさか野生の魔物の群れを操るなんて、本気にしてなかったのよね」

それはそうだろう。魔物ってそう簡単なものじゃない。

だからこそ、度重なる牛魔物の被害と山賊の関連が疑問視され、調査が入ったということらしい。


「じゃあ、あの笛? でどうやって牛を操っていたの?」

「操っていたというほど、高度なことじゃない。ただ、あれがエサの合図になっていただけだ」

どうやら、ここらの牛魔物のメイン食事であった植物の群生地が、ことごとく刈られたり焼かれたりしていたらしい。

その刈ったエサを置き、笛を吹く。それを繰り返して覚えさせたよう。

「なら、襲わせたっていうか、牛の通り道に標的が来るように笛を吹いたってこと~?」

ラキもお腹をさすりながら、隣に腰かけた。

「そうだ。あの時は、よりにもよってお前らが来るのがバレていたから、随分焦った」

「さすがに、あの量の魔物を相手にはできねえなあ~」

「それ、絶対ギルドに内通者いるじゃん。作戦の詳細まで伝えてたら、まずノールが危なかったんだけど!」


次々休憩に入りだした大人組が、寝転がって空を眺めている。

どうやらCランク冒険者を手っ取り早く屠るために、牛作戦が決行されたのだとか。

すんでの所で気付いたノールさんが、賊が避難に使っている地下空洞を教え、自らは笛を奪おうと奮闘していたよう。結果的に、間に合わずに地下空洞上を群れが通過、笛を奪って駆けつけていたノールさんも巻き込まれた、という……。


「そっか……色々大変だったんだね」

心から同情して言ったのに、返って来たのは苦笑だった。

「なんか……軽いなあ」

「すげえ死ぬ目にあった気がすんのに、なんでだろうな。『あー大変だった』ですみそうな気分なのは」

「今はもう、それよりお腹の苦しさの方が問題なの……」

「ああ、本当に……色々大変だった」

ノールさんがそう言って、みんなが笑った。

オレは、ここぞとばかりに身体を起こして、みんなを見回して笑う。


「じゃあ……もうひとつ、大変な問題を伝えてもいい?」

ぎくり、とした皆が恐々とした顔でオレに注目する。

覚悟はいい? オレは今、結構絶望しているよ?

すうっと息を吸い込んで、重々しく告げた。

「実は……まだ、デザートがあるんだけど……」

しん、と一瞬抜けた空白の時間。

そして、その場は悲鳴に塗りつぶされたのだった。


新作【選書魔法】の方は現在15話。そろそろひと段落です。

追いつけるうちにぜひ読んでもらえると嬉しいです~!!

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― 新着の感想 ―
デザートを前にして、食べられるのか食べられないのかは結構重要な事案ですね! 絶望して然るべきです(^_^;A)
さすが「希望の光」 いつでもどこでも平常運転だね(^_^)
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