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1011 必要のない気遣い

手あたり次第、出てくる賊を捕まえては聞いているけれど。皆アジトに捕まってる人がいるかどうかは分からないか、知らないという。

「本当に知らない~? 嘘なら、どうしようかな~? 僕、結構解体得意だからさ~」

全然普段と変わりなく飄々とした態度で、にっこり笑うラキ。

その手が、ゆっくり腰の道具袋に伸びて、細い指が器具を選りどり始める。様々な器具が、カチ、カチャリと鳴った。

あの……こわいです。とても。

山賊を捕えているタクトまで、一緒にガタブルしている気がする。ついでに、全然関係ない位置にいるノールさんとトガリも。

ラキが……完全に執事さん化している……! これもロクサレン化の一種だろうか。


息の詰まるような静寂の後、ラキの溜息を合図に、タクトが山賊の意識を刈り取った。

山賊が至極安らかな顔をしていたのは、きっと気のせいじゃない。

オレたちも、一斉に安堵の息を吐いた。

「これさ~、『知っている』以外の答えを信用できない時点で無駄じゃない~?」

何事もなかったかのように歩き出しながら、執事さんジュニアがそんなことをのたまう。

「だよな、ちょっと信じてもらえない山賊たちがかわいそうな気がしてきたんだけど……」

た、確かに……?!

「で、でもどうしよう……このアジト、どのくらいの広さがあるんだろ。管狐部隊で探して――」

「そんな些細な人間の区別がつくと思う~?」

無理ですね。ゴブリンと大差ないとみなされているくらいだし。


――殲滅なら、ラピスたちの出番なの! 任せるの!

違います!! まだ救出段階です! 対象がいるかどうかが分からないだけで。

フンスフンスと鼻息も荒いラピスをなだめて、頭を悩ませた。

「とりあえずさあ、早くしねえ? 俺すげえ腹減った……」

「もう巻き添えになったらなった時で、殲滅しちゃおうか~。少なくとも、ラピスじゃなかったら大丈夫じゃない~?」

――つまらないの。殲滅は、派手な方がいいと思うの。『コッコの歌い』を防げるの!

オレは、ぐっと眉根を寄せて脳みそをフル回転させる。

……どうしよう……分からない。

ああ……嫌だ。スッキリしない。何だろう、コッコって……。絶対言い間違ってると思うのに。


『そんな所に引っ掛かってる場合じゃないのよ!』

結構強めのモモアタックが頬に決まって、ぶへっとなった。

だって気になるじゃない!

でも、ひとまずは、いるかわからない人質のことだった。

「うーん、シロの方はもう大丈夫じゃない? シロに走り回って確認してもらうのが早いかな?」

とりあえず陽動と、戻ってこない見張りに対する言い訳のために配置したシロ。

多分、シロに攻撃仕掛けるほど勇敢な人はいないんじゃないかな。別にいてもいいけど。

きっと膠着状態で見つめ合っているだろう現場を思って、管狐部隊に伝言を頼む。

「シロに伝えて! そこにいる人たちが追って来られないよう、軽く気を失わせてこっちに来られる? って」

「きゅっ!」


張り切って出て行った3体編成の管狐たちを見送り、オレたちの方はそのまま探索を続ける。

「自然洞窟だよね~? 結構広くて面倒~」

「ああ、確かこの辺りは地下空洞が多いから、潜むにはもってこいで――」

ふいに言葉が途切れ、オレたちとトガリの視線が、ノールさんへ集まる。

「地下空洞……」

もどかしそうに呟いたノールさんを、固唾をのんで見守る。

何か、引っかかったんだろう。記憶が、戻るかもしれない。

「なぜだ……地下空洞、牛……何か、とても大事なことがあったはずだ……!!」

悲壮な顔で呻いたノールさんが、うずくまって激しく頭を掻きむしり始める。


「だ、だめだよ! そんなことで記憶は戻らないよ?!」

「だが! 早く……! 急がなくてはいけないのに! 肝心なことが分からない!!」

少しだけ点滴魔法を施しながら、苦しむノールさんの背中を撫でた。

しんどいだろうな。大事なことが思い出せないのは。

「でも、少なくとも逃げようとしたり、ボスに何やら、なんてことではなさそうじゃない~?」

「だな! それにそこまで必死にはならねえだろ」

少しずつ表情を落ち着けたノールさんが、汗を拭って立ち上がる。

「すまない、取り乱してしまった」

苦笑するノールさんを見つめて、少し首を傾げた。


「ノールさんって、本当に山賊かなあ?」

今さらな問いに、本人もキョトンとしている。

「山賊だろう。一味だと認識されていた。それも、恐らく下っ端だな。まあ、戦闘能力の低い従魔術師だ、そんなものだろう」

「俺も、山賊とはだいぶ違う気がするけど、実際そうなんだもんなあ」

「そうだよね~。山賊になりたての下っ端なのかも~」

ああ、それならあり得るのか。

だってノールさん、浮いてる。山賊の中に別種の人が混じったみたいに。

言葉使いも、態度も、笑い方も。

だって、この山賊たちが記憶をなくしたって、命を賭けてオレたちを助けようとはしないと思う。


「そう……だったらいいが。山賊になりたて、か。割りにアジトの中は覚えてるけどな……」

「し、下働きとかかも!」

「はは、そう祈っておくよ」

力なく笑った顔は、どう見ても人の好い青年だ。笑い方まで、変わるものだろうか。

だって……こんなに、それが救いのような顔をする。

でも、これ以上は無駄に期待させてしまうことになるかも。

そう思って口をつぐんだ。


「お、ここは部屋っぽいぞ! 扉がある。地下牢的なヤツじゃねえの?」

わき道を覗いていたタクトが、そう言うなり遠慮なく扉を開けた。

「は!? ちょ……っ?!」

そちらを覗き込むまでもなく、このノールさんの焦りようから違うんだなと分かる。

「違ったわ」

バタン、と閉じたタクトが、一瞬の後、怒号が響き渡る室内に肩を竦めてオレを手招く。

扉、今にも壊れそうにドカドカ言ってるけど……大丈夫?


「お前、アレやってくれ。まとめて居るから、ちょうどいいだろ」

「まとめて……? ああ、せんたっきー? でも、びしょびしょになっちゃうし」

きっと、こっちまで水があふれてくる。室内では不向きだと、そういえば以前のアジト殲滅でしみじみ感じたんだった。

「おい……どうするんだ。ここは詰所みたいなものだぞ。一度に出て来られたら……」

汗を流すノールさんに、大丈夫と微笑んでから、少し考えた。

「電気柵の方がいいかな? でも万が一火が出たら困るよね」

スプリンクラーは……ホラーになる可能性があるから使いたくない。調整が難しいんだよ!

雷、水はダメ、火は論外。じゃあ、あとは風とか?

そうか、洗濯機とくれば……!

「いいよ、開けて!」


タクトが、ドカドカ鳴る扉のノブを握ったまま、ドガッと奥へ蹴り込んだ。

ノブだけ残してぶっ飛んだ扉と、その付近にいただろう賊たち。どうぞとばかりに、俺へ向けてにっと笑う。オレもにっと返して、両手を突き出した。

「行くよっ! カンソーキ! お洒落着用!!」

鳴り響く、すさまじい破壊音。

……あれ? 思ったより色々家具とかあったのかな。

あの、普通の乾燥機だと熱いだろうと思って……気を使ってお洒落着用の冷風にしたのだけど。

ごうごう響く風の音。

悲鳴など、聞こえない。

『主ぃ、多分そんなとこ、どうでもよかったんだぜ!』

『完膚なきまでに、ね』

そ……っと覗き込んだ部屋の中は、ある意味綺麗になっていた。

全てのものが破壊されて、がれきとなっている。


「……ちょっと、回復しておくね」

「おー……えげつねえ」

笑うタクトをじとりと睨み上げた。タクトが飛び込んで、殲滅しても良かったと思うんだけど?!

「やっぱり、人質がいないかは確認した方がよさそうだね~?」

くすり、と笑ったラキに小さくなる。そうですね……オレが魔法を使うなら、そういうことになるかも。

呆然としていたノールさんが、しゅんとしたオレを見て、ハッと表情を戻した。

「ま、まあ……ここに人質がいることはない。言ったろう、詰所のようなものだと。ちょっとやそっとで戦闘に参加できないようにしておくのはいい判断だ。『後顧の憂い』を絶てるだろう」

はは、と少し乾いた笑みと共に頭を撫でてくれたノールさん。

オレは、目を見開いてノールさんを見上げた。


「そ、それだーー!!」

「え……? は……?」

突如ガッツポーズを決めたオレに、ノールさんが一歩どころか三歩ぐらい引いた。

そして、ラキとタクトは何も分かっていないはずなのに、生ぬるい視線を寄越していたのだった。


『だから! 今! そういうことに気を取られてる場合じゃないのよ!!』

――そして、強めモモアタックが二発も頬に決まったのだった。


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【新作】N0977KX

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― 新着の感想 ―
それだー!!
『コッコの歌い』で、ニワトリがけたたましく歌う姿が一瞬頭に浮かびましたw いつも思うんですが、ラピスの言葉の認識(聞き間違い・言い間違い)って人間の子供と一緒で、元の言葉が判明するとすごく面白いです。
>「そ、それだーー!!」 どれかとおもったらコッコか!!
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